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15話 異変?頑張るドラゴン

アーノルドが家で赤ん坊の泣き声に感動と、これからの生活にそれがずっと関わるということを改めて知り、戦慄を覚えていた頃。


同日、同時刻、某空の上。


一匹の龍がその背に骸骨を乗せ、まさに神速ともいうべきスピードで羽ばたいていた。


骸骨が飛ばされないように、風の魔法を苦もなく操りながら思念で問う。


(この良き日に急いでどうしました?酒でも飲んで祝わないのですか?)


龍が拳を握り締めながらも、応える。


(この良き日だからだ。馬鹿をしでかす者達がいないか見張らんといかん。そして好意からの馬鹿は厄介であると昔にお主が言っておったのを覚えておるぞ。あの時は納得したものだ。お主がその前に腐った食い物を嬉々として持ってきた後だからな。我だとて寝ながら秘蔵の酒でも楽しみたかったわ)


(あれはそういう食べ物です。匂いは不味いが味は上手いというのに。まぁ良いでしょう。他の種族は、種族で楽しんでおりますよ?あなたも龍を集めれば良いでしょうに)


(我は群れるのが好きではない。お主はいつまでも我の洞窟にいるがな)


龍が飛びながら、鼻を鳴らす。

そんなことを話していても、あちらこちらで祝福を告げる魔物達の雄たけびが聞こえる。


(ぐうたらな友人に次に会ったらカビでも生えていたらショックだからですよ。あなたは仕事がないといつまでもぐうたらと寝て、この前は何十年と寝ていたと思ったら、せっかく教えてあげた人間の言葉を忘れていたでしょうに。もう少し起きていなさい。)


くっ、と龍が顔をしかめる。

ぐうたらが好きだし、友人の好意からの教えを怠惰から忘れたのも本当だからだ。

そんな友人が助け舟を出す。


(まぁ、この良き日に起きたのは安心しましたよ。起きて頭も回転しないうちからどこへ向かうのですか?)


(お主なら愛し子にどうしたいか考えてみよ)


(ん?会ってみたいですし、祝福と加護を与えたいと思います。小さい内から与えるのが良いと聞いたことがありますし。私は初めてですが。初めてでもできるでしょうか。)


(わしだとてそうだ。祝福と加護が幼い者にほど与えるのが良いのは本当だ。昔見込みがある我が子に幾度かしておったが。最終的に最も育ったのは一番幼いうちに与えた者よ。安心せよ、ただ幼子の前で神に願うだけだ。その子にどうなって、どう育って欲しいかを)


(なるほど?ただ幼い程良いと言っても元は人間の私からすると、生まれたばかりの日はその家庭も慌しくて、来てほしくないのではと思いますがね。特に我ら魔物が来たら、気力を使い果たしておる愛し子の母堂や尊父が倒れかねないでしょう。元気でも倒れるかもしれませんが)


くっくっと笑う骸骨。


(何も産んだばかりの日が大変なのは人間だけではなかろう、分かっておるよ。我はな。分かっていない馬鹿がいるだろうことや、馬鹿な行動をする者がいないか、そして祝福と加護を与えに行く者達がどれだけいるのか確かめておこうかとおってな)


(流石は龍の皇、調停者。苦労しているのですね)


(あぁ、イネガル神様より作られた最古の龍であり、誇りを持っておるからの。しかしな、調停者は世代交代しても良いと思う、我疲れた)


(あなたの子達が言っておりましたよ、あの父は仕事がないとだらけるからちょうど良いと。)


(やつらは、絶対に、押し付けた、だけよ。他の龍もこの話になるとなんだかんだ言って逃げおる)


笑う骸骨に唸る龍。

高高度を飛ぶ二人(?)は人間からは見えないだろう。

声が聞こえるのも、下が見えるのも彼らが超越しているからに過ぎない。

たぶん骸骨は魔法だろうが。


(して、うるさい位の雄たけびをあげている奴らは良いのですか、注意しないで?)


(それ位なら、まぁ、良い、だろう、たぶん?めでたい日だからの。気持ちは分かる。流石に興奮して人間を襲う馬鹿はいなかろう)


(ならこのまま?)


(まずは愛し子の場所へだ。祝福と加護を与えたいという願いは分かる。だが、でかい町のあのごちゃごちゃ建物がある所だと、やつらが押しかけたら周りの人間も迷惑しよう。母堂と尊父も望むまいよ。)


(王都ですか、確かにやっかいですね。そもそもあなたは入りきらないでしょう。意外と考えていたのですね、ちょっと驚きました。さて、この感じそろそろですか。)


(うむ)

微妙にけなされているが、悪気があってでないことを知っているからどうにも怒れない。


龍がスピードを落とし、一つの村を見る。

家は散開して建っており、大きな広場もある(新しく耕す予定のところであるが彼らには分からない)

また、愛し子の家から村の終わり(第5の村)の方まで一直線上に家も何もなかった。


(ふむ、これならば他の魔物共が来ても並ばせれば大丈夫かの)


(そのようですね、城が如きあなたが降りても問題はないでしょう。しかし、これだけ何もない村など、今どきありますかね。単に他の住民の受け入れ待ちなどであれば良いでしょうが。)


彼らは知らないが、数ヶ月前の地震で家が幾つも崩壊しており、ようやく片付けが終わったところでの出産だったのだ。死傷者はでなかったが、家を失った者達は絶望とともに他の者のところで住まわせてもらっている。今は村長がどうせ立てるならより機能的にと、皆で話し合いながら家を建てるための資材を準備している。


