107話 頑張る日々 41「お願いと抵抗力」
さて、あの後、喧々囂々とと言うべきか、侃侃諤諤と言うべきか。
案の定、自分だけ泥を被ってからにというお説教をありがたくいただきながら、頑として折れずに、自分の我侭の為だから、皆にも手を汚させるのだから、と抗いきった。
皆も色々あって疲れたのか、家に帰ったらぐっすりである。
ということで新しい朝がきた。
小雨が降っているが、気にするほどでもあるまい。
今日の予定はどうしようか、考えながらとりあえずケットシーのところへ。
・・・どこだ、あのオデブにゃんこ。
「何を探しておる?」
身体が垂直に跳ね上がった。
ビックリしたぁ。
いつの間にかハーティが付いて来ていた。
いや、よく考えてみればいつも朝はハーティと散歩していたからね、驚くべきことじゃなかったんだけど。
まったく頭になかったから不意打ちが酷い。
「ハ、ハーティ、おはよう、ケットシーをね、探しているんだけど」
「うむ、おはよう。ふむ」
と地面の臭いを嗅ぐと、
「森の方だな、こっちだ」
と案内してくれる。
はたしてそこには縦も横も奥行きもある猫が木の上で寝ていた。
木よ、君は良く耐えている。
君の辛抱強さには感服する。
など、思わず別のことを考える。
「ケットシーよ、ちょっと降りてきてくれるかい。大事な話があるんだ」
「・・・にゃぁ、後、5分」
「・・・ハーティに咥えられて地面に叩きつけられて目を覚ますのと、僕が思い切りこの木を殴り木から叩き落されるのと、どっちが良い目覚めだい?今ならおまけで猫玉を作らせるけど」
と、拳を胸の前に作り、笑顔を浮かべて声をかける。
「にゃあ!!今行くにゃ!!」
と地面に飛び降りてきた。
その振動で木の雫が豪雨みたいに降ってきた。
全員、ぐっしょりである。
「お主、噛み殺されたいのか?」
とハーティが下を向きながら、低い声で唸りだす。
「い、いや!あんな風に脅されたから仕方なくだにゃ!??濡れたくないのは一緒だにゃ!!」
「ではトールが悪いというのか!?」
「悪いにゃ!?」
「お主・・・」
と更に低く唸るハーティ。
「親馬鹿が過ぎるにゃぁあああああああああ!!」
とまた木の上に逃げ出しそうなので、捕まえる。
「まぁ、今のは僕にも非が少しあると思うよ、少しだけね、ハーティごめんね」
「トールがそういうなら」
とハーティは少し離れてぶるぶると雫を飛ばしている。
「・・・トールはなんだか我輩にだけ厳しくないかにゃ?」
「可愛い子はついいじめちゃう、そんな幼子の愛情表現だとでも思ってくれ。ちなみに可愛すぎるといじめないでただ大切にするけどね」
とハーティの頭を撫でる。
「さて、おふざけはここまでだ。ここからは真剣な話になる。ケットシーの長よ。愛し子からの願いになる。これを断るならばテイムして命令することも辞さない」
間があり、途端に小鳥の声も聞こえなくなる。
「トールよ、無理に我輩をテイムできるとでも?それは傲岸というものだぞ」
いつもの語尾がない、本気で怒っているのだろう。
殺気も感じる。
これが長というものの迫力なのだろうか。
ふむ、猫らしく自由に対しては他の魔物よりも意識が強いのか。
「まぁ、手は無いわけではないと今は答えておくよ。幾つも思いつく。そも、僕はテイマーだ。君がフェンリルと龍皇と妖狐の長とドライアドの長とリッチロードの全員と戦えるのかという話でもあるが。ただね、君を痛めつけるのは・・・・・・したくない。たぶん、心が壊れる、僕のね。君を傷つけるくらいなら・・・・・・・・・・うん、人を滅ぼすよ。そうだな、前言を撤回しよう、誇り高きケットシーの長よ。テイムはしない、代わりに人を滅ぼす」
「・・・何を言っている?」
「うん、お願いというのはね」
と昨日、皆に語ったことを話す。
「という感じで、猫を総動員して下衆を探して欲しいんだ。妖狐やワーウルフ達にも探してもらう。そいつ等に痛めつけるということは痛めつけられるということでもあるって教えるためにね」
ふぅ~っとケットシーは長い溜息を吐くと、
「そういうことなら、最初からそう言えば良いにゃ。テイムだなんだというから話がややこしくなる、了解だにゃ、猫達に命令しておくにゃ猫伝いに話が通ればそんなに時間はかからないだろうからにゃ」
「ありがとう」
と笑顔で答える。
「ちなみにトールよ、先程のテイムする策があるというのは本当か」
