33話 生まれながらにして世界を震撼(王は踊る9)「揺れと圧力」
その後、龍皇は大事にやわらかく、できるだけそっと、馬車を摘んで飛び立った。
王が馬車を掴んでいるのを見られると、変に思う国民もいるだろうから、できるだけ上空を飛ぶことを頼んだ。
地獄はここからだった。
龍皇は言うことを素直に聞いた。
聞いた結果、垂直に首を向け、身体も何もかも垂直になり上空に向かおうとしたのだ、馬車を掴みながら。
一瞬片側の全員が片方に向かいそうになるが、それを見越してリッチロードは固定の魔法をかけておいた。
そうでなければ全員が片方に落ちたであろう。
『馬鹿ですか、あなたは垂直になるのはあなただけにしてください。馬車は地面と平行に!』
『おう、そうか。馬車の中など気にしておらんかったわ』
笑う龍皇
『だから馬鹿と言うのです、気にしなさい!』
「今、馬車まで垂直にする馬鹿がいるかと叱っておきました。地面と平行になるように持てと」
「「「「それは、ありがたい」」」」
いきなり乗り物が、並行から垂直へ、そして平行へ。
シートベルトのように固定化されていても、酔う者が出てくる。
そして、始まりなのだ、これは。
龍皇が羽ばたく、上空に着くと、スピードを出し始める。
馬車が揺れる。
その度に、
『平行にしろと言っているでしょう!』
『平行じゃろう?』
『微妙に平行じゃない時が多々あります。微塵も揺らさないように気を配りながら飛んでください』
「今、微塵も揺らすなと言っておきましたから」
「「「ありが、とうござい、ます」」」
『そうか、人間というのは実に脆いな』
『ですから、サポートするのですよ、調停者』
『ふぅむ、これからを考えると頭が痛いわ』
『今はどれだけ揺らさないで持って、羽ばたくかのみを考えてください。吐きそうになっている者もおります。彼が吐いて、それが私にかかったら、龍皇、私はあなたに何をするか分かりませんよ?』
『絶対揺らさない、頑張る、我。だからあの匂いのとかは勘弁してください』
『流石に早いですね、ほらもう着くでしょう、もう一踏ん張りですよ、着地の時も揺らさないように!』
『分かった、分かった、分かりました』
第4の村に着いた。
まだ夕刻にはならないが、太陽が村から龍皇が飛び立ってから傾いている。
「皆の者戻ったぞ、人間の王を連れて来たでな、安心させてやれぃ」
龍皇が上空から告げながら馬車をそっと降ろす。
さぁ、大変なのは村人か王達か。
まず、大変だったのは村人だ、一斉に集まり跪く。
魔物は興味深そうに眺めている。
そういえば、王都に行くとか言ってたよ。
そうだ、あれ王を連れてくるとかの話の流れだった。
え、王様を連れて来たの!?
龍って凄いなぁ。
王様って、王様って、礼儀とか分からないぞ!
俺もだよ。
わしもじゃ、村長がこんなに気が重いとは。誰か今から代わらんか?
このポーズで合ってる?お母さん?
たぶんね、皆に合わせておきなさい、そして話しかけられるまでは絶対に喋ってはだめよ!!
各家庭では子供が釘をさされている。
次に大変だったのは王と大臣達だ、リッチロードが降りて即叫ぶ、
「誰かあの水で薄めた龍の血の樽から人数分、コップで!跪かなくて良いから急いでください!早く!何かあれば責任は私が取ります!!」
龍の血は回復に使う、まさか王達が病気とかに!?
