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20話 生まれながらにして世界を震撼(村編4)「お土産と王様」

アーノルドが妖狐に自分の子供への世話の仕方に駄目出しをされている頃、


時間が経つに連れて村人達からは恐怖が薄らいできた。

薄布をまとったドライアドの長が他の魔物の長と果物を持ってきたのが原因かもしれないし、

フェンリルが子供をあやしているのを見たからかもしれないし、ただ、慣れただけかもしれない。

「祝福と加護」を与え終わった魔物は果物の収穫を手伝っていたり、ただ座ってたりするので、害意は見えない。


そうして、時間が経つと人間というものは普通の生活に戻ろうとするものなのだろうか。

もしかすると、まだ根底にある恐怖をごまかすためかもしれないが、

それでも村人達はそれぞれの仕事に戻ろうとしていた。


まだ魔物の行列は終わりが見えない。

また駄目出しをされているアーノルドを見やる、子供がいる家庭の夫の目は生暖かかった。

その妻は妖狐の発言に「うんうん」と頷いては、自分の旦那を見ている。

ちなみに、これから婚姻をしていかなくてはならない男衆は恐怖の目で見ている。

曰く、あんなに子育てとは難しいのかと。


そうして、村人達が散ろうとする時にリッチロードは思い出し、魔物の長全体に聞こえるように風の魔法で声を拡大して尋ねた。

「長達よ、土産を持ってきたものはいるか!持って来ても良いと言ったが・・・」


長達が吼えるように、

持ってきたぞー、

忘れてきてしまった、

土産にできそうなものがなかった、

土産が思いつかなかった

と口々に叫んだ。


「持って来た者はこの広場に持ってくるが良い!自分の列の場所を忘れるなよ!元は人間であった私が愛し子用が良いか、愛し子の群れの仲間である彼等用が良いか分ける!」


積まれる荷の数々。

一番多いのは、牛や豚や猪である。何を食べて育ったか分からないほど大きな猪もいた。思わず魔猪族かとリッチロードが見ると彼の長は「も~」と首を横に振っていた。

思念の伝達の仕方は知っているはずなのに、

そして何故か猪なのに、

鳴き声が「も~」なのはどうなのか。

ツッコミを入れるべきなのか考えたが、忙しいリッチロードは後にした。

たぶん魔猪の血が入ったはぐれだろうとあたりをつけながら。

そうしてつみ上げられる牛達、もはや村の倉庫どころか、村の家全てを倉庫にしても片付かないだろう。


次に多いのは武具の数々。キラキラと光る物が多い。そして血が付いている物も多い。

たぶん、襲ってきた冒険者の形見だろう。

中には一目で逸品と分かる業物も多い。


次いで多いのはなんと宝石の数々。人間社会では好まれると知っている者達、

つまり基本持って来たのは龍達だ、自分も好きだから収拾していたのをこの機会に持ってきたのだ。

何せ彼等は宝石を溜め込んでいるという理由でたまに冒険者が来るので、人間が宝石好きなのは嫌というほど知っている。


珍しいところでは毛皮や抜け毛の数々。

最近死んだ者から剥いだり、最近抜けた毛を群れから集めたのだという。

自分の価値を高く見積もりすぎなナルシスト達のようだが、

毛皮は寒いところの者からすれば人間が羽織っているから好むのだろうと持って来たのだろうと推測できた。毛は毛布や布団など服に入れても良い、それを知っていて持って来たのかは分からないが。


また、オーガ秘伝の酒などといったものもある。


リッチロードはげんなりした。

これだけの数を振り分けるのかと。

しかし、魔物側でできるのは自分しかいない。

愛し子のためと気力を振り絞る。


村長と村の若い衆数名とで、

リッチロードとの協議のもと分けられるようになった。


「さて、まずはこの牛達ですが、村人的にどうです?私の頃ならこの8割は腐らせましたが」


「うむ、そうなるじゃろうなぁ、流石に数日ずっと肉だけで過ごしても腐らせましょうな」


「保管するところもないっすよ、なんすかあの山。猪って山でしたっけ?」


「では、牛と豚と猪をどれくらい要りますか?」


「うぅむ、あるとありがたいに違いないが、ここからこの辺くらいまでかの」


「まぁ、人間の胃袋ならそうでしょうね。長達は基本自分基準ですから」

そうリッチロードは笑う。


「そこで暇そうにしている長達よ、この青年の案内のもと肉を運んでください」

長達も暇だったのか、すぐに動き出す。


「残りは私達魔物の食料にしてしまいましょう。彼等もお腹が空くはずですし、そのための食料を持って来たとは思えません。ドライアドの果物だけでは足りないでしょう。あと、今日はめでたき日でもあります。今日くらいは好きなだけ村人達も肉を食べて良いのではないですか?」


