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Teach.0 あなたの気持ちを、おしえて。

「はぁ…落ち着くなぁ…」

「はぁ…おまえが落ち着いても、自分が落ち着かないんだが…」

 私と一緒に2人で息をつく、鳥のさえずりの心地良い昼下がりの公園のベンチ。

 休日だというのに人もまばら、時折ランニングしている人を見るくらいなので、とても静かで、私のお気に入りの場所だった。

 だから息つく音が良く聞こえるのだけど、その理由は私と彼で違っていた。

「何が不満なのー?」

 わざとらしさが出るように、私は体をくっつけて彼の顔をのぞきこみながら、私の思う精一杯の甘え声で言ってみる。

「わかってんだろ…その腕だよ、腕」

「これのことー?」

 私は、さっきから自分の腕でつかんで離していない彼の腕を引き寄せる。

「あっ、胸にあたったぁー、えっちー、責任とってよね」

 彼は私のその言葉にまったく反応しないようなそぶりで、そして言葉も出さずに、私から目をそらした。

「むむっ…ムシときましたか」

 いつも通りの行動で返してくる彼をつまらないなぁと思いながら、頭を彼の肩にあずけ、更に身を寄せてみる。

 もうどうにでもしてくれ、という彼のオーラが見えた。

 

 彼とはじめて会ったのは6年前のこと。

 中学1年生だった私は、入学式が終わったあと、右も左も分からずに学校の構内を歩いていた。

 この日、他の学年の人は基本的に休みみたいだけど、これをチャンスと考えて部活の勧誘をするのがこの学校での半ば慣例になっているようだった。

 私はまだ何も決めていなかったし、後でゆっくりと考えようとしていたんだけど、けっこう強引に引き入れようとするのでかわす力ももう限界になっていた。

 それを拒否していないと見たようで、3年の男子に話だけでも聞いて欲しいと言われて連れて行かれそうになったんだっけ。

「すいません、妹なんですけどまだ何も決めてなくて。ゆっくり考えさせてあげてくれませんか」

 そこに現れたのが、彼だった。

 私には兄はいないわけで…すぐに助け舟を出してくれたことに気付いた。

 たぶん、お兄さんがいるとしたらこんななのかな…という気持ちも一緒に感じながら。

 

「それにしても…高校も卒業しようっていうのに会った頃からまったく変わらないのな」

 彼が何度目かわからないほどのため息をつく。

 そんなことはない。確実に変わっていることはある。

 ただ、それはまだ彼に伝えることはできないけど…

 恋人ごっこ。今の私たちの関係をうまくあらわすと、この言葉が一番的確なのかもしれない。

 お兄さんと思っていた私の気持ちは、時間をかけて別の感情に変わっている。だけど、彼の気持ちを確認したことはない。

 だから、『ごっこ』で止まっている。

 本当は『ごっこ』なんて言葉ははずしたい。本当にこのままで良いのかどうか悩むこともある。

 でもやっぱり出会ったあの時と変わらずに、妹としてしか見られていないんじゃないかって。

 私が考えを色々とめぐらせてしまい、今度は彼が私の顔をのぞきこんでくる。

「どうした、急に黙って」

「う…ううん、なんでも。変わらないなんてひどいなぁ、少しは変わってるよ。ほ、ほら、出るとこも出てきてるでしょ」

 冗談で私が彼の顔をのぞきこむ時は何も思わずにいられるのに、同じことを仕返されると言葉に詰まってしまう。

 そんな気持ちを隠そうと、彼を動揺させようと思って胸を張ってみた。

 でも「いや、そうは見えないんだが…」と、彼が小声でつぶやいているのを私は聞き逃さなかった。

「むー」

 少しは意識してもらえるかなと思ったのに、返事がどうもそっけない。

 そんなに私には魅力がないのかな、と思ってしまう。

 そう思われているままでは悔しいので、つかんでいる彼の腕をさらに引き寄せてみる。

 彼の顔が少しだけ赤くなったように見えた。こういう時、彼のことがかわいいと思ったりする。

「う…まあ、育ってることは育ってるんじゃないか?」

「やっぱえっちー」

 ちょっとだけ嫌がるふりをしてみるけど、内心ではけっこう嬉しかったりする。

 だってそれが期待していた答えだったわけだから。でも素直になれないのが女心なんだよ。

 少しは進展しているのかな?とか、私のことをどう見ているのかな?とか、1人で盛り上がったりして…

 そんな風に考えてしまうのも、やっぱり彼の気持ちが分からないから。

 だからそろそろ、はっきりしたい。

 

 あなたの気持ちを、おしえて。

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