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23話 生まれながらにして世界を震撼(村編7)「宴と絶技」

日が落ちた、村では滅多に使わない篝火を使う。

なにせ祭りだ。

もう魔物の長達に恐怖している者などいない、ただ村の復興を手伝ってくれたりした気の良い奴等扱いだ。

そんな魔物も明日には帰る者もいる。

ならば、勿体無いなど言うのが野暮だ。

村人達はできる限りもてなし、楽しもうとそう決めていた。


魔物達も酒が今回は出るというので、騒いでいる者達がいる。

というか、ドワーフだ。

ほとんどそれを目当てに頑張っていた。

オーガやゴブリンの長など人型の者だけでなく、フェンリルも楽しみにしているようで、周りの者にどんな酒があるのかを聞いている。


そうして祭り(宴会)が始まる。


まずは龍の長から

「本日は突然来た我々にこのような場を設けてもらい、感謝の念に耐えぬ。そなた達を一日見ておったが、どの者も働き者で、また我等を受け入れる度量もある。愛し子がこの村で育っていくのが楽しみで仕方がない。明日から帰り始める者もおる。そうすると、もう会えない村人と長もいるだろう、是非悔いのないように交流を深めてもらいたい。しかし、楽しい場の前に言うのもなんじゃが、魔物の長どもよ、酔っ払って暴れるなよ、死人がでるわ!少しでも危ないと判断した者は湖まで放り投げるからそのつもりでおるように!」


次は村長からの挨拶がある

「本日はこの村の子供等にも「祝福と加護」を与えてくれただけでなく、村の復興を手伝ってくださった長達よ。本当にかたじけない。魔物と一括りに恐怖しておったが、長方のような立派な方々がいたことは子々孫々まで語っていこう。本当に小さな集落ゆえ返せるものもたかが知れておるが、是非楽しんでいってもらいたい、それでは乾杯!!」


リッチロードが裏から手を回していたので、魔物達も乾杯の音頭があってからが宴の始まりで飲み食いスタートということが分かっていた。まずは酒を飲むという細かいところから教えている。


さて、その酒だがまずは村人達各々が持ち寄った酒である。

足りない分は魔物はオーガ秘伝の酒である。

飲みながら薄い酒だが、こういうのも良いのぅと言う魔物があれば、

オーガ自慢の酒をそのまま飲み、その酒精の強さに噴出す魔物もいた。


気になるのは村人達と飲んでない魔物達だ。

オーガ自慢の酒、どのようなものだろう?


ここでも出るのはリッチロード。

彼はできる男なのだ、というか魔物で人間風な尺度を持っている者が他にいない。


「オーガ自慢の酒を皆にも振る舞いましょう!ただし、馬鹿みたいに酒精が強いです。人間はまず器に水を満たしてから、そこに少し加える形で飲んでください。原液は死にかねません。足りなければ、酒を少しずつ足して自分好みの酒精の強さにしてください」


酒が強いと評判の若者が、幾分小さい器に水を注ぎ、酒を少し足して飲んでみた。

吹いた。

むせた。

曰く、こんなのは火だ!とのこと。


そんな彼の犠牲のもと、村人達は慎重に足していく。

ちゃんと気をつければ満足のいく物になった。

味が変わっておるのぅ、しかしこれも乙なものじゃ。

これは早く酔えて良い!

ちょっと味が合わないかも。

口々に感想をいう。


魔物達も青年と吹いていた魔物の様子から慎重に飲んでいく。

これが秘伝のか!

確かにこんな手早く酔えるものは秘伝にもなろう。

ドワーフも酒を作るのだろう?こういうのはないのか。

うるさい!ないわ!それよりもこんな酒精の強く味が熟成された酒は初めてじゃ!喋るより飲ませろ!


ドワーフ達は肉は少ししか食べず、酒で腹を満たすかのようだった。

人間の酒も合間に飲むのは忘れていない。

周りが戦慄したのは、ほぼ薄めずに飲んでいることだった。


器が持てない魔物達には村人達が皿に注いでいる。

水の量は慎重に相談しながら。

この気遣いは大層感謝された。


酒がある程度出回ると子供等が暇になる。

そこで昼に作っていた果実水を作っては飲んでいた。

それを見た青年が真似して酒に入れてかき混ぜて飲んでみた!


