100話 頑張る日々 34「忠告と解放」
さて、お昼のスープを飲んだ、果実も食べた。
いざ、王都へ。
この前の騒動を忘れていないので、王都の門からちゃんと入ります。
ハーヴィには近くの森で降ろしてもらい、皆人間の形態に。
王都の門は見るからに平和。
ってか門番退屈そう。欠伸しているよ。
近くの城壁の方で余ったのだろう人達は筋肉トレーニングや対人戦をしていたりする。
あれは、壁の補修もしているのかな?
つまり、門番は貴重な休憩と、退屈な時間ということだ。
そりゃそうだ。
だって旅人僕等の他にほぼいないもん。
まぁ、多少は商人がいるけど。
列が止まらずに動いている。
すぐに僕等の番だ。
「はい、次~」
いかにも門番!得意なことは盾で殴り殺すことです!
みたいな人が欠伸をかみ殺しながら呼ぶ。
「はい、6人です。内一人は子どもです」
とヴィトに任せる。
「身分証とかある?ギルドとかの」
「はい」
「はい、確認しました~、6鉄貨です」
「はい」
「はい、丁度。ちょっと待っててくださいね~」
と壁に書いている。入ってきた人の名前だ。
「はい、大丈夫ですよぉ、揉め事は勘弁してくださいねぇ」
とさらっと入れてもらった。
「あの!お兄さん!」
とちょっと悪いが仕事の手を止めさせてもらう。
「ん?どうしたい?坊や」
「後で魔物を買ってから帰ろうと思うんだけど、お金って余計にかかる?」
「いや、テイマーの従魔も、買った魔物、首輪付きも道具扱いだからね、かからないよ。また出る時には6鉄貨だね」
「ありがとう」
とにこっと笑ってみせる。
さて、彼の奴隷商のところに行こうか。
と王都に入れば、相変わらずの臭い。
そして後ろからは、
「魔物ねぇ、買ってどうすんのかねぇ」
「あれじゃね?農作業とか」
「あぁ、ゴブリンとかは教えれば器用だっていうしなぁ」
「馬車なくね?」
「中で買うんだろう」
と仕事がもう終わってしまった門番たちの声。
寝ないように注意しないと駄目だよ!
と心の中でエールを送る。
そのまま市民街の方へ歩くと、
ふと気になるお店を発見。
服のマークと、顔?の看板。
服のマークだけで洋服屋と分かるのに、顔?
気になったので入ってみる。
「いらっしゃ~い」
と明るいお姉さんの声がする。
亜麻色というのだったか、そんな髪のそばかすがある女性。
愛嬌はありそうだ。
しかし、そんなことより驚いたのは、服を並べているだけでなく。
なんとお面がたくさんある。
「お姉さん、コレって何?」
「ん?これ?お面だよ、こうやって被るの」
と説明してくれる。
だけど、そこじゃない。
「・・・何に使うの?」
「意外と買ってく人が多いんだよ、王都のお土産とか、お貴族さまとか」
「へぇ~、顔を見られたくないとか?」
「そうじゃない?お面をつけての会合とかもあるらしいよ」
「お貴族様も買うならお店はあっちでなくて良いの?」
「ほら、ここって奴隷商人さんのところの途中だから、結構買ってくれるんだよね。向こうでもお面を売っていたりするみたいだけど、皆同じところで買うとバレてお面の意味がなくなるし、意外に良い腕をしているって、お貴族様でも常連さんがいるんだよ」
「へぇ~、お兄ちゃん、じぁあアレ買って」
と一つを指差す。
「アレって・・・・・・・・・・・・・・・アレですか?」
とヴィトが心底感性を疑うかのような声をあげる。
さもあらん。
アレはお面じゃなくて、被り物だ。
結構良くできている、魔狼のデザイン。
あれで刃物を持って夜中に道にたたずんでいれば、通報間違いなしだ。
・・・訂正、刃物の時点で通報か。
(顔とか髪色とか全部隠せるからね、便利そう)
(にしても、アレは・・・他のにしません?)
(良いから良いから)
とっても長いため息をついて、ヴィトがお姉さんに言う
「アレをください」
「アレって、あの被り物ですか?お貴族様の夜会とかには合わないかと、割と、そのおふざけで造ったというか、お祭りの時の賑わいの一つにでもなれば、と」
「まぁ、この子が欲しいというのでね。記念にですよ」
「そうですか?5銀貨です」
「はい」
「まいど、ありがとうございます」
とどうして売れたのか不思議そうなお姉さん。
そんなに不思議なら造らなきゃ良いのに。
趣味なのかな?
