34話 生まれながらにして世界を震撼(世界は踊る1)「取引とバランス」
その後、グレン王も無理に自国に縛り付けるのは今は無理だと悟ったのか、別の話題へと移った。
「村長よ、魔物の長のお土産というのはアレだけか?」
「いいえ、肉や武具、宝石、あとはお酒や羽毛みたいな毛や毛皮などもいただきました」
「ほう、結構色々と種類があるのだな」
「魔物達も知恵を絞ったのよ、どれが愛し子、つまり人間の役に立つのかとな。大半は肉ならば拒まれまいと持って来た。流石に赤子は喰えんのにの」
くっくっ、と龍皇は笑う。
「しかし、おかげで肉は多くてな。この村では消費しきれなさそうだったから肉で宴を開いたのよ、昼と夜でな。それでも自分の村がしばらく困らない程度と近隣の村に配る分くらいはあると言っていたぞ。武具は人間が身に着けていたなら、人間にあげても困るまいと持って来たものだな。我等はゴブリンなどしか使わんからな。ピカピカしているからなんか残していたのを持って来たというところか?宝石は主に我等龍種からよ。我等も好きだが、人間も好きだと知っておるからの。盗もうだとか倒して奪おうという人間は今まで腐るほどおったよ」
宝石のくだりで目を逸らす財務大臣
「酒は意外だったの、オーガに作る技術があるのもそうだが、美味いものよ。後で飲んでみると良い、人間でも薄めれば飲めるからの。羽毛みたいな毛や毛皮は主に寒い所にいた魔物からよ、母堂は一番喜んでいたな。愛し子を暖かくしてあげられると。寒い所にいた魔物はそこの人間達が魔物の皮を被ったり、毛を服に縫いこむということを知っていたからの。あまりこの辺の習慣ではないが、寒くなる時期に良いのではないか?」
「尊父も母堂も謙虚だからの、大半が村の共有財産となってしまったが。二人が決めたことに異を唱える魔物などはおらんかったよ、あげたものだしの。リッチロードが人間目線で分けたということもある」
ふむふむと頷く王と大臣達
「長よ、それらを見せてくれんかの?」
「はい、こちらへ」
村の倉庫にたどりつく一同。
村長が扉を開けると、まず目につくのは肉の山だ。
長を交えての肉パーティをしたというのにまだ肉の山が残っている。
確かに、しばらくは肉に困らないし、近隣の村に分けても大丈夫だろう。
そして武具は逸品ともいえる山と普通程度ので分けられていた。
リッチロードが分けたというのだから、彼の目の確かさがうかがえる。。
軍務大臣とギルドマスターはここで目の色を変えた。
とくにギルドマスターは逸品の山を凝視している。
自分に合うのがあれば買い取るつもりでさえいる。
次には宝石の山だ。
これもとりあえず龍が手づかみで持ってきたのか、逸品、良い品、普通、クズ石が混じっている。
「流石にこれまでは分けられませんでした。小さくて数が多い。逸品の中の逸品を愛し子へと。後はまた今度仕分ける感じですね」
と、リッチロード。
長生きは趣味を増やすのか、彼は鑑定のスキルも持っている。その理由が分かる。
盆栽とかもスキルがありそうだ。
もう財務大臣はよだれを垂らすか、垂らすまいかになっている。
目が血走る。
もう一度、龍の血を飲ませないと脳の血管がヤバイことになっているかもしれない。
あとは袋に入れられた魔物の毛や、敷かれている魔物の毛皮。
あとは数樽ある。
「この樽が?」
と王様。
「そうです、オーガ秘伝の酒です」
龍皇に
『誰かに人数分のコップと水と果実を持って来させてください』
と思念で伝える。
龍皇は人使いの荒さに辟易しながらも了承し、そこらの婦人に伝えた。
「もうすぐ味見していただけますよ。味見ですからね、下戸の人は飲まない方が良いですね、死にかねないでしょう。あと、原液で飲むのも絶対に止めてください。死にます、ほぼ確実に」
と釘をさしておくリッチロード。
さて、水が来た。
各々に飲み方を説明する。
まずは少し、垂らして飲んでみる。足りなければもう少しと増やして自分好みにする。
