106話 頑張る日々 40「心配と悪だくみ」
「幻滅したかな?」
と笑顔で聞けば皆が黙る。
雨はしとしと。
風はびゅーびゅー。
本心は怖い。
皆に嫌われるのが怖い。
でも、愚かな僕にはこの位しか思いつかない。
でも、愚かな僕にはあれを見逃すこともできない。
そうして動き出したのがハーヴィだ。
小さくなって僕の頭に止まる。
少し爪を立てている。
「幻滅はしとらん。我もあのような輩は罰を受けるべきだと思う。我とて皆の嘆きを聞いたからな。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「どう言えば良いのだろうな。そうだな、こう言うべきか。怖かった。トールが誰か分からなくなりそうで、どこかへ行ってしまいそうで、何をするのか分からなく。そして、あの惨劇が怖かった」
と僕の頭を抱きしめるようにして言う。
温かい。
頭上のハーヴィを撫でる。
鱗が温かくすべすべとしている。
「我もそうだな、怖かったのだろうな。してきた報いを受けさせる、それは理にかなっていると思う。狩るのだから狩られる、自然の摂理の中の一部だとも思う。しかし、我もトールが怖かった。あのトールは見てられなかった、もう二度と見せないでおくれ」
とハーティが僕の頬を舐める。
・・・驚いた、泣いていたようだ。皆を前にすると駄目だな、皆を失う恐怖ばかりがこみ上げる。
「約束はできないよ、ゴメン。また人間が同じ様に何かを痛めつけていたらそうするだろう。僕の群れに手を出したら恐怖を刻み込む。あっさりと殺さない方が、人間には効くんだよ。嫌でも想像するからね、自分がされたら嫌だ、と。でも、気をつける。心配させないですむように次からは気をつけるよ」
と目の前のハーティの頭を抱き寄せる。
「私は途中からだったけど、あんなものじゃん?人間なんて。うん、人間の心理をよく突いていると思ったよ。ただね、どうして私達にやらせないんだい?そこが私的にお怒りポイントなんだけど」
とスコール。
意外だ、まさか認められるとは思っていなかった。
少なくとも認めるとしたらヴィトだと思っていた。
「あんな汚いのにできるだけ関わらせたくない。本当は傷を受けた彼等自身が許すかどうかを聞いて、自分でやるかどうかを聞いて、って手順を踏むべきだと思った。だけど、僕の家族ではない彼等にすらアレをもう見せたくなかったし、関わってほしくなかった」
「あのね」
と肉球でぺちんと頬をはたかれる。
「アレが下衆野郎だっていうのは分かっているの。問題はね、私達も、トールが関わらせたくないと思うように、トールに関わってほしくないの。どうして、そこが分からないかなぁ」
ぺちぺちぺちぺち。
こんな時に言うのもあれだけど、ご褒美です、それ。
大きな肉球が、しかも外を歩いているのになんでぷにぷにのままなの?
はふぅ。
様子に気づいた、スコールが頬をはたくのを止める。
「・・・変態?」
「うん、動物が好きだからテイマーになりたいなんて輩は基本的に変態でしょう。僕に使役する方の才能はないだろうから。動物への愛だけで最上級職にしてもらえたんだよ?そりゃ変態だよ、というかそこは6才以前から変わってないと思うけどね」
と開き直る。
「そりゃそうだ、確かに、変わってないね」
と笑われる。
「まぁ、お姉さんが言いたいのはね、嫌なことは全部自分でしているでしょう?それが歯がゆい。もっと頼っておくれ」
さっきのハーティと逆側を舐められる。
頭を抱きしめる。
「これが性なんだ、諦めておくれ。できる限り君等に汚れ仕事はやらせたくない、でも今回ばかりは頼むことになると思う」
「良いよ、何でも頼んで」
とすりっと頭を擦りつけられる。
ぽんぽんっと頭を撫でる。
「スロールは?」
「皆と同じです。怖かったですし、トールがあのようなことに手を染めるのは嫌でした。でも軽蔑はしていません。魔物を思ってのことでしょう?」
「遺憾ながら人間もね。あの1人を見て、あの王都の魔物を自身の楽しみのために傷つけようとした20人が止める切っ掛けになればとも思っているよ」
自嘲しながら言っていると、ふと目の前に影ができた。
見上げれば、スロールがいる。
一番音をさせないのはスロールかもしれない。
「私が願うのはトールの幸せです。皆のために自分をすり減らさないでください。長として、掟を破った者を殺すことはあります。しかし、愉快なことではありません。同族殺しは心をすり減らしていきます。私はそれが心配です」
と抱きしめられる。
「皆のために犠牲になろうなんて思っていないよ、辛ければ相談する。それに僕にとっては人間への同族意識はあまりないみたいだ。ジョブのせいかな、魔物や動物の方にどうしても惹かれてしまう。でも心配してくれてありがとう」
と抱きしめ返す。
「さて、お兄ちゃんからは?」
「もう良いでしょう、それは」
