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38話 もっふもふとしたもふもふな日々 1「父親と悲哀」

あれから数週間は来客が多かったと村長はげんなり言う。


龍皇達が残るのには皆が賛成だった。

食事は自分達で何かする、怪力は必要なら貸すと。

フェンリルだけでも彼女が歩けば、雪かきいらずだろう。

ドライアドと妖狐がいれば困った時に赤子の世話をしてくれるかもしれない。

ドライアドには真っ先に服が贈られた。

柔肌を見せて歩かれても困るからだ。


ちなみにフェンリルが雌であることを知った村人達は驚いた。

そして、驚かれたことにフェンリルが少し「ぐるるるる」とうなっていた。

一人称が我で、迫力があり、雄の長にも引けをとっていなかったから、と言われると

返しようもない。

でも「私」にはもう戻せそうもないし・・・。

若干そのことを気にしているフェンリル、乙女の心は難しい。


龍皇とフェンリル、ドライアドと妖狐の家はドライアドが造った。

森の中なら頑張ればこれ位ならと。

アーノルド家の道の向かい側に巨大なドームが2つ、普通の家っぽいけどどこか歪なのが2つ造られた。

やっぱり、ドワーフや人間が作るようにはいきませんね、と照れて笑った。

まぁ、魔物だしそこら辺は気にしない面々が感謝を述べる。

述べはするが、いるのは決まってアーノルド家の周辺。


アーノルドの家には門番が2体いる。

フェンリルと龍皇だ。

奇しくも街道沿いの家だから、村も安全極まりない。

ドライアド達は、ふらふらとしている。

編み物や料理を習ったり、楽しそうだし何より違和感がない。



オーガスタ国からは取引できなかった物について、財務大臣が直々に何があるかを改めて検分し、龍の鱗があるのを見て狂喜乱舞、しかし宝石も捨てがたいと他国に売るのを待ったをかけて帰った。

あの日だから大臣に普通に接することができたけれど、感覚が麻痺していただけだ。

紋章付きの馬車など心臓に負担がかかるから止めてほしい。


ギルドマスターが独りで乗り込んできた。

あまりの悪漢顔に思わずフェンリルも戦闘体勢。

慌てて両手を上げて、

「俺に戦闘の意思はない!久しいなフェンリル様よ!俺だ、王都のギルドマスターだ!!」

ようやく思い出した、フェンリルは大人しく丸くなった。

彼は武具を検分しに来たのだ。

これも村長が案内するが、悪漢顔が怖い。

これも心臓に負担がかかるから止めてほしい。

村人用にしようか、と分けた逸品の中から、両手剣を買って行った。

「これは、村人には使えまい、俺も挑戦したかったからな、これだけの逸品なら練習にも熱が入るってもんよ」

にこりと赤子も黙る顔をして、ホクホクと帰っていった。

仕事があるのでは・・・?と思ったが余計なことは言わない村長。

賢明である。


そこからは他国の使者がひっきりなしだ。

やれ、取引の物を見せろ、売れだの。

アーノルドにこちらに移住しないかと提案してきたり、

爵位付きで!と提案してきたり、

学校なら自国の方が素晴らしいからこちらにせよと迫ってきたり(全ての国の学校に入る資格が手に入った)、

龍皇がアーノルドや村長が疲れているのをそろそろ見かねていた折に、

「王が愛し子を見たいと言っているから一緒に来い」と言った兵士が出て、龍皇がぶちっと切れた。

「生後まもない赤ん坊を連れて旅をせよと?馬鹿か、お主の所の主君は!!ちょっと王達に一言言って来るわ、貴様も来い」

と兵士を掴み、オーガスタ国以外の国々を回り


『我は龍族を治める者である、ここしばらくの間は他国の者が我等が愛し子のご両親に負担をかけるようなことを言っているのを我慢して聞いておったが、兵に生後まもない愛し子を連れて来いと言った馬鹿がおったでな、我も久しく怒り気味よ。ここ数ヶ月はオーガスタ国の第4の村への干渉を禁ずる。破れば、その都度、その国の王宮の屋根を剥ぐぞ。屋根がなくなれば壁を剥いでやる。』


兵士はオーガスタ国の王宮にぽいっと捨てていった。

「グレン王よ、お前の所の者でもないと思ったが、捨てる場所が思いつかんでの、適当に処理してくれ」


「はぁ、それは良いのですが・・・。」


「何だ?」


「わし達ならよろしいので?」


「まぁ、お主等なら無理なことや無茶なことを言わんだろうさ。奴等も大体が移住しろだとか、学校がとか貴族にとか、取引をとかお主等と同じことをだいたいが言っておったでな。もうお主等とはその辺の話は済んでおるしの。ただ3カ国分となるとうるさくて仕方がないという話だ。ご尊父殿の心労も気になるわ」


