110話 頑張る日々 44「準備と出発」
さてさて、この世界では初の小旅行の日といえども、もちろん朝は変わらずやってくる。
いつものように起きて、ジョギングに出る。
いつものようにハーティも起きて、付いて来る。
いつもと違うのは僕が斧を持っていること。
鎖を身体に巻きつけ背中に背負う形で走る。
負荷をかけることと、斧の重みに慣れるためである。
そうして、ハーティにもお願いをした。
いつものように前を走りながら、空気弾をどんどん後ろに飛ばしてほしいと。
危機管理能力を上げるのと、ダメージを負った時に魔法抵抗力が上がるかもしれないからだ。
さて、そんなこんなで走り出してみた。
まず、走りにくい。背中に巨大な物を背負っているのだからそらそうだという話だが、とても走りにくい。そして、ガンガン空気弾に当たる。危機管理能力が働いても、斧のせいで回避がし難い。
こっちも走っているわけで、空気弾に対して当たりに行っているようなものであるため、それはあっという間に身体を打ち付けていく。
途中、見かねたハーティがまだ早いのではと止めようとしたほどだ。
まぁ、喰らうのも抵抗力的な意味でメリットがあるため続けることにした。
途中から、空気弾を危機感知で察して拳で打ち落とすようになってからは喰らうことが少なくなった。
・・・つまり、まだ当たるわけではあるが。
本当は打ち落とすよりも回避が、特に足捌きでの回避が理想なのだがまだまだ遠い道程らしい。
斧、空気弾、足捌き。これだけ普段と変わってるのに、急にできるわけがないと分かっていても悔しさを感じるのは否めない。
第5の村のいつものおっさんに会った時に、
「その顔の腫れはどうしたぁ?」
と聞かれるくらいには空気弾を喰らった。
斧に付いては聞かれなかった。
きっとこの人の中では既に人外扱いなのだろう。
否定できる材料がないし、する気もないけど。
「修行で」
と短く答える。
怒っているわけではない。
口の中を切ったためである。
申し訳なさそうなハーティの顔に頬ずりをしながら頭を撫でて、良くやってくれたと全身でアピールする。もちろん思念でも褒め称えている。
しょんぼりしながらも尻尾が揺れているのでそこまで落ち込んでないだろう。
「何か運ぶのあります?」
「おう、この手紙をそっちの村長に渡してくれよ」
と渡された。
「一応中身は?」
ぺっと口の中の血を吐き捨てて、聞く。
礼儀知らずではないのです。
口に血が溜まっているため、喋りにくいのです。本当ですよ?
「あぁ、馬を売ってほしくてな。こっちでも開墾しようと思って」
「なるほど、分かりました。必ず届けます。たぶん村長ではなくて、直接商人が来るでしょうが」
「まぁ、手に入ればそれで構わない。なかなか、買えないからな。馬車での行商人に馬を売ってくれというのも無理だしな、用意してまたこっちに来るのには時間がかかりすぎる。手に入ればそれで良い」
「分かりました、他にはありませんね?」
「おぅ。あんまり親からもらった身体を傷つけるんじゃねぇぞ」
乾いた笑いしかでてこない。
「はい、心に留めておきます」
スケルトンとの稽古で骨折。
ダイスとの決闘。
ダンジョンでは心を病み。
王都でも心を病み?あれは病んでないのか?
スラムでも絡まれ。
うん、7才になってからイベントが多過ぎる。
さて、帰りもいつものようにダッシュとジョギングの繰り返しである。
もちろん、斧と空気弾がセットではあるが。
ただふと気づいた。俊敏性が増している気がする。
だから余計に喰らっているような気がするのだけど、気のせいだろうか?
