13話 異変(2)「ゴブリンって凄い」
アーノルドの家で子供が生まれたその日、その時。
第4の村から遠く離れた場所でゴブリンの群れを退治に来た、冒険者3名がいた。
6匹程度のゴブリンを見つけ、襲撃をかけたところ、別兵がいたらしい。
(戦術的にではなく、別行動だったのだろう)
死角からの攻撃で一人が怪我を負い、そこから段々と追い込まれている。
死が身近に感じられるようで、身体が寒い。
男の戦士、男の戦士、女魔法使いのパーティで、冒険者ギルドからも最近認められつつあるパーティだ。
幼馴染のパーティで実力に合わない依頼も、そのチームプレイでこなすと有名だ。
一人の戦士が怪我を負ったことで、盾が減り、魔法使いが魔法を使おうとすると石を投げてきたり邪魔をするのだ。
身体はそんなに強くないくせに、下手な知能があるからやっかいだ。
負けたら、男は食われ、女は苗床にされるのだろう。
必死に抗う。
そんな折、ゴブリン達が一斉に空を見上げた。
まるで喜びの表情だ、ちがう。
「まるで」ではなく、「完全に」喜びの表情だ。
ゴブリン達が雄たけびをあげはじめた。
遠いところからもゴブリン達が雄たけびをあげはじめた。
なんだ?俺達がもう狩れそうだから仲間を呼んだのか!!?
ふざけんな!
そののんきな表情を切り裂いてやる!
戦士が剣を上げたところ、矢が複数地面に刺さった。
顔を上げると木々の上にゴブリンアーチャーがいた、目の前のゴブリンよりよほど知性的な顔をしている。
もう駄目か。
矢を射なかったのは、生きたまま食われるからだろうか。
走馬灯が早くも走り始める。
そんな時、ズシン、ズシンと重厚な足音が聞こえた。
オーガか!?
ゴブリンと餌の取り合いで、やり合うことがあるらしい。
それで逃げれたんだと、昔酒場の酔っ払いが言っていた。
逃げれるか?
しかし、戦士が見たのは更なる絶望だった。
見た目は明らかにゴブリン。
しかし、大きさは倍近い。
腕の太さや足の太さも段違いで、装備までしている。
自分より良い装備かもしれない。
こんなゴブリン見たことがない。
そして、女魔法使いは漏らしたまま「死にたくないけど、ゴブリンの子なんて産みたくないよぉ」と幼児のように泣いていた。
そんな様子を見て、ここからこいつだけでも逃がすんだと決意を新たにしたところで、
「ニンゲンよ、きょうハメデタキ日となった。まだタタカウならこっちもやるが、ドウスル?」
大型のゴブリンが話した。
・・・。
ゴブリンが、人間の言葉を話した。
そんな話聞いたことがない。
「ン?あ、アー、ダメか?ニンゲンノことばムズカシイ。ツタワッテイルか?」
「ん?あぁ、伝わっている。逃がしてくれるのか?」
「オウ、キョウはめでたき日なのでな」
「そ、そうか。じゃあ、逃げさせてもらうよ、ありがとう」
意見が変わらないうちにと、そそくさと準備をする。女魔法使いの頬をビンタして気付けをし、もはや重傷となった戦士を担ごうとすると。
「ナンダ、そいつはケガをシテいるのカ?」
「あぁ、こいつも逃がしたいんだ」
「ジャア、コレヤル。のませるかブッカケロ」
ポーションを投げ渡された。
しかも質が良い。
思わず、
「良いのか!?」
と聞いてしまった。
駄目といわれたらどうするつもりだったのか、我ながら馬鹿だった。
「イイ。キョウからしばらくはニンゲンを傷つけたくない。ソイツヲおまえはモテルか?」
「持てなくても持っていく、ここでポーションが効くまでまっていたら、他の魔物が来るかもしれない」
大型のゴブリンはちょっと考えて、
「カセ」
もう一人を抱き上げた。
「何を!?」
「ホカノばしょに行くのダロウ?ならこの方がハヤい。ドッチだ。」
「・・・あ、あぁ。こっちだ。ありがとう」
「どういたしまして」
何でそこだけ流暢なんだ!
「キョウからしばらくなら我らのムラにきゃくとして来てもイイぞ?それでもカエルカ?」
ゴブリンの村なんて恐怖の象徴でしか、ありません。
結構です。
「荷物が町にあるしな」
「コッチだと、ナルホドあの村か。」
道中、
「ナンで、我らのなかまをオソッタ?ナニカほしかったのカ?」
「ゴブリンが増えてきたから、怖いから減らしてきてくれと町の人に頼まれたんだ。すまない。」
「アヤマルな、我らもニンゲンオソウ、しばらくはないがな。タノマレた数は殺せたか?」
「いや、一匹も」
「殺したのはドウヤッテマチノやつはしるのか。首でもモッテいくのか」
「いや、殺したやつの片耳をもっていけばそれで良いが?」
「ソウカ、客にテブラはよくないとキイタことがある、何匹のヨテイだった?」
「??6匹もあればと思っていたが、ここまでしてくれたことを思うと・・・」
ゴブリン討伐も今度からはできないな、と笑おうとしたら
「そこの6匹、カタ耳ずつヨコセ」
と言った、瞬間ゴブリンやゴブリンアーチャー達は躊躇わず、自分の片耳を切って寄こした。
「ミヤゲダ」
彼はそういって笑った!
