31話 生まれながらにして世界を震撼(王は踊る7)「焦燥と困惑」
龍皇が王都で威厳の代わりに親しみやすさを感じさせる、その少し前。
騎士団長が謁見の間に飛び込んできた!
止めようとした門番が殴り飛ばされ、門番で扉が開く。
「王よ!」
「おぉ、騎士団長よ!よくぞ無事で帰ってきた!・・・と言いたいところじゃが、先の拡声魔法は一体?そして血相をそんなに変えおって、お主が無事で帰っ・・・」
「真に恐れ多きことながら、お言葉の途中で申し訳ございませんが、大至急の報告になります!」
普通に大罪ものの無礼であるが、そんなことは気にもしていないほどだ。
門番を殴り倒して入ってきたところから、ほぼ正気でないのが分かる
「お、おぉ」
王も驚いているというか、引いている。
「報告いたします!
1!第4の村は全員が無事でした、魔物と人間が一緒に酒を飲むほど平和です!
2!先の魔法での告知のように間もなく竜の王が、王よ、あなたに!会いに!飛んできます!!」
「・・・はぁ・・・・はぁ?」
頭の回転が追いつかない王。
魔物と人間が酒?
そして竜が?
「再度報告いたします、第4の村は全員無事!竜の王が、王よ、あなたに会いに間もなく飛んできます!」
「竜の王が、わしに?なんじゃって?」
「会いに来ます!!」
もう謁見とか、会合とか、ではなく「会いに来る」の時点で騎士団長の焦りがお察しである。
「・・・何故?」
「魔物が帰るのを見届けるのは本人の方が不安がないだとか、我等が騎士団が村の水を消費するのが無駄だとか、とにかくもうすぐ来ます!準備を!!」
「準備とな、どんな?」
もう訳が分かってない王、とりあえず竜の王様が来るのと村人の無事が分かったくらいだ。
騎士団長にとりあえず従っているのが現状である。
「心の!」
「お、おぉ」
分かりやすいが、分かりにくい。
「たぶん第4の村まで連れて行かれます」
「おぅ?おぉ、そうか。よく分からんが、とりあえず、皆が無事であり、竜の王とやらも特にわしを傷つけるつもりはないということで良いのかな?」
一応、最も重要なことは聞ける程度に頭が回転しだした。
「はい!」
「そうかそうか」
ようやく笑う余裕がでてきた王。
「あぁ、あの声はもう来てしまった!!」
『我は龍族を束ねる長なり。龍皇とも、調停者とも呼ばれている。今回はこの王都の王に挨拶に来た。害意はない。人間の王よ話はいっておるな、王宮の広場にて人間の王と龍の皇との初の会合といこうではないか』
笑う龍皇の声がする。
「おうおう、真竜か、そうじゃな竜の長じゃし、そうじゃろうな。さて」
立ち上がる王様、慌てる騎士団長。
「どこへ!?」
ぽかりと頭をはたく王様
「お主が知らせに来たのはこのことだろうが、会合にじゃよ」
「危のうございます!」
またぽかりとはたく王様
「さっきは危なくないと言っておったろうにどっちじゃお主は、いい加減落ち着け」
『あと民達よ、龍が珍しいのは分かるが見上げたまま歩くと転ぶでな、特に子供に気をかけてやれ』
互いに顔を見合わせる。
「危なくはなさそうじゃな」
「害意は絶対にありません、ただ巨体故に何かあれば、万が一、いや万万が一を思えば、あぁ何故私は止められなかったのかと!」
両目から涙を流す騎士団長。
「よいよい、その程度の危険は危険と言わん。魚にあたって死ぬよりも少ないわ。ただ、他の大臣はこのことを知らんからの。わしもよく分かっておらんし、全員を広場に集めよ、幸い会議室でみな作業をしておる。軍務大臣は仮眠室じゃ、起こして連れて来い。王命だ!行け!!」
「はっ!」
慌てて敬礼して走り出す騎士団長。王命といわれればそれのみに集中できる。
彼にとってはこの世の何よりも絶対だからだ。
「魔物に異変があり、魔物と村人が酒を飲み、竜の王が人間の王に会う?世界に異変が起こっておるようじゃ、まったく」
一応は身支度を整えばなるまい、彼も騎士団が心配で、その戦後(?)の処理のための会議を行ったりとしていたのだ。不精ひげなど他の王に会うのに失礼だからだ。
