27話 生まれながらにして世界を震撼(王は踊る3)「二日酔いと邂逅」
騎士団は第二の村への途中で、馬と自分のコンディションを調べるべく早足からの全力疾走を試していた。何も防具がない状態では、どの位のスピードで、どの位スピードが持続するのかを調べるためだ。
もう昼近くになる。急がなくては、魔物が王都に向かい出しては作戦が変わる。
どうせ、第二の村では大半の騎士団が魔物から見えないよう地面が大きく隆起した場所で待機になる、そうすれば馬も休める。
急げ、急げ。馬が怪我しないようにだけ気をつけながら全力で走る。
騎士団長は気ばかりが急いていた。
騎士団長にとっての幸いは部下のモチベーションを気にしないですむことだろう。
彼等の多くは本当に死にに行くようなこの作戦に最高潮のやる気を見せていた。
昔読んでもらった英雄譚のように、龍を倒すのではなく、ただの囮なのに。
囮がどうした、強敵に挑めないことがどうした、英雄譚にもなかった世界を救うという大義。
王都の家族を、知らない家族を、行ったこともない村も、戦争したことがある国の国民をも救う。
そんなのは英雄譚にもなかった偉業である。
きっと後世には我等が英雄として祭られる。
未練があるのは本当だが、後悔などしていない。今この場にいることに感謝すら覚える。
自分が皆を守るのだ。
騎士団長のカリスマもあるだろう。しかし、騎士としての本懐を遂げることへの感動も確かだ。
彼等もまた、騎士団長の焦りを汲み取り急いでいた。
お昼近くになったが、村の皆はあまり食べる様子がない。
それほど昨夜は飲み食いしたのだ。
また、二日酔いの者が意外と多く、準備しても食べない者が多かったのも理由だろう。
人間で食べるものは家に帰って食べ、
魔物で食べるものは普段通り生で肉を食べていた。草食の者は果実である。
ユニコーンは泣きながら果実を食べていた。
余談だが、
ユニコーンの長が昨晩の宴で酒の勢いからドライアドの長に求婚をした。
ゴブリンが人間に子供を産ませるように、獣人が生まれるように、この世界では別種の種族が番うこともある。
だが、ドライアドから
「私面食いなので、馬面の方はちょっと・・・。あと強い方でないと・・・お気持ちは嬉しいけどごめんなさいね」
とバッサリと断られていた。
そこから人間のまだ未婚の男達がチャレンジしたが、
「ごめんなさい、好みの顔の方がいらっしゃいませんし、強くもないので。魔物の私なんかではなく同種の方で良い方を見つけてくださいね」
とあしらわれていた。
ある意味、一番の盛り上がりであった。
他人の不幸はなんとやらか。
閑話休題
二日酔いの者達は苦しんでいた。
特に魔物の長の苦しみ方が酷い。
酒など普段飲まない種族が多いうえに、その場の空気で飲みまくったからだ。
初の酒、初の二日酔い。しかも、魔物だから飲める量も多かった。
龍皇の「自重する」という意味もある意味分かっていなかった。
酔っていたのに暴れなかったのは運が良かっただけかもしれない。
初のお酒には付き物であろうか。
幾人かは事情を知り、俺も昔は・・・と同情していた。
人間の民間療法を教える者もいる。
そんな中苦しみから、倒れ付していた魔物が言う。
「地面が揺れる、やめろ、誰だ無遠慮に歩く巨大な馬鹿は?」
馬鹿はお前だと、幾人(?)もの長が言うが、長達は皆その場を動いていない。
二日酔いのものはその場で倒れこんでいるし、
昼を食べているものはそのまま食べている、
暇な者はぼーっと愛し子の方を見ていたり、空を見ている。
長達も眷属がいなくて肩肘を張らないですむ時間は貴重なのだろうか。
他の二日酔いの魔物も、
「地震か?勘弁してくれ、神よ、今日だけは」
とその場で吐くのを我慢しながら言う。
食べた者を吐くのはその命に対しての最悪の冒涜だからだ。
全身に汗を流し我慢する。
人間なら思わず吐いてしまうところを我慢できるのは流石に長か。
ここで事情が一変する
トールが泣きだした。
オシメでも、母乳でもない。抱っこしてあやしてみると笑うが、ベッドに戻すと泣く。
そんなことを繰り返す。
ここで愛し子の異変から、二日酔いの魔物の言うことに信頼性が帯びてきた。
二日酔いの魔物より、赤ん坊だ。
全身を地面につけている、スライムや、トカゲ種の長(一説にはリザードマン種の祖先でもあるという、コモドオオトカゲを大きくしただけに見える)が、確かに揺れていることを告げる。
それも地震ではなく、何か大群が動くようなバラバラとした振動で、たまに一つになった時に最も揺れるという。
二日酔いの魔物が苦しむのは自業自得だが、愛し子が泣くのは大事である。
そこに、ケンタウロス族とユニコーン族(目が赤い)の長が龍皇の元へくる。
ユニコーン族の長が、
「この振動は我等四足歩行の者が出すようなときに近い」
ケンタウロス族の長が、
「方角は向こうからだ、結構な数で来ているようだ、我の集落が幾つあれば数が届くか分からん」
龍皇とリッチロードが目を合わせる。
その方角は、曰く「ごちゃごちゃしている」と評された王都からだ。
