104話 頑張る日々 38「治療院とスラム」
「さて、と言っても俺がやるべきことはすんだ」
と鉄の棒を投げ捨てる。
まだ人の焼ける匂いが満ちている。
あぁ、臭い。
「後は自身で切り開くと良い、自身の道を。我が奴隷よ四つんばいになれ」
許しを乞いながら、命令に逆らえず四つんばいになる店主。
「よく聞け。これから命令を下す。これはお前の命に関わる
1:首輪が切れる前に自殺しろ。
2:自身の意思での自殺は許さない
3:これからお前の小屋を作る。小屋が破壊された時は自殺しろ
4:自身を罪の清算の為以外に傷つけることは許さない
5:罪の清算の為に傷ついたら止血をしろ、できるかぎり死ぬことは許さない。殺されそうになったら自衛しろ。
6:お前は罪の清算の為に、これから町の人間の手によって、自分が魔物に快楽の為にしてきたことをしてもらわなくてはならない
7:お前は罪の清算の為に食料も水も、お前が四肢を切った者に与えたものより上等な物を、そして回数を超えてはならない。
8:お前は罪の清算が済むまで、22:00から24:00まで右腕を切り落とした時の痛みを味わうことになる。
9:罪の清算はお前が快楽の為に魔物にしてきたことを全て終えたら終了となるが、思い出せないことは例外とする。
罪の清算が済んだとき、お前は小屋から出ることが許される。その後は基本的に好きに生きるが良い、ただしどこかで外食するならば自身の行ってきたことと、そして自らに返って来たその結末を、まるで冒険譚のように語らなくてはならない。もちろん他者を快楽の為に傷つけることは許さないよ」
そうして、鉄の棒を地面に刺していく。
力任せに。
地面は舗装されているが、力を込めて突き立てれば、突き立った。
奴隷を鉄の棒で囲っていく。
「兄よ、野ざらしは哀れだから、天井を作ってやりたい」
とヴィトに声をかける。
「・・・この辺の舗装されている地面をもらいましょう」
と蓋になりそうな位の大きさで地面から剥ぐ。
・・・あれはどういった魔法だろうか。風で切ったのか。
そうして、蓋をすると、蓋がぐにゃりと鉄に自ら刺さっていく。
そうして途中で固まった。
・・・その技法は考えていなかった。力技で刺す必要がなかったな。
「兄よ、このままでは通行人の邪魔になる。こいつをそうだな2mは上に上げてくれ」
「分かりました」
地面から小屋が上がっていく。
小屋の部分だけ土が盛り上がっていく。
俺も魔法で。5つの頂点に配するは土、記述は固くなれと補強だけはしておいた。
ヴィトは剥がした部分の舗装と、薄くなった周りの地面を均したりしてくれている。
流石に気がきいている。
あぁ、あと文句を書いておこう。せっかくのオブジェだ。
『末路~快楽の為に魔物を虐待した者~』と裏と表に。
『牢を壊すと自殺します。罪を償うまで牢から出られない哀れな罪人です。この者が罪を償うように手助けをお願いします』と左右に。
「ご、ご主人様!!!???」
「なんだ」
文句を彫りながら答える。
固くする前に書けばよかった。
面倒だから力任せに鉄の棒で刻んでいる。
「私めの食料は!?私は他にも足を切り落としたりしました、鞭で打ったりもしました!この高さでは皆に私の罪を雪ぐ手伝いをしていただけません!!!!!」
「知るか、食料?恵んでもらえ、足を切り落としてもらう?檻にはその程度の隙間がある、足を出して適当に切り落としてもらえ。鞭?知るか。高いというなら、高さを低くしても構わない。そうしてくれる誰かがいるならな。では、またいつか。その日まで生きながらえていることを願うよ」
「ご主人様っぁぁぁぁぁぁあぁああっぁああああああああああああ!!!!」
「俺達でなくては死ぬ罰を、ちゃんとお前が死なないようにこの手でやってやったんだ。感謝されてもいいくらいだ。あぁ、龍よ、この刃物もどきを半分に」
ハーヴィが無言で切り落とす。
「ありがとう。そら、くれてやる」
天井に刺さる勢いで投げる。
よし、見事に刺さった!
