43話 もっふもふとしたもふもふな日々 6「成長と宝石商」
龍皇達が王宮に乗り込んでいた頃、アーノルド家にも事件が起きていた。
「うぉ、危ない!」
とベビーベッドとトールを押さえにかかるアーノルド。
トールがとうとうハイハイ(?)でベビーベッドの外に出ようとしたのだ。
以前のリッチロードの教えによるものか、ただ単に運が良かったのか。
ひとまず地面に激突は免れた。
「あらあら!」
とイリスも目を見開いている。
生後半年位からお座りや、つかまり立ちに目を配るように言われていたが、
ハイハイはその後と聞いていたので驚いている。
まず、つかまり立ちでもしてくれていれば目安も立てられようが、いきなりベビーベッドの外に出たがるとは。
成長は子供次第とは言われてたものの、自分の子が普通の目安から外れているとやっぱりびっくり。
事故につながりそうなら更にびっくり。
「あらあら、まぁまぁママをびっくりさせないでね!トール。でもそんなにもう体力がついたのね、嬉しいわよ」
とトールに顔をこすりつけるイリス。
「パパもびっくりしたぞ、あぁとかうぅとか先に言ってくれ」
と胸を押さえるアーノルド
「あぁ、うぅ?」
とアーノルドを見ながら繰り返すトール。
「そうそう、あぁ、うぅ」
「あぁ、うぅ!」
ときゃっきゃっと笑っている。
・・・
・・・
・・・
「「繰り返している?」」
「私はママよ、マーマ、マーマ」
「あーう、マーう、あぁーう」
「僕はパパだよ、パパ、パパ」
「うう、ぱ、う。う、う」
「「なんかそれらしくなっている!」」
と手を取り合って感激している二人。
「あなた、早かったけど今日のお仕事は?」
「まぁ、いつも通りだよ。子供の成長は凄いね。周りの子達も立派になって、彼等がいれば村の仕事なんてすぐだよすぐ。それでも子供達は元気でさ、走りまわったり、弓を習ったり、凄いよ。周りの連中も言っていたけど、僕等はあんなに元気じゃなかったよ」
と笑うアーノルド
「あら、「祝福と加護」のおかげかもしれないわね」
と笑うイリス
「あぁ、そうかもな!・・・そうかも、うん、あれはそうだ。流石に疲れを知らないにもほどがある」
と納得がいったアーノルド
日々の農作業など、どれをとっても力仕事だ。それを筋肉がつきはじめる頃から半年も行っていれば、あれだけの長から弱いながらも「祝福と加護」をもらった子供達はそれはそれは元気に、怪力に、疲れ知らずになっていく。
「じゃあ、トールが成長が若干早いのも?」
とアーノルド
「「祝福と加護」のおかげかもしれないわね?トール?」
「あ~う?」
とイリスを見て首を傾げる。
「まぁ、それでも仕事がないなら村を散歩しましょ。久々に三人で」
とイリスが提案する
「良い考えだ、トール、お散歩だぞ。三人だけは本当に久々だな、いつもはフェンリルさんが必ずくっついてくるから」
とアーノルドが抱きかかえる
「あなた抱っこが上手くなったのね」
「いや、トールを見てご覧」
「うぅん、微妙な表情。すごい我慢しているのが分かるのが凄いわね」
と話しながら家族の絆をつむいでいく。
まずはおばさん連中を捕まえて、子供の発達と気をつけなきゃいけないことを聞き出そう。
できればママ友も散歩していれば良いのだけど。
フェンリルの上から、龍皇の上で、妖狐に抱えられ、ドライアドにおんぶされ、
イリスに抱っこされ、アーノルドが抱っこして、
色々な目線で日々外を見ているトール。
たまに人形みたいによちよち歩く練習をさせられるトール。
成長は早いようだ。
その頃、王都では
「では、私が変身して買い物しますからドライアド以外の皆さんは従魔という設定で。何かあれば行動より思念でお願いしますね」
と変身したリッチロードが皆に呼びかける。
「ふむ、大きさはどうする?」
と龍皇。
「小さくて踏まれるのも嫌でしょうから、龍皇は私の半分位に。フェンリル殿と妖狐殿は普段の眷属より若干大き目で」
「うむ」
