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40話 もっふもふとしたもふもふな日々 3「妖狐さんはお姉さん」

さて、外で魔物達が変身について議論をしていた頃、


トールはというと、


「~ということで魔王は倒され、世界は平和になりました。皆は勇者をすごいすごいと褒めました、やがて勇者は皆を守るために王様になったのです。そして、王国はずっと、ず~っと平和であったとさ、めでたしめでたし」


アーノルドが聞かせる物語を寝物語として、ふにゃふにゃとしていました。

意外にもアーノルドは物語の語り手として優秀だったようです。


「お~、トール、もうおねむしゃんだなぁ、よ~しよし、いっぱい寝て早く大きくなるんだぞ」

とデレデレな顔でトールを覗き込むアーノルド。

イリスは今のうちにと寝ています。


「しかし、玄関が騒がしいな、またギルドマスターとかが来たのか?他国のお偉いさんなら追い払って欲しいなぁ」


「あ~、あ~?うぅ」


「ん?トール、手をぐーぱーさせてどうした?今は妖狐さんもフェンリルさんもいないよ~」

もう村の皆から「さん」付けで呼ばれている魔物達。


「あ~うぅ」


「仕方ない、僕の指はどうかなぁ」

と指を差し出す


「うぅ?うぅ~」

明らかに不機嫌な声を出しながらも握り締めているトール


「おぉ!離さない!そうだなぁ、じゃあ次は僕が経験したお話なんだけどね、麦って分かるかな?その麦をね・・・」


柔らかい声で語るアーノルド、またふにゃふにゃしだしたトール。

いつしかアーノルドは指を差し出したままベビーベッドに身体を預けるように、トールはそのまま睡魔へと誘われて・・・



・・・

(妖狐はノックして中に入ったが、皆が寝ていたので変身議論に参加へ)

・・・



「ふぎゃ~!ぎゃ~!ぎゃ~!」

っという声で目を覚ます2人。

辺りはもう暗くなっていた。


「っと僕も寝てしまっていた、イリス、ごめんよ、起こしちゃったね」


「いえ、良く眠れました。途中途中起きなきゃと思っていたのに、ダメね。あなたの声に弱いのは私もみたい。思ったよりぐっと寝てしまったわ。もうこんな暗くなって。子守ありがとう、元気になれたわ、さてトール?どうしたの?」


と、イリスが調べてもただ泣き喚くトール。


「ん~、オムツでもご飯でもない、トール?良い子だからまたふにゃふにゃとした顔で笑ってちょうだい、あなたの笑顔が好きなの、ほ~ら、泣かないで?」


「そうだぞ、トール?お前はいつでも笑顔になってなきゃ、皆もそれを望んでいたぞ?強い子だろ?トールは?」


更に一際泣き喚く、トール。


「しょうがないわね、疲れてしまうまで泣かせましょう」

とベビーベッドから抱き上げ、自身で抱きしめながら笑うイリス


「いつも思うが、赤ん坊ってこんな声で泣いていて喉を痛めないのかな?」


「あなたは寝ていて良いのよ?こんな状況だけど」

と苦笑いするイリス


「僕も寝ていたからね、たまには一緒にあやそうか」


「そうね、そういう時間があっても良いかもしれないわね」


とアーノルドも同じベッドの上にのり、夫婦の絆が固まっていく時、


空気を読まないノックの音


「お母さ~ん、お父さ~ん、妖狐だよ~、他にもいるけど入って良い?」


「妖狐さん?良いわよ~、開けちゃって~」

とイリス


「それじゃ、入って良いってさ。あ、ちょっと待っていて。お父さん、タオル借りて良い?」


「良いですよ~」


「じゃあ手足を拭こうか、他はさっき身体を洗ってたからいいでしょ」

と外にタオルを持っていき、水音がする。

妖狐にとって水を出すだけの魔法など造作もない。

そして擦る音がする。


夫婦は顔を見合わせる。

妖狐がトールに小さい魔物形態で遊んであげるときに自身をタオルで拭いていたこともある。

その時に似ているのだ。


「じぁあ、改めてお邪魔しま~す」

まさに邪魔な客である。

もう慣れたのか、あやしてもらえるかもと期待があるのか、既に気にしない夫婦だが。

しかし、その夫婦も驚く時がある。


「お邪魔しま~す」「「邪魔するぞ」」


「「え゛」」

フェンリルと龍皇の声で家に入る宣言された時だ。

家が潰される、壊される!