と苦笑いでヴィトに返される。
「皆に言いたいことは言われました、そして聞きたいことも聞けました。私からは特に何もありません」
と肩を竦めて答えられた。
手招きする。
近づいてきたところをがばっと捕まえる。
「いつも心配をかけるね」
「それが仕事ですから」
「ありがとう」
・・・
・・・
まったりとした時間を楽しむ。
しかし、夜にも限りがある。
ここいらで話さないといけないだろう。
「さて、以前両親に人間には下劣な輩がいるから、話すのを躊躇ったことがあったのを覚えているかな?7才の誕生日の夜だったか」
「うむ、今日のを見て、お主の危惧していたことが理解できた」
とハーヴィ。
皆も真剣に頷く。
「あのクズにも役にたつところがあったみたいだね」
と笑顔で返す。
「でも、あれは軽い方だと思う。僕はもっと凄惨な道具を使った物を知っている。凄惨な拷問を知っている。だからね、秘密にすべきことは秘密で進めたい。スコール、君には苦労をかけるが、以前の火薬の件は頼んだ」
「おっ任せい!あんなの朝飯前だよ!!」
とドヤっとポーズを決めて言う。
いや、綺麗だけどね。
大言壮語はいつか跳ね返ってくるのだよ。
「じゃあ追加で、妖狐の長たるスコールよ、その全種族をもって今回のような動物や魔物を嬲ることで快楽を得る下衆を探し出せ。火薬の件は一度置いておいて良い。明日から行動させよ、全王都、全都市、全村で。悪いがこれは命令だ」
「えっ、ちょちょちょい待って!幾らなんでも人数が足りないよ!!」
と悲鳴を上げる。
うん、焦った顔の狐も可愛い。
「この世界では人狼、ワーウルフなんていう普段は人間、ある時は魔物みたいな種族はいないかい?あるいは人間世界で暮らしていける程度に化けられる者」
「ワーウルフはいるね、狸さん達もどうにか?」
「愛し子が魔族の救済のために調べているからと協力を仰ぐと良い。なんなら僕が出向く。明日ケットシーにも全猫を動員させる。期間は一週間」
「その期間が終わったら?」
とヴィトが言う。
「裁きの時を迎えるだろう」
と返す。
「ハーヴィ、龍の長よ。本来は僕が全部の下衆を懲らしめてやりたいが、僕の意地を通せばその分傷つく者が増える。傷が増える。その間に死ぬ者がいるかもしれない」
「ふむ、それで?」
「だから、これはお願いだ。君の眷属に手を汚して欲しいという、なんとも呆れ果てた願いだ。スコール達の情報を元にそいつ等を罰してほしい」
「うむ、承った。そのように頼れば良いのだ。具体的な案はあるのか?」
「オークを乗せて、そいつの家に襲撃をかけてもらいたい。
そうして、オークに首輪の装着をさせて、
1:自身の所有物の全ての所有権の破棄
2:自殺の禁止
3:自傷の禁止
4:できる限り、生きること
5:自身が魔物を傷つけた分だけ、他者の手によって傷つけられること
6:自身が魔物に与えたよりも上等なご飯を食べるのは禁止。
7:自身が魔物に与えた傷で忘れたものがあれば、それは例外とする。
8:自身が魔物に与えた傷と食事をとり終えた後は自由となる
9:首輪と小屋が破壊されそうになったら両目を脳に達するまで潰すこと
を命じて欲しい。
そうして、全てを石で良いから小屋を道に作って欲しい。首輪への指示は大きな声で道行く人に聞こえるように」
風の音が大きくなる。
「責任は僕がとる。僕が声明を出すから、それをそのまま王都や全人口に聞こえるように、そうだな9匹ほど、風の魔法で拡声を使えるのを配置させておいて。その後に襲撃をかけて欲しい」
「・・・トール、その声明はどのような?」
あ、ヴィトが気づいた。
「もちろん、神に祝福されし愛し子の名の下に、で始める。魔物に非はない。これは僕が考えた、僕の案だ。責任は僕がとるよ」
「また、そうやって!!!!!魔物が虐待されていれば私達だとて怒りを覚えます!!あなたが背負う必要はありません」
「ある」
ヴィトの目を見て、即答する。
「魔物は善でなくてはならない。恐怖は僕に集まれば良い。魔物が善であり、害をなさないと思えなければ魔物は人間にとっていつまでも害悪のままになる。魔物と人間の共存はそうでなければ遠ざかるばかりだ。だからこれは僕が命じたことにする、僕の理想の世界の為に。例え、その親族に僕が憎まれようとも、狙われようともね」
タイトルはあと次話投稿したら、以下に変更します!
「動物好きが異世界に行くのならテイマーになるしか道はない!!(もふもふもっふもふ)~やがて魔王へと至る道~」
とりあえず、『もっふもふ』を検索キーワードにいれとけば大丈夫です!
・・・結構タイトル気にいっていたんだけど。似てるのがあったら仕方ないよね(ぐっすんおよよ
以下いつもの!
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!読者の皆様からの反響はとてもモチべUP要因です♪
是非ご贔屓に◎