Teach.7 想いの伝え方を、おしえて。
木々のこする音が、心に響く。
ようやく春の訪れが近づいてきて、その頬をなでる風は、包み込むような暖かさを感じた。
目の前には、3年間ずっと見てきた高校の校舎。
堂々と中に入ることができるのも、着慣れて可愛いと改めて感じてきたこの制服も、これが最後の日だと思うと言葉にならない思いが湧き上がってくる。
「なんか、実感ないなぁ…」
このまま明日からも、ここに来てしまいそうな気がしてしまう。
ただ私は今日、みんなとその感傷に浸ったりするだけでは終われないのをしっかりと感じていた。
「あっ…」
ある人影を見て、私は物陰に隠れた。
そこにいたのは、竹内くんと木下先輩の姿。
「そうだよね、そういえば同じ部活だったんだ…」
2人にバレないように様子をうかがいながら、感傷に浸るだけでは終われないこと…今日までにはっきりとさせておかなければいけないことを再確認した。
それは、私のこのあいまいな気持ち。
「落ち着いたか?」
「う、うん…」
竹内くんに突然の告白を受けたあの日。私はもう何が何だかわからなくなって、ただ涙が止まらなくなるばかりだった。私がなんとか口を開けるようになるまで時間がかかったというのに、竹内くんは何を言うでもなくそばにいるままだった。
「気づかなかっただろうけど」
そして改めて、竹内くんが私を見てくる。…違う、彼が見ていると意識している私の方が竹内くんの方を見ていたのかもしれない。
「好きだったんだ。他の人を見ているのは分かってるんだけど」
「でも、あのいつも一緒にいたコは…」
突然私の想いの核心をつかれて、焦ったのかもしれない。このままだといつまた想いがあふれて涙が出てきてしまうかわからない。そうならないように、竹内くんの言葉に自分でも驚くほどの早さで言葉を返していた。
「相談に乗ってもらってた。よく会うのは、いつも背中を押すためにって言いながらくっついてきてただけで」
「そ、そうな…んだ」
声がどうしても詰まってしまう。
「返事は高校を卒業する日まででいいから。それまでは少しでも意識してもらえればそれでいい」
そこにはいつもの掛け合いなんてどこにもなくて。
ただただ、私は竹内くんの話を一方的に聞くことしかできなかった。
そしてその期限の日…今日になるまで、私は答えを出せずにいる。
木下先輩には私自身が、このみ先輩を勧めている。あれからどうなったのか私は知らない。結果を聞くのが怖くて、会ってもいなかったから…
竹内くんは、私を好きと言ってくれた。それからあの告白された日のことは話に出さないけれど、聞きたいという気持ちは持っているはずだと思う。私が木下先輩にどうなったのか聞けないのと同じだと思うから…
卒業式が滞りなく進んでいく中で、ここ最近のことを思い返す。
一体化した卒業するという寂しさの輪から、私だけが外れているようだった。
寂しさという部分では変わらないのかもしれないけれど…
卒業することが寂しくないというわけでもないのだけれど…
「卒業、おめでとう」
壇上で校長先生から卒業証書を受け取る時も。
「やっぱり、何かが終わるのって辛いよね…」
席に戻って、座席が隣になったクラスメイトに泣きながら声をかけられた時も。
どこか、意識は違うところに向いている。
その意識はどこに向かっているのだろう。
竹内くんのことは、告白されてから毎日のように私の意識の中に居座っている。
いつもくだらない話ばかりしているけれど、でも一緒にいると楽しくて。
優しさを持ち合わせていることも知っている。それも告白されたその日のことを思い返すと、よくにじみ出ていた。
だから、私は…
卒業式が終わって、担任の先生の最後の挨拶も終わって。
みんな名残惜しいみたいでしばらく教室には残っていたけれど、時間が経つにつれて1人、また1人と去っていく。
気がつくとオレンジ色に染まった西日が、黒板のみんなの落書きをスポットライトのように照らすような時間になっていた。
それまで残っていたのは私と…そして他のクラスから入ってきたもう1人だけ。
「竹内くん」
私は、その相手の名前を呼ぶ。
そして。
「私も…竹内くんのこと好き、だよ」
すごくぎこちないことが、自分でも分かる。
こういう感じで、本当にいいの?
想いの伝え方を、おしえて。