「フェンリルさん、龍皇さんは無理でしょう!?」

とイリス


アーノルドは玄関に走り出そうとするが、開いた玄関からは何も見えない。

月に照らされ明るくすらあるフェンリルが見えないのだ。

と思ったとき、小さい影が横を走りぬけた。


「おぉ、トールよ、どうした泣いて、なにか怖い夢でも見たのか」

とぺろぺろ涙を舐める子狼。


「トールよ、泣け泣け、赤子は泣くのも仕事だ、泣けば肺も鍛えられよう。母君も安心されよ、結界で周りには音がいかぬゆえな」

とトールとイリスの周りをぱたぱた飛ぶ子龍。


「「しかし、また一段と可愛くなったのぅ」」

両方ともデレッデレである。

子狼は肉球で顔を挟んでいる、尻尾はぶんぶん激しく揺れている。

子龍は頭を抱き寄せすりすりしている、尻尾はばたばた激しく揺れている。


そして両方ともデレッデレなこと以外にも共通点がある。

声がフェンリル、龍皇そっくりなのだ。


「おぉ、トール、生後3ヶ月位でしたかな、大きくなりましたね、声も一層元気で。お久しぶりです、父君、母君」

とリッチロード


「うむ、母君も元気そうで安心したぞ」

と子狼


「我の血を仮にも飲んでいるが、それでも人間の赤ん坊の育児というのは大変であるな、寝不足などは病気を招く。父君は最近頑張っているが、辛ければもっと周囲に頼るが良い。妖狐やドライアドは同じ子供持ちの家庭から引っ張りだこよ、遠慮なんぞあの辺はしとらんぞ、もう」

と子龍


「小さい狼と龍から、フェンリルさんと龍皇さんの声が?」

「それに話し方まで」

と目を回す夫妻。


「あぁ、変身魔法を見につけたのですよ。これで家にいるトールの傍にいられると大はしゃぎでしてね、お昼頃はうるさくなかったですか?申し訳ありませんでした、後から気づいて」

と恐縮するリッチロード。


「お母さ~ん、お腹は?何か食べた?」

と妖狐


「あ、まだです」


「じゃあ台所借りるよ~」


「ありがとうございます」


「良いってことさぁ、私に任せなさい!」

と胸を張る妖狐。

人間の形態の時には気まぐれで色々な姿をしているが、妖狐であることが分かるように耳だけ変身は残している。あるいは、尻尾だけ。

その姿の方が人間の美人に化けた時より、よっぽど良いと一定のファン層が男女からある。

業が深い。


今日の妖狐は

金髪のロングが火に照らされ煌く、背丈も高く、胸もお尻も大きい。

顔は作りものめいたようなものではなく、元気一杯と書いてでもありそうな可愛い子ちゃん。

眉は細く、鼻筋も通っている、口などは蠱惑的でさえある。

しかし、その目だけで美人ではなく可愛いに分類されるのだ。

美人といっても間違いはなさそうだが、可愛いという人の方が多いだろう。

本人曰く、自分が何も考えないで人間に変身するとこの姿になるので、きっとこれが魔物の中の自分の「人間らしさ」が一番表れているのだろうということだ。


そんな妖狐の料理は一般家庭にふさわしい物だった。

すなわちパン、ビール、ソーセージとちょっと厚い肉、野草やらと肉入りシチュー。

別に贅沢はしない家庭なのだ、資産が国家予算に届くかもしれないだけあるが。

しかし、肉の消費は奨励されている村でもある。

特に子供がいる家庭は。

親も子も肉で元気を!!


「あれ?トールは?」

といち早く気づいたのはお父さん。


「あら」「おや」


「「ふふん」」

肉球に顔を撫で回され、むふ~っとでも聞こえてきそうな満足なトールの鼻息。

尻尾を決して離さまいとする両手。

掴まれている尻尾の持ち主のフェンリルと龍皇はなぜかドヤ顔。


「やっぱりテイマーなのねぇ、魔物の方が好きなのかしら」


「いやいやお母さん、魔物「も」好きなのさ。特に尻尾がお気に入りだね。でも、お母さんがいない時はやっぱり寂しい匂いがするよ、もちろんお父さんがいない時にもね。最近になってだけど、お父さんの方は」


「物語を聞かせてあげているのが効いているのかなぁ」


「きっとそうですね、赤ん坊は聴力の方が優れているから安心する音を出してくれる人と認識されたのかもしれませんねぇ」


とトールはもう龍皇たちに任せきりにして、食卓を囲む4名。

もちろん、最後に発言をしたのはリッチロードだ。

彼もまた変身をしている。

どこか貴族らしい格好で、顔はほんわかとしている。

美形ではないが、可愛いと母性本能をくすぐらせそうだ。

身長がそれほど高くないのもポイントが高そうだ。



「「「「本日もこうして糧を与えてくださるイネガル神に感謝を」」」」


「いや、何百年ぶりの飲食は良い物ですが、妖狐殿は料理がお上手ですね、特にシチューが美味しい」


「お、良いとこつくね、実はお肉に凝ってみてね!」


「いつもありがとうね、妖狐さん」


「助かるよ、料理はできなくはないが、こんなに美味しくはできない」


「お、なんだいなんだい、お姉さんを褒めても尻尾くらいしか出せないぞ?」


「それはトールが欲しがって泣き出すから止めましょう」


その後、夕食が終わり、4名が見たものはフェンリルに全身を預けながら「もふもふ」を堪能しつつも龍皇の尻尾も離さないトールの寝姿だった。


むろん、フェンリルを敷布団代わりに、トールをその上に、龍皇をその上にして、ベビーベッドへと移動させた。

その日は朝までトールは泣かなかった。

フェンリルも龍皇もこんな長時間の触れ合いはなかったのでご満悦。

夫婦も泣き声で起こされずご満悦。

妖狐はねぐらへ帰る。


翌朝、目覚めたときは

皆が至福の表情であったという。


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