101話 頑張る日々 35「扱いと流れ」
さて、また門に入る。
門番の「こいつ等出たり入ったり面倒くせぇ」という顔はスルーする。
うん、だってそういうシステムだもん。
システムに従ってるんだから文句は言わせない。
っていうか、面倒なのはこっちも同じなんですぅ!!
お決まりの確認とお決まりの挨拶で抜ける。
そう言えば何しに来たのか、とかは聞かれなかった。
関所とか門番とかはその辺の確認とかも大事だと思うけど。
性善説なのか、端折っているのか、特に悪人が出ていないのか。
どうなんだろう。
この世界ではスパイはあまり気にしなくて良いのだろうか。
この世界の歴史にますます興味が出てきた。
そういえば、地図もいらないと思っていたけど、よく考えたら必要か。
山があるから乾燥する、季節風がどうなっている、川の氾濫はどうだ。
地形位は把握しとくべきか。
そんなことを考えながら、道行く人に尋ねながら貴族街の奴隷商の所へ行く。
・・・とりあえず、僕を見てギョッとするの止めてくれません?傷つくんですけど。
(けど被り物は取れない。呪われているわけではない)
そんなこんなで奴隷商の元へ。
あ、今気づいた。
これ被っていると汚物の臭いがあまり気にならない!
奴隷商の店に辿りつく。
ここも他のところに比べて大きい。
他の何店舗分だろうか。
外からだと分からないけど、何階建てだろう?3階かな?
・・・門番はいない。
仕方ないから扉を開ける。
「すみません~」
とヴィトが声をかけると、
ようやく女性がやってきた。
こちらも美人さんな奴隷ではある。
ヤットーさんの所と考えることは一緒か。
違いは扉の前で控えているかどうか。
まぁ、他の仕事と重なったのかな?
他の店もその程度だし、ヤットーさんの所の対応がおかしいのだろう。
「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか」
と女性が言うと、後ろから太った方 (オブラートを3つ位消費した表現)が駆け足で向かってくる。
ドッスン、ドッスン、ドッスン。
・・・あなた、階段昇れるの?途中で床は抜けませんか?
「これはこれは、いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。私は店主のギドと申します。本日はこの新種の魔物の買取ですか?」
と荒い息でハァハァ。
・・・この店は駄目だ。駄目駄目だ。
何で店主が奴隷と同じことを聞くんだよ。
店主が先に来れば良いじゃんか。
女性も私が聞いていたのにって顔に出てるよ、後ろ見ろ後ろ。
「使えねぇ豚が」って顔した美人がいるから、ぶっちゃけ怖いから。
っていうか、新種の魔物って僕のことだよね?
ヤットーさんなら顔に出さないし、万が一の為に自分から新種の魔物とは言わないぞ、絶対。
一言で言うと、ヤットーさん講義を受講しろ。
更に一言付け加えるなら、鏡を見ろ、新種の魔物がそこに見えるぞ。
「・・・これ、うちの弟です。この被り物が気に入ったようで」
とヴィトも呆れた様子。
「・・・これはこれは、大変失礼いたしました。弟さんも変わった感性をもっていらっしゃる!お面をつけた方は多けれど、このような珍妙な物は初めて見ました!」
と、がはははっと豪快に笑う。
お前、珍妙って、本当は失礼したとか思ってないだろう。
ちなみに喋る珍妙な豚が目の前にいるんだが、この野郎。
「本日は魔物が欲しくてですね、見に来ました」
とヴィトが溜息とともに言う。
「おぉ!うちの店には多様な魔物がいますからな。きっとお客様の目に留まるのもいるでしょう。どのような用途で使うか伺っても?最適な魔物を提供させていただきます」
ふむ、自信がある様子。
この辺は商売人。
うん、良い接客だ。
「とりあえず、見ながら考えます。全部見せていただいても?」
「えぇ、もちろんです!1階から案内いたしましょう」
と案内される。
「1階は護身用の魔物になります。強い魔物を揃えておりますよ」
家の造りはヤットーさんのところと同じ様だ。
長い通路の奥に魔物がいる部屋がある。
道を挟んで両側に巨大な檻がある。
違うのは、やけに傷ついた魔物が多いことだ。
「見ての通り、魔狼、オーク、ハーピィ、土蜘蛛、大蛇、バジリスク、コカトリス、トロールなどですな。お勧めはバジリスクですな、コカトリスは扱いづらいので」
「傷が多いね、どうしてなの?」
「捕まえる際についたのでしょう、どれも凶暴ですからな、首輪がないと。ただ、首輪があれば、ほら!」
と鞭でいきなり魔狼を叩きだした!
