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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第一章 蘭鳴学園悪魔事件
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悪魔狩り準備

 放課後。

 錬は生徒会で集合する午後六時まで時間を潰すために図書室にいた。部活動をしていない錬は学校で暇潰しする手段は図書室で本を読むか、教室でゲームをしているかしかない。そして、錬が採用した暇潰しは図書室へ行く事だった。


「ねえ、銀君は何で図書室にいるのかな?」


 テーブルを挟んで向かいの席に座る錬に真夜は言った。


「暇潰し」


 錬は簡潔に答えた。

 お互い本から顔を上げない。もっとも、錬が読んでいるのはマンガ、真夜が読んでいるのはハードカバーの小説。


「それより鉄は図書委員の仕事しなくていいのか?」

「どうせ今日もこっちの図書室には人なんて来ないし~」

「だったら部活行けば?」

「誰も来ないからって放置は駄目だよ~」


 この学校には図書室は二つある。一つは南側、そして錬達がいる北側。この図書室は位置で言えば北側校舎一階西側最端にある。森に面しているためか少々陰気臭い。

 錬が窓の外の森を見る。森の入口には生徒会の仕業か、立ち入り禁止の看板が置いてある。


 ――――こんな身近に悪魔がいるかね。


 そもそも錬がこの図書室に来た理由は三つある。一つは先の通り暇潰し。二つは今日が図書委員である真夜のカウンター担当の曜日だから。三つはこの図書室が森に面しているから。


 ――――昨日のケルベロスみたいな悪魔は怖いけど、鉄がこんな危険と隣り合わせのところにいるのは放っておけないし。


 錬は根は臆病だが友達を見捨てる程臆病というわけではない。否、この場合友達を裏切る方が怖いため、仕方なく恐怖に立ち向かっている。


「ねえ、暇なら占いしない~?」

「占い?」

「そう、カード占い」


 唐突な真夜の提案に錬は怪訝な顔をする。真夜はバッグからカードを取り出した。

 そのカードは所謂タロットカード――大アルカナという代物だ。ザ・ワールドやザ・フール、ザ・マジシャンなどゲームやマンガの題材などによく使われるアレである。

 真夜は手慣れた手付きでカードをシャッフルし、一番上の一枚を裏向きのままテーブルの上に置いた。


「いつも思うけどそのやり方本当にあってるのか?」

「さあ~?」


 錬はまだ真夜とは短い付き合いだが、真夜はこれで結構大雑把な性格なのはわかっているため何も言わない。錬はいつも通りその裏向きの一枚をめくった。そのカードは女性の顔の月に光の雨が地上に降り注ぎ、狼だか犬だかが月に向かって遠吠えしているような、そして水辺からザリガニが這い上がっている絵。


「一八番目のカード《ザ・ムーン》が銀君から見て正位置だね~」


 所謂、月と呼ばれるカード。


「どんな結果だ?」

「試練の始まりとか~? 不安な状況とか~?」

「何その疑問形? 占っといてカンペみたいに曖昧に答えてどうするんだよ」

「ごめんなさい」


 しかし、真夜の占いはいつも結果が曖昧なので錬も慣れている。錬自身、タロットカードの事などほとんどわからないので明確な指摘はできない。


「月っていうのは正位置でネガティブな解釈をするカードなの~。よく言われるのが不安とか恐怖とか……絵の状況を簡単に表すと一寸先は闇みたいな? 道の手前は見えるけれども道の先に何があるかは暗くてわからない、周りも暗くてわからない。そんな何もわからない状況の中で不安と恐怖を胸に抱きながらも前に進まなければならない。だけどね――」


 真夜が続きを言おうとした時、午後六時を告げるチャイムが鳴り響いた。


「うわっ、もう六時か!? ごめん鉄、今から生徒会の集まりがあるんだ! じゃあね、気を付けて帰りなよ!」


 錬はバッグを持ち、マンガを本棚の元の場所に戻すと扉を開けて図書室から飛び出した。真夜はそれを見送ると月のカードを手に取る。逆向きの月を見て呟く。


「月か……」


 真夜は嬉しそうにクスリと笑った。


 ☆☆☆


 錬が生徒会室に到着したのは午後六時から三分経たないくらいだ。


「ごめん、遅れた」


 錬はそう言いながら生徒会の扉を開けて中へと入る。今日学校を休んでいるヒイロを除き、既に結凛、通流、桜梅の三人は集まっていた。


「遅いですわ。新人が遅刻とは良い度胸していますわね」


 桜梅の辛辣かつ正論に錬は言い返せない。


「まあいいさ、どうせ出発は七時だしね。さて、作戦の再確認しようか」


 結凛は地図が貼ってあるホワイトボードを引っ張り出した。錬は刺々しい桜梅を避けて通流の隣に座る。


「ターゲットのヴァンパイアはさっき言った通り夜行性の悪魔だ。つまり夜になると活発に行動する。三日程の観察によるとどうやら森全体が活動範囲らしいため、私達は基本的に動き回るターゲットをまず見付けなければならない。ここで諸注意だが、森の中にある広場の池と旧校舎には近付かない事だね。以上」


 ――――作戦とは何だったのか……。作戦というより遠足前の先生の諸注意並じゃん。


「えっと……つまり森の中を探し回るんだよな?」

「そうだよ」


 錬は確認すると結凛はただそう返した。


 ☆☆☆


 結凛が「革靴より運動靴の方がいいよ」という事でそれぞれ自分のクラスへ体育で使うシューズを取りに行き、森の前に再び集合した。幸い、みんなシューズを持っていたようだ。そして、通流がそれぞれに懐中電灯を渡した。


「この懐中電灯重いですわ」

「重いというか、武器になる奴だろう」


 所謂持ち手が長く電灯の反対側が異様に重い懐中電灯、持ち手を肩に乗せて持つあの懐中電灯である。


「殴打に優れるんだよね。こうやって」


 錬は懐中電灯の電灯付近握り余った持ち手の部分を肩に乗せて、そこから棒のように上から下へ振り落とす。


「へぇ……無駄に重いと思ったらこう使うのか」


 結凛も錬に倣い懐中電灯を肩から前方へ振り下ろす。


「これ、推理ドラマなら確実に相手を殺せるな」

「護身用だけどね」


 錬の言葉を聞いて通流も同じ事をしている。


「あなた達、そんな下らない事やっていないで早く行きますわよ!」


 桜梅が眉を歪めて叱咤する。結凛は凛として指示する。


「そうだね。じゃあ、この広い森を探索するうえでチームを二つに分けようか」


 錬が理由を聞くと、学校の敷地内とはいえ森の中で悪魔一匹にエンカウントするのは時間がかかりそうなため効率アップのためにチームを分けるとの事。


「じゃあ、戦力を均等にするために私と錬君、桜梅と通流で分けようか」


 結凛の言葉に桜梅が反論する。


「結凛ちゃん、ここは男チームと女チームで分かれましょう」

「え、何で?」


 結凛は質問をした。


「だってそっちの方が安全でしょう? 違う意味で」


 錬からすればどう考えても不当な評価もいいところだが、桜梅と一緒にならなければ割とどうでも良かったので何も言わない。


「だけど戦力が……」

「最大戦力の通流は別になり、私と結凛ちゃんのチームでは確かに戦力がいまいち欠けますけど、そんなの結凛ちゃんが召喚の能力で呼べばいいだけですわ」


 結凛は言葉に詰まり、渋々とそのチーム分けを採用した。

 こうして、錬・通流チームと結凛・桜梅チームはそれぞれ森の中へ入って行った。

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