39話 もっふもふとしたもふもふな日々 2「魔法と変身」
『もっふもふ』するには何が必要か!
それは、「家に入れなければならない」ということである。
これはその為に努力をする魔物達のお話です。
アーノルド家的なライフスタイルが確立し、もうあれから更に2ヶ月。
トールが生後3ヶ月になる頃、
リッチロードが龍皇用の洞窟で叫んでいた。
「できた、できましたぞ!我って天才!ぃぃぃいいいいやっふぅぅぅ!」
洞窟だから反響はするが、同居人は今日も門番中。
この怪しげな声をあげる骸骨を見ないですんだのか、見るチャンスを失ってしまったのか。
とりあえず、門番2匹とも顔を顰めた。
「おい」
「何だ」
「止めなくて大丈夫なのか、お主の友だろう?」
「止めずとも勝手に来るのさ、我の友だからな・・・」
「龍の血をぶっかけないとヤバイのではないのか?」
「心配するな、たまに発見があるとテンションがハイになるのだ」
「そうか、アレがテンションがハイになった状態というのだな。頭がおかしくなったのではなく」
「そうだ、アレがテンションがハイになった状態だ。頭がおかしくなっているのかもしれないが」
門番2匹から頭がもしかしたら危ない奴呼ばわりされた骸骨が走ってくる!迫り来る!
途中でスキップを入れる!もはや目を合わせないようにしている2匹。
フェンリルなど身体をずらして、リッチロードが家に入れないようにしている。
「龍皇、龍皇、できました、できましたぞ!私はやはり天才なのです!!崇める側にまわりたい時もあるでしょう、良いのです、私を崇めなさい、リッチロードは天才なのだと!」
「お主、最近見ないと思ったら、アレか、日の光はやはり良くなかったのか?」
「薬でも配合を間違えたのか?たまに頭がおかしくなるが、ここまでは初めてだ。血を原液でかければ治るのか?」
はしゃぐリッチロード、心配するフェンリル、今にも血をぶっかけて治してやろうとする龍皇。
珍しい光景である。
いつもなら、
「興奮するフェンリル、止めに入るリッチロード、自由な龍皇」
「自由な龍皇、止めに入るリッチロード、無関心なフェンリル」
の2パターンである。
「良いのですか、この天才に、頭がおかしいなどと!教えてあげませんぞ!後悔しますぞ!」
はーはっはっは、と豪快に笑う骸骨。
「龍の長よ、この骸骨殿は何を研究していたのだ?」
「ん?知らぬよ、最近寝もせずに洞窟でガリガリとやっておったからな」
「アンデッドだから睡眠は必要なかろうが・・・」
と、扱いに困りきった2匹の元に妖狐が来る。
「あっれー?リッチーじゃん?珍しいポーズ取っているねぇ、フェンリルさんよぅ、身体をずらしてくれないと家に入れないんだけど」
「いやな、そこの骸骨を家に入らせるのはどうかと、思ってだな」
「どしたの?」
「それが分から・・・」
「妖狐殿!!あなたのおかげで完成しましたぞ!あなたも天才を支えた者、共に威張りましょうぞ!」
とフェンリルの言葉を遮る、骸骨殿!
「おぉ!本当かい!?じゃあ失礼して、けふん、はーはっはっはっは!」
「はーはっはっはっは!」
おかしいのが増えた。
「妖狐の長よ、コレがこうなった理由をしっておるのか?」
と龍皇。
「龍皇さんが知らなきゃ私も知らないさ、ただ威張って良いって言うから」
と妖狐さん。
「で、何が私のおかげなんだい?」
「変身ですよ、変身!!何回か見せてくださったじゃないですか!」
「あぁ、ちょくちょく変身してくれってうるさかったねぇ。あれのことかい」
「うるさ!・・・いや妖狐殿には借りがある。許しましょう、その態度を」
うるさい呼ばわりされて、若干ショックを受けるリッチロード。
「で、結局何ができたのだ?それ次第でお主への対応が変わるが、下らんことだったらバラバラにしてしばらく肥料な」
と事も無げに恐ろしいことをフェンリルが言う。
「それたぶん私でも死にますから!んっ、んっ、げふん、げふん。その態度もそこまでです。特にあなた方は私に感謝を捧げるでしょう、なんと、できたのですよ!変身の魔法が!!」
・・・
・・・
・・・
・・・
「「そうか」」
「そっかー、おめでと」
「なんですかー!?そのリアクションは!!私だってトールの成長を見たいが、私のため、そしてあなた方のことを思えばこそ、頑張ったのに!労わりの言葉もないのですか!!」
「「「お疲れ」」」
地団駄を踏むリッチロード!