急いで準備に向かう何人か。
そうしていたら、馬車からずるりと何かが出てきた。
人だった、青白い顔をした人達だった、這う這う(ほうほう)の体で出てくる偉そうな人達。
降りて平気な顔をしているのは、一人毛色の違う強面の男だった。
そうして全員がコップを飲み、その回復力に驚き、感動した。
そして、リッチロードが皆に告げた。
「私がいなければどうなっていたか、分かったでしょう?」
「「「「「「「ありがとう、本当にありがとうございます!」」」」」」
感謝を思わず村人の前でする大臣と王。
威厳などそこにはない。
揺れなど地震か馬車かくらいの時代、前後に不定期に揺れるのだ。揺れる早さも毎回違う。
ワイバーンに直乗りの方が酔わないだろう。
それでもリッチロードが毎回皆に「龍皇に揺れていると告げた」、「村が見えてきた」、「もう少しだ」と励ましたので頑張れた。
いなかったら、全員吐瀉物まみれだ。
というか、座席に座っていられなかった。
「どうかグレン殿、回復薬を持ってきてくれた村人にもお礼を」
そうじゃのと言うと、咳払いをしてから自己紹介とお礼を告げる。
「わしはグレン・オーガスタ。名前から分かるようにこのオーガスタの国の国王じゃ。回復薬の提供、大儀であった。後ろの大臣達もおかげで助かった」
さて、と王は真剣な声で告げる
「皆の者、立つが良い」
言われるがまま立つ村人。
魔物も怖いが、王も怖い。大臣までいるとか勘弁してほしい。
なんでこの村ばかり。
両方ともお話の中だけで存在していてほしいものだ。
村人が立ったのをみると、笑顔を作る王
「いきなりのことですまんの、わしも王らしくするのは王宮内でくらいにしたい。お主等も王への謁見の仕方や言葉遣いなど知らないだろう。できる限り丁寧に接してくれればそれで良い。わしもその方が気楽じゃ。というか、集まらんでも良い。各々やることもあろう仕事に行くが良い、流石に村長にはいてもらいたいがの、あと愛し子の両親も」
安堵して「はい!」と返事して急ぎ離れる村人。
やっぱりわしは駄目か・・・。と遠い目をする村長。
やっぱり家の子関連か・・・。と遠い目をするアーノルド夫妻。
そして魔物達も飽きたのか、
仕事を手伝う者
昼寝をする者
空を見上げる者
女性陣の編み物を熱心に見る者
などに分かれた。
それを見て、本当に無事だったのかと安堵半分、不思議さ半分の王と大臣達。
「長よ」
村長を呼ぶ王様
「は、はい!なんでござりましょうか!!」
もう焦る村長
「竜の王にも流石に丁寧に接しておるだろう、そんな感じで良い。改めて確認するが村人は全員無事か?」
「は、はい、皆怪我する者もなく、仕事を手伝ってくれる長もおり、全員無事ですじゃ」
「そうだろうのう」
ドワーフ達は何軒目を立てているのか、
とうとう棟梁は自分でも木材のみの作り方を試し始め、ドワーフに怒鳴られていた。
「そうじゃねぇ!どこの柱に使うつもりで作ってんのか考えろ、強度は良いのか!それで!!」
「はい!ありがとうございます!!」
「そこの人間!ハンマーは叩きゃ良いってもんじゃねぇってんだろ!」
「応っ、息を合わせんだよな!」
「分かってんならやれや!!」
「オーガの長ぁ!真っ直ぐだ真っ直ぐ!」
「こうか?」
「それだぁ!!」
「確かに手伝ってくれてるのぅ、ドワーフは魔物じゃったかの?」
後ろの大臣に確かめる。
「いえ、亜人と呼んでいるので、人寄りかと??」
「うむ、その辺はエルフもドワーフも分からんらしい」
と代わりに答える龍皇。
「それでは、愛し子の父親よ」
「はいっ!」とアーノルド。イリスは帰らせた。
「噂の愛し子を見せてもらえんかのぅ」
「はいっ!」
緊張しっぱなしである。
直立不動で答える様はまるで兵士のようだ。
領主にもほとんど会わないのに、王様とかもうどうすれば良いのか分からない。
