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109話 頑張る日々 43「物語と冒険前」

なるほど、やっぱり歴史が一度断絶しているのか。

服従の首輪のような道具がもっとたくさんあればこの世界はもっと変わったことだろう。


それにしても、痛い、とってもって程ではないが痛い。

これはしばらく続けないといけないな。


さて、夕食には解放してもらったわけだが、夕食後にもしてもらう必要があるだろう。

結構聞きたいことが聞けたし、今度は僕が語ろうか。

ということで、夕食後に久しぶりのお話をすることにする。

もちろん、痛みつきではある。


「スロール、羊皮紙に、今、から言、うこと、を書いて、いってくれる?」


「分かりましたが・・・大丈夫ですか?」

と心配そうな顔された。


「大丈夫だ、けど痛いくらい、痛いけど、大丈夫く、らい」

と笑う。

「さて、今夜話す、のは僕の、作った物語だ」


昔々、ある所にゴブリンの集落がありました。

そこでゴブリンの番が子どもを産みました。仮にゴブローとしましょう。

ゴブリンの集落では暮らしは大変なものでしたが、皆が幸せに暮らしておりました。

ゴブローも5才になるまではそんな幸せの中、鍛えられたり、狩りの練習をしていました。

ゴブローの家族は両親と兄がおりましたが、皆元気でゴブローは幸せでした。

ある日、人間の群れが攻めてくるまでは。

ゴブローの集落は瞬く間に死体で一杯になり、家は燃やされました。

ゴブローの両親と兄は彼を逃がすためにあえて人間に立ち向かいました。

ゴブローは家族と離れたくないと言いましたが、お前が希望だと、あなたが生きてくれれば私達の生きていた意味があると言われ、兄に蹴飛ばされ、茂みに吹き飛んでいきました。

幾十匹のゴブリンが死にました。ゴブリンキングも立ったまま槍が身体のいたるところに生えて死んでいます。そして何匹かのゴブリンは掴まりました。その中には両親と兄がいました。

ゴブローは決意しました、どんな犠牲を払ってでも両親と兄を取り戻すと。

しかし、ゴブローはまだ5才です。力もなければ知恵もありません。

その日を暮らすのに精一杯でした。

そんな中、同じ様な目にあったというオークとオーガに出会いました。

同じ様な目にあったからでしょうか、すぐに3匹は打ち解けました。

オークが囮になり、オーガが退路を断ち、ゴブローが頭上から奇襲をしかけるのです。

この役割が明確になってから、狩りはとても上手くいくようになりました。

そうして、ゴブローは10才になりました。

夜な夜な思い出すのはあの日のこと。両親と兄のこと。

ゴブローは決意をします。

仲良くなった、オークとオーガに両親と兄のことを話し、やはり探しに行くことを告げました。

その時にはオークもオーガも大きくなっており、ゴブローがいなくとも2匹だけでも狩りができるようになっていました。それでも彼等は止めました。ゴブローが危ないと、人間は凶暴で強いと、死にに行くようなものだと。それでもゴブローは決意を曲げませんでした。

それを見たオークとオーガは最後には温かく送りだしてくれました。オークは人間を倒して手に入れた最も使い慣れた盾を、オーガも人間から手に入れた切れ味が鋭い剣を餞別にと。

ゴブローは久しく泣きました、心の温かさに触れ、オークもオーガも泣いてました。

3匹は誓います。必ず生きてまた会うことを。

そして、ゴブローは森を彷徨います。人間の群れがどこにあるかも分からないからです。

それがゴブローの運命を変えました。

ある日、いつものように森を彷徨っているといつもの小鳥の声が聞こえません。

おかしいと思ったゴブローはすぐに近くにある木をよく観察し、敵がいないことを知ると急いで上りました。果たして、そこでゴブローが目にしたのは人間の老人です。防具もなく、手にあるのは長剣のみ。彼が剣を振るう度に、心が震えました。彼が剣を振るう度に背筋に冷たいものが走りました。

