44話 もっふもふとしたもふもふな日々 7「お祭りとお土産」
龍皇達が土産を手に帰った時には辺りが月に照らされようかという時間だった。
村では篝火を、村人は各々が好きに騒ぎ、新たな恋も生まれるか生まれないか、と雑然としていた。
しかし、そんな中ワイバーンを見つけた村人が
「あ、龍皇さん達帰って来た!」
と一言。
それからは皆がワイバーンの周りに群がり、お帰りなさいと口々にするのだった。
それが嬉しく感じられる龍皇達。
村人達から随分と好かれるようになったものである。
土産もかなり期待されているが、それは言わぬが花であろう。
「うむ、ただいま戻ったぞ皆の者」
「お祭りには間に合いましたか?」
「お土産たっくさんあるよ~!」
「まだ子供は寝ていませんよね」
「トール!土産があるぞ、土産だぞ!」
もちろん上から龍皇、リッチロード、妖狐、ドライアド、フェンリルである。
ワイバーンとテイマーには買った人間用の酒を1本くれてやり、帰してやった。
きっと飛竜部隊の彼も田舎よりは王都で遊びたいだろうという親切心だ。
彼が村での方がきっと酒がたくさん飲めるだろうと、土産の量を見て期待していたのは別の物語だ。
「さて、リッチロードよ、皆に分けてやってくれ」
と龍皇。
「はいはい、婦人服は妖狐さんが分けるということで大丈夫ですか?」
「もっちろん!私が皆の分をきちっと分けてやりますとも、というか私じゃなきゃ無理だね」
とドヤ顔の妖狐。人間変身版である。今日は一番なりやすい金髪っ子である。
「ではお菓子は私がやりましょう」
とドライアド
「ドライアドはアレの準備もお願いね!」
と妖狐から声がかかる
「はいはい、頑張りましょうね」
何かをする心積もりらしい妖狐達。
フェンリルは尻尾をばったばったさせて、トール、トールと目で探している。
鼻で探せば良いものを。
ようやくアーノルド達を見つけたが、トールがいなくてしょんぼりとする。
「あら、フェンリルさん。お帰りなさい」
「お帰り」
と夫婦から声をかけられるが、
「うむ、戻ったぞ、ところでトールは?誰かが見ているのか?」
と二言目にはトールである。
田舎のお婆ちゃんかというほどの可愛がりよう。
「いや、ぐっすり家で寝ているよ。だからトールにお土産を渡すのは明日にしてくれ」
とアーノルド
「むぅぅ、せっかくトールのために王都まで行ったというに。仕方ない、寝ているのならばそれが一番か」
「相変わらず、トールのことが大好きなのね、フェンリルさん」
「勿論だ!童は好きだが、こんなにも可愛いと思えるのはトールが初めてだ。家でトールの傍で寝ていて良いかの?祭りなどには興味がないでな」
「あらあら、ありがとう。私達のトールをそんなに愛してくださって。それでね、実はそれをお願いしたくて私達も探していたの」
「む?我をか?」
「えぇ、トールがとうとうハイハイができそうになったのよ」
「おぉ!めでたいではないか!それで、それで!」
「そうしたらベビーベッドの片側から這い出そうとして、あわや事故になるところだったんだ」
「なんと!その言い方ならばトールは無事であろうな!??」
「もちろん!ただ、いつものように一緒に寝てくれるならトールもご機嫌だろうし、フェンリルさんもご機嫌だろうし、何よりトールがそういう時に止めてくれそうだなと。もし迷惑でなければお願いしても良いかな?」
「無論よ、確かに子の世話ばかりでは気が滅入ろう。うむ、その任、確かに引き受けた。二人もせっかく番になったのだ、今日くらいはゆっくりしてくると良い、ではな」
と言うが早いか、足はもうアーノルド邸へ。その尻尾は目を見なくてもご機嫌なことが分かるくらいばっさばっさとリズミカルに揺れている。
もちろん家に入る前には魔法で足を洗える偉いわんこです。
「さぁ、まずはこれが王都のお酒ですよ~!!」
と布の袋からたくさんのお酒を取り出しては机にならべるリッチロード。
机?そこらの家から男衆が持ち寄った。
酒があると聞けば行動が早くなるのだ。
持ち寄られた机の端から端まで酒で埋まる。
どうせ飲み残しても誰かが後日何かで飲むだろうと、量などあまり気にせず酒屋を巡ったのだ。