と不意に先までの真剣なケットシーの顔になる。
「あるよ、肉体の痛みに耐えられても精神の痛みにどれだけ耐えたことがある?愛し子と言われてはいるが、その実、たぶんこの世界で一番壊し方を知っているのが僕だ。肉体も精神も。だけどね、話していて気づいたよ。魔物と動物の為に行おうとしているのに愛しい君を傷つけるとか本末転倒も良いところじゃないか、だったら潔くこの村以外を滅ぼそうとね」
「・・・できるのか?」
「逆に問おう、誇り高き長よ。できないと思うかい?武力はほぼ全ての魔物、精神的にも対象が人間ならば僕は耐えられる。今まで人間と魔物で狩る狩られるという関係であったのは、魔物がそれぞれバラバラに戦っていたからだ。魔物が手を取り合えば」
ははっと思わず笑う。
「人間なんて一蹴だよ。特に人間の心理を知るものが指揮をとるならね」
「・・・・・トールよ、そなたのことを見縊っておったようだ。我輩はそなたが魔物のことを考えている間はそなたに尽くそう」
と騎士がまるで王に礼を尽くすかのように、肩膝を折る。
これは敗北を認めたということだろうか、人柄を認めたということだろうか。
いずれにせよ、
「そんなに大層なことじゃないよ、僕が皆を好きだから、皆を守りたいから勝手に動いているの。そんで勝手に動くのに情けなく人手が足りないから皆にお願いしてるのさ。だから立って。今まで通りに接しておくれ、可愛いケットシー」
と頭を抱きしめる。
「それじゃ、頼んだよ。期限は1週間で。あと、今度またお腹の上で寝かせてね」
「あれは勘弁にゃぁ」
といつもに戻ってくれた。
笑って誤魔化す。
「眠りを邪魔して悪かったね、あぁ、そうだ。あと一つ試したいことがあるんだけど良いかい?」
と服従の首輪を出す。
「これは君に効くのか、試して良い?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
凄い身体をくねらせながら考えている。
「・・・・・・・・・・・・・・良いにゃ」
凄い嫌そうな顔でOKをもらう。
「じゃあ」
と首輪をして、血を垂らす。
「今からケットシーの長よ、そなたは私の所有物だ。首輪を壊してはならない」
(ハーティ、首輪を壊すように言って)
「首輪を壊してみろ」
とハーティが言う。
「良いのかにゃ?」
「うむ」
「では遠慮なく、っ!」
一瞬顔が歪んだが、壊せた。
「痛かったかい?ごめんね、でも大切なことなんだ、次はハーティに試して良い?」
「うむ」
ハーティにもケットシーに手伝ってもらったが、無事に首輪を壊せた。
ハーティには痛みもなかったようだ。
「じゃあ、僕に首輪をハーティ、はめてくれるかい?」
「・・・良いのか?」
「まぁ、いざとなったら所有権を破棄してくれれば良いからね」
「では・・・」
と首にはめられた。
そして宣誓とともに首輪を壊してならないと命じられた。
さっそく、首輪を壊そうとしてみる。
っっっっっ!!痛っ!痛い!!
なんだろう、歯を麻酔なしで抜かれたらこんな感じ?
そして身体の動きが鈍い。
動かないわけじゃないが、首に近づくたびに痛みも増して、身体の動きも鈍くなる。
「・・・・・ぷはっ、駄目だ、外して、ハーティ」
「うむ、所有権を破棄する」
と言うと首輪が勝手に外れる。
「さて、僕は外せなかった、ケットシーは痛みがあった、ハーティは痛みがなかった。この違いはなんだろう?」
「ふむ、魔力に対する抵抗力の差だろう」
とハーティ。
「明らかにこれは魔法を使用している。恐ろしく複雑な式だな。ならば、抵抗できるかどうかは魔法の抵抗力だろう」
「うん、そうか。やっぱり、ありがとう」
さて、これで重点的に伸ばす必要があるものが分かった。
ある意味、これは勝負において一発逆転を狙えるものだ。
僕に首輪をつけられたら、その場で勝負がつく。
・・・まぁ、ハーティ達を間接的に扱おうとしたら意地でも自殺してみせるが。
それぐらいなら覚悟を決めればできそうではある。
「じゃあ、嫌なことにも付き合わせてしまったね。今度お詫びに何か買ってこよう、何がいい?」
「魚!!」
「・・・・・・あればね、探してはみるよ、ではまた」
と手を振ってその場を後にする。
ワイバーンがいるから海の物もあるとは思うが・・・。どうだろう?
干物とかあれば喜ぶかな?