老人は一通り剣を振るうとどこかへ去っていきました。

ゴブローは思いました。自分もあのような剣を振るってみたいと。

だから、そのまま次の日を待ちました。

そして、老人はその次の日にも来ました。

また、昨日と同じ型で剣を振るっています。

ゴブローはできる限り遠くから見様見真似で同じ様に剣を振るってみますが、上手くいきません。

そして老人はまた去り、ゴブローは老人を待ちました。

食事は最低限に、ひたすら老人の剣を真似て剣を振るい続けました。

そんな日々があっという間に過ぎ、ゴブローは14才になっていました。

そして、その日はいつもと違いました。

老人がゴブローを手招きして呼ぶのです。

老人は気づいていたのです、自分の真似をするおかしなゴブリンに。

そうして、ゴブローがたどり着くと、老人は剣を正眼に構えます。

ゴブローは悟りました。老人は打ち込むことを期待しているのだと。

ゴブローはこの数年で学んだものを精一杯出しました。死力を尽くしました。

それでも老人は冷や汗もかかず全て受けきり、ゴブローが避けれるくらいの剣を振るいます。

時には避け、時にはもらった盾で防ぎ、剣を振るいます。

幾度となく剣戟は続きます。辺りには剣が奏でる音だけが響きます。

そして、いつの間にかゴブローは倒れていました。疲れすぎたのでしょう。

死を覚悟しましたが、老人は何もせず近くの木を切り倒すとそこに座りゴブローを見ています。

まるで、立ち上がるのを待つように。

ゴブローが剣を杖のように用い立ち上がると、老人が不意に近寄ってきます。

あのピリピリとした感じはありません。小鳥もいつの間にか鳴いています。

老人は刃の方を持つと柄の方をゴブローに向けました。

ゴブローが柄を持つと、老人は満足気に頷き、ゴブローの頭を撫でて去っていきました。

次の日も、その次の日も老人を待ってみましたが、もう来ませんでした。

老人はゴブローが自分がいなくても生きていけるだけの力量があると判断したのです。

ゴブローは老人を待つのを止め、老人からもらった剣を片手にもらった盾を片手に進みます。オーガからもらった剣は蔦などを利用して人間の鞘のように持っています。

そして、月日は流れ、ゴブローは人間に襲われた経験がある魔物を集めました。どの者も大切な者を捕まえられ、奪われた者達でした。

その時、ゴブローは17才。

群れで一番強いのはゴブローです。老人の指導が血肉となっていました。

妖狐が言います。

「魔物はあそこに捕らわれているようです」

そこには城塞がありました。

しかし、皆、捕らわれた家族の為、士気高く、そこに攻め込むことを決意します。

妖狐は変身し、中に入ります。

そうして、その晩に魔物を迎えるために門を開けました。

それがバレて、妖狐は弓で射抜かれてしまいました。

それでも妖狐はある一箇所を指差して叫びます。

「どうか、私のことは構わずに、あそこにいる私の同胞を!」

そうして息絶えました。

妖狐の勇敢さは魔物達の魂に火をつけました。

妖狐が指差したところに真っ直ぐ向かいます。

合間合間に仲間が倒れます。

しかし、どの者も助けてくれとは言いませんでした。

どうか、私の同胞を。

そうして、倒れる間際に人間や建物を巻き込み、少ない命を涸らしながら、少ない命を燃やしながら暴れます。目くらましになれば良いと、仲間の方へ行く敵が減れば良いと。

そうして、残った仲間たちは捕らわれているという塔を駆け上がり、檻に捕らわれた仲間たちを救い出します。

服従の首輪はまだこの時には作られていませんでした。

いつか誰かがテイムするために捕まえられていたのです。

しかし、皆痩せ細っておりました。碌なご飯を与えられていなかったのです。

ゴブローは痩せ老いた両親と兄に気づきます。涙が込み上げて来ました。ですが、感動の再会は後です。ここから逃げなければ行けません。

ゴブローは自分が殿になり、皆を逃がします。

仲間がくれた盾が皆と自分を守ってくれます。老人がくれた剣が追っ手を切ってくれます。

しかし、先頭の仲間が叫びます。

「退路を断たれた!」

ゴブローが振り返れば、そこには数十人の人間が武装していました。

万事休すか。そう思ったとき、森から雄たけびが聞こえます。

あれから何年経とうとも聞き間違えるはずがありません。

あのオークとオーガが仲間を連れて駆けつけてくれたのです!

人間は思わぬ援軍にうろたえています。今が好機です。

「進めぇぇぇぇえええええ!!!!」

ゴブローが叫びます、幾人かの犠牲を出しながらも人間達を退けました。

ゴブローも城塞を後にしようとした時、背筋に冷たいものを感じました。

振り返りながらも剣を振るえば、そこにいたのは自分と同じ様に盾と長剣を構え、立派な鎧を着けた壮年の男です。

男は言います。

「お主が頭目だな、逃がすわけにはいかん」

人間の言葉は分かりませんが、それでも逃がしてくれるわけではないと分かるとゴブローは構えます。

一瞬の間の後に、お互いに駆け出し、切り結びます。

一合、二合、三合、四合、五合。

ゴブローは悟りました。この男はあの老人並の強さであると。

男は悟ります。既にゴブローはゴブリンではなく、新種、つまりゴブリンキングになっていることを。

いつまでも打ち合うかのように思われたその剣戟は一瞬で終わりを告げました。

どこからか飛んできた矢を盾で防いだゴブローに男は盾を捨て、両手で全力を振り絞り正眼に振り下ろしました。ゴブローは思わず迫る剣に対して、横からぶつけるように我武者羅に剣を振るいました。

パキーンという音がして両者の剣が折れました。互いの力量に剣がもう疲れ果てていたのです。

思わず固まった男の喉に、あの時オーガからもらった剣を突き立てました。

男は倒れ、ゴブローは立っていました。

ゴブローも疲労のあまり倒れるところを2匹が支えてくれました。

あの時のオークとオーガです。

そうしてようやくゴブローも無事に逃げ切れました。

被害は甚大でした。それでも仲間が願った同胞は確かに救い出せたのです。

そうして、ようやく両親と兄に出会えたゴブローは涙とともに抱き合いました。ここにいたるまでのことをお互い話し、泣き、また抱き合いました。

また、助けに来てくれたオークとオーガとも涙とともに抱き合いました。彼等の間には言葉もいりませんでした。

後で聞けば、オークもオーガもゴブローが仲間を集めていることを知り、自分達も仲間を集めてくれていたとのことでした。合流が遅れたことを詫びられましたが、それが最後を救ってくれたとゴブローは抱きつきながら感謝しました。