買占めはしない、王都でも祭りだからそんな無粋なことはしないリッチロード。
ちゃんとたくさんの店からほどほどずつ買った。
最後の方は酒屋の方が勝手に商品を持ってきて、「これ等も買っていっておくれよ!」と言ってくる始末。鼻がフェンリルのように利く商売人達。
さて、そんな酒の量を見て「っしゃあ!」と叫び出す男衆と一部の女性。
オーガの酒も後で出すという。
以前開けた残りがあるというのだ。
後で混ぜるやつが絶対出てくる。
配分を間違えると死ぬが、死人が出るか出ないかは祭りが終わらないと分からない。
さて、村の一角では「きゃ~~!!」と黄色い声がする。
妖狐が女性陣に土産を渡すために、服を並べはじめたのだ。
王都の服など普段目にすることなどない。
古着?大体の者が着ているのはお古である。
あるいはお古から繕った洋服である。
だれもそんなのは気にしない。
「さ~て、これらだけど・・・」
これすご~い!
可愛い、あたしこれ!
あたしも!
私はこれかなぁ。
えぇ~、こっちが似合うよ。
王都だと最近はこういうのが流行なのかな。
まぁ、古着だから今は分からないけど流行ってはいたみたいね、ほら、この辺とか、全体的にそうなっている。
本当だ!
私達がいまさら着てもねぇ(ちらちら
ねぇ(ちらちら
「はいは~い!話を聞かないと全部没収しちゃうよ!」
ぴたっと黙る女性陣。
「うんうん、大体は揃っているかな、実はもう誰にどれっていうのは決まっています!」
「「「「「えぇ~!!??」」」」
そこには自由に選べない不満さ
妖狐のセンスに対する不安
ただ、色々見てキャッキャッと騒ぎたかった
そういう気持ちが含まれている。
「お黙っらっしゃい!これからは妖狐お姉さんの素晴らしいセンスに感激するんだからね、嫌なら酒飲み軍団に加わってきなよ、その分は誰かにあげちゃうから」
にししと笑う妖狐。
「さぁ、祭りも楽しまなきゃだ!どんどん行くよ、宿屋のおかみさん、なに細身のなんて持ってんの。あんたにはこれさ」
と上下セットで出された洋服。
「ちょっと影で着替えてきな」
と言われるがままに家の中へ。
着替えてきたおかみさんを見て、
皆は
「「「「・・・・」」」」
おかみさんは鏡がないから余計に不安。似合ってないのか、似合ってないのか!?所詮辺境の宿屋の女にゃ王都の服は似合わないのか!???、ともう泣きそう。
一人が呟く。
「妖狐お姉さん」
それを皮切りに
「あんた、そういうのも似合うんだねぇ、うんうん、さっき持ってたのよりはコッチだよ」
「服もまるであつらえたようにぴったりだね、驚きだわ」
「可愛い・・・」
とおかみさんと服を褒める声、そして妖狐のセンスを認める声が上がっていく。
「ふっふっふ、変化の妖狐を舐めちゃいかんよ、みんなの身長・体重・バスト・ウェスト・ヒップ、足の長さまで覚えているんだからね、それに変化するには周りに浮かない格好、可愛いと思わせる格好、ださいと思わせる格好、どんな格好が良いのかも分からなきゃ変化はできんのだよ。ということで、どんどん渡していくよ~!」
それからは皆が受け取ってはきゃーきゃー騒ぐ始末。
新しい洋服だけでも嬉しいのに、自分に似合うようにと流行に敏感な妖狐が買ってきてくれたものだ。
正直、自分で買うよりもセンスが良い者が選んでくれた方が嬉しいという者も多い。
新境地を開拓する者、いつものテイストに磨きをかける者。様々だ。
そして、女性陣のあまりのうるさいことに龍皇が結界を張る有り様だ。
もちろんその中にイリスがいたことは言うまでもない。
「はいはいはいはい、意中の男性がいたら酔い潰れる前にその姿でゲットしてきておいで、お姉さんが保証するよ、皆似合ってる!似合ってないっていう男がいたら、酒の飲みすぎだから止めてあげな、酒瓶で」
そして、子供達にはドライアドがお菓子を渡していく。
「はいはい、並んで並んで!一辺に食べるとすぐなくなっちゃうわよ、食べたら歯も磨きなさいね」
「「「「は~い」」」と子供達から笑顔で返事がくる。
ありがと~
お祭りって大人ばっかりいつも楽しむんだよ!
