19話 生まれながらにして世界を震撼(村編3)「祝福と加護」
村の簡略図 要はアーノルドさんの家は
道を挟んで森に面しているよということ。
木木木木
木木木木
木木木木
道
「家」・・・・・・・・
家
家 家 家
(・・・は魔物達)
「家」=アーノルド家
「ではの、ドライアドに妖狐の長達よ、こちらに」
龍皇が二種族の長を呼ぶ。
ドライアドといえば木々に美女が埋め込まれたような姿が一般的だが、
彼女は木々を背負うこともなく、一見普通の人間のように歩いてきた。
しかし、服は一応人間に合わせて用意したようだが、そのあり合わせを着ました程度では、
柔肌がどうしても目に入ってしまう。
村の男どもは、女性陣から軽蔑の目で見られていることを承知しながらも思わず見入ってしまう。
妖狐の方はといえば、フェンリルの如き大きさのまま、
その長く美しい銀色のもふもふとした尾を9本も振り振りさせながら狐姿で歩いてくる。
しかし、狼に襲われたことがあっても、狐に襲われることがなかった村人達からすれば、
大きくて、立派で、例え稚気を起こした程度でも殺されるほどと言っても、
龍のインパクトからすれば、狐には恐怖よりも、その見目の美しさに目を奪われる。
特に子供や女性陣からこちらは人気のようだ。
「お呼びでしょうか、龍皇様」
「呼ばれたから来たよ、相変わらずだねぇ」
龍皇に対しても、対照的な二人(?)である
「うむ、なにせ後ろのやつ等を見てみよ、家に入りきらん。そこで外で「祝福と加護」を授けることにした」
「まぁ、私でも入らないねぇ、あの扉じゃ」
妖狐の長が悪気なく言う。
「お主等には頼みがあっての、ドライアドは家の中の愛し子の寝具を見て、木でそれを作ってもらいたい。お主ならば造作もなかろう。そして、「祝福と加護」中に愛し子がぐずりだしたら、排泄物の世話や、あやしてもらいたい。ここに集った魔物は数多けれど、それらを頼めるのはお主等しかおらん」
「確かに人間の形態で、女性体というのは・・・いませんね」
女性体だけならばハーピィもいるが、手足というより、翼と爪だ。
「良いよ、愛し子の為だ。なんでもするよ!さてお母さん殿、どういう時にどうしたら良い?」
妖狐はイリスに化けながらそう尋ねた。
イリスにしか目を向けない男、そう定評のあるアーノルドさえ位置関係で把握せざるを得ないほど見事な変身ぶりだ。
ドライアドが寝具を作り、三人がレクチャーを受けている間(アーノルドも再教育されている)、龍皇は外で「祝福と加護」をするために快適な空間を作るため、結界を構築している。
リッチロードは改めて行列の魔物達に決して村人や建物、家畜に手を出さないことを約束させていた。
そこで、ある一人の少年がオーガの長に向かって行った。
「おぉ~!やっぱりでけぇ」
「どうした童よ?親はどうした?」
「親はまだぼーっとしてるよ。情けないよな。なぁなぁ!この魔物の列って、あのトールって赤子のために来たんだろ?」
「そうだ」
「んであいつは、なんとかってやつをあんた等からもらえるんだろ?」
「そうだな」
「羨ましいなぁってさ、俺もあんたみたいにでかければ、村の皆の役に立つのになぁって」
「そうか・・・。そうだな、童よ、あの骸骨殿を呼んで来てくれるか?」