「こいつはいけるぞ!」


そこからは様々な果実を足してみるのが流行りだした。

果実を2種入れる強者も出だした。

こっちの方が良いのぅ!

おう、そっちの果実の飲ませてくれや。

良いぞ、そっちのも飲ませてくれ。

俺は何も入れないのが奥深くて良いなぁ。

そこの人間よ、我にもその果実のを試させてくれ。

もちろんよ、俺のを一口試すかい?あんたは何を入れたんだ、まだ俺が試してないのだったら一口くれよ。

兄弟達よ、全ての組み合わせを試すぞ!

応!

最後のはもちろんドワーフ達である。

人間と魔物が酒を一口交換しているのも実に違和感がない。


オーガの長はそんな果実を入れるなどという飲み方を思いついたことがなかったので、

帰ったら群れにも教えなければと考えていた。


宴は進む。

肉は現れては消え、現れては消える。

野菜も意外と箸休めか消えていく、子供等は無理にでも食わせられる。

酒は人間の酒は消え、オーガの酒を皆で飲んでいるが薄めないと飲めないので樽にはまだ残っている。

自分では酒を組めない魔物達には気づいた人間や魔物が注いでやる、果実のリクエストにも応える。

食う。

飲む。

食う。

飲む。

宴はこうして進んでいく。


宴が進むと芸が始まるのも付き物である。

幾人かが楽器を奏で始める。

明るいメロディーが辺りを包む。

終わったときには、人間からだけでなく長達からも歓声が上がる。


返礼に人を惑わすほどと言われる、セイレーンの歌声が響く。

下半身が魚なのにいられるのは、上半身が人間だからか。

たまに周りで魔法が使える魔物が水をかけていたのも良かったのかもしれない。

美女が胸に薄布や貝殻などを隠し、肌を見せるのは魔物の習慣か。

歌声に酔いしれる半分、上半身の姿に酔いしれる半分であった。

姿に酔いしれていた既婚者は歌の後の歓声の後、建物裏で悲鳴と謝罪の声を張り上げていた。


その後は人間がナイフ投げで周りを沸かしたり、

今回は参加できた龍達が一斉に空にブレスを吐いて、花火ほど豪奢でもなくても、迫力ある明るい夜を演出してみせたりした。

次いでリッチロードも幾分早い雪を降らせて見せたりした、慌てた村人に幻影であると笑って見せた。

オーガもゴブリンも自作の太鼓があれば奏でられたのにと残念がる。


そんな芸も一息が着き、肉も落ち着いて来た頃

一人の子供が無邪気にこう言った。

「ドラゴンの王様、何か面白い話はないですか?」


周りの魔物も聞いてみたいと集まり、村人も龍皇の周りに集まる。

困ったのは龍皇だ。どんな話が楽しいか、人間の楽しい基準が分からない。無茶振りの定番か!?

