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Teach.1 私の気持ちを、おしえて。

 近葉このはかなめ。それが私の名前。

 かなめというのは、もともと扇にある一本一本の骨をまとめるために軸になる部分に通す釘のことらしくて、そこから人をまとめられるようにとつけられたみたいだけど、私はそれとは別に、その響きが好きで気に入っている。

 というか、本来の意味の方はあんまりその期待に応えられていないかもだけど…

 そうそう、ところでなぜ今名前の由来を思い返したりしているのかというと。

「あら、こんなところで会うなんて偶然ですね」

 それは私がさっきまで腕に抱きついていた男の人…木下健彦きのしたたけひこ先輩に、突然正面から女の人が声をかけてきたからだった。

「お、おう…なんでこんなところに」

「言わなかったかしら、大学に行く時にここを通り道にしているんですよ」

 木下先輩の声が上ずっているように聞こえた。

 しばらく2人を見ているといい雰囲気で…

 その空気に押されて、私は木下先輩から腕を離していた。

 それから木下先輩はその女の人としばらく話しこんでいる。

 1人置いてきぼりにされてしまって…だからその時なぜか名前のことを考えてしまっていた。

「ところで、そちらにいるのは妹さん?」

「はえ?あっ…えと…」

 会話に入っていなかったにもかかわらず、その女の人にいきなり話を振られてしまった。

 今まで名前のことを考えていたから、何も話しかけられる用意なんてしていなかった私は、自分でも驚くくらいの変な返事をしてしまった。頭が真っ白になる。

「いや、高校の後輩なんですよ」

「は、はい。近葉かなめといいます。はじめましてっ」

 木下先輩のフォローになんとか助けられながら自己紹介をする私。こういう時にサポートしてくれるので、頼りになるんだよね。

「あら、かわいい後輩さんね。はじめまして。飯倉いいくらこのみよ。私にとって木下さんはサークルの1年後輩にあたるの。つまり、大学1年ってことね。あ、ちなみに留年はしてないわよ」

 腰くらいまであるロングヘアーを風に遊ばせながら、少しかがんだ体勢で私に顔を近づける。

 飯倉先輩、かぁ…聞いていないことまで話してきたけど、明るい人だなという印象がよく伝わってくる。だけど決して子供っぽいというわけではなく、なんだか香水とは違う大人の香りを感じた。

「ところで、かなめちゃんは何年生なのかしら?」

 飯倉先輩は太陽をバックに私を上から覗き込むような感じで、風が前髪を揺らすのをかきあげながら聞いてくる。大人っぽいという印象があったからか、なんだか子供扱いされているようで悔しい。

 私が座っていて飯倉先輩は立っているわけだから、そうなるのは当然なんだろうけど。

「高校3年です…飯倉先輩ですね」

「あら、そんな固い呼び方しないでよ。1年しか違わないんだし、名前で呼んで欲しいな」

「じゃあ、このみ先輩」

「うーん、まあいいかな。よろしくね、かなめちゃん」

 たった1つしか年齢は違わないのに、この差はなんなんだろう。だいたい話をする時は私が進めるほうなのに、このみ先輩と話していると調子が狂ってしまう。

 さっき感じた大人の香りに加えて、今度は大人の余裕を感じた。

「じゃあ、私はこれで失礼するわね。友達と約束があるのよ」

「ああ、じゃあまた」

「はい、このみ先輩、またです」

 木下先輩に続いて、私はその余裕に振り回されながらも、このみ先輩になんとかあいさつをする。私の言葉を聞いて、このみ先輩はこの冬の日差しのようにやわらかな笑顔を向けて歩いていった。

 姿が見えなくなっていくのを見ながら、今さらだけど初めて会ったのにこのみ先輩という呼び方はおかしいかも…なんて思う。

 私がいつも木下先輩の近くにいるから、自分も関係する人のように見えるのかもしれなかった。

「サークル入ってたんだ。はじめて知ったよ」

「ああ、一応だけど。ほとんど出てないよ、名前だけを貸している感じで…人があまりにもいないからだって」

「そうなんだぁ…」

 サークルというと、いかにも大学の活動の場という感じがする。

 私がいきなりサークルのことを話した理由。それはこれまでを振り返ってみて、木下先輩から大学での活動のことをそれほど聞いていない気がしたから…だから、知っておきたいと思った。

 でも、今の話ではそれほど活動しているというわけではないみたいだし、話すほどのことでもないのかも。

 だけど、なんか…

「あんまり大学でのこと、話さないよね?」

「そうか?まあ、話すほどのことでもないからな。講義受けて、色々と調べたりとかして…聞いてもそれほど面白くないぞ」

 私がさっき思ったとおりそのままの返事を聞けて、以心伝心しているような気がして嬉しかったり、安心したり。

 …あれ、なんで安心なんて気持ちがあるんだろう?

 木下先輩の言葉をそのまま受け取れば確かに安心と言えるんだけど、本当はムリしてウソをついていたとしたら?

 さっきの様子といい、このみ先輩といい感じになっていたとしたら?

 ふと、安心が不安に変わる。

 私は、本当に先輩のそばにいていいの?

 そもそも私は先輩を好きになっていいの?べったりくっついているのは迷惑と思われているのかもしれない…

 考え出すと止まらなくなって、本当に私が先輩を好きなのかどうかまで分からなくなる。

 どうしてだろう、だれか…

 

 私の気持ちを、おしえて。


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