神が彼を魔物に会わせるために、起こした地震かは分からない。


(場所は良し、後は馬鹿者達を探すだけじゃ)


龍はそこから円を描くように羽ばたきはじめた。


そうして1時間しない内にスライムが群れで愛し子の村に向かうのを見つけた。


慌てて急降下し、龍が吼える。


(待て待て待て!この群れでどこを目指す)


(これは調停者殿か、良き日に珍しき隣人に会うものだ。知れたこと、愛し子の元へ。祝福と加護を与えにだ)


とてもスライムに見えない大木を思わせる高さまである巨大なぷるんとした物体が、手のひらサイズの小さいぷるんとしたものを連れていた。


(だと思ったわ。祝福と加護を与えるのは良い。我もするからな。しかし、産まれたばかりの日にするのは向こうからすれば迷惑だ、少なくとも人間は)


(ぬ?そうなのか?)


(お主達みたいに分裂して、はい終わりではないからの。母堂も相当に体力を使ったあとじゃ。そうして群れで来られても困るだろうよ)


(むぅ、調停者殿がそういうならばそうなのだろう。しかし皆愛し子に会いたいのだ)


(もっと子が成長して村から出るなりしてからにせい、あるいは数を減らせばスライム程度の大きさならば・・・お主は別だがな)


(ふぅむ、お主等合体せよ)


小さいスライムが合体し、人間よりちょっと大きいスライムが何匹かになっていた。


(これなら良いか?)


(うぅん、他の種族も何匹か連れて行くとなると・・・)


(あの村の容量では足らないだろうな)


(これでもいかんか・・・)


ぷるんとしていて分からないが落胆しているようだ。


(ん?お主、中に何か入っていないか?取り出さんで大丈夫か?)


龍が巨大なぷるんの中に何かを発見した

よく見るとミニチュアサイズの牛だったり、狼だったり、ゴブリンだ。


(こやつらは餌よ。お腹が減ったときに消化する。消化するまではちゃんと生きて意識もあるぞ。新鮮さが違うからの)


ちょっと誇らしげ。

お主等にはできないだろうという感じだ。


(そのゴブリンって出せますか?)


(可能じゃよ、ほいっ)


ゴブリンが吐き出された。水(?)の中にいたのに溺れていた様子はない。

特筆すべきは通常のゴブリンのサイズに戻ったことだ。


ゴブリンが寝起きのように、頭を上げ、すぐに頭を下げる。

目の前に自分を捕食したスライムより恐ろしい者達がいたのだ。


(私はリッチロード、死者の王です。ゴブリンよ答えなさい)


(は、はい、何でもお答えします)


(あのスライムの中はどうでしたか?苦しかったですか?痛かったですか?今は身体に変調はありませんか?)


(いえ、思えば痛くも苦しくもなく、夢に包まれているようでした。今も身体におかしなところはありません)


(身体の中で暴れられると困るからかの、そうなっておるらしい?)


巨大なぷるるんでもあまりよく知らないらしい。


(いつからこのゴブリンを?)


(こやつは数ヶ月前かの?)


(小さくなって入っていましたが?)


(たくさん貯めることができるようにじゃな)


(ちょっと入ってみて良いですか?少ししたら出してください。)


(良いぞ、そのまま入るが良い)


リッチロードが入った瞬間彼は小さくなり、少しして出てきたら大きさが戻っていた。


(これは使えます)


(これで運ぶというのか?嫌がりはしないかの?)

龍も阿吽の呼吸で、何を考えているのか察したらしい。


(何日もかけてぞろぞろと、まばらに来るより一辺に済ませた方が尊父達の負担は少ないでしょう)


(まぁ、そうかの)


(スライム殿、他のスライムも同じことはできますか?)


(この大きさじゃとちと無理かの、少しすれば他のをくっつけて可能となろう)


(あなた達に愛し子へ向かう者達を収納してもらいたいのです。収納を手伝ってくれるならば他の眷属も連れて行けましょう)


(ほう、そうかそうか。それ位ならお安い御用じゃ。入ってもらうだけだからの。仲間も嬉しがっておるよ。)


ちょっと大きいスライムが跳ねている。


(お主を除いて、そうさな、2日ほどであと8匹用意できるか?)


(たやすいことよ、仲間を集めればよいだけだからな。お主達、分離したのち、周りのスライムを集めてこい)


言った瞬間スライム達が走っていく。


(あやつ等もあの状態を続けておられたら、わしのように成れるものを)


大きなぷるぷるが不満そうに呟いた。


(そういうものですか)


(うむ、何でも意識がまざりそうで嫌なのじゃと。その意識を掌握してこその強さなのだが。強くなろうというものが少ないでのぅ。情けない)


(部下が収納できるようになってもその意識の混ざりとかで消化したりはしませんか)


(我がきつく言っておけば、数日は消化せずにもつわい。わし等は歩かんでも龍殿が運んでくれるのじゃろう?)


収納代わりに使ってすまないと龍が言うと、

愛し子と調停者のためじゃ、気にするなと揺れながら返事が返ってきた(たぶん笑ったのだろう)


龍達は収納袋スライムを手に入れた。


また迎えを寄こすので、この辺にいてほしいと伝えると龍達は見回りを続けた。


エイプ

コボルト

ホーンラビット

ワーム

バジリスク

トロール


その後、この辺が種族全体で行こうとしていたのを未然に止めた頃には龍も疲れていた。


しかし、彼のおかげでバジリスクの大移動などという人間にとっての悪夢は防げたのである。

誰も褒めてくれないが。


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