「もう教えません!妖狐殿のように変身できれば、人間の姿になってトールの家に入れるのに」
ぴくっ×2
「小さく変身すれば、トールの家で魔物の姿でいられるのに」
ぴくぴくっ×2
「そうですか、その程度ですかぁー。なんか醒めましたね、私だけ変身しますよ、えぇ」
「それであんなに変身を見たがったんだぁ、良かったねぇ、できて、うん凄い凄い」
「妖狐殿だけですよ、そう言ってくれるのは、私は2人もきっと喜ぶと思って・・・」
「「いやいやいやいや!」」
「それは素晴らしい!やはり、そなたは只者ではなかったな、確かに天才の称号はお主のためにあると見た」
「いやはや、常日頃から天才であると思っていたが、まだ我の認識が甘かったようだ、いや世界の宝であると認めよう、その頭脳」
「そう世界の宝である、もはやその事を疑う者などおらぬだろう、確かに崇めるべき偉業よ」
「そうとも崇めるべき偉業である、もはやお主の頭脳は世界のためにあると言っても過言ではあるまい」
必死にご機嫌をとる2匹。
フェンリルも龍皇も必死である。
尻尾でもぶんぶん言っている。
リッチロードが呟く
「リッチロード様は?」
「「偉大な天才である」」
「その頭脳は」
「「世界の宝であります!」」
「ちょっと頭が高いんじゃないんですか?」
「「はは~っ」」
ひれ伏す2匹
妖狐は爆笑していて呼吸困難になっている。
「まぁ、苛めるのもこの辺りにしておきましょう。これ以上はたぶん危険ですからね、私の身が」
「「では!??」」
「教えるから、まずは妖狐殿を入れて差し上げなさい。後は地面にでも書きましょう」
ということで、始まる骸骨デンジャラス講座。
受講者は2匹、目が血走る、尻尾も鳴る。
デンジャラスなのは尻尾に当たると怪我をしかねないからだ。
講座内容は安全である。
この世界の魔法は、頭に魔方陣と呪文を正しく思い浮かべ、魔力をそれに注げば、発動する。
魔方陣は基本は円の内側に接するように五芒星を描いた形である。
それぞれの頂点に「火」「水」「土」「風」と属性を定める。
そして、星と円の隙間に呪文を思い浮かべる。(書く)
一番分かりやすいのが、五芒星の頂点の全ての属性を「火」にする。
星と円との隙間全てに「燃えろ」と書く。
魔力を流す。
そうすれば発火する。
たぶん術者も一緒に。
属性を重ねるのは難しい。だから普通なら五芒星の頂点の3つくらいを「火」にする。
残りは「水」や「土」など「火」と相性が悪いものをあえて作る。
星の上3つの頂点を「火」にして下2つを「水」にする。
そして呪文を刻む。
上の2つの隙間には「燃えろ」、こっちを相手に向けるイメージ。
左右にも「燃えろ」、しかし「火」と「水」で繋いだ線でできているからそんなに燃えない。
下には「燃えるな」、こっちを自分に向けるイメージ。
これで自分は燃えないで相手を燃やせる。
「しかしですね、私は考えたのですよ。火、水、風、地、これらは世界を構成する要素だが、変身には水か風か土ぐらいしか使えない。土を入れると風と相性が悪い。土だとゴーレムしかできない。風だけだと変身にまではいたらない。水では形が保てない。他にはないのかと。
そこで六芒星にたどりつきましたが、結局それらしい要素が見えてこない。そうして妖狐殿から変身の極意は「闇と風の隙間に入り込むが如く、当たり前に静かにそこに存在する」ことと聞き、変身を見せてもらいました、何度も。これだと思いました。世界を構成する要素、それには「闇」と「光」もあると」
とガリガリ地面に書いていく。
「そうです、つまり、世界の要素を新しく取り入れるのです。「闇」、「風」、「土」のバランスによって変身ができるのです。闇で自分の姿を消し、風で普遍性と幻影を得て、土で自分を作り直すイメージです。」
と呪文とともにガリガリと六芒星を書く。
「これで小さいサイズにそのままの姿でなれます。風の頂点の近くには軽さも刻むと良いでしょう。そのまま小さくなっても重量は変わりません。風でなくても水でもいけるかもしれません。」
「ちなみに「闇」、「光」、「土」でも変身ができます。こちらは人間など姿がかけ離れたものになる時でしょうね。重さはこの場合は闇の頂点の近くに呪文を刻むことでどうにかするしかないでしょう」
と呪文とともにガリガリ書く。
「人間の姿の指定までは流石にできませんでしたが、おそらくある程度は勝手に決まるでしょう。闇で魔物の部分を消し、光で人間にあたる部分を抽出して、土で実体を得る感じですから。フェンリル殿なら髪の毛は銀色になるでしょう」
2匹はじっと地面を見つめ、
「いや、まさに天才よ」
「正直ここまでのものとは思わなんだ」
と呟いた。
この2匹にしても初めて聞く理論だ。
魔法の世界に新しい道が開かれたのである。
原動力は自分が食事をしたいからであるが。
術者毎に呪文の好みや配列の好みがある。
門番達はあーでもない、こーでもないと自分用の魔方陣を考えていた。
呪文が完成した時に、一家はますます賑やかになるだろう。
ちなみにドライアドも変身の魔法を修得したがった。
もっと人間の柔らかい肌に近づきたいのだと。
乙女には色々あるらしい。
妖狐も手伝った。
面白そうだから。
尻尾は口ほどに物を言う
『もっふもふ』
家に入れれば、もう、もふり放題よ。
ふふふ。




