24話 生まれながらにして世界を震撼(村編8)「酔っ払いの末路ともふもふの魔力」
龍皇の言葉の後、しばらくの静寂が過ぎた。
しまった!?教育に話が走り過ぎたか!??と龍皇が焦ってきた。
そして、ぱらぱらと拍手が起こり、段々と広まり、それを見た魔物達も真似をしだして、
大きな歓声が起こった。
(トカゲ種の長は尻尾を打ち鳴らし、フェンリルは肉球を打ち鳴らしていた。ぽふぽふっ)
特に今回の歓声は人間側が、特に子供側が大きかった。
俺も今から頑張れば龍の皇様と戦える位強くなれるかな!?
私もなれるかしら!
俺はなる!
お前は無理だよ、根性ねーもん
根性は最初からあるんじゃねーんだ!つけるもんだ!明日から頑張る
この時間だから仕方ないけど、明日から頑張るっていうやつはやらない奴だって家のお爺が
お前ら結託して俺を苛めてんの!?
お前ならいけるんじゃないか、一番頑張ってるじゃん
いや、今の話を聞いたらもっとやらなきゃいけないって思えた
大人側は
子供達がはしゃいでいるのぅ、良い話が聞けたもんだ、冥土の土産になる
爺さん、さっき龍皇様の血を飲んで元気になってたろ、まだ先だよそれ
俺「木こり」なんだけど、進化したら何になれるのかな
あれじゃん、「神の伐採者」とかなんとか、一振りで森が消失する
それ迷惑なだけだろ!
俺大工なんだけど、何になると思う。
「神速の大工」に決定だね、材料があれば一人で城を建てる
それありだわ!頑張る!
俺、テイマーなんだけど、どうしよう。
諦めろ、何をどうしたって先にいるから、あっちに皆連れてかれる。
だよね、でも頑張れば家の牧羊犬に楽させてやれる位には羊や牛達に言うこと聞いてもらえるかも
それ位の目標にしとけ、大魚を狙って川に落ちるよりマシだ
魔物側は
龍皇狙うとかパネーわ、老人
龍皇が防御とか意味分からん
人間って思ったより怖いな
あぁ、ヤバイな
俺ならその老人に負けてるわ
我もだよ
人間だけ長みたいな強い個体がいないと思ったらいたんだなぁ
いない訳がないんだよなぁ、あれだけ数いれば
それぞれに刺激的だったようで龍皇はほっとする。
そうしてまったり歓談し始めたら、うつらうつらし始めている玄武を発見した。
後ろ(?)の蛇がどうもびったんびったんしている。
「玄武よ」
龍皇が顔を近づけて匂いをかぐ
「大分酒を飲んでいるようだな」
「俺ではないぞ、蛇の野郎・・・」
「蛇もお前の一種だろう、慈悲だ。まっすぐ歩いてみろ」
蛇行しながら一生懸命歩く玄武(亀は飲んでないがアルコールの解毒器官は同じらしい。)
「次に蛇の目を見せてみろ」
据わった目どころか、龍皇にどつく蛇。それを止めようと離れようとする亀。
「うむ、情状酌量はないな。うぬの蛇がその様子で暴れれば家が壊れるか、死傷者がでるわ。少し涼んでくると良い、水もたらふく飲んで来い」
龍皇が玄武を噛むや否や湖の方角に投げ飛ばした。
玄武の亀の俺は節度を守っていたのにぃ~という声が哀れを誘う。
そこからはちぎっては投げちぎってはなげの無双ぶり。
実は巨人種もさりげなく酔っていたらしく、もしかしたらの大惨事を免れた。
オーガの長を超える者の酔っ払いなど、悪夢である。
寝返りだけで家が壊れる。転んだだけで死傷者がでる(下手すると魔物の長達も)
「湖の水かさも心配じゃが、酔っぱらって水に落ちたら溺死しませんかの」
と心配する長に、
「最初に我が言ったことを守らん奴が悪い、死んだらそれまでのことよ。それに最初に玄武をやったからな、危なければ奴が助けもしよう」
意外と考えていた龍皇だった。
危険物も排除し、魔物も酔って丸くなり始めた者も出た頃、困った問題が起きた。
子供等が家に戻ろうとしないのだ。
もっと起きてる~
こんなの二度とないもん、今日は外で寝る~
皆と一緒にいるのぉ
小さい子供がぐずり出した。すると、次はそれよりも成長している子供が親に言い出す。
俺も外で寝たいかな
私も
今日くらい良いだろ!な、母さん!