しかもぐーたらばかりしていたから、下手すると周りの龍達のほうが経験豊富である。

少し考えて、子供の教育に良ければ良かろうと話し始めた。


「我は強い、この中でも一番だろう」

異を挟む者はいない、フェンリルも強さに自信があるし、海にいて今回来れなかったリヴァイアサンも強い。しかしこれには異を挟まないだろう。

上空からの攻撃には対処ができない。彼は海すら蒸発させかねない。


「そんな我でも苦戦したことが人生で1度ある」

皆はまず龍皇に挑んだ者がいたことに驚いた。

「勇者ですか?」

青年が問いかける、人間最強のジョブと言えば勇者だからだ。

「あ奴等は敵ではなかったよ」

言外に戦って、苦もなく勝ったことを告げた。

それにも驚く村人達。

「しかし、惜しいの。なんとその相手は人間じゃ」

驚愕の声が魔物の長達からも上がる、長である自分より余程強く、だからこそ「調停者」たる龍皇を苦しめたのが人間だったからだ。

「群れで来たのか?」

フェンリルが尋ねる。

「なんと、老人一人じゃよ!!」

龍皇が豪快に笑い、

周りは驚きのあまり沈黙する。


「人間達よ、お主等はジョブというのをどう考えている?」


「神からの贈り物であると」


「それは間違いではなかろう。そのジョブが変わることがあるのも知っておるか?」


「たまに剣士だった者が、武器使いになったなど噂を聞いたことがあります」


「それがジョブの進化じゃ。たぶんその者は剣以外にも戦えるように他の武具も練習したのだろう」

はぁ、と驚く人間達。


「ここで質問じゃ。我等が愛し子のトールもある職の最上級職である。なんだと思う?」

人間達が考え込む、魔物は面白がってみている。


一人の牧場経営をしている青年が手をあげた。

「もしかして、テイマーですか?」

他の村人から、まさか、でも、あの不遇職?ごめんお前テイマーだったわ、良いよ知ってるよ。

などざわめきが起こる。


「その通りじゃ、魔物に好かれ、従える職は他にないからの。テイマーの最上級職を神から生まれながらに授かったのがトールじゃ」

絶句する村人達。

特殊な職だと思っていたのが、なんと不遇職の最上級進化形だったのだ。

魔物達は意外と人間は抜けておるの、と酒を片手に笑っている。


「そんな人間の極められたジョブというのは想像を絶するものがある」

そうだよね、といわんばかりの村人。今この光景がそうである。


「我を苦しめた老人は弓を極めた者であったよ、なんと向こうの山から向こうの山位まである距離を涼しい顔して射るのだ」

龍皇が遠くの山と反対側に見える遠くの山を指差す。

人間が射れる距離ではない。


「しかも驚くべきはその矢は全て我の心臓の上にある鱗に当たっていたことよ、心臓を守るため腹ばいになったら背中の方の心臓を守る部分の鱗を狙いだした。外した矢など一本もなかったよ。流石に普通の矢ではなく魔力に似た別の、そうじゃの、闘気とでもいうべきか、それで作られた実態のない矢であったが、その分威力も尋常ではなかった」

それはなんという神業だろうか。

魔物も人間も絶句する。


「一方的にやられるのもたまらんでな、矢の方向に向かったよ。そうしたら更に驚いた。途中までは執拗に心臓のみを狙っておったが、闘気も尽きたのか、一瞬矢の雨がやんだ。そう思ったら実際の矢を雨のごとく射るわ射るわ!威力が減じた分、狙うところが絶妙に嫌なところでの。両目、口、心臓の4箇所を同時に射ってきおったわ!手で顔を守り、心臓も守り、ある意味ほうほうの体で敵に会ったら老人一人よ、あれには幻覚かと目を疑った」


「老人に我を矢で狙ったのはお主か、と聞いたら、そうだと答える。何故そうしたと聞いたら、寿命も近づいたので龍に挑んでみたかったとのことよ。我の鱗は龍族でも一番固いし、常に物理・魔力の攻撃の威力を減じるように魔法を組んでおる。たぶんお主等だったら途中で鱗が砕けておったろうな」

周りの龍を見る。


「老人はやはり龍には届かんかったかと笑っておったよ、我もなんだか殺す気が失せてな。我が龍皇であり龍族最強なこと、殺せはせんだが、恐怖を抱かせたのはお主が初めてよというと、びっくりした顔をした後、更に豪快に笑って、あの世で自慢できるわぃと言っての。すまんの我侭で迷惑をかけたと謝ってきおった」

誰も反応しない。


「あの老人のジョブは『神威の弓』といった、なんでもずっと村では弓で狩りをしていたらしい。ある時から小さいものも大きく見えるようになって、狩りでも急所を正確に狙えるようになり、尚も集中をして狩りを続けていたという。更に興がのり、どこまで弓の精度が上がるか鍛錬してみようとしてみたらしい」

どのような鍛錬だろうか、誰もが興味を抱く。


「鍛錬方法を見せてもらったら、遠くの木に一本の矢を射る。次の矢はその矢に刺さり、一本目の矢を砕く、そして次の矢は2本目の矢を砕くという、見ていた我も言葉を失う神業であったよ、あれが鍛錬だと!」

またも絶句する。


「故にの、人間達よ、今日魔物の長を見て、怯えもしたろう、勝てないとも思ったろう。だがな、人間は我等を時に超えるのよ、単体でもな。子供等よ、お主達も鍛錬を続けるといい。どう鍛錬すればどのジョブに進化するかは分からないが、努力は裏切らんようだからの」

そう龍皇は優しい目で周りを見渡した。

出かけるまでに時間なく急いで仕上げたため、誤字や抜けた内容がありました。

3/20の13:30に修正しました。


一度読んだ方は読んだときの記憶と見比べてみてください。

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