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17話 生まれながらにして世界を震撼(村編1)「龍襲来」

その日、イース村(第4の村)とその近くの村はかつてない恐怖を味わった。


第4の村の上空に、9匹もの龍が羽ばたいているからだ。


「1匹の龍に対するに軍をもってせよ」、「1匹の龍が出たら、その村は時間をかせぐことに専念せよ(周りを逃がすため、生贄になれ)」

この世界では龍に対する格言が数多くある。

しかし、9匹の龍が出たらどうしたら良いのかを教えてくれる格言などなかった。


遠く上空でも、いやだからこそ、その影から城のように巨大なことが分かる1匹が広場の上へとゆっくりと羽ばたいてきた。


「村人ども、空を見上げよ!我は龍の皇なり!」


その声は遠くの村まで聞こえたという。


「我らはお主等を害しに来たのではない、人も家畜も建物さえも傷をつけるつもりなどない。怯えることなく、混乱せずにここへ集うが良い」


そんなことを言われても、怯えるなというのも無理な話だろう。

そうリッチロードは龍の背にて笑う。


「ぬ!?何かが置いてあるの。そこの若者よ、それをどかしてくれ。壊さずには我が降りられん。」


不運なのか、なんなのか、たまたま広場近くにいた青年はご丁寧にも指名されてしまった。

もう恐怖で頭がいっぱいだが、言われたことをやらないのも怖い。

生涯でこれほど早く荷車を走らせない、というほど速やかにどかした。


「ぬぅ・・・。よく見れば他にも細々とあるではないか。それらもどかしてくれぬか、その小さいのもだ」


リッチロードは呆れた。

恥をかきたくないと言っていたが、言葉でなくこれは性格の問題だ。

威厳が話すほどに消えていく。


上空の龍達もこれには呆れていた。

最初の威勢の良い、自己紹介はどうしたのか、と。


ようやく広場が片付いた後、尻尾の置き場所にも気をつけながら、龍皇は降り立った。

その頃には、村人達も「この龍はそんなに怖くないのかも」と思い始めていた。

バケツを壊さないように降りるため、指示を出す龍。

几帳面なのか、万が一にも壊れた破片が刺さるのが嫌なのか、本当に村人の物を壊さないように気をつけていたのか。

いずれにせよ、格言に従うなら近隣の村の住民が逃げる時間を稼ぐべきだろう。

そのためには、言うことを聞いておいたほうが良いに決まっている。

村人達は若干おさまりはじめた恐怖と混乱と覚悟のなか、広場に集まりだした。


それでもやっぱり恐怖のためか、奇しくもフェンリルが説教をするために村人を集めた時と似ている光景も幾つもあった(参照14話)


出てくるのを拒んだ青年を引っ張り出すために、他の村のために覚悟を決めろと殴って連れて来たもの、

老人達もこの世の終わりと思ってか、皆が来るまでに家族に今までの感謝を述べている。

新婚があの世でも共にいようと絆を硬くする。

龍に祈り出すものもいる。

どこも恐怖の権化には同じような対応のようだ。


「龍の皇様よ、これで皆でございます。後は動けない老人、何卒ご勘弁を」

そう村長が切り出した。


「そうか、皆のものすまぬな。人間とは普段から忙しいと聞く。少し我の話を聞くが良い。」


村の者もこれには驚いた、龍が!あの恐怖の象徴の龍が!!人間如きを労わり、謝罪までしたのだ!!


「とは言うものの、なんだそこの二人は、傷か?またそこの老体も、そこの青年も震えておるな。病気か?これでは話すどころの騒ぎではないな」

龍の皇は目敏く、不調の者を見抜いた。


「そこの青年よ、樽一杯に水を。そこの青年よ、水差しに水を、至急持ってきてくれぬか?」

夢でも見ているのか、さっきは恐怖のあまりの幻聴かとも思ったが、彼(?)は命令ではなく、お願いをしているのだ。


そうして待つこと数分はあろうと見越して、リッチロードが躍り出る

「皆様、ごきげんよう。私はリッチロードと申します。元は人間でしたが、死んでからアンデットと成りまして、自己の研鑽を積んでいたら、周りのリッチキング達より強くなっていたので、そう呼ばれています。」


教皇のような豪奢なマント、頭に輝く高級なのが一目で分かる宝冠。杖も何の金属か分からないがただの鉄などではなかろう。


「私の友人である、龍皇が水を欲しているのは、皆の体調を治すためです。龍の血と言えば高級な回復薬になるのはご存知でしょう?彼はそれをあげようというのです。」

え、何それ知らないという村人の顔。

え、何で知らないのというリッチロードの顔。伊達に骸骨に長くなっていない、表情を作るのは得意だ。


「え、皆さん、まさか知らないので?」

お前知っていたか?