でも、鼻に光沢があるところとか、良い感じだと思うんだよね。
「あ、お姉さん!」
「何?」
「これ買ったの僕って、内緒にしていてね。友達をびっくりさせたいんだ!」
「分かったよ」
「絶対だからね・・・・・・・・・絶対にね」
と、強く念を押す。
心のスイッチを切り替えて、あの子達を殺した時の気持ちになる。
「わ、分かったって!」
と明らかに年下の子に何故気圧されているか分からない、店員さん。
望む言葉を聞けたのでスイッチを切り替える。
「ありがとう、じゃ~ね~」
と手を振る。
無邪気な子どもが玩具を買ってもらったように。
にっこりと。
・・・
・・・
途中誰も見てないことを確認して、ヴィトとスロール以外は元の姿 (小さいver)になってもらう。
にっこり、笑顔で門番さんに挨拶しよう
「こんにちは!ヤットーさんに会いに来ました!」
にっこりともせず、彼は
「こんにちは。主はちょうど空いているはずです、すぐに案内させましょう」
と言い扉を開ければ、また女性の奴隷が控えていた。
「いらっしゃいませ、こちらになります」
と前の部屋へ案内され、3分程して、ヤットーさんが現れる。
「これはこれは、お久しぶりでございます。あの奴隷達はいかがですか?」
「元気に農作業をしてもらっていますよ、とても助かっております」
とヴィトが答えれば、
「おぉ、それは何より!働き盛りも多かったですからね、お役に立てて何よりです。助かるといえばこちらも、以前教えていただいたように、外に出して運動させたところ、奴隷達も喜びまして、奴隷から感謝の言葉なぞ久しぶりに聞きました。元気に運動しているところを見た方が買うというようなこともございまして、奴隷の管理だけでなく宣伝としても効果的でした、いやはや、お客様達には頭が上がりません」
と凄くにこやかなヤットーさん。結構、売れたらしい。
「ヤットーさん!ヤットーさん!あれから魔物って入荷した?あるいは売った?」
「いいえ、魔物は中々王都では売れないのですよ、オークや魔狼も門番にするには貴族の方々も少しばかし心もとないと考えるそうで。数を揃えて連携させればともご提案するのですが・・・なかなか」
と肩を竦めてみせる。
「じゃあ、じゃあ!前言っていたのを試しても良い?」
「前の?あぁ、これですね」
と扉を開けて、女性が持っていた紙束から一枚抜く。
・・・驚いた、僕等が来たことを知って、僕等に関係する書面を用意させていたのか。
サービスが良いどころじゃない。
商人を集めて講座でも開くべきだろう。
「建物も破壊せず、お客様も怪我せず、首輪なしで連れ出せるならば10プラチナ。これでお間違いないですか?」
「うん、チャレンジしてみたいんだ!」
とにっこり。
ヤットーさんもにっこり。
「申し訳ありませんが、但し書きを追加しても良いですか?」
「どんな?」
「いえ、壊した物の修繕費をもっていただくということで」
「あ、うん!大事だよね、書いて書いて!」
「はい」
とにっこりしたまま、但し書きを書いて見せた。
うん、内容は間違っていない。
「じゃあ、案内して?」
ヤットーさんを先頭に一階の奥へと進む。
そこには色々な魔物が一緒くたにされている。
ただ、窓がついている。
汚物の臭いもほとんどしない。
うん、良かった。良かった。
魔物はゴブリンがほとんど、次いでオーク、魔狼、コボルト、珍しいことにケットシー (もちろん王様じゃない、眷属だろう)。そして、魔猪もいる。
凄い、何が凄いって魔猪サイズの首輪があることだ。
これには後ろの従魔達も目を向いている。
「さぁ、皆これから首輪を外してもらうけど暴れないでね、僕の言うとおりに。大丈夫かい?」
と言えば、それぞれから思念で頷かれたのが分かる。
「ヤットーさん、首輪の破棄を」
「・・・・・・・・本当にやるので?」
ぽかんとして、思わず笑い出す。
「そういうお話でしたから」
「後で首輪をつけなおすのが・・・、いや良いでしょう。魔物達よ、お前達の首輪の所有権を破棄する」
おぉ!?今気づいたけど、外の門番がヤットーさんを庇うように立っている。
まぁ、魔猪が暴れたら檻が壊れるよね。
けれど、彼等の心配とはよそに首輪が外れても大人しくしている皆がいる。
「おいで、今日から君達は自由の身だ、壁にぶつからないように、絵にぶつからないように外に出るんだ」
とここで問題が。
「ヤットーさん、魔猪が扉を抜けれないんですが・・・」
唖然としていたヤットーさん。門番さんも女性の奴隷さんも目をまん丸にしている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!そ、そうですね。買ってからも成長していたので、その可能性を考えておりませんでした。これは私の失態ですね。そのまま通してください。壊れた扉の修繕費は私が持ちます」
「良いんですか?」