そうして、多種多様な魔物の群れができました。

群れの長はゴブローに全員一致で決まりました。

ゴブローは剣技は人間の老人から習ったこと、老人からもらった優しさも隠さず話しました。

群れは人間の群れから遠く離れたところへ。

人間にはできるだけ手を出さないことを決め、ゴブローは末永く群れを治めていきました。

めでたしめでたし。


「とい、う物、語でした」

とトールが締めると、皆から拍手がありました。


「これをお主が考えたのか!?」

とちょこんとハーヴィが頭に乗り、


「流石だな、トールは!面白かったぞ!」

とハーティが頭を擦りつけ、


「うん、凄いよ!こんなお話聞いたことがない!ゴブリンが主人公なんて、途中ハラハラしたよ」

とスコールがハーティと逆側に頭を擦りつけ、


「えぇ、まことに胸打つ物語でした」

とスロールが背中に抱きつきながら言ってくれた。


「なるほど、これなら・・・売れますね」

と頷くヴィト。


「で、しょ、う?よくあ、る、英雄譚をゴ、ブリンを主軸に作って、みたんだ。要素は色、んな、王道作、品から得ているけど、完全、に僕が一から作った、物語だよ。ごめん、ヴィト、今日はこれまでで、ありがとう」

頭の中で無を各頂点に配置した魔法無効の式を作り、魔法を発動させる。

「これ以上痛みが続くと、寝れなくなりそうだ」

と笑う。

「そうして、ヴィトが言ったようにスラムの皆には今の物語を分担して書いてもらう。皆王道は好きでしょう?しかも今までにない魔物が主役のものとか。これを読めば魔物にも感情があると分かってもらえると思うんだよね。人間も老人が良い役をしているから、むやみに反感を買ったりしないでしょうし。何より、まず作ったら王様たちに献上するよ。そうして、噂を流す。王も持っている本とね。貴族はこぞって買うでしょうね、王と話す切っ掛けになるかもしれないのだから。そうしてこの話は魔物が手を取り合うこと、人間と魔物にも絆ができることも示している。今後の布石になる」

と痛みで湧き出た汗を拭う。


「いや、そこまで考えていたのかい?恐れいるよ、我が子ながら」

と父さんが頭を撫でてくれる。

ハーヴィがいない狭い部分だが。


「良いお話だったわよ、これなら貴族様じゃなくても売れるわ。たくさん本を読んでいたのかしら、向こうでも」

と母さん。

同じく頭を撫でてくれる。


こんな異端な子どもを愛してくれて、本当にありがとう。

いつも異世界のことや、規模が大きなことを話す時、両親のことを尊敬する。


「うん、こういう冒険譚的なのは幾つもね。じゃあ、今日はこれでお終い。皆、寝ようか。・・・あ、そうだ、4日間位、旅しても良い?父さん?母さん?」


「何をするんだい?」

と父さん。


「うん、まだ出会っていないリヴァイアサンとか、魔物の長に会ったり、もふもふしてきたり。ダンジョンも行くかも?無理はしないよ、皆がいるから。もうダンジョンでも、以前のようにはならない。彼等の死が僕の血肉になると分かったからね」


「う~ん。まだ7才の子が旅というのも、知識はあっても、あなたはまだ子どもなのよ?」

と母さん。


「大丈夫、皆がいるから」

とハーティとスコールを抱きしめ、スロールに顔を寄せる。

「だろ、ハーヴィ、ヴィト?」


「うむ、我がいる限り、危険はない」

とハーヴィ。


「えぇ、情操教育も任せてください。息子をこれでも育てた経験があるんですよ?」

とヴィト。


「いつもすまないねぇ、行っておいで」

と父さんが言ってくれた。


「アーノルド!」

と母さんが父さんを怒るけど、


「イリス、この子は10才になったら学校に行かなきゃならないんだよ?今ぐらいは自由にさせてあげよう。魔物も動物もこの子には手を出さないだろうし、出したとしてもハーヴィさん達がいる。盗賊もね」

という父さんの言葉を聞いて渋々頷いてくれた。


さて、明日からは冒険だ。 (なお、移動は主にハーヴィという、冒険というよりは観光である)


話が進んでいないって?

はははっ、そんなことあるわけが。ほら、スラムの人に与える仕事の布石ができた(白目

いや、ゴブローのお話が思いついたから、ちょっと書いてみたくなりました。

はい、ごめんなさい。



以下いつもの!


皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、ブックマーク、感想、評価、いずれも楽しみにしております!読者の皆様からの反響はとってもモチべのアップ要因です!!


是非ご贔屓に♪



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