「そうしてもらえるとありがたい。それにそうさな、そうそう肉ばかり食える日も普通は少ない。いや、今日からは結構な日数はお蔭様でできましょうが」

他の近隣の村にも分けてやって、肉尽くしの日を何日かしても、なお腐らせるかもしれない位の量は確保している。


「そして、今日の食事はせっかくじゃしそうさせてもらかのぅ」

今は丁度昼時だ。朝飯は騒動で抜いている。

そうして、村の女性陣は空腹から目を血走らせてひたすら肉を切る作業、

男性陣も目を血走らせながら焼く作業に追われた。

肉放題の日など農民からすれば夢であるからだ。


ここでも魔物の長達が手伝っている(?)

長達も空腹なのだ、自分達用に焼き、またまだ並んでいる者達用に焼く。

ちなみに魔物にまわされた肉は血抜きなどされていない物だ。

人間用のはされている、というかされていたのを人間用のにしたのだ。

たぶん、オーガかゴブリンの狩ったものだろう。血抜きが上手にされていた。


続いては武具だが、

「この逸品達は是非愛し子の家に。ご尊父殿と愛し子の為に、よろしいですか?」

「そもそも持って来たのはあなた方じゃし、贈り物も本来はアーノルドのところへのものじゃ。文句なぞありはしませんよ」

「ありがとうございます。後は・・・」


ゴソゴソと武具を分けていく、リッチロード。

それを見届ける村長と青年達。

「この辺は中々良い武具です、多少の汚れがありますが、他のよりもマシでしょう。この辺はこの村の方が使うと良いでしょう」


「リッチロード殿は目利きまでできるんか、凄いのぅ」


「長年生きてきたので、いや死んでいるので?どっちか分かりませんが、長年の勘ですよ」

青年達は歓声をあげた、立派な武具など農民からすればこれも夢である。

しかも、一人の青年曰く、王都の兵士よりよっぽど格好良いと話がまわればなおさらだ。


中々良い武具、それはその時代時代の鍛冶の上位職が作りあげた逸品やダンジョンの高級ドロップ品である。

冒険者が苦心してダンジョンやらで手に入れたり、なんなりしたものだ。

中々良い武具ではない、とても良い武具だ。


逸品はダンジョン最深部などでしか取れない、ミスリルやオリハルコンなどと言った「神様の大地への贈り物」と呼ばれるもので作られたまさに神の逸品だ、材料は。

作ったのはダンジョンを作った引きこもりかもしれないが。


逸品はアーノルド家に届けられ、中々の武具はとりあえず倉庫へしまい、後で適性を見て分けることに。

それ以外のリッチロードの目に留まらなかったもの(上質程度のもの含む)は、売ることになった。


宝石は、アーノルド家に逸品級を。

イリスが目を覚ましたときにその輝きと数で、気を失った。

そこからは辞退を申し出るイリスに、これらだけは受け取ってほしいと龍皇の熱量合戦になり、

村長の後押しもあり人類の秘宝レベルのものや王家にもないような逸品がアーノルド達の家に幾つも運ばれた。

他のは村の共有財産とすることにした。


意外にもイリスが喜んだのは集められた抜け毛だった。

暖かく過ごせるし、赤ん坊にも寒い思いをさせずにすむと無邪気に喜んでいた。

これがフェンリル自らの毛や妖狐の長の毛が入っており、

対物理防御にすぐれ、対魔法防御にも優れ、常に能力値が底上げされる物であること。

市場価格が宝石級であることを知ったらまた辞退したであろう。


また、龍の鱗もたくさんその場で送られた。

一人の青年がぽろっと龍の鱗もそういえば宝だよな、と言ったのが運の尽き。

湖でバカンスをしていた龍達がお互いの鱗を剥がし剥がされ、龍皇も参加した。

ちなみに龍は定期的に鱗を綺麗で新しいものにするために、集まってはお互いの体を擦りつけあう。

そして鱗が落ちるのだ。

最初、幾らか鱗が剥げて、大量の鱗をスライムで運んできた龍皇を見たとき、青年は気を失いそうになった。一枚一枚剥がしたのだと思い、その痛さから罰があるのではと恐怖したのだ。