これで檻に弾かれたら笑い者だ。
「それで衣服を裂いておくと良い。止血のためになろう。止血のコツは怪我した箇所よりも心臓に近いところをきつく縛ることらしいぜ」
僕の家族を見渡し、
「さぁ、では皆行こうか」
群集が僕等を見ていることに気づいた。
まだ、いたのか。
仕方ない。
「さぁ、お集まりの皆様、そういうことで自身の悦楽のために魔物を傷つけた者は同じ仕打ちを受けることとなった。我が奴隷に慈悲をくれるよう、主たる僕からもお願いしておこう。足を切り落とすことを求められたら切り落としてやってくれ、鞭打ち100回ならば打ってやってくれ。食事がカビの生えたパンだというなら分けてやってくれ、それでは皆の愛と慈悲を願い、これにて失礼つかまつる」
おどけたピエロのように礼をし、歩き出す。
あっ、
「そこのお兄さん」
「ひっ!何ですか!?俺は魔物なんざ買ったこともねぇよ!!!!!!」
だったらそんなに怯えなくとも。
(ちなみにハーティ、これは本当?)
(本当だ)
「いえね、修道院というのかな?怪我人が治療してもらえるところを知っていますか?」
「・・・は?」
悪魔が洗礼を受けたいと言ったのを見たような顔つきだ。
「だから怪我人が治療してもらえる、教会系列のところ」
「・・・・・あぁ・・・・・、市民街の方で、こっから3だか4だか向こうだ。城寄りの方で明らかに周りと外観が違うから分かると思うぜ」
「ありがとうございます」
とぺこり。
「我が奴隷をよろしくお願いしますね、噂を広めるだけでも構いませんから」
「お、おぅ」
酷く、嫌そうな、語りたくもなさそうな顔で答えられた。
・・・
・・・
(さて、皆、言いたいこともあろうが、それはいつもの山に行ってからにしよう。まずはスラムと治療所だ)
皆から無言ながら、頷く気配を感じる。
「っと、ここか」
確かに周りと外観が違う。
教会らしい教会がある。
両開きの扉、先が尖っている屋根。建物の上の方にはイネガル神と思しき像がある。
また、これがデカイ。
魔物商と比べるまでもなく大きい建物だ。
礼拝の日とか決まっているのかな?
まぁ、教会ではなく今回の目当てはその横に設置してある治療院なのだが。
治療院はなんというか、四角い。
大きさは教会ほど、つまりこれまたデカイ。
「すみませ~ん、人間ですが、どなかいらっしゃいませんか~?」
と声をかければ足腰の弱ったお婆さんが出迎えてくれる。
ぎょっ!とした顔をしたが、被り物を上下にすぽすぽしてみせれば安心した顔になる。
「おや、まぁ、どうしました?」
「教会と縁がありまして、ついでに治療院がどうなっているかを覗きにきました。軽く見ていっても?」
「えぇ、構いませんよ」
・・・ここでは被り物を取るか
久しぶりに被り物を脱いだ。
「弟よ、それは良いのですか?」
「うん、魔物被害の人もいるだろうから。だからお兄ちゃん以外はここで待機。良いね」
と皆の頭を撫でる。
「お姉ちゃんもここにいてくれる?魔物だけだと怖がる人もいるだろうから」
とスロールに言う。
「分かりました」
と微笑んでくれる。
・・・内心がどうだか分からないが。
治療院は想像した通りだった。
ひっきりなしに看護師を呼ぶ声。
食事も冷え切ったものばかり。
いるのは老人が多い、捨てられたのだろうか。
救いは看護師がまだ壮年の人が割合多いということだろう。しかし数が足りていない。
窓が無い部屋も多く、看護師は汚物の処理に明け暮れている。
治療らしい治療はできていなさそうだ。
効率的でないからそうなのだろう。
うん、シーツなども汚れたものばかり。
想像通りだ。
誰が病気の人の世話をしたがるだろう?
病気の人の近くにいれば病気になる確率もあがるというのに、それくらいはもう人間の歴史としては感じているだろう。
ナイチンゲールのことを知っていて良かった。
彼女がしたことを、彼女が進めたよりも先に進められる。
出口に戻り、お婆さんに声をかける。
「ありがとうございました、参考になりました」
「おゃ、そうかい?なら良かったよ」
とふがふが笑う。
「職員の人の数はどうですか?減ってきていますか?増えていますか?」
「残念ながら減っているねぇ」
「ありがとうございます、では僕たちはこれで、お時間をお取りいただきありがとうございました」
と丁寧に礼をする。
「また、寄って行ってね、若い子が来ると皆も元気になるから」
「えぇ、必ず」
と手を握って返答する。
扉を出る前に被り物を被る。
次はスラムだ。
「スロール、皆を連れて門のところへ。先程の魔物達も連れてね。ヴィト、君は一緒に来てくれ」
もう何を言っても無駄と思っているのか、各々から了解の思念を受け取る。
「弟よ、スラムにはどのような観点で?」
「ん~、治安と大きさと生業と、かな」
「ふむ・・・」
・・・
・・・
市民街から東へ東へ、そして城から外れたところにスラムはあった。
もう見るからにスラム。
だって、何か線が引かれているかのようにいる人の層が違う。
「おい、お前等、こっち向けや」
と男の声がする。
振り向くと、
「っっ!化け物か!!」
といきなり刃を振り下ろされる。
えっ、それは酷くね?
