一 異次元物質的宇宙
⦅無⦆が動き
《気》が満ちて
《命》が目覚める
《命が思う力》は
《隔壁》を貫いて
《導きの隧道》を創る
《命》は
《導きの隧道》に入り
《隔壁》の中を孤進して
《肉体》を得るのと引き替えに
《記憶》を眠らせ
《異次元の物質的宇宙》へ再び生まれて行く
深い山里の小広場で、男は目覚めた。
新しい年の訪れを祝って満天に星は輝き、月の光は惜しみなく山里に降り注ぐ。
小広場には外縁を一周する溝があり、そのなかを白い閃光を発する水がゆるやかに環流している。
こんな冬の真夜中に、一糸まとわぬ姿で男は仰臥したまま動かない。美しい形状をした男の肉体は色艶も若々しく、それだけで判断するなら二十代、いや十代後半とも見えるだろう。だが、いまここに生まれたばかりの男の年齢は五十六歳だった。
小広場に漂う馥郁たる香りが男の肉体に強く触れて変化した。この時代、この場所、この季節にふさわしい衣服に男の肉体は包まれた。
上半身を起こし、男は小広場を円形に囲んで立ち並ぶ樹木を見回した。進み行く道を見定めて、空中にふわりと浮くように男は立った。しっかりとした足取りで男は樹木の中に入って行った。
男が消えて、環流していた水は地中に沈み、小広場を形成していた異次元粒子は崩壊して、小広場は《無の世界》に回帰した。
主な登場人物
笛谷紀代彦
岩口八夫
信田裕一郎
西郷勇
春辺李
平田三樹雄
砂田宇瑠波
江利九不音
坊菩文治
米野ディック
宝治泰
別琴華糸
夢幻
影丸
不用
幽明
鬼女百合
本間マキ