さて、まだ、朝ではあるが、二人ともびしょ濡れである。
「・・・今日は走るのは止めて、お風呂に入ろうか」
「・・・うむ」
見るからに元気がなくなった尻尾である。
・・・
・・・
ハーティが魔法を使ってくれ、二人で風呂に入る。
そうだ、いつもヴィトにしてもらっていたけど、皆魔法は使えるんだった。
・・・ヴィトよ、ごめんよ、気づかなくて。
ちょうどお風呂からあがったところで朝食だった。
さて、賑やかな朝食が終わったところで、皆に思念で指示を出す。
(雨の中悪いが、ハーヴィ、スコールを妖狐の里へ。スコールは昨日のを皆に指示してくれ。怪しい噂程度のものも集めさせてくれ。そして二人でワーウルフのところにいって助力を頼んでくれ)
(うむ)
(了解)
と二匹は出て行く。
「あら?雨の中、どうしたの?」
と母さんが言う。
「うむ、里の様子が心配だというからな、送ってくるのよ」
とハーヴィ。
「そうかい、気をつけて行ってらっしゃい」
と父さんが言うと二匹は笑って「行ってきます」と言って出て行った。
うん、人間世界にも大分慣れてくれたようだ。
行ってらっしゃい、行ってきます、ただいま、この言葉を嬉しいと感じてくれているなら、彼等にとってこの家は帰るべきところと思っているということだから。
「ヴィト、魔法で2つ教えて欲しいんだけど」
「何でしょう?」
「自身から離れたところで魔法を起こす方法、それと魔法の抵抗力を上げる方法」
「ふむ、自身から離れたところで魔法を起こす・・・幾つか方法はあります。魔法は基本的に自身の魔力を使いますが、視界でおさめた任意のところに式を思い浮かべ、そこに漂う魔力を使い、起こす。これは非常に難しい。これができれば自身の魔力を消費しなくて済みます。ですが、やれた人を私は知りません。理論上はできるはずですが。一番簡単なのは任意のところに式を思い浮かべ、自身とその式が結びつくように式の円と自身の間に線を通し自身の魔力を流すことですかね」
と空中で虫眼鏡みたいな図を描く。
「円が重要なんじゃないの?」
「重要ですが、これでも一応円がありますから。私もこれで遠く離れた所に魔法を使いたいときはしています。ただ、魔力の消費量は跳ね上がります。これまた円の形が歪になっているからでしょう」
「ふ~ん」
「あと、意外に任意のところに式を思い浮かべるのが難しい。いつもは頭で思い浮かべているのを、外界に映し出すようになるわけで。慣れてないと変なところで魔法が発動しますね。こう縦に描くのなら簡単なのですが、横に広げるようにするには俯瞰的な視点が必要ですね」
「なるほど」
それなら何とかなりそうだ。
だてにハーヴィの上に乗っていない。
そして前世のゲームでは俯瞰的な視点から行うものもあった。
これができると戦術に幅ができる。
「そして、魔法の抵抗力ですが・・・」
「うん」
ある意味メインだ。
「とりあえず、魔法で痛めつけられるのが手っ取り早いんじゃないですかね?」
「・・・やっぱり?」
「えぇ、毒の抵抗力も毒を食べないと増えませんし。筋力も負荷を与えるので強くなりますし」
「じゃあ、毎食後さ、死なない程度に痛めつけてくれる?」
台詞だけ切り取るとドン引きものだ。
「・・・仰せとあらば。言っておきますが、痛いですよ?身体は頑丈になったことでしょう。転んだり、何だりと痛みを覚えて、強くなってきてますから。ただ、これは未経験の痛みです」
「・・・うん。ガンバル」
「じゃあ、早速やりましょうか・・・手を出してください」
「はい」
「とりあえず雷ですかね、身体と周りに被害がないの」
「あ、各頂点に配するの『痛』でやってみてくれる?記述は『弱め』」
と漢字を蝋版に書く。
「これは?」
「痛みと弱め、うまくいけばこれでできるかなって」
・・・結論を言えばできた。
純粋に痛いのが身体を走りぬける。
なんだろう、虫歯かな。
なんかそんな感じ。
だって雷って下手したら心臓止まりますよ?
「う゛ん゛、効いているヨ。痛い、割と痛い」
「また、何でこんな訓練を」
と呆れる母親。
「服従の、首輪の、対策、のた、めに、あ痛い、痛い、痛い!」
「止めますか?」
とヴィト。
「止め、ないで良、いから!」
と足ツボマッサージを昔してもらったときのことを思い出す。
こんな会話をしたわ。
これの辛いところは、痛みに対してメリットが抵抗力のみというところだが。
「止め、ないで、良いから、昔話をしておくれ。歴史的なっ!」
「そうですねぇ、教会が教えているのとは随分違うかもしれませんが」
と一言を告げて、語り出した。
テイマーになりたいと言ったが魔王になるとは言ってねぇ!(もふもふもっふもふ)
は改め、
動物好きが異世界に行くのならテイマーになるしか道はない!!(もふもふもっふもふ)~やがて魔王へと至る道~
に変更します。
明日の昼とかにでも?
とりあえず『もっふもふ』で検索ぅ!!そこは変わらない、というか譲れない☆