皆そこまで過剰反応しなかったよ。
とっさにお腹を殴ってしまった。
手加減できなかったけど、殴った感じ胸当て?胴当て?をしていた様子。骨は折れていないだろう。
男はそれこそ左足がなく、そこに棒を突っ込んでいた。
棒は無事だったようだが、殴った先のたぶんその人の椅子は壊れた。
「こっち向けって言って、向いたら刃物って酷くない?」
「えぇ、酷いですね。その被り物で何人を驚かしてきたか考えると全面的にあなたが悪いので、それで殴るとか更に酷い」
「いや、驚かせるのは良くない?え?駄目?性格が良くない?そんなぁ」
と世間話をしながら目を回している男をかる~く往復ビンタで目を覚まさせる。
「・・・ん、あ、ああっ!化け物!!」
「人間です、ほら」
と被り物をスポスポっと上下に揺らす。
「お、おぉ?そう、そうか?」
とヴィトを見て言う、男。
そんなに疑わしいのか。
「本当です、弟が被り物をしているだけです」
とヴィトが深~いため息とともに言う。
「そうか・・・・・お前のところの弟、感性が変じゃねぇか?」
「おいおい直します」
直されるの!?
「んで?何の用だよ」
おい~っ!お前が声をかけてきたんだよ~~~!!
「それは僕が聞きたいな、こっちを向けって言われたから向いたら刃物って酷くない?」
「・・・・・・あぁ、悪・・・くはねぇな。そんな姿をしている奴が悪い。俺は門番みたいなもんよ、ここを通りたければ金を置いていけってな」
「で?門番は何人いるの?」
と呆れた声で言えば、呆気に取られた表情をした後に笑い出す。
「大したガキだ、さっきの一撃と良いな。門番?知らねぇよ!強いて言うなら全員門番だ」
と豪快に笑いだす。
「そんなにたくさんの門番を相手にしたくない場合はどうするの?」
「あん?俺を案内人に雇いな、そうしたら手を出してくる輩も減るぜ」
「その足は?」
「ダンジョンでな、ヘマをした。それ以来、どこも雇ってくれなくてな。ここに来たってわけだ、どうする?」
「うん、正直者だね、気に入ったからあなたにしよう」
と1枚金貨を渡す。
「門番代と椅子代と案内代だ」
「へへっ、どうも。金貨とはね、顔も隠しているしお貴族様かい?」
「さてね、貴族も来るの?ここに?」
「たまに奴隷商を通さずに買ってく奴等がいるな」
「・・・ふ~ん」
「で?案内ってのはどこを案内すれば良い?」
「ぐるりと一周」
「ざっくりしてんな」
「スラムの住んでいる人とかを見たいからね」
「そうかい、俺の名前は必要かい?」
「そうだな、何て呼べば良い?」
「今は案山子で通っている、それで良いだろう?」
足を見て、顔を見る
「案山子」
「そう、案山子さ」
「あなたに失礼でなければ、それで」
珍妙な物を見る顔をしてこっちを見る。
「変わってんな、本当に。スラムの住人なんて奴隷みたいに扱うのが普通だろうに、失礼でなければ?はははっ、気に入ったよ、良い男になるぜ、坊主。感性さえまともになればな」
余計な一言だ。
そしてスラム街を歩く。
腐った木の家、汚物の臭いは市民街より少ないのが意外だ。
ただ、ホームレスの傍を通ったような臭いが酷いが。
身体を満足に拭けていないのだろうか。
「あまり思ったより汚物の臭いがしないね」
「お、気づいたか!あっちは道路を舗装してしまったからな、地面に穴掘って捨てることもできないのさ。だが、こっちは舗装もされていない、だからできる。だいぶ違うだろう」
「うん、結構、家がガタが来ているね?壊れないの?」
「それぐらいで文句なんぞ言ってたら罰が当たらぁ、家があるだけでこの辺じゃ裕福だぜ」
「ふ~ん」
物乞いが多い。
子どもも多いが目が死んでる。
遊ぶ気力もなさそうだ。
ありきたりなお恵みを、の台詞はない。
現金じゃなくて現物が欲しいのだろうか、もう動けないのか。・・・それとも死んでいるのか。
子どもは寄ってこようかどうしようか迷っている。
たぶんこの被り物のせいだろう。
金は欲しい、けど何だか分からないから怖い。
それと案山子が目を光らせている。
それもあるのだろう。
「ここの収入源は?」
「あん?門番代、衣服を洗濯してやる代、刃物を研いでやる代、市民街とかの汚物の処理代が多いかな」
「つまり、追い剥ぎ代と汚物の処理代ね」
「そう捉えるやつもいるかもな」
と獰猛に笑う。
「このスラムを管理している人は?」
「古株の爺がいる。皆、あの人の言うことは聞く。元聖職者だったらしいが、ここの住人を見捨てきれずにここに収まったって話だ。彼を敵に回したら俺でも庇いきれねぇ、絶対に止めておけ」
と真剣な表情で諭された。
ふむ、意外な治安の良さは案山子の腕によるものだけではないのか?