「心の準備より、身支度じゃろうよ、相手も王なのだから」
いない騎士団長にぼやくと、侍従に最低限見れるようにしろと命令を下すと、自分も侍従がやりやすいようについていった。待たせるのも怖い。
「ふむ、ここなら我が座っても構わなそうじゃの」
と、ズシンっとお尻から座る龍皇。すべり台から落ちるようになったリッチロード。
最後の尻尾のところで急カーブを描くため、くるんっと着地する。
「おっと」
それでも豪奢な衣装は着崩れない。もはや彼の身体の一種なのだろうか。
「前の村の着地の時も思いましたが、あなたは親切心ゆえか最後に一言多いのです。なんです、荷車をどかせだの、子供が怪我しないか気にかけろとか」
「大事なことではないか、人間の物を壊しても我は直せんし、あの村では大事な物かも分からん。子供は皆宝じゃろう」
「そうですが、そういうことではありません。言い方があるでしょう。「我はこのまま座るが壊れても構わんだろうな?でなければさっさとどかせぃ」とか、威厳がなくなるんですよ、最後の一言で。村の時は他の龍も呆れていましたよ、細かいと。」
「ぬぅぅ、面倒な」
「王とはそういう面倒を引き受ける者を言うのですよ」
「すばらしい見識じゃな、骸骨殿。さぞや名のある魔物であろうな、だが竜の王の一言で皆が親しみやすくなったのも事実じゃ、素の言葉は性格を表すからの」
とそろそろ老齢にさしかかる男が騎士団長と出てきた。
後ろには疲れている男達も直立して半ば呆然としている。
騎士団長が
「竜の王よ、お待たせいたしました。この方こそ、グレン・オーガスタ王、この国の王です」
「お初にお目にかかる竜の王よ、グレン・オーガスタと申す。後ろの者達はこの国の大臣達じゃ」
「王よ、そしてこちらの方がリッチロード、不死者達の王であります」
「おぉ!それであのような見識をお持ちか!リッチロード殿もお初にお目にかかる」
「そう褒められるとくすぐったいですね、こちらこそお目にかかれて光栄です」
「しかし、魔物・・・と呼んで失礼はないでしょうかな?」
「ありませんよ、私たちは魔物という区別に慣れております。しかし、なんですね、話しにくそうですね
」
「他国の王との会合はありますが、魔物の王となると初めてですので。どうしたら失礼にならないか分からないのですじゃ」
「私達もいきなり飛び込んでくるような無作法者。礼儀知らずならこちらが上でしょう。で、あれば、お互いもっと話しやすく話しましょう。どうせ魔物と人間、常識が違うのです。礼儀も違うでしょう、ですから多少の礼儀知らずな言動にはお互い目を瞑るということで。龍皇殿も相変わらずグレン様と目線を合わせるべきか迷っておりますし」
「ぬぅぅ、どうして分かるのだ、お主は?」
「あなたが身体を曲げたり、やっぱり止めたり分かりやすいのですよ。ほら、このように目線を合わせるかどうかでもうこの違いです。私も人間の王様に対する独特な言葉遣いなど知りませんしね」
「そうですか、いや、そうですな。お互い話しやすいように話しましょうぞ。お気遣いに感謝いたしますぞ、リッチロード殿。それにそちらも王であるならばわしに様はいりませんぞ、殿で充分ですじゃ」
「こちらこそ、礼儀に無知なままで突然現れるという無礼に目を瞑ってくださってありがとうございます」
「で、騎士団長の時と同じ感じで話して良いのかの?」
と置いてけぼりにされていた龍皇から早く本題に入りたいというアピールが出た。
「えぇ、言葉遣いも座り方も同じで構わないと言ってくださっていますからね。ただ、人間の王様を座らせて差し上げる位には待つのは流石に礼儀でしょう。あなたは座っているのだから」
王と騎士団長、そして各大臣達が侍従達が持って来た椅子に座る。
「それで、実はこの会合が何故開かれておるのか、わしは知りませんでな。まずはそこから説明していただきたい」
「騎士団長からは・・・詳しく聞く時間はありませんでした、ね。あの位の時間では」
