30話 生まれながらにして世界を震撼(王は踊る6)「配慮と講義」
「では王を連れてくれば良いではないか」
そこからが騎士団長の苦労の始まりであった。
王は軽々しく動けないこと、何かあった際の跡継ぎがまだ決まっていないこと、これが自分達の任務なので気にしないで欲しいこと、等々思いつく限りの言葉で止めようとした。
が、
「あの人数が待機しておればその村の水もその分減ろう、また、危険もないのに待機を続けさせるのも哀れだ、ちょっと王が来て、見て、確認すればその方が早かろうよ。どうせ調べ物も我等のことだろう、直接聞かせてやるわ、そっちの方が分かるじゃろう。何、我がおるし、リッチロードも連れていく。王宮なぞより安全を保証してやる」
とまるで聞いてくれる様子がない。
さぁ、王をここへ連れてくるなどとんでもない。何があるか分からない。いつ魔物の変異種が転んで王を潰すかも分からないのだ。自分だって正直怖いここに王を連れてくる?ないないない。そんなことできはしない。
しかし、理知的とは言え、魔物が人間の常識を全て分かってくれるわけでもなし。
彼(?)が言うことにも一理はあるのだ。しかも、人間側を思いやる方向で。
騎士団長が今日何回目か分からないほど頭をフル回転させたところで、
龍皇が
「ではちょっと行って来るでな、あっちの方向のゴチャゴチャした多少他より大きい町の大きい建物にいるのだろう。あそこならば我が座るくらいのスペースがあったのぅ」
と飛び出そうとしている。
思わず、リッチロードを見る騎士団長!
もうここまで来たら無理と首を振るリッチロード
もう飛び立つ!
その瞬間!!
「竜の王様、お待ちください!あなたがいきなり行けば王都の人々が恐れ、混乱し、大変なことになります」
飛ぶのを止めた龍皇、間一髪である。
「では、どうすれば良い。ここに来たときは害意がないから怯えるなと言って、降り立ったが」
村人一同は思い出し、そう言われても怯えたわ!とちょっと不満顔。
それらの顔を見て、
「怯えていたのか?」
それはそうよ
あれはない
もう少し考えてほしかった
結果よければ全て良いけど、あれはない
王都の人も絶対無理
と、口々に言われ反省する龍皇。
「そ、そうか。すまなかったな。あれだけ念を押せば大丈夫かと・・・」
流石にそれ以上は言えない様子。
「で、あればどうする?」
「近くに飛竜部隊の者がいるので先触れを出します。」
リッチロードが名案を思いついた様子で
「ならば、拡声の魔法でこう言いましょう。これから龍が来るが、龍を束ねる龍の王様が人間の王様に挨拶がてら寄りに来るものである。心配するな、むしろ貴重な機会だから空を見上げとけ、と。目的が人間の王への挨拶と明確であれば、本人はともかく民は怖がらないでしょう。また、同族が貴重な機会だから見上げると良いとまで言えば、恐怖心はさらに薄れて逆にお祭り騒ぎになるでしょう。暗くなるよりマシです」
「それです、流石は不死者の王!名案です」
「ふむ、そういうものか。では飛竜を呼ぼう」
龍皇が空を見上げると飛竜が人間を乗せて降りてきた。
「ワイバーンには話は伝えた、人間にはお主から伝えよ。」
騎士団長が早口で部隊員に告げる。
魔術士を拾ってこう王都の全域に聞こえるようにこう言え、というか俺も乗せていけと、王に伝えないといけないからと。
飛竜部隊の一員が分かったかは良く分からないが、とりあえず魔術師を拾って騎士団長ともう一名、更に操縦士を連れて、ワイバーンは飛び立った。
若干重い。
搭乗者達は狭くて落ちそうで怖いと思っていたが。
「それで我はどれ位で飛び立てばよいのだ?」
「あなたの速さなら、王都の方から声が聞こえてからで良いのでは?騎士団長も王様に龍皇が来ると伝える時間が欲しいでしょうし」
「面倒よな」
「まぁ、人間なんてそんなものです。変わらないですよ、私の時と」
「無意味に複雑化しているように思えるがのぅ」
「魔物と同じです、優れた指導者にはずっといてもらいたいというね。ただ、人間は脆いので指導者をなるべく前に出したくないだけです。また、長の言うことには基本逆らわない魔物と違って、人間は長に奇襲をかける者がいますからね。長はお金を持っていて好きな物を手に入れられるのが通例ですから。長になりたい者が奇襲をかけさせたりしたりとね。そんなことがあるからますます警戒心が強くなるのです、長もその長を支持している周りも」
「そういうものか」
「後は、複雑化させることで覚えられる人間と覚えられない人間が出てきます。覚えられる人間は記憶力が良いので仕事を任せられるとか、複雑化することで仕事が生まれお金を与えたりとするのです」
「複雑化させて仕事を生む?それこそ無駄ではないか」
「仕事をすることでお金を得て、お金と代わりに日々の食料を得るのが人間です。皆が狩りをするわけではないのです。そうすると逆に仕事がないとお金が手に入りませんから飢えることになります。「売る」「買う」などの単語は教えましたよね?」
リッチロードが地面に絵を描きながら説明する。
「仕事がなくお金を皆が持ってないと、牛を売るのが仕事の人などの所へは誰も買いに来ないでしょう。牛売りはお金が手に入らなくなります。その人がいつもお酒を買っていたら、牛売りが買わないのでお酒を売る人もお金が手に入らなくなります。お金がないから皆ご飯を買えません。
逆も然りです。仕事があり皆がお金を持っていれば、牛を買ってくれます。牛売りは売ったことでお金をたくさん持ってるので、お酒をたくさん買えます、お酒を売っている者はそこで得たたくさんのお金で何かを買います。そして皆お金を得られるのでご飯も買えるのですよ。」
「つまり、仕事を生むのも人間の王の仕事の一つということですね。まぁ今のはあくまで極端な例ですが」
「分かるような、分からんような」
唸る龍皇
「しばらく人間世界で暮らせば分かるでしょう。さぁ、声が聞こえました。我等も行きましょう。」
「応!」
そうして、声が聞こえてしばらくすると、王都の人々は巨大な龍が飛んでくるのが見えた。
以前王都の上を飛んでいた龍だろうか。
なんと神秘的で美しいのだろうか。
そして圧倒的な存在感。
これはワイバーンのような竜とは明確に違う生き物だと皆が見上げる。
そうして龍皇は王都の上でリッチロードの魔法の助けを借りて民と王に告げた。
「我は龍族を束ねる長なり。龍皇とも、調停者とも呼ばれている。今回はこの王都の王に挨拶に来た。害意はない。人間の王よ話はいっておるな、王宮の広場にて人間の王と龍の皇との初の会合といこうではないか」
笑う龍皇
「あと民達よ、龍が珍しいのは分かるが見上げたまま歩くと転ぶでな、特に子供に気をかけてやれ」
最後がどうも締まらない龍皇である