魔狼は声も出さずに直立している。
「こんな風に恐れることはありません。あなたの家に忍び寄る危険に対処できるでしょう」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・予想はしていた。けれど、予想が当たってこれほど嬉しくないこともないだろう。
(ねぇ、ここに捕らわれている皆よ、真実を答えよ。その傷は捕まえられた時だけのものか)
(((((((・・・・!・・・!・・・・・・!!))))))))
(・・・・・・・ありがとう、絶対に君達を助けることを約束しよう)
「凄いねぇ、ねぇ、そういえば、昔に神様が首輪で魔物を従えない方が良いって言ってたって聞いたんだけど・・・買って大丈夫かなぁ?」
と声のトーンはさっきと変えないように気をつけながら聞く。
「あぁ、王からお触れはありましたね。止めよ、どうしても続けるならば自己責任であると。ご安心をあれから何年ですかね?6だか7だか、続けておりますが、何も起きてませんよ」
と目線を合わせて、にっこり笑顔を見せてくれる。
あぁ、それ位の気遣いを皆に見せていれば・・・・・・・・・・地獄を見ないですんだのに。
「護身用以外の魔物も見せて?」
「えぇ、勿論でございます。2階になります」
と案内される。
「こちらですね、ここでは農作業や観賞用といった力が弱い魔物を置いています。一部亜人もありますがね、3階がぎゅうぎゅうで」
と照れ笑いをする店主。
「3階には何がいるんです?」
とヴィトが問うと、
「人間と獣人です。やはりですね、スラムから流れてというのが多くて。人間が一番多くて。それでこちらの階ですと、ドワーフ、エルフが一番人気ですね、次いでドライアド、ゴブリンも需要が高いですね、安価で数を揃え易く、なかなかに器用ということで」
あぁ、鞭の跡がくっきり残っているゴブリンがいる。
・・・もうこの店はいいや。
「ねぇ、コカトリスが気になるんだけど、いくら?」
「2プラチナになります」
「あ~ぁ、足りないや、ねぇ、お兄ちゃん?」
「そうですね、残念ながら」
ヴィトが察して答えてくれる。
「予約しておきますか?」
「うぅ~・・・・、良いや、またこの街にいつ来られるか分からないから」
「ということで、すみませんね、ご主人。冷やかしになってしまい」
「いえいえ、魔物を買おうとする方にはよくあることです。思ってたより値が張るということは。バジリスクなんかだと1プラチナですが?」
「うぅん、バジリスクはあっちの国のところにもいたから。またお金が溜まったら来るよ」
「そうですか、せっかくのご旅行に手ぶらというのも何ですね、1プラチナにまけましょうか?その代わりに向こうの国で宣伝していただくとか・・・」
「わぁ!良いね!足りる?お兄ちゃん?」
(足りないって言って)
「ごめんなさいね、帰りの旅費もありますし、なにかあった時の為に少し残しておきましょう。コカトリスをお土産で買うより、食料だとか衣類の方が母さん達も喜ぶでしょうから、また今度にしましょう。なに、数ヶ月もすれば買えるだけの貯えはできましょう。今度の誕生日に買ってあげますよ」
「本当!?やったぁ!」
「良かったですね、ではご予約は?」
ヴィトがスススっと店主に近寄り、耳打ちする。
「いえね、ご主人、次来た時は弟はたぶん忘れていますから、その時いるので気に入ったのを買いますよ」
とヴィトがこしょこしょ話してくれる。
「あぁ、貴族のお子様には多いですからね、分かりました」
と店主も小声。
ハァハァ言っている。息切れ早いよ!!
「では、すみませんが、私達はこれで」
「はい、かしこまりました。また誕生日の際にお越しいただくのを心よりお待ちしております」
・・・二度と来ねぇよ、こんな店。
・・・
・・・
「さて、トール、どうしますか?」
とヴィトが聞いてきた。
「どうするって?」
「あの店です。むやみに魔物が傷つけられていたようですが」
「逆に君等に問う、どう思った?彼等を見て」
「魔物は尊厳を見せしめのために冒したりせぬ、飯も出したり、出さなかったり。ゴブリンが、ケンタウロスが、ユニコーンが、繁殖のために人間の雌を捕らえることはあろう。だが、見せしめのためではない、享楽のためではない。繁殖のため。群れのためよ。あぁまで落とされるためではない」
とハーヴィ。
「兄の言う通りだ。弱肉強食とはいうがな、強ければ何をしても良いというものではない。自身の享楽の為に他者を楽しんで傷つける。そのようなことは外道のやることよ」
とハーティ。
「見ていて気分が良いものではないね、殺してやろうかと思ったよ、正直」
とスコール。
「スコールと同じです。我が群れの一部に自身の弱さ故とはいえ、あのような姿をさらさせるとは。いつ以来でしょうか、こんな気持ちは」
と珍しく顔を歪めて怒るスロール。
「皆程までに怒れはしませんが、店主の下劣さに辟易としました」
とヴィト。
「うん、ありがとう。でもね、たぶん僕が皆の中で一番怒っている。スロールは自身の群れの一部が、と言ったね。でもね、僕にとってはあの子達全てが僕の群れの一部なんだ。それを自身の楽しみに?ストレスの発散に?もうね、死ねよって気分。でもね、殺さない。良い機会だ、人間の悪意がいかに底がないかを皆に見せてあげよう」
被り物で見えないだろうけど、気分はいっそ上々。
どうしてくれようか、拷問?
