36話 生まれながらにして世界を震撼(世界は踊る3)「別れと再会」
「巨人族の長はなんと呼ぶ?」
「巨人ロード?」
「う~ん」
『ジャイアントロードでいこう!これからは巨人族よりもジャイアント族で』
「「!!??」」
『さて、今の話は遠い小国の王や大臣にも伝わっている。そこの国々がどこにあるかは教えないけど、他にも国があるということは知っておくと良い。それじゃあ、懸念事項もなくなったろうし、龍達よ、魔物の長、今はロードと呼称するようにしたらしいね、彼等を元いた場所に帰してきておくれ』
「「「「「はっ!」」」」」
『ただ、フェンリル、龍皇、四聖獣、リッチロードは龍皇に頼みたいから、龍皇が受け持っていた分も誰か頼むね』
「私が受け持ちましょう」
龍皇の次に身体が大きい龍が進み出る。
『うん、お願いするよ、スライムロードよ、スライムキング達よ、また皆を頼むね』
(かしこまりました)
『人間の王達よ、大臣達よ。今からの光景は珍しい光景になろう、見てから帰ると良い。君等の王宮にも君等が神に呼ばれて席を外していることは伝わっている。』
「「「「「「はい」」」」」」
『ではね、我が子らよ。君達と眷属達が健やかに、情愛深く暮らしていけることをいつまでも願っているよ』
魔物達は感謝の言葉を口々に告げた。
感動でむせび泣く者もいる。
そして、それぞれがスライムの中に入るとき、皆が皆なりに村人に別れを告げた。
オーガロードは
「楽しかったぞ、人間達よ。愛し子を頼む。童共よ、長生きせよ。そのためには鍛えろ!」
ゴブリンロードも
「今までのことを許せとは言えん、お互い様だからな。しかし、人間をただの餌とはもう思えん。お主等のせいだ、今回の出会いに感謝を。これからは良き隣人になろうぞ。愛し子を頼んだぞ、困ったことがあればいつでも我を呼べ」
スライムロードも
(良き宴であった、楽しかったぞ。まさか人間とこうなるとは思ってもいなかった。愛し子は流石だな。他の子にするように、自分の子にするように、正しく村で育ててくれ)
ハーピィロードも
「これからはますます人間を襲えはしなくなるな、お主等のせいだぞ。もう愛し子のためとかでなく、襲った相手がお主等の誰かだったらと思うと襲えんよ。童達よ、愛し子と共に立派になるようにな、大人達よ童達を頼む。そなたらも健康でな」
と笑った
ハーピィの長の言葉には
確かにな
愛し子のためだけではもうないの
困ったらお主等のためなら力になろう
第四の村で名前は良かったな?
また、宴を開きたいが龍皇よ、どうだ?
どうだと言われてもの、人間の都合次第かの
と賛同の声が上がった。
セイレーンロードは最後に思いを込めて歌を贈った。
セイレーンの言葉なのだろう、意味が分からないが感謝の思いが伝わる歌だった。
ジャイアントロード(巨人の長)は
「酒に酔って誰も潰さなくて済んで良かった、次は気をつける。皆の者達者で、愛し子の成長にはお主等が欠かせぬ」
これには村人一同、酒の管理の重要さを改めて知った。
次に仮に宴があったら、皆の酒量は管理せねばと。
皆が皆、村人に別れの言葉を告げて行った。
村人達も各ロードに
お前さんの飲みっぷりは村で語り告がれるだろうよ、達者でな。
また、オーガロードさん、牛一頭かじるところ見せてよ、贈り物を僕達にもくれてありがとう!
今度はお前さん達と楽器を一緒に叩きたいな
お前さん達も達者でなぁ!
近隣の者にも魔物の長がどれだけ知恵があり、強そうだったか、また頼れるか語っておくぞ!
またいつでも来いよぉ、時期によってはまた手伝ってくれ!
それが目当てか、お前。でもまた会えるのを楽しみにしている!
ダンジョンできるんだろ、怪我すんなよ!地面のどっか踏むと毒矢が飛ぶとか聞くからな!
そうだそうだ、どうせ病気しないだろう、怪我すんなよ、群れの皆にも伝えてくれ!
