いつもの日常
現在は昼休み。
朝から精神的にも身体的にも疲労を覚えた錬は弁当をバッグから出して机に広げる。
「よう、錬さん。一緒に飯食べませんか?」
そう言いながら錬の前の席の椅子を錬の席に向けて座り、奇特にもコンビニで買ったらしいパンを机の上に置いた男の名前は鉋高貴。錬のクラスメートであり友人だ。
知性溢れる外道な悪人面というのが錬の高貴に対する印象。反面、性格は悪人面の通り難ありだが外道ではない。
「今日も集まってんのね、ゲーオタ共! あなたの心に花を届ける、心花ちゃんただいま参上!」
アニメのような可愛いキンキン声でハイテンションに黒髪をツーサイドアップにしているその女子は鈍心花。この前口上は心花という名前の由来らしいと錬は聞いている。変身少女格闘アニメものみたいな口上だ。
「お前もゲーオタだろうが」
「いや?」
錬の言葉に心花は否定形で返しつつ、右横の席から椅子を持って来て弁当を机の上に置く。
「私も一緒に食べる~」
また一人女子が左の席から椅子を持って来て錬の席の机を囲い、弁当を置いた。その女子の名前は鉄真夜。黒縁眼鏡をかけていながら隠しきれていない容姿端麗、黒い髪をサイドテールにし、体の起伏が激しい。
「狭い……」
錬が呟くと心花が言う。
「あなたの弁当が大きいのよ」
「何で自分の席で弁当食べてるのに文句言われるんですかね~」
錬は軽口を返した。
この四人は銀、鉋、鉄、鈍と金偏の漢字一文字という縁と同じクラスメートとという事もあり、仲良くなった。もっとも、錬と鉋高貴は中学時代からの付き合いなのだが。
そんな四人は昼食を食べ始める。
「そういえば錬さん、君って生徒会に入ったのですか?」
高貴が錬に質問した。錬以外の三人が錬を注目する。
「まあね。生徒会の奴らと色々トラブってね」
錬は間違ってはいない事を煙幕で覆うように曖昧に答えた。このグループ全員が錬を含めてゲーム好きだったとしても、現実でゲームやマンガみたいな事が起こっているのは信じられないだろう。いじられるだけならまだしも下手したら本当に頭がおかしいと思われかねない。
「生徒会ってあれでしょ?」
「どれ?」
「藍生桜梅がいるでしょ」
「いるな」
錬はツンツンしている和風お姫様のような桜梅を思い出す。
「あの娘……気に入らないのよね」
「あ、心花ちゃんこの前言ってたもんね。ロリキャラがどうとか」
心花の言葉に思い出したのか、真夜が言った。
「言ってないし!」
心花はキンキン声で激昂する。
錬、それに高貴も二人の会話がどんなものか想像できた。高貴が面白そうに言う。
「まあ、そうですね。確かに鈍はロリキャラにおいて藍生さんに敵わないですよ」
「ちょっと、それどういう意味よ」
高貴は心花の言葉を受けて語り出す。
「鈍、お前のロリキャラは童顔、貧相な体、そのアニメ声から来るものでしょう? それってつまり同学年の女子から比較した相対的なロリなわけですけど。だが藍生さんは違う。藍生さんのロリは小学生フェイスと小学生のような声から為る絶対的なロリ。言うなれば鈍は似非ロリで藍生さんは半真性ロリなんですよ」
「つまるところ、高貴が言ってるのは鈍はただの童顔高校生で、藍生さんは発育の良い小学生って言いたいのか?」
「そういう事です。鈍と藍生さんじゃ、ロリとしてのレベルが違う」
「お前って本当に誹謗中傷得意だよな」
高貴の熱い誹謗中傷で心花は怒りを露にしている。
「あんたらね~……本当に言いたい放題よね! 死ね! このロリコン共!」
心花がバァーンと立ち上がり言った。それに高貴が涼しい顔で返す。
「ちょっと待ちなさい、鈍。俺はロリコンじゃなくてただの巨乳好きです」