王都から四足歩行で大群など、確かに馬位しか思いつかない。
リッチロードが
「たぶん馬でしょう、大群だと騎馬の群れでしょうね。馬だとするとそんなに長くは走れはしないでしょう、あなた方と違って。ただし、これを繰り返されるのは困りますね、ちょっとお二方で馬の全力疾走は止めるように言ってきてくれませんか?私達も行くので、龍も来るから怯えないようにと。龍皇についてはあなた方が言う方が、馬も落ち着くでしょう」
二族の長は分かったと告げて神速が如く走り去って行った。
リッチロードが
「せっかく「祝福と加護」を全員かけ終えるというのに、何か事件でもありましたかね。龍皇よ、二日酔いの魔物の長に血を飲ませてやってください。もしかしたら後で役にたつかもしれません」
龍皇は頷くと血を原液でやりながら
(魔物の長なら原液でも耐えられる、人間は死ぬか死ぬほどハイになって死ぬ)
「我等もすぐに行かんで良いのか?」
「多少、心の余裕を持たせる時間が必要です、人間からすると龍は怖いのですよ?ここの人達がまさしく度量広く受け入れてくれただけで」
恐怖と絶望が最初にあったが、確かに受け入れるのは早かったほうだろう。諦め成分は多かったろうが。
「そういうものか」
「そういうものです、さぁ二日酔いから覚めた魔物達よ仕事です。まだ「祝福と加護」を与えていない者は与えなさい、与えた者はまだ眠りこけている龍達を起こしなさい、家とか人に危害を加えないように寝相が怖いので龍皇が湖に投げ飛ばしますが、たぶん彼等の何匹かはその程度では起きませんので」
凄い嫌そうな顔をする魔物達だが、地獄の苦しみから救われたのだからと受け入れる。
まずは村から湖に行くとしよう。
湖に落ちて、なお、溺死しないで寝ていられるとか環境適応力が半端ないなと呆れもする。
さぁ、湖から引き上げてから起こすとしよう。寝相で殴られたらどうしてくれよう。
まもなく騎士団が第二の村に着くという時に、目の前から見たことがない程に大きなケンタウロスとユニコーンが圧倒的な速さで向かってくるのが見えた。
「団長!」
「分かっている!!!」
もう魔物は王都に向かうのか、間に合わなかったのか。
何かまだ手はないのか、考えろ考えろ考えろ!
一班を囮に使うか?いやあの速さだと囮にならないくらいの距離で倒される。
弓矢は?そんなものが通用するようには思えない
飛竜部隊から突撃させるか?この速さでは二匹が騎士団にぶち当たる方が早い。
どう考えても騎士団が二匹を避けるように二班に分かれる前にぶち当たる。
ぶち当たれば吹っ飛ぶのは騎士団側に決まっている。
馬上槍はここまで持ってくるべきだったか?そうしていたらもっと二匹は王都に近づいていた。
それに槍の方が砕ける確信がある。
変異種というものを舐めていたか?いや時間か、間に合わなかったのだ。
門前の演説や甲冑が原因か?否、必要なことであったし、あの時間を差し引いても彼等が王都を目指すと決めた時点で敗北条件を満たすことになる。
魔術士の大群で、大規模な魔法でしか敵うまい。
騎士団長が作戦失敗か、と諦めかけた時。
「各々!疾走をやめ、早足後、ゆっくり歩き、その後停止せよ。停止した後は伏せよ!!」
ケンタウロスから怒声が聞こえた。
騎士団のそれぞれが
は?
喋った?
人間の言葉だよな、今の。
たぶん。
俺を殴ってみてくれないか
良いぞ、その後で良いから俺も殴ってみてくれ
そして、次に驚いたのが馬が疾走をやめ、早足になりとケンタウロスの言うことを勝手に聞きはじめたのだ。
慌てて、鞭で叩こうとしたものがでたところ、
「我が眷属に何をする気か!!」
ユニコーンから先のケンタウロスよりも迫力のある怒声が聞こえた。
ぶっちゃけ8割は八つ当たりである。
これには騎士団も唖然とした。
馬が、喋った、言葉を、人間の。
発声器官はどうなっている。
騎士団の皆が止まる。
人間の動きが止まれば、馬ももう伏せている。
人間は思考も止まっている。
「人間達と我等から遠い昔に離れた眷属達よ、そのまま止まっておれ。間もなく龍皇殿が来る」
ケンタウロスの長が皆に聞こえるように怒声を上げた。
「龍皇殿はお主等と対話をするために来る、恐れることはないが、心の準備はしておけとのことだ。人間は龍をやけに怯えるからと。」
ユニコーンの長も
「眷属達も怯えるでない、生物としての規模感が違えど彼にはお主等に対する害意はないからの」
思わず最前列にいた兵士が尋ねた。
「龍皇?対話?それにあなた方は?」
ケンタウロスとユニコーンの長は苦い顔をして、しまったと思った。
「非礼を詫びよう、まずは自己紹介をするのが先であったか、人間は。馬を止めるのが最優先であったからな、許せ。我はケンタウロス族の長で、こっちがユニコーン族の長である。お主等については龍皇殿が着いてからにしてもらおう、何度も同じ話などしたくなかろう。」
ほれ、見えてきた、と指差す方向から、もはや距離感が分からないほどの巨大な龍がゆっくりと飛んできていた。
二日酔いが役に立つ稀な例
※更新したサブタイの「邂逅」は人間目線デス