「うむ、村人は無事だが、竜の王がわしに会いに来る、会いに来る!と慌てるばかりでな。まぁ、国中がパニックにならないように先触れを国中に流したのが褒められる点かの」
「その国中に流すのも、台詞もこちらのリッチロード様からの案です。申し訳ありません。」
「なんじゃ、褒める点がなくなってしもうた。リッチロード殿にはこの会合の仕切りといい、先触れの案といい借りができるばかりですな」
笑う王様
「いえ、これも愛し子のためです。それに確かに我等が来ることはグレン殿に伝えるべきだったのかもしれませんね。一応、村の一人の赤子のためですから、村長で充分かと。領主も行き過ぎかなと」
「これが人間ならその判断で良いのですが、何せ魔物、しかも皆が皆見たことのないような大きさ、そちらでは当たり前の感覚かもしれませんが、わし達からすれば恐怖でしたな。それで改めて、何故あの村の子一人のためにあんなにも集まったのです?なんでも愛し子だとか」
「うむ、あの赤子は我等魔物からすれば無条件に従いたくなるような、好意的になる、そういう性質を持っておってな。お主等からすればそういうジョブに生まれながらについておるのよ。テイマーの最上級職として「魔を統べる者」と。皆が愛しく思う、だから愛し子よ。魔物ならば産まれた瞬間に、守りたい、慈しんでやりたいと産まれたことを知り、そのことに感謝し、そう思ったことじゃろう」
「なんとテイマー!しかも最上級職とな?ジョブには上級などがあるのですかな?」
「何を言う、お主も王子から王にジョブが変化したであろう。上級職に進化したのよ。各ジョブの進化条件などは知らんが、ジョブは進化するものよ。昔こういった者がおってな」
酒の席で話した弓使いの話をすると、感嘆の声があがる
「いやはや、わし等人間のことなのに、無知で恥ずかしいですな。それで魔物の方々が会いに」
「そうじゃ、苦労したのじゃぞ。エイプだ、バジリスクだは群れで会いに来ようとする。村に収まりきらんから各方面に来るならば族長のみと触れを出してな、数を削ったのよ。皆が会いたがるのも分かるが、困ったものよ」
王達は慄然とした、あの数に百を掛けた数はいたのかもしれないのだ。
この竜がいなければ。
「そ・・・れは、感謝せねばなりますまい。その数で押し寄せて来ておったら、流石に大混乱におちいっていたでしょうからな。今より酷い、魔物で村々が埋まってしまいますからな」
「うむ、それでも族長のみであの数だからの。怖がらせてしまったようで、申し訳なかったの」
「族長だから大きかったのですか?」
軍務大臣から質問が出る。
「そうじゃな、基本は魔物の生活の全ては弱肉強食よ。長も最も強い者が長生きをし、群れを動かす経験を得る。故に大きい方が強いことが多いからの、長を集めるとあんなになるのだ」
なるほど~、と人間達は頷く。
その後、「祝福と加護」をかけるのが魔物が来た主目的であるという話になり、そこでも質疑があった。
曰く、
大人にはかけられないのか
どれ位かわるのか
普通の魔物はできないのか
など。
大人にかけても成長率が低いから意味が薄い。
幼い頃からかけておけば、力の付きやすさも大きく変わる。大人になった時には弱い「祝福と加護」を受けた村の子達ですら、他の経験を積んだ大人を身体能力で圧倒できるかできないかくらい。
できない、長がするものである。
など返答がくる。
そして一息つくと、グレン王は
「それで、後はわしを第4の村に連れて行くとか」
もう一つの本題を切り出した。
ブックマークが100件超えました!
読者の皆様ありがとうございます!!
また、評価点をつけてくださった方々もありがとうございます!
これからも皆様どんどん評価をつけてください、高い点数だと喜びます!低い点数だと勉強になります(でもやっぱり高い点数が嬉しいな、ちらっ)
自分の思い描いた世界で、キャラが勝手に動いていくのを描いていく。これがこんなに楽しいとは。
昔は作文とか文を書くのが嫌いだったのに、人は変わりますねぇ(しみじみ)