拷問器具は幾つも知っている、拷問の方法も幾つも知っている。
でも、それじゃ駄目だ。
見た人間が想像がつくほどの痛さで、見た人間が想像できそうなほどに悲惨で、見た人間が噂にしたがるような見栄えで。
そう、噂にしてもらわないと困る。魔物の虐待は破滅につながると。
あぁ、楽しみだ。
と。知らず知らず、メインストリートの方向に向かっていた。
まぁ、良い。ひとまずはお菓子とか買って帰るか。
いや、鉄を買わないと、共同釜を作れないか。
結構これからも使うだろうし、量を買っていくか。
となると、鍛冶屋のギルドにでも行くのが良いのだろうか、どこで鉄をたくさん買えるのか。
そんなことを考えていると、メインストリートが騒がしい。
何があるのだろうか。
メインストリートの真ん中で、何かが行われているようだ。
わーわー騒いでいる。
正直、今の気分で聞きたい類の声ではない。
しかし、気になるのも事実。
人だかりの一部で一番外周にいる、つまり、目の前のおっさんに聞いてみる。
「あのぅ、何が行われているんですか?」
「あん?うっせぇ、おわ!!!!????????」
と顔に傷がたくさんついたヤクザみたいなおっさんが、かなりの勢いで後ろに飛びすさった。
そうなると、もちろんその後ろの人にぶつかるわけで。
うわ!?
ぎゃっ!
痛い!
ってぇ!
おっ!
おわ!!
ゴっ (無言)
立派な人間ドミノ倒しになった。
「なんだテメェ!」
と刃物を持ち出すおっさん。
先端の丸い部分を握りこみ、刃も短い。珍しい形状だ。
他の場所からも悲鳴があがり、人だかりに空白ができる。
僕を中心として。
・・・そんなにこの被り物駄目かなぁ?
被り物がそもそも浸透していないからかな。
周りの反応が楽しいから止めるつもりはない。
意外と空気穴も確保されていて通気性も良いのだ。
「これは私の弟で、被り物です」
とヴィトが言い、僕の被り物を髪が見えない位にすぽっすぽっと上下に揺らす。
「すみませんね、驚かしたようで」
「お、おぉ、人間か。ダンジョンでも無ぇのに魔物かって驚いちまった、悪いな坊主、こんなん出して」
と刃物をしまい謝ってくれるおっさん。
ヤクザみたいって思ってごめんなさい。ダンジョンに潜る系の人だったのね。そして案外優しい。
後ろからだと分からないんです。普通の人だと思っていました。
「んで?あぁ、そうだ、この人だかりか」
とおっさんが後ろにいた人に謝りながら手を差し伸べて起こしている。
・・・訂正、周りの反応が良いからって被るのは止めようかな。凄い罪悪感。
でも、顔バレしたくないから結局は被るけどね。
「ほら、お前さん達のせいで空いたから見えるだろう?」
そこには、魔物に鞭を振るうおっさんが・・・
「流れの魔物商だとよ」
皆様、お久しぶりです。うなぎうなぎです。
さて、皆様はお元気でいらっしゃるでしょうか。
うなぎうなぎは更新が滞っていたように・・・・・・・・・絶賛大不調でした。
頭が痛いのなんの。気圧のせいですかね。パソコンとかいじっていられなくて。
スマホゲームのログインボーナスも受け取り忘れる日々です。(何かは内緒)
緊張性の頭痛はストレッチが良いみたいですね。
1時間に一回は手を上げたり、壁に手を当てて擬似腕立てとかしたり、片周りの緊張をほぐしましょう。
さてさて、後で活動報告でも書きますが、作品タイトルを変えようと思っています。
急にではなくて、決まったら数話かけて告知してから変えます。
本屋で見つけた~物語さんの副題とよく似ているのに気づき、あ、やべっとなった次第です。
タイトル短いとその分似ている程度が酷くなっちゃうんですよね。失敗(てへっ☆
以下いつもの!
皆さんからの後書き上の「勝手にランキング」の1日1回ぽちっと、感想、評価、いずれも楽しみにしております!読者の皆様からの反響はとてもモチべUP要因です☆
是非ご贔屓に♪
我ながら長い後書きになったことだ。。。