壁から槍とか、毒の部屋とか色々聞くからな、気をつけてな、本当、気をつけてな
どっかの冒険者に知恵を借りてから行くと良いんじゃないか?無理すると途中で帰れなくなるっていうぞ。
と思い思いの別れを告げる。
たまに王様にも飛び火が来る
コボルトロードが
「村人達よ我はこの宴を一生忘れないことを誓おう、これからは良き隣人に。皆龍皇殿の血を惜しむでないぞ、人間は弱いのだから。愛し子だけでなく皆が健康でな。それから人間の王達よ、リッチロード殿との話が聞こえたが、どうもそなたらは自分の良いように愛し子を縛りたいようだが、愛し子のためならば我等はいつでも牙を向くぞ。心しておけ」
その言葉に他の長からも
愛し子は自分の意思で歩ませよ
自分の国に脅威だからと愛し子に危害を加える者はおるまいな
自分の国に無理に縛りつけようものならば容赦はせんぞ
愛し子を傷つけた者がおれば、どこの誰かなどすぐ分かる。国が滅ぶと思え。
我等が魔物であることを忘れるな
と言葉で脅す者達。
怒声を張り上げる者達が出た。
村人も流石に怖いが優しい面も知っているし、何のために怒っているのか分かるので、もう怯えたりしない。
怯えるのはいきなりの飛び火にタジタジとなった王達、
「何もせん、何もせん。下手に触れとうないわ、恐ろしい」とシャルマ王が言う。
それにコボルトロードが
「ここで嘘をつくのは感心せんな、我等の嗅覚を舐めるでない!」
と一喝。
去り際に
「忠告はしたぞ、愛し子のためならば我等は何でもできるからの、心しておけ」
もふもふ具合はあまり良くないが、歴戦の勇士であるコボルトロード、格好良く去る。
そうして、思ったより挨拶で時間をかけながらもスライムに入りきる。
ドライアドと妖狐だけは龍皇が良い、珍しいからとよく分からない理由で入らなかったが。
龍達も宴に参加できた感謝、愛し子を皆で育てて欲しいこと、アーノルド夫妻に産んでくれた感謝を、イネガル神に会えたことの感謝を告げ飛び立っていった。
『さぁ、人間の王達よ、珍しい光景だったろう。人間も魔物もたった2日であれほど仲良くなれるんだと、愛し子の影響が少なからずあったとしてもね。これからはロード達も人間という種に好意的になっているだろうから、交流の仕方さえ間違わなければ、物資やその怪力などを交渉で得ることもできよう』
『後は最後に忠告だ。「服従の首輪」について。主に奴隷に使っているようだが、魔物に使っている魔物商がいるだろう。彼等には魔物を解放させ、別の職に就かせることを勧めるよ。ロード達は弱肉強食の世界だと、気にしないだろうがね』
『さぁ、ではオーガスタ国の者以外は元の場所に帰そう。え?会合がしたい?自分達も魔物のお土産を取引したい?そんなのは後日後日、意外とこの世界に僕がいるのは大変なんだよ?』
と明るくさばさばと捌く神様
しかし、一転真剣な声で
『皆、君等も僕の子だ、健全に健康に情愛と共感を持って過ごすようにいつでも願っているよ、人間こそが一番の悪になれるのだから』
と皆を見回して告げた。
そして、また一転、明るい声に戻り
『あと偏食は身体を壊すよ、他の貴族にも言っといてね、じゃあ、はいっ!』
手を打ち鳴らすとまだ何か言っていた者達が消えた。
『さぁ、グレン王達も急ぎ馬車で国に帰ると良い。さっき味見したオーガの酒を一樽持っていって、兵達にあげると良い。村の水も後で戻しておくから、井戸水を使って良いよ』
「神よ、あなたに会えたことに感謝を。お気遣いまでありがとうございます。何か返礼などはできましょうか」
『さっき言った通りさ、健全に健康に情愛と共感を持って過ごすように、ね。あぁ、いつも信仰してくれている人は助けることがあっても、大変な時にしか祈らない人は助ける気があまり起きないとは教会に伝えておいて。あと、別に龍を拝んでも何を信仰しても良いからね、とも。これも世界に流しておこう。
そうだ、あとこれだけは伝えておくよ!』
と身を乗り出すイネガル神。
「な、なんでしょう」
とグレン王
『「竜王」ではなくて「龍皇」!身体がすらりと長いのが「竜」、がっしりとしているのが「龍」!せっかくここだけは僕が名づけたのに!人間世界では違いがなくなるなんて!!これも世界に流すからね!!まったく』
イネガル神が空に字を書いて、説明する。
「は、はい、肝に銘じますじゃ。で、では私等もこれで失礼いたします」
グレン王はイネガル神のツボが分からず、汗たらり。
逃げるように去っていった。
『まったく、まったく!浪漫が分かってないよね!』
とぷりぷりしているイネガル神。
ここで頭を上げ始める龍皇と四聖獣、フェンリル。
「もう良いですか?」
龍皇が尋ねると、
『うん、良いよ、おいで我が子達』
と手を広げ迎え入れるイネガル神。
「あなたが我等をこの世界に送り出してから、色んな種族を見ました」
と龍皇
「どの種族もあなたが私達にくれたように愛情深く子を育てておりました」
と青竜
「しかし、無限が如き時を生きる我等」
と朱雀
「「いつしか寂しさを感じるようになったのです」」
と玄武
「愛情深く育ててくれておりましたが」
と白虎
「もっと親離れは先でも良かったのではないかと、我等ももっと甘えたかった」
とフェンリル
皆が涙を流している。
『うんうん、ごめんよ、皆。龍皇、相変わらず鼻が湿っているね、でも一番イケメンに作れた、もっと世界を飛び回って格好の良さを示してごらん。青竜、君の鼻先にかけてのラインはやっぱり綺麗だよ、朱雀、君の羽はどの羽よりももふもふしていて気持ちがいいね。玄武、喧嘩はしないでやっているかい?白虎、君の毛並みも、フェンリル、君の毛並みも相変わらずモフモフしていて気持ちが良いね』
そこには久々に親に甘えることができた、子の姿があった。