町についたら、衛兵達が弓をゴブリンの長(だと思う)に一斉に射掛けて冷や汗がドバッと出た。
そして弓矢が一切通じてない風で、怪我していた戦士を守ってくれたこいつの堅さに背筋が冷えた。
「すまない!ゴブリンが来たら普通はこうなることを忘れていた、説明に行って来る!」
「キニスルな、キズナイヨ」
衛兵長に急いで今までの経緯を伝える。
「素面か?なんか薬でもやってんのか?ゴブリンが人を助ける?んな訳ねーだろ」
「でも本当なんです、うちの怪我した奴を俺が運べないからと運んできてくれているんです」
「罠なんじゃねーか?町に入って略奪とか」
「扉閉めたままにしとけばいいじゃないですか!?とりあえず来て見てください。けが人を抱えています」
衛兵長がのそりと外を見ると、確かに抱えている。
「あ~、ゴブリンが人を助けたなら、そいつを殺すのはどうかってもんか。分かったよ、全員!弓を下ろせ!!俺が話してくる」
流石に長が行くのには反対意見もでたが、誰もゴブリンの前に行く勇気もなかった。
「俺はここの守りをしている。サシルスだ」
「オレハあの辺のゴブリンの主の、イーシュの子、ガウルスだ」
「イーシュ?」
「なんじゅう、なんびゃくとまえに死んだ母だ」
人間との混血か!??
「しかし、よく話せるな」
「母は、ほかのメスとチガッテゴブリンの我らもウメバいとしい子だと、アイシテクレタ。ニンゲンの言葉もオソワッタ、ムズカシクテよくおこられた。だからキョウダイたちも話せる」
そのイーシュという女性は母性愛が強いという言葉で括っていいのか、普通なら異形種を産むなんて狂気の沙汰で狂うだろう。狂っていたのか。分からない。
「話せるヨウニなってしばらくして、ナカマに命令出していたら身体がオオキクなった。ナゼカ?」
「いや、俺らに聞かれても」
「ソウカ、ニンゲンならしっているカモとわくわくシテイタガ」
落ち込んだ様子だ
「とりあえず、こいつらを助けて、ポーションまでくれるとはありがとうなガウルス」
「本当にありがとう」
「どういたしまして」
「何か欲しいものとかあるか、こいつ等の金で用意できればさせてもらうが」
「アー、なら牛とか豚を」
「急いで買ってくる!」
戦士は駆ける、恩ゴブリンのため
「さて、しばらくは人間を襲わないということだが本当か」
「アァ」
「何故急に?」
眼光鋭く、踏み込んでみる
「めでたき日だからだ」
「めでたき日?良いことがある「めでたい」か?」
「そうだ、いとしい子がウマレタ」
「お前の子か?」
「チガウ、ワレラ魔物にとって、だ。どこでかはシランが。タシカニ生まれたと分かる」
「魔物にとって、か。竜とかか?竜は特別なんだろう?」
「チガウ、たぶんニンゲンだ。だからイトシイ子にとってのナカマは殺しにくい」
衛兵長がギョッとした目をした。
「ウマレタばかりだから、スコシしたらいちばんうえの兄が祝福に行く」
ガウルスは今日一番の笑顔をした
そうして、大急ぎで4頭ばかし牛を買ってきた戦士は戦士らしく一生懸命牛を引っ張り、引っ張られながら帰ってきた。
ガウルスは「もし襲ってくるゴブリンがいたら殺して構わない」、「ゴブリンのことで困ったらガウルスの名を出せ」と言って、衛兵長は「困ったらサシルスの名を出してガウルスがここに来い、他は話せないのだろう?牛とかの交換とかな。人間を襲わなくなったらお腹へるかもだしな」
ガウルスは「ありがとう」と笑顔になり、森へ帰った。
ちなみに今は人間の女性は捕まっていないようだ。
それが良いのか、分からない。
行方不明で捕まっていたのなら、きっとガウルスは帰してくれただろう。
そうでないなら、食われているか死んでいるか。誘拐か。
衛兵長は「上への報告どうしよう」、戦士は「ギルドへの報告?寝てからだ、死ぬかと思った」とそれぞれの今後を考えた。
このシーンが書きたかったっていうシーン一号。
ガウルスが「ありがとう」と「どういたしまして」がスムーズにいえるのは母がそこには厳しかったから。