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32/46

32、ワルキューレの序夜

 北の辺境に、オーディンの土地があった。北の蛮族オーディンが治める土地である。

 巨人、狼、南方民がその領土を攻めたが、なかなか攻め落とすことはできなかった。

 北の戦士たちは戦い続けていた。負けてはならぬ。死んではならぬ。滅んではならぬ、と。

 戦士は、仲間に聞いた。

「おれは巨人を見た。北の戦士は巨人を恐れないで倒す」

 ほう。興味深いな。聞き手の戦士は思った。

「ワルキューレ(選抜姫)は見たか」

「いや」

「オーディンの土地では、ワルキューレ(選抜姫)が居れば、戦死しても蘇ると聞いた」

「だといいな」

「何度死んでも戦場へ戻っていく。最悪な仕組みだ」

「ああ、そうやって、戦争しかできない男になっていくんだ。オーディンの計画だ」

 北の戦士たちは歩いた。

「いったい、この戦争はいつになったら終わるんだ」

「狼が太陽を呑み込むまでだと」

「信じているのか、それを」

「ああ。おそらく、その予言をオーディンは信じているし、ワルキューレ(選抜姫)も信じている。狼たちも、おそらく、信じている」

 二人の戦士は歩いた。


 それから、二人はまた戦争に参加して、巨人と狼を倒し、傷つき倒れた。

 倒れる前に二人は、自分たちの戦列に複数のワルキューレ(選抜姫)がいるのを見た。

「戦士よ、勇敢に戦い、ワルキューレにすがれ。ワルキューレはあきらめない」

 ワルキューレ(選抜姫)がそういった。

 意識も絶え絶えになっていたが、戦士はがんばってことばを話した。

「我が軍は無事か」

「無事だ。安心しろ」

「何人かやられてるじゃないか」

「それでも無事だ。心配するな」

「オーディンが死んだら勝てるのか」

「勝てる。オーディンが死んでもだ」

 ワルキューレよ。戦士はそこで意識を失った。


 戦死者のヴァルハラで目を覚ました。

 ここがオーディンの居城か。

「戦況はどうだ」

 戦士は生き返ったら、まず聞いた。

「かなりやられてる」

「負けたのか」

「まだ、負けてはいない。生きているやつらが踏みとどまっている」

「ここからどうやって勝つんだ」

「生き返って勝つんだ。戦死した戦士は選ばれて、戦死者のヴァルハラに転生して生き返っている。我々は、死んでも蘇るオーディンの軍だ」

 戦士は建物の中を見まわした。

 オーディンは戦死していた。戦士たちがオーディンの死体を持ち帰り、ヴァルハラの玉座に置いてある。

「総大将は死んだオーディンでいいだろう」

「異議なし」

「よし、援軍として出陣するぞ。生き残ってるやつらの加勢に行くぞ」

「よっしゃあ」

 何度でも蘇り、戦おう。ワルキューレ(選抜姫)がいるかぎり。


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