「んぁ?良いよ、怖いけど」
「怖くはないぞ、あやつも元は人間だ。一番この中で人間らしい」
呼ばれたリッチロードに、さっそくオーガの長が言った。
「さきほど、この村の童がな。愛し子だけに「祝福と加護」を与えるというのを羨ましがっておった」
「あぁ、子供からすれば自分はもらえなかったのに、他の子供はもらえるというのは面白くないでしょうねぇ、あまりそこまでは考えておりませんでした」
「そこでの、受けたい者は愛し子の横にでも並んで「祝福と加護」を与えてもよいのでないかと思ってな。大人はもう駄目だろうが、子供なら普通の「祝福と加護」でも成長の手助けくらいにはなろうよ」
「ふむ、良い案かもしれませんね。村長に訊いてみますよ。たぶん大丈夫だと思いますから、後で他の魔物にも伝えておきましょう」
「感謝する」
話についていけない少年にオーガは凶悪そうな、しかし本心は優しい笑みでこう言った。
「童よ、お主等にも分けてやれそうだぞ」
そんな裏話がありつつも、結界OK、レクチャーばっちり!(アーノルドは不安)、赤子は寝ている。
準備は揃った。
龍皇が大声で告げる。
静寂の結界も貼っているので、愛し子が起きないためだ。
「これより愛し子とこの村の子等に「祝福と加護」を与えていく。我らの数が多いからな、余計なことはせずさっさと終わらせて次の者に譲ること。愛し子がぐずりだしたら、ドライアド達があやすか、授乳するか、落ち着くまで待つこと。今日一日では終わりきらんだろう。愛し子のため根気強く自分の番を待て。自分と同じスライムで来た者がすべて終わったらとっとと自分の元いた場所に帰れ、龍を待たせておる」
頷く魔物達。
「では我から参る」
結界に入り、アーノルド、ドライアドと妖狐の長(変身後版、服も匂いづけのため借りてきた)に龍皇が尋ねる。
「ご尊父殿、二匹とも、気温はどうだ?」
「うん、ぶっちゃけあの家より暖かくて良いんじゃない?」
家主のアーノルドはその言葉に顔をしかめながらも賛成した。
「確かに、家より良いくらいだ。俺はお前らを完全に信用したわけではない。だからつきっきりで傍にいてやるつもりだ。いざという時の盾のために。夜もこの子はここにいるのか?」
「できれば早く済ませたいですからな、ならば後でご尊父殿の寝具もお持ちさせましょう、ドライアド頼むぞ」
「かしこまりました、龍皇様」
「では、早速、『神よ、この子に全てを切り裂く爪と何者をも噛み砕く牙、そして何物も通さぬ強靭な鱗を。その行く手を自分の力で切り開けますように』」
トールの身体が強く光った。
「待て待て待て!」
アーノルドが慌てて龍皇を止めに入る。
「なんですかな、もう済みましたぞ。あとはあの子等にしなくてはならん。弱い祝福のはまとめてできるから楽ですな」
「牙と爪と鱗って何だ!家の子を化け物にしたいのか!!?」
確かに父親ならば気になるだろう
「ふむ、そういう認識になるのか人間は、村人にも説明しましょうぞ、一度結界の外へ」
龍皇が促す
「さて、我の「祝福と加護」の文句は『神よ、この子に全てを切り裂く爪と何者をも噛み砕く牙、そして何物も通さぬ強靭な鱗を。その行く手を自分の力で切り開けますように』というものであった」
え?牙?
爪?
鱗生えるの?