家に帰ってハーティと一緒に汗を流しながら聞いてみる。
ちなみに皆は僕の顔を見るなり溜息をついていた。
特殊な性癖とかはありませんよ?たぶん、そういう意味では。
「ねぇ、僕、結構走るの早くなった?」
「ふむ、斧があるからな・・・いや、それを差し引いても、うむ、早くなっておるな」
「日々の練習が生きたってことかな?」
「いや、トールは特別に『祝福と加護』を多量に受けているため、なんとも言えんが多分違うだろう。多少は関係があるかもしれんがな。走り始めてからそんなに経っておらん。見違える程に早くなったのはひとえにレベルが上がったからだろう」
「レベルが?」
「うむ、ダンジョンをまがりなりにも攻略したのだ。レベルがかなり上がっておろう。そのため、各力が上がったのではないか?」
と湯船から前足を浴槽にかけ顔を出しながら、緩んだ顔で教えてくれた。
「危機管理能力も良く上がっておったよ、斧がなければかわせていただろう。拳で叩き落すほどに精度が増しておるのだ。少し前なら考えられまい。空気を圧縮したものなど見えにくいというに」
なるほど。
日々の鍛錬よりレベルアップか。
「しかし、日々の鍛錬も欠かすでないぞ。他の子供達を見てれば分かろうが、常に走り回っておるから足が鍛えられておろう。農作業に費やす時間も減っておる。毎日の積み重ねも大事ではある」
あ、はい。
心を読まれました?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ。
大事なことを忘れてた。
「どうした?心音が凄いぞ」
とハーティが近寄ってくる。
「ごめん!君等に謝らないと!!」
「何をだ??」
「テイマーとか仲間で何かを倒した時の、経験値で伝わるかな?それの振り分けを気にしてなかった。イネガル神様から教えてもらっていたのに。たぶんほとんどが僕の物になっている。君等も倒しているのに」
風呂に入っているのに、顔から血が引く。
あの時は皆のことを気にするほど余裕がなかった。
だったら自分にほとんど集まっているだろう。
なにせ自分のことしか考えていなかったのだから。
「なんだ、そんなことか。気にすることではない。レベルは我等はあの程度ではそう上がらんよ。龍のダンジョンにでもいけば違うかもしれんがな。なに、風呂から上がったら皆に聞いてみると良い。なんだそんなことか、と言うことだろうよ」
そんなこんなで風呂から出る。
ハーティに魔法で温風を出し、ドライヤーで乾かす。
円の中の各頂点に配するは熱と風。記載するは勢い強め。
・・・魔法は便利だ。
改めて思う。
やはり科学が進まないのは魔法があるためだろうか。
同じ結果を出せるならば資材を使わない魔法に軍配が上がるのだろう。
しかし、魔法陣の円に配するのが、火・水・風・土ばかりというのはどうも引っかかる。
概念を配すると思えば、もっと思いつくと思うのだが。
リッチロードは六芒星と光と闇に自力で辿り着いた。
他にもいないか。
例えば殲滅級の魔法など、これは考えないといけないな。
秘されているだけであるかもしれない。
さて、乾いた後は朝食だ。
父さん、母さんから旅行の注意をありがたく聞くことになる。
皆、好意から言ってくれているのが分かっているから止めないが辟易しているのが分かる。
だって、父さん達、旅行したことあるの?
まぁ、口伝を伝えてくれるのも大切だけどね。
でも、靴に硬貨を入れておくとかは必要ないと思います。
パーティ編成がアレなので。
そんな両親の心配を受けつつ、皆にダンジョンの経験値の配分について謝る。はたして、ハーティが言った通りの言葉が皆から返ってきた。
予想通りというか何と言うか、レベルは高くなればなるほど上がりにくいのだという。
・・・皆はどれ位なのだろうか?
さて、謝るべきことは謝ったので、新しく日課にしたことを進める。
つまり、ヴィトに昼食まで痛みの抵抗力をあげるために魔法で痛みを喰らわせてもらうことだ。
あ゛あ゛、うぁ、痛い、痛いよう。
しかし時間は有限なため、痛さに耐えつつ皆に幾つか指示を出す。
スロールの方を向き、
「スロー、ル。奴隷の、作物、の順調は?」
もはや言葉が怪しくなっている。
「順調ですよ。しっかり土地を確保し、木の根っこごと抜けたところも埋めてあります。土も柔らかく、石もないように魔法を使っていますから。いつ頃に何をするべきか、植えるべきかも伝えてあります。農業のスキルもあるためか物分りが良いですよ」
ふむ、土か風か。どんな魔法だろうか。
「育て、方は、任せる、ままで良い?」
「えぇ、お任せください」
「了解、痛っ、任せた、あ痛い!」
次はハーヴィだ。
「ハーヴィ、僕等、は家を空けること、になる。両親に、護衛をつけ、たい」
「うむ、そうした方が良かろう」
とハーヴィも頷く。
「龍の、身体の割に、周り、に気を、つか、えて、繊細な子は、いる?」
「うむ、少しばかし身体が小さいが、雌でおるぞ。今来るように伝えた、一刻程で来るだろう」
「ありが、とう」
次にハーティを見る。
「嘘、つきが、来ないように、魔狼を、2匹ばかし、護衛として、家の、痛い!、周りにつけてくれる?」
「うむ、分かった」
と言うが否や走り出してしまった。
まぁ、昼位に出る予定だから間に合うかな。
次は、あ、ヴィトが適任だ。
う~ん。
「ヴィト、一度、ストップ」
と自身でも魔法を無効にする式を起動する。
「どうしました?」