まずは何も入れず。
次には果実を入れてみてと。
酒に自信のあるギルドマスターが言うことを聞かずに、少しどころか水を飲んで嵩を減らしてからたっぷり入れてかき混ぜて飲んだ。
むせた、
盛大にむせた。
鼻水と涙も出て強面が台無しになっている。
巷ではうわばみでも、魔物基準では違うのである。
「率直に言いますが、馬鹿ですか、あなたは。せっかくの人の親切を無駄にして。ほらこれは龍皇にでもあげますから、このコップで試しなさい。」
と、呆れるリッチロード。
いや、俺は酒で酔ったことがない、と言いたくてもむせて言えないギルドマスター
周りの人間は彼が底なしだという噂を知っているので、素直に忠告に従う。
ほんの少しで満足する者がいれば、追加して満足する者もいた。
ほぅ、これは。
いけますな。
ギルドマスターがあぁなったのも頷ける。
これしか入れていないのに酒精の強さがまだ感じられる。
味も良いですな、なんだか初めての味で。
奥深いですな。
果実を入れれば更に話の輪が広がる。
「これは・・・」
と王
「普通に売れますな」
と財務大臣
普通に飲んでみれば、強面のギルドマスターもにっこりの代物だ。
酒飲みには受けるだろう。
ギルドマスターのにっこり顔からは獰猛さしか感じられないが。
そうして、倉庫を後にして、村を直接視察もした。
そこからは大臣達も各々の職に従った視察を行う。
王も一通り見て、愛し子の龍皇の元へ。
「感謝しますぞ、竜王殿。本当に直接村を視察できたのは久しぶりでな。多少普通ではないが、大体の様子は知れましたぞ。」
「調べ物が増えたという感じじゃの。何かあるやもと思い、魔物達はまだ帰しとらん。欲しいものや聞きたいことがあったりもするのだろう、後は、我の仕事の関係でもあるがな」
ギルドマスターや軍務大臣は一生懸命に各長と話している。
ちなみに危険性についてはスライムの長とゴブリンの長、オーガの長のあたりを見て、
ギルドマスターが
「長が一緒になって村に攻め込んできた場合?逃亡しかないだろう。一番遭遇数が多い魔物の長があれだぞ。長がいたら軍でも動かさんと勝てん。しかし、軍を用意する間に村は蹂躙されるだろう、向こうにその意思があれば。一番有効なのは今回と同じで囮を用意して、逃げるんだな。後は大規模な罠でも予め仕掛けるとかな、年単位がかかるがな」
と笑いながら言う。
しかし、長に会えて会話できるなぞ滅多にないのでどんな戦い方が嫌かとか、苦戦の経験を聞いたりしていた。
また、群れを治める者がおり、その群れを幾つも束ねていることも知れた。
群れを治める者も体格が良くなったりするらしい。
一つの群れを束ねるのが~キング、全ての群れを束ねるのが~ロードと呼称を作ることにした。
これは龍に手伝ってもらって全ての長に告げて、覚えてもらうことにした。
長=~ロードに会いたい!と言えば通してもらえるようにするためだ。
逆に、長も人間の村に行き「自分は~ロードである」といえば、知恵ある者として遇してもらえる。
魔物と人間が交渉するための一歩だ。
既にしている砦があるが。
さて、龍皇とリッチロード、フェンリル、村長、アーノルド夫妻、グレン王、財務大臣で輪を作り話す。
もちろんこれからについてだ。
財務大臣が切り出す。
「まず、欲しい物がたくさんあり過ぎて困ります」
龍皇が
「権力によって徴収とか、また頭の沸いた事を言い出したら、1週間は湖で生活してもらうぞ。死なせはせんから安心しろ。ただ浮かんだりと楽してるときには波も作ってやるぞ?」
とにっこり
それも頭に入れていた財務大臣は冷や汗がどばっと。
「考えておったな、うつけが。我等が敬愛する者達に対し、貶めるような真似をしてみろ。人はなるべく生かしてやるが国はなくなると思え。」
フェンリル
「というか、我等でこの村をこのまま魔物の長を入れて乗っ取って新しい国にしても構わないですね」
リッチロード