「分かった」
「おっけー」
と王都を散策する一行。目立つことこのうえないが、スリも寄ることができない。
それどころか道が開いていく。
フェンリルと妖狐に圧倒されているのが分かる。
「あぁ、大きさを間違えたかと思いましたが、結果良ければなんとやら。人混みでも楽ですね」
と笑うリッチロード。
常識?あくまでも魔物の中ではあるというだけである。
彼も既に数百歳、忘れていることなど多々ある。人間の常識や感覚などもところどころ。
「そこのお姉さん」
と花を売っているおばさんに声をかけるリッチロード。
人間の常識や感覚は多少忘れても、女性に「おばさん」発言はいけないことは心得ている。
よっぽど心に刻まれているのだろう。
「あら、やだ上手いね、誰だい、っと貴族様かい?」
「まぁ、そこは内緒で、後がうるさいので。宝石を換金したいんですが、あいにく道に迷ってしまいまして」
「おやおや、じゃあ詮索しないでおくから口調には我慢してくんなまし。一族皆庶民だからね、言葉遣いなど知らないんですよ、宝石なら隣の大きな道のところに宝石商がいますよ、そこでならできるでしょう」
「親切にありがとうございます、うぅん、ではコレを。花を買っていけないので。たぶん売っても二束三文ですが、服のアクセントにでもどうぞ」
と割といいクズ石を渡す。
「あらやだ、本当にお貴族様かい?ご丁寧にどうも、王都には慣れてなさそうだね、その道沿いの方がこっちより土産に向いてるのが多いよ。コッチは生活物が多いからね、お菓子とか日持ちするのもあるけど、やっぱりねぇ、馬車とかだと形が崩れたりするらしいから。服とかならそっちにあるよ、次に王都で花を買う時はよろしくね」
「ありがとうございます」
とにこやかに笑うリッチロード
教えられた通りに、宝石の絵が看板に描かれた店がある。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ、お貴族様ですかぃ?」
と明らかに堅気でない男が出迎える。
「それ、さっきも聞かれましたよ、貴族だと何かありますか?」
「いえ、平民と同じ部屋などゴメンだと言う方もおりましてね、特別な部屋にご案内するんでさぁ」
「まぁ、僕はそんな輩ではないよ、貴族かどうかは内緒だけどね。ここで良いさ。しかし、貴族を相手にそんな口調で良いのかい?」
「貴族様と分かれば直してたんですがね、人相通りに育ちが悪くてね、直しても眉を顰められるんで、もう諦めているんでさぁ。お貴族様も口調を直そうと一喝くれようとして、人相見て、うなずく方も多いんっすよ。なんか珍しいのを見たって顔で」
「まぁ、貴族にその口調で話す人間で、その人相ときたら物語の悪役みたいだからね。分からなくもない、っと、あぁ、失礼。悪気があったわけではないんだ」
「いえ、気にしないでくだせぇ、納得いきやした。まぁ、王都でここ以外で宝石を取り扱っているのは、ちょっと遠いんで我慢してく方が多いですぜ、意外と常連のお貴族様もいますが、なるほど悪人見たさか」
「まぁ、悪人だろうと仕事をしてくれれば文句はないよ、従魔は入れて良いかい?僕よりもずっと交渉が上手でね」
「はぁ、交渉がですかぃ?従魔が?良いですがね、宝石を落とさないでくだせぇよ、割れたら買取でお願いしやす」
「大丈夫さ、おいで、他の子は待機。お姉さん、ちゃんと見ててね」
「かしこまりました」
とすっかり貴族の抜け出しについてきたメイド役のドライアド。
ちょっと楽しそうだ。
よばれたフェンリル
(何だ?我に交渉しろなど、口を聞いて良いのか?)
(嘘を言っているようなら後ろでうなって下さい。それで交渉になりますよ)
と笑うリッチロード。
「こいつぁ、でかい魔狼で。服従の首輪もない。お坊ちゃんはテイマーで?」
(坊ちゃん・・・お主が坊だと、わし達からすれば確かにの、しかし人間に坊とは)
とフェンリルが伏せて顔を隠し爆笑している。
(うるさいです!)