まさか。

村長は?

初めて聞いたのう。

他の老人達は?

皆知らないって。


リッチロードの案ではここで太っ腹なところを見せてから、こちらの事情を話す腹づもりであった。

しかし、昔と今で常識が変わっていることを彼は計算していなかった。


(しかし、効果を見れば感謝するでしょう!そうしたら恐怖心も薄れて上手くいくはず!!)


水一杯の樽と水差しが運ばれてきた。


「さて、皆さんは知らなかったようですが、改めて龍の血は万能の回復薬となります。龍皇よ、血を一滴ずつ」


「うむ」

自分の手の甲を爪で引っ掻く。

血が数滴でたと思うとすぐに回復する。

その回復力に村人からおぉ!と感嘆の声があがる


(驚くのが早いわ!龍の傷などすぐにふさがるに決まっている!効果は薬としての効果を見てからにしてくださいよ!)


樽と水差しに血を一滴。すぐに薄まってしまい入っているかも分からない状態だ。それをリッチロードが自身の杖でかき混ぜる。


「死人でさえも起き上がるという回復薬ですからね、原液だと濃すぎて体調不良を招きます。だから薄めるのです」


まずは、水差しの方から。こちらは水が少ない分、血が濃いのだ。

水差しを持って、怪我人の方へ。

骸骨が迫りくるホラーだが、ここで怯えて逃げたりしたら、この村だけでなく近隣もどうなるか分からない。覚悟を決めた顔で待つ二人。


「なんですか、この殴られたような後は?ケンカもほどほどになさい。人間はほれこの通りすぐに死んでしまうのですから。あなたは、・・・痛そうですね。何か重い物にはさまれでもしたのですか?ほいっ、ほいっ。」

と話しながら、二人の包帯を外し水差しの水をぶっ掛ける。

さっき殴られた男は気まずそうに目線を外していたが、それが災いして、気をつける暇なく水をかけられた。


「ぷぉっ!?」

変な声が出て、周りから失笑の声があがったが、すぐに驚きの声に変わる!


怪我が治ったぞ!

あの見事な青痣が見るも綺麗に!

そんなことより、棟梁を見ろ!材木に挟まれた足がもう動いてやがる!

嘘だろ!?骨まで砕けていただろ!??

おい、棟梁さんよ、具合悪くなってねぇか??

なってねぇ、びっくりだよ。


(そうです、そうです。驚きなさい。そしてここから!)


「さて、効果はご覧の通り。そして樽のほうもよくかき混ぜて、まずは震えているご老体達から飲ませてあげてください」


ぶっ掛けられるのも、アレだが血入りの水など飲みたくないのが本音。しかし回復したのも事実。

蛮勇か勇気があるのか、少し呆けているのか。

一人の老人がコップ一杯を飲み干す。

「おぉぉぉ!身体の節々の痛みが消えおった、血行も良くなったようじゃ。ん?呂律まで治っておる。頭までなんだかはっきりしてきたわい」

「なんですって、お爺ちゃん?私のこと分かる?!」

「自分の孫娘が分からん爺などおるまい、人を呆けているかのように言いおって!」

「ずっと私を見てお母さんの名前で呼んでたじゃない!本当に治ったのね!!」

呆けていた方だった。


それを見ていたほかの老人や病人も飲み干し、それぞれにドラマが生まれていた。


「げふんげふん」


龍皇が咳払いをする。

広場がようやく静まった。


リッチロードと上空の8匹は大根役者振りに、内心大爆笑をしていた。


「これで、わし達、いや我等に害意がないことが伝わったかの?」


「ありがとうございます、龍皇様。ほれ皆もお礼をせんか」


『ありがとうございます、龍王様』


「いやいや、容易いことゆえ、そこまで大げさにすることはない」

でも久しぶりに感謝されて嬉しかったのか、尻尾が揺れている。

リッチロードが建物に当たろうとする尻尾を魔法で押さえつける。


「さて、これよりが本題よ。この村に最近生まれた赤ん坊がおるな?」

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