「国を壊したり、国を魔物が興すことを果たして愛し子殿は望むものでしょうかな?」
と食い下がる財務大臣
「何か勘違いしておるようだが、我等ままだテイムもされておらん。同族の血が愛し子に似合わんと勝手に思っているから、遠慮しておるだけよ。愛し子の両親への敬意も勝手に持っているだけのもの。我等を縛るものなど、我等の意思のみである。将来愛し子が悲しむかもしれんが、その時はその時よ。必要があったと説くまでよ。
それにテイムされていても禁止されてなければ行うぞ?言われたことしかしない、言わない。そんなものは道具と同じであるからな。主が悪いことをすれば諌め、主が甘ければ厳しくするよう提言し、主に敵対するものは予め滅ぼす、それが従魔たるものの役目だろうしの」
くっくっと笑いながら龍皇
「こやつもまだ言い出しとらんのだから、落ち着かれよ。頭に案があるだけよ、我にもある。長に対し得た物を渡すはそちらでも常識じゃろう?」
王も返すも、
「ですが、人間は違いますよね。そちらでも国民に対して財産の自由位はあるのでは?財産の没収など私の時でさえ、よほどの時、それこそ戦時か罪人に対してでしたよ?」
とリッチロード
「この匂いはリッチロード、お主の言う通りじゃな」
フェンリルは嘘探知機で参加しているようだ。
魔物の脅威から村々が手を取り合って国ができたのだ。
財産権や心身の自由などは松田透(主人公の元の名前)の世界より先に進んでいる。
身内で争うことなどしていられなかったのだ。
「しかし、危険でもある。一つの村がこれだけの財産を持っていれば、盗賊や盗賊団の格好の的よ。国が守るために過ぎたるを徴収するのも大事である」
頷いて、本心からであることを示す。狼。
「それは気にせずとも良い、リッチロードが魔法で結界をかけておる。また、お主等と村人に土産について話すことを禁ずる魔法で縛れば、だれもそうとは知れまい」
と気にしない龍皇
「対価を示し、そうして敬意を示せ。お主等が得るにはそれしかない」
権力が通用しない魔物には、王も財務大臣も影響力が少ない。
我等を縛るは我等の意思のみ、この言葉が出た時点で彼等の言う通りにするしかない。
手を上げるイリス。
「おぅ、イリス殿か、どうかされましたかな?」
とグレン王。
「でしたら王様達に買っていただきたいものがあります!」
「イリス?」
はっきり告げるイリスに、よく分かっていないアーノルド。
「ふむ、なんじゃ?」
「我が家に恐れ多くもいただいた宝石類です!」
がーん!とショックを受ける龍皇。
龍皇が必死になり一番良い物をと、選び、ようやく受け取ったもらえた品々だ。
龍皇自慢の土産だ。
それが最初の取引物扱い。
「ど、どうして・・・」
流石に涙目の龍皇
「あのような価値の物が家に幾つもあるなど、不遜というかなんというか、困ります!実際、大臣様、あれはどの位の価値なんですか?」
睨むフェンリル、
汗をかきながら素直に答えるしかない財務大臣。安く言ってもバレるだろう。
「価値など私にも分かりません、鑑定スキルでも具体的な価値はでないでしょう。あの宝石はどれ一つとっても「世界の至宝」とどれが言われてもおかしくありません。王妃様どころか、我が国はおろか隣国も持っていないでしょう」
「ほらぁ、そんなのが家にあっても困ります。龍皇様のご好意は大変ありがたいですが、思い出に一つで結構です!」
「そんなぁ・・・」
伏せこむ龍皇。
威厳などもはや皆無。
他の龍は爆笑している。
「しかしですな、イリス殿、困ったことがあるのです」
「え、何ですか?」
心の負担が減ると喜んでいたイリス、財務大臣が唇を噛み締めながら、血を流しながら、答える。
「我が国の予算では、どれ一つとっても正直釣り合いません」
「そんなぁ・・・」
次に落ち込むはイリス。
財務大臣?悔しさから拳と唇から血を流している。
フェンリルさえいなければ、買えたかもしれないのに!