「ここに・・・いないので、我が家で授乳をしているのかと思います!」
「ふむ、それは流石に入れんな、待たせてもら・・・」
「お、王様!?」
とタイミング良くイリスともう一人が出てきた。
イリスに瓜二つだ。
「あぁ、イリス、王がトールを・・・」
財務大臣がイリスの方へ駆け出し、それより早く駆け出してきたフェンリルに服を噛まれて投げ飛ばされた。低空のため、加減はしていただろうが、牙を出しながら威嚇する。
「愛し子とその母に何をするつもりだったのか、疾く答えよ。」
「うぅ、違う違う。そっちじゃない、家の中の宝石に思わず駆け出してしまったんです。驚かせてすみませんでした。お母さんも狼殿も」
「嘘の匂いはしとらんな、一度目は許すが二度目はない。愛し子の同族を痛めつけるのは好みはしないが必要ならする、覚えておけ」
見れば周りの魔物の長達も殺気だっている。
さっきまで双子のようにイリスと呼ばれた女性と瓜二つだった女性は、いつの間にか狐になり牙をだしていた。その尾はイリスとトールを囲んでいる。
「人間の大臣とやらよ、王よ。うかつな真似はするでない。我等は魔物よ、忘れるでないぞ」
龍皇がそう告げて、周りの長に他の場所に行くように伝える。
王も大臣も殺気にあてられて汗が噴出していた。
ギルドマスターも流石に汗をかいている。
「財務大臣よ、気をつけよ」
「はっ!」
「それでそなたは何を見たのか?」
「宝石です、王宮にもない程の大きな宝石が幾つも!世界の至宝と言っても過言ではありません、あんなのをどこで!!」
イリスが尾に囲まれながら答える。
「龍皇様達がお土産に幾つも宝石を持ってきてくださって、その中でも一番良いのを愛し子の家にと。あんなのは持っているのも怖くて固辞したのですが・・・」
ほぼ尾で見えないイリス。
「家に入ってもよろしいか!!?」
「はい、もちろんです」
「ありがとうございます!!」
もはや立場がどちらが上か分からない、家から叫び声が上がる
「これも、これも、これも!素晴らしい!竜が宝石を好むというのは本当だったのか、それにしても素晴らしいぃぃぃいいいい!これは冠?ティアラ?ネックレス?何に使う?いや、隣国に売ればどれだけの利益に!それとも見物料を取って!」
イリスが防音の結界に入っていなければ確実にトールは泣き出していただろう。
「人間の王よ、あやつを連れ戻してくれんか、頭の中に花畑ができ始めておる」
「そうですな、騎士団長、引きずり出せ!」
やめろ、まだ見ていたいんだ、この素晴らしさが分からんのか
王命です、諦めください
やめろ~
暴れないでください
ぜーぜー言いながら連れて来られた大臣
「あれは愛し子のために我や他の竜が逸品を差し上げたのであって、お主等の物ではない。わきまえよ。何が見物料を取るだ、夢を見るのは夜だけにせぃ」
呆れたしなめる龍皇。
「言いたいことは言われてしまったの、財務大臣よ、心せよ。あくまでも我等は魔物達の中にいるのだ」
「はい・・・」
しゅんとする大臣。
「そんなに凄いのであれば後で買取の交渉をすれば良かろう、奥方も困っていたようだしの。それならば竜王も良かろう?」
「まぁ、差し上げたからにはその後の処分する権利は彼等にある、騙し取るようなことがなければ他の龍も文句は言うまい」
「本当ですか!??」
「お主の頭が冷えておったらの。さて、愛し子を見させていただくか」
王達は結界に入る。
狐が警戒をしているが、この距離なら何があっても守れる自信があるのか、何も言わない。
「おぅおぅ、赤子は可愛いのぅ」
まったくですな
家の子もこんなときがありましたのぅ、今はろくでなしじゃが
家のこもこんなかわいいときがありましたよ、今はお父さん近寄らないでと吐き捨てますが
そちらはまだ子供は?