鱗の剥がし方を教えてやり、丁度良い時期だった、思い出させてくれて感謝すると言われて、青年は考えてから喋るようになった。

自然、落ち着きが出て、口から災いのもとがでなくなった彼は優良物件へと変わってゆく。


そうして、あらかた土産が片付いたころ、肉が人数分焼けた。

そこからは肉パーティが始まった。

魔物達も一心不乱に食べ始める。

たぶん、人間と魔物が本当に心を一つにした歴史的な瞬間だった。

「肉、もっと肉を」と

また、ドライアドの果物も好評で、ベジタリアンな草食の魔物(希少だがいる)はドライアドに番ってくれるよう頼もうか考えるほどだった。

肉、飽きたら果物、肉。

子供達も大はしゃぎ、こんなのは誕生日でもできないからだ。

オーガの長が牛一頭を丸ごと焼いて食べていたのを喝采とともに村人は見やる。

そこには肉と果実の名の下に笑顔が溢れていた。



その頃、第4の村を擁する王宮では

「王よ!ゴブリンの異変種が出たとのことです、砦から放たれた矢が一本も刺さらなかったとか!」

「王よ!山のように大きな狼が出たとのことです、魔狼の一種に違いありません!危険です!」

「王よ!龍が飛び交っていたのを村人や王都の住民が見ております!」

「王よ!エイプの群れが大移動をし始めたとのことです!」

「バジリスクもです!」


ぐったりと魔物の活発過ぎる動向と、それが意味する犠牲と対策に気が遠くなっている王様がいた。

「それで被害はどうなんじゃ?そこが肝要だろう、対策が必要なのじゃろう?早くせんか。隣の部屋に大臣達を至急集めておけ。他の仕事よりも優先させよ」

はい!と侍従が走る。

「被害は・・・」

「被害は?」

「0です!」

私の方も、私の方も、エイプは元の場所に戻ったようです、バジリスクもです。


「はぁ?」

王様が混乱している。


「何でもゴブリンの希少種は冒険者を助けたそうで、人間の言葉を話していたと。そこからは物々交換をしているそうです」

「魔狼も子供を助け、親と村人に説教をしたあと、物々交換をしているそうです」

「龍はただ忙しそうに飛んでいただけとのことです」

「エイプは良く分かりませんが、誰も傷ついたという情報はありません」

「バジリスクも同様です」


「・・・・・つまり、お主等は何の犠牲も出ていない魔物の案件を、情報を上役の一人に集約させずに、口々に王に直接話に来たと、危急の案件だから王へ取次ぎを急げとそう他の者に告げてまで。そういうことかの?」

王様はまるで愛し子を見る魔物のような顔で、報告に来た官吏達を見やった。


「この、馬鹿者共が!!!!!!」

王様が切れた、歳が結構な王様が切れる、何を意味するか。

医者があわあわしている、血管が心配だ。


「魔物の今までにない動き、龍もとなると焦るのは分かるが、報告の仕方がなっとらん!!これで王宮にも王都の民同様、焦りが生まれよう。不安感も生まれよう。お主等が上役に報告しとったら、あやつならそこを踏まえてわしだけに報告したわい。ここにいる皆の者、今の話はここだけのものとする。他の者に漏らしたものは重罪であると心得よ」

かしずく臣下達。


まぁ過ぎたことは仕方あるまい、と立ち上がる。

「確かに危急に対策が必要な事態ではある、そこが分かっとるだけ良かろう。飛竜部隊全てに、王国中を急ぎ見てまわってくることを告げよ。全員が各々の方向に一直線に飛び、一刻も早く羽ばたき、戻って来るようにと、間に休むことは本当に必要なとき以外は許されん」


休みの取り方まで指定するほどの密な命令も珍しい。


「詳細は必要ない、概略で良い、魔物の動きでおかしなものを教えよ。例え村が襲われておっても止めたりせずに、見て戻ってくることこそが仕事である。また、そこで見たものは王が発言を許さないかぎり秘するように厳命せよ」

はっ!と侍従が走ろうとしたのを止め、こうも告げた。


「ただし、命の危険を感じた場合は交戦することなく退却してくることも命じておけ。魔物の世界に何が起こっておるか分からなくなってきておるようだからの」


王は隣の部屋に集められた大臣達を前に、飛竜部隊が帰ってくるまでに、何を、どこから、どこまでまとめるべきか考えていた。

飛竜部隊全てを動かした。なら、1日もあればより詳しく分かろう。

軍隊を派遣できるのか、予算は、何日かけることができるのか、決めることはたくさんある。

王宮も不安と踊るように、動きだしていた。

また、他の国の王宮も。

後ろの方はある意味、王宮編かしら?

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