(リッチロードがいるので、そんなに値引きはできなかったろうが)
しかし、王とリッチロードは考える
「奥方は心の負担になっておる」
「そちらも欲しいということですしね。ちょっと考えてみましょうか。」
二人に後光が見えるイリスと財務大臣。
「予算がないのであれば、金銭でなくても良い。あるいは今ある金銭でなくても良い、か」
「村の税収を今後この村だけ無税にしてしまえば良いのではないですか?無税にしたところで、今までの生活を送るのです、小麦も家畜も今まで通り生産するでしょう。それをここだけ都度、買取式にしてしまうとか」
「それは近隣の村に妬まれそうじゃなぁ」
と村長
「ここだけ移民が増えても困るのぅ、しかし良い案ではある」
と王
「では、宝石2つにして全ての村を数年、減税。ここだけ永久に無税なら?これなら全ての村も幸運のおすそ分けができます。減税率次第ではわざわざ住み慣れた土地からは出ますまい」
「それならば、良いかのぅ。こちらの街道とあちらの街道で減税率を変えても良いの」
と王
「王よ、すみません。それでは足らないと気づいてしまった私をお許しください」
後ろでフェンリルが唸っている
「そうですか、良い案だと思ったのですが・・・。なら更にそちらに負担してもらいましょう。ここを王の直轄地にして、領主よりも権限のある代官とワイバーンのテイマーを派遣。そしてある程度は村に自由を認める。」
とリッチロード
「特に不自由はないでがすのぅ」
と村長
「途中途中の砦に代官もおるしの」
と王
「むむむ!!では我等の学校入学資金への充当、今回の軍を動かさせたことへのお詫び、王達をいきなり連れて来たお詫び、など一連の騒動の謝罪をつける。あと、龍皇がたまに直訴しにそちらに行くのを許していただく、領主を腕の良い、公平で公正で、臨機応変に対応できる一番有能な者にする!これでは!!」
「龍皇の直訴とは?」
王が冷や汗をかく
「さぁ?なんかごねることもあるでしょうから、先に条件にでもつけておこうかと」
とリッチロード
「我は子供か」
「そんな可愛いものではないでしょう、ちなみにもしこの村に住むにあたってやりたいことは?」
「ドワーフを村に住まわせて、家を建てさせたい、我が昼寝をしても誰にも迷惑をかけないように道の向こうの森林を少し焼き払いたい」
「とか、出てくるでしょうから、領主で判断つかない時に行くと。結構迷惑をかけますが、その分そちらも魔物のこれが欲しいとか交渉できるでしょう」
「ふむ、それ位ならば。時間は考えて来ていただけますな、人間の時間に合わせていただきたい」
と王様
「お主等は我を何だと思っておるのか、我侭ではないし、そこら辺はわきまえておる」
「確かに一連の騒動は悪気がなくても、我が国からも結構な出費しておりますからな。時間も使っておりますし。」
「あと、1つ宝石で広い牧場を作っていただきたい。龍皇や魔物用のご飯用です、飢えたときにそこからもらっていきます。質は問いませんから、乳のでなくなった牛、走れなくなった馬、肉が硬くなった老いたものでも構いません、途中の乳だとか羊毛はそちらに差し上げます。牧場ができるまではどこかの牧場に負担させてください。作る手間の割に価値を産みませんが、我等に利があります。愛し子のテイムした魔物の餌代とか」
「それならば、宝石の質を下げれば合うでしょう。最後のはむしろ魔物側の利益ですが、イリス殿はそれでもよろしいでしょうか」
「は、はい!大丈夫です」
その後、龍皇がごねて自慢の二品以外で選ばれた。
一つは家庭用に。一つは愛し子本人用に。
もう日が傾いている。
魔物が帰るならば数的にこの辺りからだろう。
「では、大きな商談はこれ位で」
「そうですな、わしらもこの辺で魔物を帰るのを見届けるべきじゃろうしな。リッチロード殿、王宮へ着ませんかな、来ていただけたら仕事が大分減るのですがな」
「まさかまさか、私如きではできませんよ。では龍皇、皆に指示を出してください。」
笑うリッチロード
「龍皇?」
考え込んでいる龍皇。
「うむ、皆が揃う時等そうそうないでな、本当にこのままで良いのかと、調停者としてな」
王も集まった大臣達もそういえば、と
「時折言っておりましたのぅ、調停者と。どのような意味が?」
「世界のバランスを保つ者のことよ、種の絶滅を防いだり、世界の力関係のバランスを考えたりとな」
『それは今回君がしなくても良いよ、今回ばかりは僕の仕事だ』
皆が声の方を振り向く、トールがベビーベッドから浮いている。そして空で直立している。
『ほとんどは初めまして、アーノルド夫妻、悪いがトール君の身体を借りているよ。』
一斉に魔物達は跪いた。
龍皇もフェンリルもリッチロードも。
(フェンリルも伏せの状態である。お腹を見せたりはしない)
一方、おろおろするのは人間のみだ。
「な、何が起こっているんだ!トールが!!」
アーノルドは真っ青に。
『身体を借りているんだよ、一番話すことができない者が話した方が信憑性が高いでしょう?魔物は流石に分かっているね、では人間達よ自己紹介といこう。僕は神様、イネガルだよ』
生後すぐの赤ん坊が立って、喋る姿は正直怖かった