授かっておりませんで、それより王が問題です。
跡継ぎを早く産んでいただかないと。
段々、幸せな回顧から政治的な話になってきた。
「こんな可愛い赤子が魔物達を統べるとはのぅ」
結界から出てきて、王はアーノルドに言う。
「お主、貴族にならんか」
「はいっ!?」
「伯爵は厳しいが、子爵とかどうじゃ?」
「ど、どうじゃ、と言われても」
「名誉じゃぞ、領土も与えよう、裕福な土地のな」
「な、何故急にそんなことを・・・?」
「ふむ、大方、愛し子を繋ぎとめておきたいのだろう。それらがどれほどのものかは分からんが、甘い言葉をこの場面で言うのはそういう類であろう。ならば答えるのは待ってほしいものだの」
と龍皇
「そうですね、愛し子が国を好きで国のためにと決意するならばともかく、まだ自我もないような状態で未来を縛るのは如何かと」
リッチロードも参戦する
「ふむ、これは人間側の話ですがの」
「いや、これ以上は止めたほうが良いでしょう。アーノルド殿は自分の赤子のために龍に剣を向けられるほどに勇敢ですが、自分のことになると、ほら」
直立不動で白目になっている。
「謙虚なのですよ」
「このリアクションを謙虚というのかはともかく、これでは何回やっても続けられそうにないの」
苦笑いする王様。
とりゃっ!と頭をはたく
「はっ!王様!!?何が!??」
「良い良い、わしが急ぎすぎた。子爵の件は考えておいてくれ。ただし、これは王命である。10歳になったならば、王都の学校に来させよ」
「人間の王よ、しつこ・・・」
「これは愛し子のためでもある。愛し子は強大な力を持っておる。力には責任が付いてまわり、責任は知識と知恵がなければ果たせないこともある。何、村の常識をそれまで学び、王都と世界の常識をそこで学ぶのじゃ。本当は貴族の子が大金を払い入学するところでな、村から入れる者などよっぽど勉学に優れておるものだけじゃ。ある意味、わしからの贈り物でもある。アーノルドよ、良いな」
「は、はいっ!ありがとうございます!!」
「リッチロードよ、今の言葉は本当か?」
「本当ですよ、多少愛国心を持たせようとか、そこで将来の番を見つけさせて、やはり国に繋ぎ止めようなど思惑があるでしょうが。人間の王よ、そのレベルならば文句は言いません」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
「ただ、私達も入学するので席を余分に用意しておいてください」
ぶほっと吐き出し、咳き込む王。
「なんじゃと!?」
「私達も入学するので席を余分に用意しておいてください」
「なにがどうなって、そんな結論がでたのですかな?」
混乱する王
「何故って人間の世界のためですよ、私達だって常識を学んでおいた方が良いでしょう。龍皇だって最近ようやく「買う」「売る」という意味を知ったレベルですよ?常に傍にいるであろう私達が主と同じくらいの常識を学んでおいたほうが、なにかあった際の被害は少ないですよ?
ちなみに龍皇よ、愛し子が育って、王都に行ってから、王宮を見たとします。なにか大きくて嫌だから王宮を壊せって言ったらどうします?」
「うむ?壊すぞ?」
「でしょう?ここで常識があれば、壊しても良いがその後は他の人間を導くのは誰になる?とか中の人間はどうする?とか、国賊になるがそれでも良いのかと、質問が出てやっぱり止めようとかになるかもしれません。常識は一人だけでなく、周りも知らないと見逃しがでますよ?」
「もう脅しじゃよ、それ。分かりましたわぃ、教室に入れる者ならば数名分用意しよう。テイマーが自分の従魔と一緒にいるのもおかしくないでの。入学金は納めてくださるな?」
「えぇ」
にっこり骸骨
お前の好き勝手に愛し子の人生を決められると思うなよ、と滲み出ている。
検索する時には『もっふもふ』!
うなぎうなぎでした。
『もふもふ』だとなかなか出てこないんですよね。
やっぱり動きがついた『もっふもふ』が良いですね、狸が尾を振る感じというか、猫のお腹に顔を埋めるというか