寒いから風邪を引く、硬いところで寝たら体が痛くなる、言うこと聞かないと怖いお化けがでる
(最後の台詞にリッチロードが微妙な顔をする)
さぁどうしようか、大人達が困り始めた頃、
フェンリルがトールを起こさないように龍皇の所まで静かに狩りをするかのように歩き、尋ねた。
「龍皇よ、今日はまたぐーたらと寝るのか?」
「嫌みな言い方をせんでない、起きとるよ。寝相で暴れ出すやつがいてもたまらん」
「ならば、トールの結界も続くのだな」
「もちろんだ、今日くらいはご母堂に少しでも楽をさせたいからの」
「気温だけでもよい、結界を村中に広められるか?」
「容易いが、どうした?」
「なに、子供等がぐずり出しているようだからの。子供等にも貴重な日だ、言うことを聞かなければ叱るのも先達の務めだが、たまには願いを叶えるのも先達の務めだろうよ」
と、フェンリルが親と子供等のところに歩き出し、唐突に横になりだした。
大きいフェンリルだけあって、横幅も奥行きも広い。
「我も今日は疲れたの、そうだ子供等よ、我の横腹で寝っ転がってみんか。さっきは縦に登っておったが、横腹の柔らかさも自慢じゃ」
大人は唐突な発言に、意味が分からず。子供はとりあえず魅力的な案に早速乗って横になってみる。
小さな村だからか、子供もそんなに多くないのが幸いしたのか、全員横になれた。
というか、大の字に寝れた。
ふわふわだぁ
お日様の匂いがするぅ
もふもふだぁ
気持ち良い
やわらか~い
うん、やわらか~い・・・
ぐぅ、と皆が即座に眠り出した。
やはり色々あって疲れていたのだろう、一瞬で皆は別の世界へと飛び立った。(異世界ではない)
横になったまま、フェンリルが静かな穏やかな声で大人達に語りかける。
「そなたらが言うのももっともなことだし、親が言うのであれば従うのが子の義務ではある。だが、今日は確かに、魔物でも最古の我でも初めてな貴重は日なのだ、今日くらいは子供等の願いを聞いてやってほしい。まぁ、今なら抱っこして連れ帰っても文句はでないだろうが」
と笑うフェンリル。
「でも、フェンリル様には迷惑では?それにフェンリル様が寝てしまって寝返りをうてば皆がぺしゃんこです」
「子供の我侭なぞ迷惑の内に入らんよ、それに我も今日は貴重な一日だ、このまま起きてたいのでな。寝返りなどうたんよ。どうしても姿勢を変えたい場合には、そこの眠る必要がない骸骨殿に一旦子供等をどけてもらえばよかろうよ」
まさかのリッチロード指名。
今日の一番の働き者に仕事を増やしたフェンリルにムカッとしながらも了承する。
「分かりましたよ、フェンリル殿が本当に寝ないかも確かめます。寝たら、龍皇ですら近寄れない匂いの物体を鼻先に塗りますからね、数日は彼は私に近寄れませんでしたよ!」
まさかの返しにフェンリルは頼むと良いながらも、じんわり肉球に汗をかいた。
(そんな物を隠し持っていたのか、こやつは!)
魔法を多種多様に生み出し操る骸骨からは今は何の匂いもしないが、魔法で取り出せるのかもしれない。
ブラフかもしれない。
だが、フェンリルの決して寝れない夜が決定した。
「それと親御さん達、先ほど龍皇が結界を広げたので今日はこの村は夏から秋にかけてくらいの丁度良い気温のままです、子供さんたちも風邪をひきますまい」
「えぇ~、このまま野ざらしぃ?それは駄目なんじゃない?」
急に妖狐が入ってきた。
「ではどうするので?」
「こうするのさ!」
妖狐が本来の姿になると尾を子供たちにかけてやる。
フェンリル並みに大きい妖狐である。9つの尾はふさふさで大きく長さも本数も申し分ない。曲げ伸ばしも自由であるようだ。
「これなら更に風邪ひかないっしょ!」
「でもトール殿のお守りはどうするので?」
「ドライアドの長が代わってくれたよ、ちゃんと昼の私の働き振りを観察してたらしいね、あれなら文句なしさ。お父さんより断然上手いよ」
そんなお父さんはドライアドが「ご尊父殿も寝ていらしてください」と家に帰らせた。
「たまにリッチロードもオムツを洗うのとか手伝ってあげて。数が足りないからまわさないといけないからね」
仕事が追加されるリッチロード。
「分かりました、分かりました、全て私がやりますよ。眷族を連れてくれば良かった、子育てしたことがあるキングもいたと思うんですよね絶対」
嘆くも後の祭りである。
大人達は皆で顔を見合わせると、深くお辞儀して、子供等をお願いしますと告げて自宅に帰っていった。
ちなみにトールが寝ているときは「祝福と加護」を与えるチャンスなので、皆粛々と小さい声で祈るとフェンリルの上で寝ている子供等にもかけていく。
これで大部分の魔物の長の「祝福と加護」が与えられたはずである。
酔いつぶれて寝っ転がっている者達は別として。




