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47話 もっふもふとしたもふもふな日々 10「長の資質と人手」

「リッチロード殿は流石じゃなぁ」

と道中で村長がいきなり言い出した。


「何がです?」


「いや、村の様子をよく見ておるなと。恥ずかしいことじゃが、わしは子供が字を読めるようにだとか、母親達が集まれる場所だとか、赤子が安全にハイハイできるところがあると良いだとか、まぁったく気づきもしなかったでなぁ。村長失格よの」

と珍しく自嘲している。


「それは仕方がありません。村長が育ってきたこの村では今まで生じなかった、あるいは表面化してこなかった問題でしょうから。普通の村では子供が読み書きなど覚える時間もなければ、ハイハイだって家の中で済むでしょう。母親達だって子供を連れて世間話をしにいくことだってあるでしょう。」

ただ、とリッチロードは苦笑する

「アーノルド家では心配性な龍に狼がいるんですよ。骸骨もね。だからハイハイする時に赤ん坊目線だと棚が危ないだとか、赤ん坊が色々口に入れたがるから気をつけねばとか、将来読み書きができないで困る場面があってはならないだとか、母君どのにも母親仲間をたくさん作って欲しいだとか。それはもう色々出てくるのです。そして、「祝福と加護」が今年は行われている。」


「なるほどの、常でないことが起こり、また当事者であるから分かる問題ということですかな」


「それと、私は外、あるいは昔の村、町を知っています。その差でしょう」


「・・・ふむ、リッチロード殿、村長になる気はありませんかな?」


「どうして誰も彼もが、役職を押し付けたがるのでしょう?」

と笑うリッチロード

「私など古い骸骨に過ぎませんよ、お断りです。私もトールに付いていくのが目標なのですから」


「そう言われると思っておりましたがの、その知見、知識。やはり惜しいものですじゃ」


「いる間は支えますよ、ただね、長よ」

とリッチロードが身体を向けて真剣な声で語りかける。


「私は村長にふさわしいのは、この村ではあなただと本気で心の底から思っていますよ。きっと龍皇も」


「わしが?まさかまさか」

と笑う村長。


「いいえ、お世辞でもなんでもなく、本心からです。そも長に必要なのはなんですか?当たり前ですが人間の場合ですよ?」


「・・・・・・ふむ、やはり知識と判断力、交渉力ではないですかな」


「いいえ、そんなものは得意な者に任せるがよろしい。私が思うに慕われているかどうかです。この人が言うのなら大丈夫、この人が頑張ってこの結果なら仕方がない。この人に任せられたら頑張るしかない、そう思える人です。そう思わせる人です。

実の所、我等は感心と同時に感謝もしているのです。あなたが我等を怖がらないからこそ、村人も怖がらないですんでいるのですから。あなたが築いた信頼により、我等も過ごしやすい村になっているのです。安心なさい、あなたより相応しい者はまだいませんよ。だからこそ、元気で長生きしてもらわなければ困ります、また早く次世代の長を決め教育し始めるが良いでしょう。」


「わしには過ぎた評価ですな」

と目から光るものが落ちる村長。


「いいえ、妥当な評価です。あとは度量もあるというのも付け加えられますね、勝手に色々決めても村の役に立つと判断した時は何も言わないでいるのもなかなかできるものではありませんね。税の時には近隣の村とのバランスが崩れることを恐れて進言しても、それ以外はそうしなかったでしょう」

