32話 生まれながらにして世界を震撼(王は踊る8)「決断と優しさ」
「それで、後はわしを第4の村に連れて行くとか」
王様の方から、もう一つの本題を切り出した。
「おぉ、そうだそうだ。そのつもりで来たのじゃ。どうじゃ、どうせ調べ物など魔物のことか、愛し子のこと位だろう?それも今の話で大体分かったろう、何事も直接が一番よ。第4の村へ来んか?」
「しかし、騎士団長が竜王殿がわしを連れて行くのを止めたとも聞いておりますぞ、ただ止められなかったとも。どうしてわしを?理由を聞く時間もなかったので」
「うむ、我等はそろそろ村を出るがそれを見届けるまでは、そやつと部下が帰れんという、王命でな。我等に敵意などないのに、あんな不味そうな飯で待機じゃぞ?本人達は満足しているようだが、はっきり言って哀れよ。そして、あの人数が村に留まれば村の水は減るじゃろう、井戸水なんかは特にな。水も貴重だろう、お主達には。村長がそう言うで、第4の村では我等は水を使うときは魔法でどうにかしておったわ、だが、できんじゃろう?やつらは」
「ふむ」
考える王様
「しかも、王も詳しい報告があるまでは不安だろうとも言う。ならば現地で自分の目で解散を確かめればすぐにでも解散を告げられて、待機している奴等も少しでもマシな生活に戻してやれようぞ。」
「確かにわしも詳しい報告があるまでは不安じゃったが、ある程度で済んでおりました、狼煙がありましたからな」
「おぉ、あの煙か。そうかアレならばここからでも確認できるか」
「えぇ、待機している者達が中継もしてくれますから、確実に確認できますな。そして、解散というか帰還については現地で騎士団長判断でできますぞ、その位の権限は与えましたからのぅ」
「む?そうだったのか」
「そうだったのですじゃ、しかし魔物の皆様の人間への対し方やエイプなどの異変の原因や、変異種に見まごう普段目にする魔物と違う大きさの魔物が何か、噂で聞く愛し子とはどういう存在なのかは、直接聞けて助かったのも事実ですじゃ。これは騎士団長だけでは聞き漏らすこともあるかもしれんから、他の大臣がいるこの場で聞けたのは僥倖ですな」
ほっほっと笑う王様。
「確かに直接というのは大事ですな」
な、王よ、まさか!
とざわめき出す大臣達。
「連れて行っていただけますかな?」
「ほぅ?良いのか?今の話だと、調べ物はもう片付いたので、後は我等が解散を急いでやれば、人間の王がいなくても、そ奴等も早く帰れるということだが。」
「なに、久しく村を直接見るという機会もありませんでしたからな。丁度良い機会というもの、また実際に長達の大きさを知ることで魔物というものについて考える必要がでてくるかもしれませんしの。愛し子とやらにも実際に訪ねてみたいの、赤子など久しく見ておらん。息抜きも大切じゃ。」
笑う王様
ここにフェンリルや妖狐など鼻の利く者がいれば、嘘くささも感じたろう。
だが、ドラゴンに人間の機微など分からない。
リッチロードも「直接王が」村を見る機会が少ないことを知っていたので、そこに気づけない。
「ただ、この場の全員ともう一人を連れて行きたいのですが、連れて行っていただけますかな?」
王は近くの侍従を呼び寄せると、一人の名を告げ王命で連れて来いと告げた。
「うぅむ、王だけなら我の背中で良いと思ったが、この場の全員か。行けるかの、リッチロードよ?」
「できなくはありませんが、大分怖い思いをすると思いますよ。この人数だと私の魔法で落ちないように守るとなると大分みっちりと詰めてもらいますし、そうすると皆立っていてもらいます。すると、掴むところがないので、私が魔法で固定するのみです」
おっさん達がみっちり詰まる。
想像したのは皆同じことだろう、人間とリッチロードは嫌な顔をする。
龍皇は分からない、種族の差だろう。
「ですので、大きい馬車に分かれて乗ってもらい、それを龍皇が掴んでいくのが一番ですかね」
「おぉ、それでお願いしたい!馬車の手配をしよう」
仮に一人連れて行かれる時は背中だったのか、どこか掴めるところがあるのか。
まさか、まさか!リッチロードの魔法とやらのみを頼りにしろと!?
今更ながら王は冷や汗がでてきていた。
その点馬車ならば乗っているだけで良い。
帰りも最悪、騎士団とともにすれば馬も警護も関係ない。
そして連れてこられた一人の強面の男。
鍛え上げられた肉体に、立派な武具。
そして走ってきただろうに汗をかいていない様子。
相当人間としては練り上げられていると、龍皇達は見た。
「こやつはこの町の冒険者のギルドマスターですじゃ、魔物の長を見てもらって勉強してもらおうと思ってな、長を見れるなど貴重な機会ですからの」
笑いながら紹介する王様
ここでも嗅覚に鋭い魔物なら嘘のような匂いを感じるだろう。
本当の狙いは長の危険度や弱点を測るために一番適しているからである。
仮に次回に同様に魔物が集まった時の対処も考えなければならないのだ。
危険度や弱点が分かればどうにかなるかもしれない。
王が大臣達を連れて現場に向かうのも、告げたことは全てが嘘ではない。
が、嘘も紛れている。
息抜き?違う、魔物が人間に好意的で、本当に酒を飲み交わすほどであるならば、
何かの利用価値があるかもしれないからだ。
大臣達を連れて行くのも見落としがないように。
また、軍務大臣はギルドマスターと同じように直接見て、同じ様に魔物が集まった時にどうすれば良いのかを考えてもらうためだ。
そして馬車が用意された。
「はい、皆さん乗ってくださいね、乗りました?では防寒と守り、固定の魔法をかけますね」
魔法大臣は顎が外れるかと思った。
魔法の起動から実行までの早さや組み立ての緻密さ、そして効果の強さ。それが分かるからだ。
彼の骸骨の魔法の凄さを唯一感じ取れるのは彼くらいなものだろう。
ギルドマスターも凄いと感じるが、そこまでは読み取れない。
「はい、これで上空に行っても寒くないですし、龍皇が思わず握りつぶすこともありません」
ぎょっとする幾人かの大臣達。確かにその危険性はあった。
幾人かは気づいていたが、ここまで来たら竜の王を信じきると決めていた。
自国の王が信じると決めたのだ、腹を括るしかあるまい。
ただ、人間は全員が同じことを思っていた。
帰ってきたときには確実に仕事が机に積まれているのだろうな、と。
「じゃあ、こっちの方に私も乗らせていただきますね、揺れると思うのでその辺を感じて龍皇に伝える役もいるでしょうから」
「?揺れくらいなら別に気にしなくても良いのでは?」
「まぁまぁ、たぶん皆さんの幾人かは着いた時には私に感謝していますよ、たぶんですがね。」
検索する時には『もっふもふ』!
うなぎうなぎでした。