自分の子にも与えてもらえるということで喜んでいた親も止まる。
子供らも、「うぇ」って顔になった。
「安心せい、決まり文句のようなものだ。これで伸びるのは人間ならば簡単にいってしまえば攻撃に必要な力と、攻撃から身を守る防御力を、この子に与えてくださいというようなものだ。爪や牙などの方を望んでいるわけではないからの。願いの根本にある本質が大事なのじゃ、分かったか?他の魔物の祝福も牙だ爪だ、言い出すが同じことだからの」
不安ならば、愛し子を見るが良いと言った直後、アーノルドが起こさぬように、しかし迅速にトールを全裸にして、ためつすがめつと観察した。
村人達も一緒にみており、鱗の一枚もないのを確認すると安堵の声が漏れた。
「では、我の祝福を受けたい子等はそこに集まれ」
集まった子等に同じ文句を唱える。トールよりも幾分も小さく光る。
「これで多少は成長しやすくなるだろう」
そう言ってトールのところへ戻る龍皇。実はできるだけ愛し子から離れていたくないのだ。
内緒にしているが。
トールの方には次にリッチロードが並んでいた。
(後ろは怪力とか、そういうのを望みそうですね、ではあまり皆が望みそうにないものを)
「『神よ、この子が魔法の深奥にたどりつけるだけの英知と魔力を、そして病気一つない健康な身体を。その行く手を阻むものが現れませんように』」」
過去に病気から死んだリッチロードならではだろう。彼も子供等の所へ向かう。
次はゴブリンの長だ
「『神よ、この子が子宝にたくさん恵まれますように、そして彼の群れが飢えることがないように』」
オーガの長は
「『神よ、この子に全てを打ち砕く怪力を、そして何物も通さぬ強靭な肉体を。その行く手を自分の力でこじ開けられるように』」
フェンリルの長は
「愛いのう、赤子は。流石は愛し子、良い顔をしておる、将来は美青年かのぅ」
説教時の顔など、どこにいったのか。
相好をくずしている。
ドライアドに急かされてしまった。
「『神よ、この子に全てを切り裂く爪と万里を駆け抜ける俊足を。その行く手を最短距離で駆け抜けられるように』」
龍皇からドライアドにここで質問があった。
「ドライアドの長よ、お主は木々を操れると聞く。そこらの木々に果物を実らせることなどできるか?」
「木々に負担をかけるので、あまりしたくはありませんが、できます。ただ、数回で木が枯れるでしょう」
「そこは気にしなくて良い。村長がそこの道を挟んだ向かいの木々を開きたいというでな。魔物の待合所として。だったら有効活用できるかと思ったまでだ。次はお主の番にせよ、そして木々に実りをもたらして魔物や人間に与えてやると良い。」
「そういうことであれば」
ドライアドは
「『神よ、この子が森から愛されますように。その行く手に飢えが立ちふさがらんよう』」
願うと、子等へと向かった後、道の向かいの木々へと向かい果物をどんどん実らせる。
そして、通常の番に戻り、
スライムの長が
(『神よ、この子が全てから守られますようにしなやかで堅い身体を。その行く手が安全でありますように』)
龍皇は赤子を見て微笑みながら、アーノルドに通訳をしてやっている。
そしてとても優しい声色で
「どうだ、ご尊父殿。お主の子はこんなにも祝福に満ちて生まれたのだぞ」
アーノルドはもう魔物を疑ったりしなかった。
その後も、どんどんと列は進んだが、
途中途中、ぐずる赤ん坊をアーノルドがあやし、失敗し、妖狐が一発で成功させたり。
排泄物にすぐに気づいた妖狐がオシメを変えたり、
お腹が空いて泣いているのをすぐに察知したりと妖狐の活躍はすさまじいものがあった。
そして、アーノルドはいつの間にか妖狐の補佐にまわされていた。
「ほら、お父さん、オシメ足りなくなってきたよ、持ってきて。ついでにこの辺の洗ってきて」
「お父さん、お母さん呼んでお腹空いてるみたい」
「お父さん!ぼさっとしてないで」
外見がイリスだから、余計にいたたまれないアーノルドであった。
ちなみに、子供といえばはしゃぎまわるのが仕事だが、村の子等は大人しく祝福を受けていた。
次から次へ知らない魔物が祝福に来るのだ。
こんな機会は二度とないと魔物をじっと見ている。
知っているはずのゴブリンでさえ、長となるとまるで違う生き物だったのだ。
見てるだけでも楽しい。
何か訊くと嫌な顔せずに答えてくれるのも、嬉しいのだろう。
普段は忙しく大人に甘えられないからか、魔物に懐いている。
さっきはフェンリルに乗せてもらった勇者がいた。
結局フェンリルは全員乗せることになっていた。
その頃、各国では王やギルドマスターが色々尾ひれどころか背びれや羽までがついた報告を受けていた。
ブックマークや評価ありがとうございます。
読者数も見れるんですね、読んでくださってありがとうございます。