「なるほど、あの父親ならやつれておりそうなものよ」

と笑うグレン王

「この者のことは気にせんでください、後はこちらでやっておくでの。うちの財務大臣がまた後1回は行くでの。村長に悪いが頼むと伝えておいてください」


「うむ、任されよ、そういえばあの騎士達はどうした?」


「とりあえずは命がけの任務になるはずでしたからの、ちゃんと休暇を与えておりますわぃ。皆も龍皇殿が示してくださった気遣いに感謝しておりましたよ」


囮になる予定だった特殊騎士団はというと、何もしなくてよくなったり、酒が振舞われたり、王が酒盛りに参加して、皆に感謝を述べるなど良いこと尽くしであった。

王都では、一緒に帰った王の演説により騎士団の本当の目的と起こったことが民に伝えられた。

魔物の長が集っており、長レベルになると知恵があって、王も騎士団長も話したこと。

神が途中で出てきて、しばらくしたらダンジョンが出るこなどなど。

王は最後にこう締めくくった。

「何も起きなかったが、しかし、それでも彼等が命をかけて村人を、王都を守ろうとしたことには違いない、皆の者、彼等こそが勇者だ、英雄だ、称えよ!」

おかげで酒場に行けば勇者扱い。また、特別給も出て、しばらくは任務後だからと休みがとれた。

一番美味い部分だけとっていった形だ。



また、来たのは他国の使者だけではない。

近隣の村人も来るのだ。

何人かは怒ってやってきたが、アーノルド家の龍皇に目が向かう。

「なんだ?」と問われ、「なんでもありません」としか答えられなかった。

「お前の所に魔物がいたから避難せざるをえなかったんだ、どうしてくれる!」

とはその魔物がいたら言える台詞ではない。

もちろん、興味本位の者もいる。龍皇をそういう者達が見ると、一様に口を開けて見上げるのは面白い。


また、村長もフェンリルに手伝ってもらって街道沿いの村々に肉を持って詫びに行くことにした。

誰が悪いわけではないが、迷惑をかけたので。

何人かはやっぱり怒っていたが、村長の横のフェンリルを見て口をつぐむ。

無事だったし、肉も手に入ったし、もう忘れようと。余計なことを言うと、何が出てくるか分からない。

大体の他の村長の結論だった。



そんなこんなでトールが産まれて1ヶ月を迎える頃には大分村も周りも落ち着いた。

ドライアドや妖狐、リッチロードは、頼まれた時に、赤子にうりうりしてたり、自分の集落の子守唄を歌ってやったりと楽しんでいた。

家に入れない龍皇やフェンリルは羨ましそうに見ている。


たまに日光に当てに外に出てきたときにフェンリルが尾で顔を撫でるときゃっきゃっと笑い尾を掴む。

ならばと妖狐が元の姿に戻り、9本の尾で撫でると、1本掴んだときは笑っていたが、掴めない尾で顔を撫でると泣き出した。慌ててイリスに変身してあやす妖狐。

掴めない尾は悔しいのか、嫌なのか、赤子の機嫌は難しい。

しかし、フェンリルが尾を出すと毎回尾を掴んで嬉しそうにする。

外にいるときはたまにフェンリルが子守唄(?)を歌う。

ただ、音程をつけて優し~く吼えているだけなのに、大人でも安らぐ威力があり、すぐ泣き止んで寝てしまう。



トールは「祝福と加護」のおかげか、成長が早いようで割と感情が出てくるようになってきた。

母親と尾、毛皮があると安らいだり、笑ったりするのはテイマーらしい。

龍皇も尾を出すと握りしめるが、もふもふと柔らかくないのが不思議なのか、いつも真顔になられる。

それを見て皆が笑う。


どうしても泣き止まないときはフェンリルの横腹に寝かせて、母親が子守歌を歌い、妖狐が尾を毛布にする、3連コンボが発動する。もう大満足という顔をするトール。

でも、フェンリルから持ち上げると泣き出す。

ちょっとドヤ顔なフェンリルである。


アーノルドも遊んであげたり、お風呂に入れてあげたりするが、いつも不思議そうな目で見られる。

育児能力も上がっているのに、その目は「誰?この人?」と語りかけてくるのだ。

子守唄も歌えるように、指導してもらう必要がありそうだ。

あるいは自分にも尾があれば・・・あるいは?

色々あって疲れているらしい。


そんな風に1日が過ぎるのがアーノルド一家の最近である。

ここから少しの間はトールの成長記録及びもふもふがどう育児に影響するのか、です。

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