あの時から中々の人物であると思っておりましたよと笑うリッチロード。


「さて、じゃあ教会を作りましょうかね」


「男手は要りますかな?」


「大工関係が得意な者と棟梁で良いでしょう」


「いつから始めますかな?」


「皆にも説明しないといけませんし、オーガ達もそろえるので明日くらいで?」


「ではそうしましょう」


「そうそうトールがですね、とうとう名前を呼べるようになったんですよ・・・」

とそこからは雑談しながら村へ向かう二人。


彼等にも何かあたたかな繋がりと呼べるものが確かにあるようだ。



「さて、皆の者、集まってもらって悪いの、すぐに済む話じゃ」

あの後、元気な子供達に村人へ時間を指定して集まるように伝えることを頼んだ。

元気溢れすぎる彼等はそれすらも遊びにして、誰が一番多くの者に伝えられるかをゲームにしだした。

むろん、急ぐあまりドアを強く叩いて怒られた者もいる。


「新しい領主殿がわざわざ挨拶に来てくれての、公爵のガイル・フォン・オーベルタン殿と言う。幾つかの確認と困り事がないかを聞いてくださっての。

確認事は

1:未来永劫この村からは税を徴収しない、麦や家畜は買取制になる。適性な値段で買おう。

2:これからは荷車背負った街道沿いを行く商売人からではなく、領主のところの商売人から買うこと。特に生活必需品は。

3:万が一があれば徴兵は行われること

以上じゃ。

2番についてはわし等が好きなように買うと他の村に必要な物が行き届かなくなるからじゃな。珍しい物があればそれは買っても良いとのことじゃ」

1番は皆も知っていたし、3番も前の領主から変わらない。

公爵ということで驚いた博識な者が数名いたくらいだ。


「そして困り事のところで、リッチロード殿が教会を作りたいと言い出してくれてな。子供等に読み書きを覚えさせるためにということじゃ。また、そこに大きい建物をつけて、赤ん坊が満足にハイハイとか、一人歩きの練習とかを安全にできるところを確保するという。何もないただっぴろい空間で清潔で、物が落ちていない所がある方が落ち着いて赤子に運動させられるからとの。母親も子供の世話の仕方とかを赤子の泣き声の影響を周りに気にせず相談しあえるだろうと」

おぉ~!と母達からリッチロードに拍手。手を振るリッチロード。


「そこでじゃ、建物を建てるのに魔物の皆の力を借りることになった。オーガやジャイアント、ドワーフ殿達じゃ。明日からにでも来ると思うが、驚かんようにの。あと、向こうは大きい上に、木材も持っておる、向こうも気をつけてくれるが、わしらも気をつけるように」


「はい!質問です!」


「なんじゃ?」


「食べるものは大丈夫かなとか思いますけど、住むところがありません」


「ということじゃが?」


「ドワーフは少し他と比べると身体が弱いので、以前作って余った家にでも放り込みましょう。オーガ達?森でいいですよ、森で」

とにべもないリッチロード。


「まぁ奴等も普段は洞窟だとか掘って暮らしているが、よく外で寝ておるからの、確かに森で良かろうよ」

と龍皇。


「食事も以前の祭りのお金が相当余っているので、そこから出します。村の共有財産ですが、構いませんかね?」

いいよ~

そもそも龍皇さん達が持ってきたのを売ったんでしょ

私達が何か言うのもおかしいしね

そもそも俺等のためにもなることをしてくれるってんだ

感謝こそすれ何か言うやつぁいねぇよ

助かるわぁ、ありがとうねぇ、リッチちゃん

ハイハイがねぇ、どうしても聞いてたよりも激しくて

赤子がなんでも口にしたがるとは聞いてたけどあんなにだとは

読み書き習えんの!?

凄い!王都みたい!

弓の練習に、読み書きに、やべぇ忙しくなるぞ


とわいわい賛成の声があがる。


「ということで、後で龍皇は彼等を集めてきてください。スライムロードの力を借りて」


「まず、我に一言相談してからにせぃ、用事があったらどうするのだ?」


「え?トールが将来読み書きを習う所を造るんですよ?それ以上の用事があるので?」


「ない」


「では、決定で」


「ということでな、明日から仲間が増えるから気をつけるように、と、あぁそうじゃ」

と村長が何かを思い出す。


「リッチロード殿、トールの1歳のお祭りはまた魔物を集めてするのかのぅ」


「それはしたいですがね、他のロード達も「祝福と加護」をしたわけですし、どう育っているかは見たいでしょうが、アーノルド殿?よろしいでしょうか?」


「まぁ、家の子のためと言われると反論しにくいが、他の人達は良いか?」

いいよ~

なんだかんだ楽しかったし

次は野菜もほしいね

妖狐殿のお菓子が欲しい!

あぁ、またお菓子とかあるとお祭りらしいけど・・・

彼等には足りるかしら?

原材料がやばそう、量が。

ほぼ近隣のを買占めだよね

菓子は無理だわ

酒かな

まぁ、無難にいけばそうだな


「ということで、大丈夫そうじゃな。じゃあするということで」

と村長が締めると、

おぉ~!と村人から歓声があがった。


「じゃあ、伝えることは伝えたでの、解散じゃ」



この後、龍皇は教会建設メンバーを集めるため必死に飛び回ることになる。

まずスライムが集落を作らないので、スライムロードを見つけるのが大変なのだ。

夜明け頃に村の近くにいるのを発見したときは、ちょっと八つ当たりしてやろうと思った彼を責めることはできないだろう、たぶん。

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