「そうなんですよ、今日の本題は宝石の買取でね、これらなんだ、クズ石も入ってるけどね」
とジャラっと机の上に出す。
「ほぉ、立派なもんで。これ全部ですかい?」
「あぁ、無理かな?あるいは時間がかかる?」
「何、これ一本で生活してるんでさぁ、20分ほど待てますかい?大急ぎで鑑定しますよ、ちょっと値引きますぜ」
「まぁ、その量を20分でできるなら値引きも構わないさ、ちょっと外の連れ合いに声をかけてくるよ」
とドライアド達に酒、女性服、お菓子、赤ん坊用品でめぼしいのを見つけておくように声をかけておく。
しばらくして、
「できましたよ」
「ほぉ、幾らくらいになりました?」
「プラチナで10枚」
狼は静かだ。
「ん~、家を買いたいんですよねぇ、どう思います?」
「坊ちゃんの身なりからすると、流石に仮住まいでも足りないんじゃないですかねぇ、田舎に建てても。隠れ家だとか庶民にプレゼントする家ならともかく、あと悪いんですが、流石に店に持ち合わせがありませんや。5枚までにしてくだせぇ、この辺の石をお返ししますぜ」
っと狼がうなった。
「うぉっ!?」
「何か悪いことを考えている人の前ではうなるんだよ、この狼は。交渉上手だろう?全部の合計額は店主の心にもやましいことがなかった、しかし返した石にはやましいところがあった、なぜだろう?」
と笑うリッチロード
「あぁ、そういうことですか、まずは大きい石だけを買い取ったのは売り物になるからです、んで、その辺の細かい石とかは、まとめて買うとなるとクズ石も買取できるんですけどね、次回の坊ちゃんの持込の仕方次第では買取できない石もありやす」
まだうなる。
「まだ何か?」
「へぇ、本来はプラチナ6枚というところですが、5枚にしやした。急ぎの値引きと売る時の値段を考えての仕入れ額との兼ね合いと、店の金事情ですや。やましくなくはないが、これも商売でね。どうしやす坊ちゃん?売らないという選択ももちろんありますぜ」
とにっこり悪人顔の商売人。
狼は黙った。
「うん、納得がいった。けど、少々嫌な取引にしようか」
「というと?」
「1枚のプラチナを細かくしてくれ、細々と色々な店で土産を買いたいんだ」
と笑うリッチロード。
「あぁ、そりゃ嫌な取引だ、面倒くせぇ、ちょっと周りをかけずりまわってくるんで待っててくだせぇ。坊ちゃん、良い貴族様になれやすよ、ったく」
と笑う店主。
4枚のプラチナ硬貨と99枚の金貨、9枚の銀貨、9枚の鉄貨、10枚の銅貨を手に入れた。
「どうも、
プラチナ硬貨=100枚の金貨
1枚の金貨=10枚の銀貨
1枚の銀貨=10枚の鉄貨
1枚の鉄貨=10枚の銅貨
のようですね。
プラチナ10枚で貴族の家より少なく、貴族が隠れ家にするようなところや庶民にプレゼントするような家のレベルと」
「値段もはっきりしとらんようだの、昨日より安い物、高い物がひっきりなしにある」
と龍皇。
「まぁ、特に食べ物系はそうでしょうね。あと服も季節の変わり目などでは変わるでしょう」
とリッチロード。
「ではたくさんのお酒に服にお菓子に、そしてトール用の赤ん坊用の物と買って帰りましょう」
大量に買って、騎士団長から飛竜部隊から1組借りて帰る一行。
その日、王都ではどこかの貴族がお祭りに乗じて、
大量の従魔を連れて大量にお菓子と酒と古着の女性服、
そして赤ちゃん用品を買っていったと話題になった。
話題のなり方は、以下の通り。
まだ若い顔の貴族が庶民に子供を産ませた、
まだ若い貴族が花屋のおばさんを口説いていた、
若いぼんぼんが庶民に手を出して、孕ませた挙句、まだ産まれてもないのに赤ん坊用品を買っていった。
共通していたのは貴族にしては丁寧な対応を庶民に取っていたことだけ。
しかし、誰もそのような貴族の坊ちゃんは知らなかったし、思いつかなかった。
(庶民が思いつく馬鹿貴族は多々いたが、彼等は今回は無罪である。今回は。)




