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命思力・転移  作者: 大谷雅彦
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三 密室 [ 和暦・優雅44年12月28日日曜日 ]

A「新撰隊が全滅させられた? 」 B「昨日の夕方、十二人全員が利き腕を折られたそうです」 A「相手は? 」 B「闇の鷹らしいと」 A「闇の鷹か……。闇の鷹の跳梁については聞いているが、それにしても新撰隊までがな」 B「闇の鷹が新撰隊を襲ったのは今回が初めてです。倒された札幌校の新撰隊は全員が前日に昇格したばかりで、それまでの新撰隊に比べて技量も経験も劣っていました。ご承知のように、先月8日の機動隊の導入でH大学の学園紛争は鎮圧できました。そこで、それまでの新撰隊のメンバー全員を東京校に転校させて、格闘道部の中から新しく隊員を昇格させたのですが」 A「全員が一度に倒されたのか」 B「はい」 A「昇格したばかりとはいえ、新撰隊全員がたった一人に倒されるとは。それも一度に」 B「闇の鷹ならばそれぐらいのことはやってのけると思われます。影丸殿によれば、彼も特別な力の持ち主だということですから」 A「うむ、特別な力の持ち主か。しかも、正体不明の……。で、札幌校を閉校したいというのだな」 B「新撰隊が倒されたからというわけではありませんが、札幌校は一応の目的を終えました。そこでこれを機に来年の3月末で同校を閉校し、代わって4月から高知県に一校開校したいと考えております。原則として札幌校の生徒と教職員は全員高知校に転校させます。そのための手続きをお願いしたいのです」 A「高知といえば、四国か。あんな地方の県に何かあるのか? 」 B「諜報部の調べによると、闇の鷹が高知県に新たな拠点を築こうとしているようです」 A「なに、闇の鷹が! ふむ……。分かった。手配しよう。--もしもし、わしだ。帝憲学園高校札幌校を来年3月末で閉校し、4月1日に新たに高知校を開校する。札幌校の生徒と教職員は原則として全員高知校へ転校させる。そうだ、四国の高知県だ。詳細についてはいつものように担当の者と話すように。以上だ。--これでいいな」 B「ありがとうございます。 今年1月の東大安田講堂の封鎖解除。2月のN大全学の封鎖解除。この二つの封鎖解除によって学園紛争を事実上壊滅し、そして8月17日に施行した『大学の運営に関する臨時措置法』で学生闘争は我々の完全勝利で決着がつくはずでした。確かに最盛期に比べれば学園紛争は沈静化しています。ですが、全学友(ぜんがくゆう)を中軸とする学生闘争はまだしぶとく続いています」 A「闇の鷹が支えているせいだな」 B「おっしゃる通りです。資金を全学友に提供し、武力衝突の時は特別な力を使って機動隊や我々が操っている武闘組織を相手に奮闘する。闇の鷹のために我々はまだ完全な勝利をつかむことができないでいます」 A「その資金だが、なぜ闇の鷹がそれだけの資金を提供できるのか、まだ調べはつかないのか」 B「はい。諜報部が全力で調べておりますが、いまだに……。ただ」 A「うん? 」 B「まだ推測の域を出ませんが、昨年暮れに府中で起きた三億円強盗事件。あれは闇の鷹の犯行ではなかったか、と」 A「三億円事件が闇の鷹の犯行だというのか」 B「三億円事件が起きたのが昨年の12月10日。そのすぐ後から闇の鷹の跳梁が始まっております。闇の鷹の年齢は分かっていませんが、二十代後半ぐらいと思われます。三億円を奪った犯人と年齢においても合致します」 A「なるほど、闇の鷹の資金は府中で奪った三億円か。その可能性は確かに考えられるな。闇の鷹が三億円事件の犯人であるなら犯行時の手際の良さも頷けるか」 B「もちろん証拠はありません。あくまでも推測に過ぎません。ただ、諜報部にはこの面からも調べるように指示を出してあります。高知校の件に話を戻しまして、高知県は幕末から維新にかけて、坂本竜馬、中岡慎太郎、武市半平太、板垣退助、植木枝盛などの傑出した人物を生みだした『いごっそう』とよばれる反骨心の強い土地柄です。それだけを見れば、我々国家権力に刃向かっている闇の鷹が高知県に新たな拠点を築こうと考えるのは頷けます。ですが、高知県はまったくとは言えませんが、近年の学園紛争、学生闘争に関しては珍しく無関係な県です。現在高知県にある四年制の大学は、国立が一校と公立が一校の二校だけです。この高知県を拠点にして闇の鷹が勢力の拡大を企てているとしたら、奴の狙いは高校生であるとしか考えられません。 A「なるほど、高校生か。それで高知校の開校というわけだな」 B「はい。高知校を開校することで闇の鷹の企てを阻止する。これが一点目。二点目として、この先高知県で万一にも学生闘争が起きないように、県内のすべての高校を半永久的に帝憲学園高校高知校の支配下に置く。そして、この方式を今後日本全国の地方都市に展開していく。大学の数も高校の数も多い大都市では効果はそれほど期待できませんが、地方都市なら有効な方式ではないかと考えます。高知県にはそのための実験地としての役割も担ってもらえます」 A「高知校の開校は一石三鳥というわけか。だが、高知校を開校しても相手が特別な力を持つ闇の鷹では札幌校の二の舞を演ずることになるのではないのか」 B「それへの対策は考えてあります。高知校の新撰隊の隊長には紅組(べにぐみ)の者、それも最強の実力者を置きます」 A「なるほど、紅組か。闇の鷹と同じ特別な力を持つ紅組の者ならば、高校生であっても後れをとる心配はないということだな。それも最強の者ならば」 B「おっしゃる通りです」 A「だが、それについて影丸の了解はとってあるのか? 紅組は影丸の支配下にあるはずだ」 B「影丸殿の了解はとってあります。これまで紅組の者が特別な力を使うことを影丸殿は極力控えてきました」 A「事後のもみ消しのとき、いろいろと面倒が生じるからだ。完全に秘密にするのは難しいだろうが、紅組の特別な力のことはでき得る限り秘密にしておきたい、という影丸の考えは筋は通っている」 B「はい。ですが今回は影丸殿も積極的に協力してくれました」 A「ほう、積極的にか。それは珍しい。何かあるのかもしれないな……。彼はまだ我々に大事なことを隠している、とわしはみている。それも、とてつもない重要なことを、だ。率直に言って影丸は信用できない。だが、あの男が持っている特別な力は我々に大きな利益をもたらしてくれている。反対に敵に回せば、これ以上ない脅威となるのは間違いない。綱渡りのような、危険と隣り合わせの関係だが、うまくバランスをとって利用することが肝要だ」 B「承知しております。わたくしも影丸殿が重要な何かを我々に隠していると疑っております。それが何か、必ずや調べ出してご御覧に入れます」 A「頼んだぞ。いまの学生闘争を勝ち抜けば、我々が握っている権力はもっともっと強くなる。そうなれば影丸の力を利用しなくても我々だけでこの国を半永久的に支配していくことができる。そのときは、影丸は用済みだ。わしの言っている意味は分かるな」 B「はい、十分に」

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