「幾つか頼みが。まず、村長にこの手紙を持っていって。馬が隣の村で必要なんだって。ガイル様経由の方が良いだろうね。お酒はガイル様のところから買うと言ってあったのに、この前王都で爆買いしたから、うっかりしてた。あぁ、ジャイアントロードにいつもより多めに肉を渡すように伝えておいて。ハーヴィやハーティが連れて来てくれる子達の分。それでチャラにしてもらえるかな?お金は適当に任せる。あとは・・・共有財産から割と使わせてもらっていたのを返済したいけど、現金が良いかな?」
「ふむ、村長の件はそうですね、彼に伝えておいて、実際はガイル殿にやってもらいましょう。公爵家に寄りますよ。この村でも馬は貴重ですからね。共有財産からお金を使った件については以前のダンジョンの攻略した時に手に入れた武具やらで良いでしょう。硬貨を置いておくのも危ないというか失くしそうですし、じゃあ村長が持つのかと言えば、彼は嫌がるでしょう。後は、鉄ですか、以前の骨折騒動でかき集めたヤツですね。それもこの前の王都でスコール達が買ってきたので十分でしょう」
「共同釜は2つとか作れるかな?」
「まぁ、いけるのでは?いざとなったら、あの、以前槌のように使っていた鉄の塊を使っても良いでしょう?」
「・・・意外と思い入れがあるけど、そうだね。良いよ、皆の生活が大事だ」
「じゃあ、ドワーフの長やドワーフに酒を渡しつつ、頼んでおきます」
「お願い。後は・・・大丈夫かな?あ、鍛冶屋と雑貨屋に金貨数枚渡しておいて。鎧代。ダイスと僕の」
「あぁ、ありましたね。ドワーフの長にはそうすると酒3本ですね。スコールに手伝ってもらっても?」
「いや、スコールには魔法の練習に付き合ってもらうから。人手が必要なら奴隷から。たぶん暇しているのもいるでしょう、ついでに元気か困っていることはないかも聞いてきて。スロールも必要なら指示を出しておいて」
「分かりました」
とヴィトとスロールが出て行く。
「ということで、スコール君」
と偉そうに言い振り返ると、
「何でしょう、隊長!」
いつの間にか女騎士みたいになっている。
いつもの変身姿に鎧姿というだけだけど。
鎧も変化か・・・凄いな。
「ヴィトの代わりに魔法を流して、五芒星に配するは『痛』、記載は『弱め』で」
「了解であります!」
とピシッと敬礼すると、手を握られる。
でも知っているんだ。
こっから始まるの、甘いことなんて起きないことを。
「あぁあ、痛い、痛っ、痛い痛い痛い、ぎゃ゛あ゛ぁあ」
「もうちょい弱める?」
「いや、これで、痛い、痛い、けど、魔法の、抵抗力、を上げてくれる、ことを信じて」
と机に突っ伏して痛みに堪えること、数時間。
昼食になり解放される。
「トールは結構痛がっていたけど、どれ位痛いんだい?」
と父さんが無謀にも食事中に聞く。
「ん?コレくらい」
とスコールはこともなさげに父さんの手を掴むと魔法を使う。
途端に父さんも机に突っ伏した。
料理を辛うじて避けて。
「コ、レは、痛い、痛いね、本当、ただ、痛い」
と魔法を解いてもらった父さんは涙目で突っ伏したままである。
ふむ、多少は僕の方が痛みに強いのかな?
でもまだ出会ったことがない長には魔法への抵抗力を『祝福と加護』でくれるように頼もう。
いつか聞いた、産まれたばかりの頃に授けられたそれらは頑丈さを祈願するものであったともとれるものであったから。念のため。
・・・
・・・
そんなこんなで、皆が各々の仕事をしてきてくれた。
家の前には、朱く、幾分小さい龍が。
その周りを魔狼が2匹元気に駆けている。
「皆ありがとう。特にわざわざ来てくれた君等には感謝しているよ」
と紅い龍を抱きしめ、2匹の魔狼をワシャワシャする。
「君等には特にこの二人を守ってほしい。明らかに害そうとする輩が来たら、噛み付いてくれ。殺さなければ、噛み千切って構わない。この2人対してやましいところがある奴が来たら吼えてくれ。これも同じくしつこいようなら噛んでも構わない。この村に害を成そうとする連中が来たら、滅してくれ。朱の龍よ、ハーヴィには思念が伝わるのでしょう?魔狼が迷うようなこと、あるいは君が迷うことがあればハーヴィを通して訊いておくれ。ご飯はジャイアントロードが持って来てくれるから」
と両親を紹介しておく。
「分かりました」
と朱の龍が頷く。
魔狼達からも思念で了解と伝わってきた。
所持品は斧に、金。
あとは・・・よし、特にないかな!
前世の旅行でももっと色々持っていっていた気がする。
着替え・・・まぁ良いか。川で洗って乾かそう。
皆でハーヴィに乗り込み、叫ぶ。
「じゃあ、皆、4日位で帰って来るから、留守を頼むよ!母さん達もいつもより用心してね!」
「トール、水に気をつけて!」
「皆、トールをよろしくね!」
と両親からありがたい言葉をもらい、ハーヴィが羽ばたく。
さぁ、まずはリヴァイアサンのところへ行こう!
活動報告にも書きましたが、70人の方が評価してくれました!(やっふ~!)
ありがとうございます!!
あれ、最新話のところの下部でやるので、ちょっと分かりにくいですよね。
でも、そんな分かりにくいやつを、時間を使って評価していただき、とても嬉しいです☆
モチべUP!
そしてストーリーはまったりゆっくり進行中。
うん、私も思う、早行けや、と。
そんな作品を評価したりブックマークしてくださり、感謝感謝です。本当。マジでです。(真剣)
以下いつもの!
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、ブックマーク、感想、評価、いずれも楽しみにしております!読者の皆様からの反響はとってもモチべのアップ要因です!!
是非ご贔屓に♪