「何が巨乳好きよ! それって心花と藍生だったら藍生を選ぶって事でしょ!? このロリコン!」
――――どっちもロリじゃないか。
錬は心の中でつっこむ。
「おいおい、いくら藍生さんが小学生フェイスでも同じ学年なんだからロリコンじゃないです」
「本当にうざいわね!」
心花は赤鬼のように顔を染めて錬に向ける。
「錬も私よりあっちの方がいいわけ!?」
あっちとは桜梅の事だろうと錬でも話の流れはわかる。錬は考える。
「俺は藍生さんより鈍の方が好きだぞ。鈍の方が表情コロコロして可愛いし、愛嬌あるし」
――――まあ、体の方は胸が大きい藍生の方が好みだがね。
錬の言葉に心花は顔を赤らめたままおとなしく座る。そして錬から目を逸らして言う。
「あなたねぇ……あまりそういうのは女子に言わない方がいいわよ。いや、本当にね。いつか大変な事になるから」
心花は「うぅ~」と弁当をつつく。
「それで錬君、鈍の話は置いといて生徒会ってどんな奴らなんですか?」
高貴は今までの話はなかったように話を戻す。
「私も興味ある~」
真夜も便乗する。
「どうって言われても……。まともに話したのは昨日が初めてだしね。でも、生徒会長と副会長は良い人だったよ」
というより錬からすれば心象が悪いのは書記の桜梅だけだ。
「男装の麗人灯磨結凛と巨漢金剛倉通流か」
「そうそう」
高貴は中学からのエスカレーター組なので生徒会への情報は詳しい。
「びっくりしましたね。あの生徒会長がまさかあんな高校デビューするなんて」
「高校デビュー?」
「ああ、灯磨さん、中学時代は文字通り男装の麗人だったんですよ」
錬は結凛を思い出す。
「確かに少し男っぽかったな、喋り方とか」
「結構女子から人気だったから。高校から入学組からはそうでもないけどエスカレーター組の女子からは中学の時程じゃないけど根強いファンがまだいますし」
「ああ、あれは人気出るわ。何て言うか人を安心させるようなオーラあるし、嫌味のない笑顔とかも――」
「あんた達ねぇ……」
錬と高貴の会話を心花が無理矢理中断し、続ける。
「女子と一緒にいるのに他の女子の話題ってどういうつもり?」
「話の流れです。流行には敏感なタイプですので」
高貴はあっけからんと言い、最後の一口のパンを食べ終えると制服のポケットから携帯ゲーム機を取り出す。
「じゃあ、先にやってますね」
そう言ってゲームを始めた。
どうやら錬が生徒会加入エピソードは彼等の中ではどうでもいいらしい。
次に食べ終えたのは真夜。そして「お腹いっぱい」と途中で食べ終えた心花に、完食した錬。三人はやはり高貴と同様のゲーム機を取り出してゲームを始めた。
「ねえねえ、せっかく同じゲームやってるんだから対戦しよう?」
真夜の言葉に高貴が見下した笑みを浮かべる。
「いいねぇ。俺は最初からそのつもりでしたよ。錬君と鈍もやるでしょう?」
高貴の問いかけに心花は「当然!」とニヤリ。錬も好戦的な笑みを浮かべる。
「当たり前だろ。昨日、新しい武器を手に入れてからお前らをボコボコにしたくてウズウズしてたんだ」
錬の挑発の言葉に高貴も心花も目を光らせる。
「それならサバイバル戦よ!」
心花は宣言する。真夜はちょっと気弱に言う。
「サバイバルか~。私、自信ないな~」
「大丈夫大丈夫、どうせ男子二人が真っ先に潰し合うんだから最下位はないわ」
「それなら真っ先に鈍を狙ってやる」
「きゃっ、錬きゅんこわ~い」
「錬きゅん言うな」
そして、四人のゲームのサバイバル戦が始まった。
ちなみに結果は錬が一位、真夜が二位、心花が三位、高貴が四位だった。心花の予想通り錬と高貴は真っ先に潰しあい、そして錬が心花と真夜を倒して三タテした。