32、ワルキューレの序夜
北の辺境に、オーディンの土地があった。北の蛮族オーディンが治める土地である。
巨人、狼、南方民がその領土を攻めたが、なかなか攻め落とすことはできなかった。
北の戦士たちは戦い続けていた。負けてはならぬ。死んではならぬ。滅んではならぬ、と。
戦士は、仲間に聞いた。
「おれは巨人を見た。北の戦士は巨人を恐れないで倒す」
ほう。興味深いな。聞き手の戦士は思った。
「ワルキューレ(選抜姫)は見たか」
「いや」
「オーディンの土地では、ワルキューレ(選抜姫)が居れば、戦死しても蘇ると聞いた」
「だといいな」
「何度死んでも戦場へ戻っていく。最悪な仕組みだ」
「ああ、そうやって、戦争しかできない男になっていくんだ。オーディンの計画だ」
北の戦士たちは歩いた。
「いったい、この戦争はいつになったら終わるんだ」
「狼が太陽を呑み込むまでだと」
「信じているのか、それを」
「ああ。おそらく、その予言をオーディンは信じているし、ワルキューレ(選抜姫)も信じている。狼たちも、おそらく、信じている」
二人の戦士は歩いた。
それから、二人はまた戦争に参加して、巨人と狼を倒し、傷つき倒れた。
倒れる前に二人は、自分たちの戦列に複数のワルキューレ(選抜姫)がいるのを見た。
「戦士よ、勇敢に戦い、ワルキューレにすがれ。ワルキューレはあきらめない」
ワルキューレ(選抜姫)がそういった。
意識も絶え絶えになっていたが、戦士はがんばってことばを話した。
「我が軍は無事か」
「無事だ。安心しろ」
「何人かやられてるじゃないか」
「それでも無事だ。心配するな」
「オーディンが死んだら勝てるのか」
「勝てる。オーディンが死んでもだ」
ワルキューレよ。戦士はそこで意識を失った。
戦死者の館で目を覚ました。
ここがオーディンの居城か。
「戦況はどうだ」
戦士は生き返ったら、まず聞いた。
「かなりやられてる」
「負けたのか」
「まだ、負けてはいない。生きているやつらが踏みとどまっている」
「ここからどうやって勝つんだ」
「生き返って勝つんだ。戦死した戦士は選ばれて、戦死者の館に転生して生き返っている。我々は、死んでも蘇るオーディンの軍だ」
戦士は建物の中を見まわした。
オーディンは戦死していた。戦士たちがオーディンの死体を持ち帰り、ヴァルハラの玉座に置いてある。
「総大将は死んだオーディンでいいだろう」
「異議なし」
「よし、援軍として出陣するぞ。生き残ってるやつらの加勢に行くぞ」
「よっしゃあ」
何度でも蘇り、戦おう。ワルキューレ(選抜姫)がいるかぎり。