「えぇ。もし他のお客様が買うとなった際にも起こりえた問題です。それを放置していたのは私の責任でしょう。・・・・・・・・・・・・・・・・それにしても、愛し子とはこうも凄いのですか」
「愛し子?」
とあえて首を傾げる。
すると、彼は大爆笑した。
「はははっ、どこに自分の奴隷が売られたかなど普通は追えません。しかし、23人も増えればどこの村かは分かります。それが第4の村、そして、あの条件となれば答えは一つでしょう。いやいや、何も仰らずとも大丈夫です。お客様の情報は守りますし、守らせます」
「ふ~ん、愛し子っていうのが何かは僕は分からないけど、それだと上手くいく可能性があるって分かってたんだ?」
あえて白を切りとおす。
「えぇ」
と凄いスマイルだ。なんとも嬉しそう・・・逆に怖いわ。
「なのに、あの値段で良かったの?」
「もちろんです。知らなかった時とはいえ、きちんと契約をいたしました。ならば遵守するのが商売人の義務。それに」
「それに?」
「失敗すれば、魔物達は互いを喰い合うでしょう、また、檻も壊され、建物や絵画、壺も壊されるかもしれません。そうすれば、修繕費と称して利益につなげられます。そして、上手くいけば、愛し子とのパイプを持つことになります」
「ふ~ん。良く考えていたんだね!」
と笑う。
「お兄ちゃん、10プラチナを」
とヴィトに渡させる。
「ねぇねぇ、ヤットーさん、内緒のお話があるの」
と手招きして、座ってもらう。いかにも内緒話という体で。
再度スイッチを入れる。
「ヤットーさんが正しく、奴隷商人で良かった。彼等を虐待していたら、同じ目にあわせなければいけないところだったから。もう魔物は買わない方が良いよ、もう捕まらないとは思うけど。お金を出して買ったのはヤットーさんが商売に真摯で、魔物も酷い目にあっていないという確信があったから。実はね、神様の忠告を破り、魔物に首輪をつけていた時点で、店を破壊しようと思っていたんだ。真摯に誠実に商売を、あなたは実に正しいことをした。故に助かったと思ってね」
と彼から離れ、
「ということで、忠告忘れちゃ駄目だよ!後はちゃんと情報を守ってね」
スイッチを切る。
とバイバイと手を振ると先の被り物を被る。
あまり、スイッチを変えるのは良くないな。
二重人格にでもなりそうだ。
そうして、どこぞの笛吹き男よろしく魔物を引き連れて、ひとまず、さっきの門まで。
ハーヴィ達は魔物の陰で人間になってもらう。
そうして始めた行進。
いたるところで悲鳴が聞こえる。
しかし、無視。
僕等人間の形をした6人がそれぞれ5体位テイムしていたとすれば、これくらいは普通でしょ?
故に無視。
途中、狼の被り物が悲鳴の原因かもと思ったけど、無視だ無視。
子どもは驚きながらも楽しんでいるし。
職務質問されなければ止まる道理もない。
そんなこんなで門に到着。
「すみません、一度出たいのですが」
とヴィト。
「うん?身分証」
とさっきより横柄な人が相手だった。
「この被り物をしている子は?」
「弟です、ほらそこに名前が」
「あぁ、これか。・・・・・・・・・・・悪いことは言わねぇから、感性を直した方が良いと思うぜ」
「・・・私もそう思います」
失敬な!意外と快適で楽しいんだぞ!
「よし、通れ」
「はい、6鉄貨、じゃあ皆さん行きましょう」
と6人が通過し、魔物達が通過する。
「・・・・・・・・・・ん~~~!?待て待て待て待て!!何だこの魔物の数は?首輪もしていないようだが!!??」
「従魔です、さっき奴隷商のところでテイムしました」
「お前等全員テイマーだって!?あり得ないだろうが、不遇職ばっか集まって何しようとしてんだって話だ」
「う~ん、酷い言い草ですね」
(トール。裏面見せて良いですよね)
(うん、というかそこまで見ろよって気がするけど)
「はい、ここ見てください」
「あ゛ぁ゛!!??・・・・・・あぁ?・・・・・・あぁ、失礼しました。取り乱しました。どうぞお通りを」
(王様の力パネェ!)
と、ぞろぞろ通る。魔猪はここでも引っかかったが、どうにか壊さずに通れた。
そして、近くの森へ。
「じゃあ、皆、それぞれの群れのところは分かる?」
各々から肯定の思念がある。
「よし、それじゃあ、それぞれのところへ帰りな。もし群れが移動しているようならば、ここから4つ目の村にスライムロードがいるから、相談すると良い。分かったね」
(((((((ありがとう)))))))
「うん、もう人間なんかに捕まっちゃ駄目だよ?それぞれの群れに会うまではお互いでお互いを守ること、それじゃあ、またいつか」
と去っていく皆へ手を振る。
「さて、もう一回、王都に寄るよ?貴族街の奴隷商を見ないとね」
ようやく?もう?
祝100話!!
皆さんのおかげです!
いつもありがとうございます☆
(前に書くの忘れてましたが誤字報告してくれた人もありがとうございましたっ!)