「聖職者が追い剥ぎを認めているの?」
「命には代えられないだろうと、な。だから悪いな」
気づいたら行き止まりらしい。
ぞろぞろと後ろの退路を断つように男達がやってくる。
「お前さん方は良い奴だ。俺等を見下したりしねぇ。だから衣服や必要なものはそのままにしてやる。金をありったけ寄こせ、怪我をさせたくないんだ」
と歪な笑顔で案山子は言う。
「うん、これぞスラムって感じだね。案山子さん、あなたは良い人だから、僕も頑張って手加減をしようじゃないか。さぁ、戦士達よ!金が欲しければ僕を倒せ、今なら後ろの兄は参戦しないおまけつきだ」
男達の顔が変わる。
怒りの表情だ。
「「「「「「「「「「舐めてんのか!だったらぶっ殺してやんよ!!!!」」」」」」」」」」
人間は楽だ。
何が楽って痛めつけるのに良心がそんなに痛まない。
何人かはジョブについていたようだが、先頭の男を思い切り突き飛ばせば狭い路地裏だ、何人もが巻き込まれる。やけに刃物の扱いが上手いやつもいたが、そもそものスピードが違う。動体視力が違う。
・・・俺、こんなに早かったっけ?
そう疑問に思わないでもないが、顎をかすめるようにパンチをしていけば数秒で片がつく。
「案山子さんもやる?」
「・・・いや、良い。ほらよ」
と指で弾かれたそれは金貨だった。
「これで見逃してくれや」
こっちからも金貨を指で弾く。
「冗談。こんなのは予想内だ。あなたは案内を忠実にしてくれたに過ぎない。これもスラムの一部だろう?その金を返される謂れはない。まだ案内してもらってないところに案内してもらって良い?」
「あぁ、どこだ?」
と頭を掻きながら答える男。
「さっきのここいらの偉いお爺さん」
「・・・正気か?」
「正気」
「あの人に何かあれば例え国が違っても殺しに行く、そんな頭のネジが吹っ飛んだやつはたくさんいるぜ?」
「何もしないさ」
「・・・俺も付いて行くぞ」
「ご勝手に」
と肩を竦める。
「あの人達は?」
「死んでなきゃ起きるだろう」
「そりゃ真理だ」
と軽口を叩きながら、たぶんスラムの中心にきた。
活気があるというのだろうか。
どこか淀んだ活気である。
その中に小さな小屋があった。
「ここだ」
「・・・もっと大きいところがあったね、あそこは?」
「あれは孤児院だ」
「・・・王家はそのことを?」
「さてね、知っているのかいないのか。少なくとも皆でどうにか食わせてるぜ」
「きっと、あの建物はここの人の為のじゃなかったのかい?」
「そうだよ、だが一人ものには大きすぎるとな、こっちに移動したんだよ」
ノックをして、
「入るぜ、爺さん」
「おぉ、案山子か。そちらの方々は?」
サンタクロースみたいなお爺さんだ。
しかし、仮にもスラムの長。
そして好意を皆にもたれている。
それだけでも敬う対象足りうる。
敬意を。
被り物を脱ぎ、挨拶をする。
「スラムの為に自身を削る、偉大なる聖職者様。お初にお目にかかります。私はトール、こちらのものは私の従魔であるヴィトと申します」
心よりの礼を捧ぐ。
タイトルは近々、以下に変更します!
「動物好きが異世界に行くのならテイマーになるしか道はない!!もふもふもっふもふ)~やがて魔王へと至る道~」
以下いつもの!
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!読者の皆様からの反響はとてもモチべUP要因です☆
是非ご贔屓に♪