今日は私達も楽しめるね
ありがとう
お菓子なんて滅多に食べれないよ!
「うふふ、交換して味を楽しむのも良いわよ、後で木に果物を実らせておくからまた果実水とかお飲みなさい」
やった~と叫ぶ子供達、いつも子供達のお兄さん役、お姉さん役をしている者も今日はいつもの子供達のように喜んでいる。
それを見て、物欲しそうに見ている大人達。
「ダメですよ、大人は後で」
「えっ後でっていうのは・・・俺等にもまだ何かあるんで!?」
驚きの声が上がる。
「ふふふっ、妖狐さ~ん、そちらは~?」
「おぉ、ドライアドさんや、疲れたよ、女の子のお洒落への執着はいつの世も強いねぇ、お姉さんもうへろへろ」
「じぁあ、私だけでやります?」
「ダメ!私もやります!」
「ということで、」
「「妖狐とドライアドのドキドキクッキング~」」
「私達もね、お菓子の作り方を学んできたのだよ」
「だから大人はそれをお食べなさい」
「まぁ、料理は最近するようになったが、お菓子は初めてさ。どんなのが出ても一度受け取ったら完食してよね」
「「「おぉ~!」」」
と男が騒ぐ。
初めての挑戦?何が出てくるか分からない?
可愛い子と美女が料理を作るのだ。
完食?当たり前だ。
たとえスライムが造られても、完食してみせる。
と馬鹿なことを考える男達。
いや、馬鹿な男達がそこにはいた。
「狐のお耳の妖狐さんが作ったのなら私達だって完食するわ」
「えぇ」
一部には危ない女性もいるらしい。
「えぇ~、また大人ばっかりぃ」
と子供が文句を言うと、
「上手くできたら、もちろん子供達にも分けてあげるさ!」
と妖狐のお姉さん。
「大人の男性へはあくまで練習ですから」
と素敵に本音のドライアド。
祭りが盛り上がっていく。
それを遠くに村長と龍皇が酒を飲む。
龍皇は珍しく人間に化けているが、月がその姿を映すことはない。
「そら長よ、割といい値段をしていた物よ、注いでやろう」
「おぉ、ありがとうございます。龍皇さんも」
「うむ、ありがたい」
と二人で静かに飲む。
「どうだ?最近困ったことはないか?あるいは困らせてはおらぬか?」
「大丈夫ですよ、むしろ賑やかになったなと、今祭りを見ていて感慨深くなっておりました。昔の祭りは祭りと言っても、ただ皆の休日が重なった程度でしたからな。それが今ではこんなに活気に溢れて、いてくださることに、来てくださったことに感謝をしておりますよ、子供達も前よりも楽しそうで」
「そうか、それなら良かったわ。我も洞窟の中に長いこといたでな、こういうのは前といい、今回といい新鮮だ。前は他の長が粗相をしないかと緊張もしたが、今日はそれもない。こうやってゆっくりと眺めてられるというものよ。・・・なぁ、長よ」
「なんですか?」
「楽しいな、こういうのも」
「そうですなぁ」
と目を細めて騒ぎを見る2人であった。
一方、トール家では
「「す~、す~」」
ベビーベッドを狭しと一匹の小狼が子供に抱きつきも、抱きつかれながら寝ていた。
騒音が届かないように結界は厳重に2重張りです。
小狼はきっと村で一番満足そうな顔であったに違いない。




