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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第二章 悪魔組織→低頭山編
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脱出不可能

 ☆Side錬☆


 月読玉兎は地面に着地すると、錬と桜梅を下ろして消える。


「もうダメだ」


 錬は日影に入ると寝転がる。桜梅も側に座る。


「まさか低頭山から出られないとは思ってませんでしたわね」


 錬と桜梅が山の出入口というべきか、山の中と外を区切る境界線まで行ったのはいいのだが境界線を越えたところで再び山の中に入ってしまった。


「不幸中の幸い桜梅とまた分断されなかったのが救いだけど、もうしばらく動きたくない」

「同感ですわ。私も大して何かしたというわけではないけれど山から出られないというのはなかなか意気消沈しますわ」

「結凛や高貴達はどうなったんだろう。月読の耳でもあいつらに関連する音を何も拾えなかったんだけど」

「確かに……私も他人の事言えないけどうさぎさんと通流以外は戦闘からっきしだものね」

「もはやあいつらの無事を祈る他ない。あまり無駄な体力も食料も消費したくないし今日はここで休むから」


 桜梅は奇稲田大蛇を出現させる。


「それでは私が見張りするからうさぎさんはゆっくり休んでくださいませ」

「別にわざわざ見張らなくても……本当に寝るわけじゃないし」


 錬がそう言うと桜梅は柔らかい笑顔で隣に寝転がる。


「うさぎさん……私は戦闘が得意なわけではないし、うさぎさんを楽させて移動できるような能力もありませんわ。うさぎさんだけじゃない、みんなの足を引っ張ってる自覚もある。ついこの間生徒会に入ったカミナさんや苺夢さんにも強さを抜かれる始末、今日だってうさぎさんを助けるどころか頼ってばかりでしたわ」

「判断は桜梅に任せてたよ」

「でも大した事してませんでしたわ」

「そんな事ない、俺は暑さと疲れで正常な判断ができなかったから本当に助かってた。ありがとう桜梅」


 桜梅は顔を赤くすると錬と冷たく逆方向に顔を向ける。


「ありがとうございますわ」


 平静を装うようにそれだけ返した。


(あんな扇情的な眩しい笑顔でお礼なんて言われたら嬉しさがこみ上げちゃって不満なんか消えちゃう。でも、顔が熱いのどうにかして~! 奇稲田大蛇から自分の体温がわかっちゃうの恥ずかしすぎる)


 しかし顔を逸らしても桜梅は無意識の内に体全体で悶えていた。

 錬はそれを横目に予知しつつ少しでも体力を回復しようと何も考えないようにする。しばらくすると10秒先でとんでもない予知をする。錬は飛び上がり月読玉兎を出現させる。


「どうしたんですかしら?」


 桜梅はそれに気付いて錬を見上げる。焦ってるようだ。


「嘘だろ……。これ絶対避けられないのか」


 錬はそれだけ呟くと突然空から槍が錬の腹を貫いた。槍は体を貫くと空間の裂け目に消えていく。


「うさぎさん!?」


 奇稲田大蛇は倒れる錬を支えた。桜梅も起き上がり錬を見る。しかしその体には傷一つ付いていなかった。


「うさぎさん?」


 錬は頭を手で押さえて苦痛の表情を浮かべて立ち上がる。


「大丈夫。何とか月読の全知で対処した。だけど今の攻撃はまるで……いや、まるでどころか《#☆》そのものか」

「えっ? 今なんて言ったんですの?」

「《#☆》って言ったんだよ」

「それは日本語ですかしら?」


 錬と桜梅はお互い要領を得ない顔を見合わせている。


「それより早くここから離れよう。直に《#☆》――悪魔がここに来る」

「わかりましたわ」


 桜梅はすっきりしない表情で奇稲田大蛇を消すが錬の顔が和らぐ様子もなく、むしろ頭を抱えたまま地面に膝を着く。桜梅は支えるように錬の腕を掴む。


「うさぎさんうさぎさん! しっかりしてくださいませ!」

「絶対回避できない槍って何だよ。ふざけやがって」


 月読玉兎は錬達の背後に近付いた悪魔を蹴り飛ばした。他の悪魔が呆れた顔で言う。


「おいおい何だよ。あの方は戦闘不能にしたって言ったのに体に傷一つないじゃないか」


 皮切りに悪魔が空間の裂け目からぞろぞろと集まって来る。


「人間にはこれが一番いい」


 錬と桜梅を囲むように四方八方の空間の裂け目からあらゆる銃口が向く。2人ともそれだけこれから何が起こるのか容易く理解する。

 桜梅は奇稲田大蛇を出現させるとその長い蛇の尾で錬を巻き付くように囲む。


「うさぎさん、隠れててくださいまし。私が守りますわ」


 桜梅は恐怖でがちがちになりながらも錬を守るように小さな体を大きく広げて盾になる。


(大丈夫、私は不死だから死なない。でもうさぎさんがこんなの食らったら死んでしまいますわ。今日はもう全知を使っちゃったから。ああ、好きな人のために死ぬのってこんなに簡単ですのね。これは私が死なないから?)


 だが月読玉兎は桜梅に一瞬で近寄り抱える。


「きゃっ、うさぎさん!?」


 そのまま奇稲田大蛇を抱えると真上に跳んだ。奇稲田大蛇の尾に錬は掴まっている。月読玉兎は難なく包囲網から逃れる。


「なんて速さだ!」


 悪魔達が月読玉兎に向かって攻撃魔法を次々放っていく。


「桜梅、口を閉じてろ。舌噛むよ」


 錬は全ての攻撃魔法及び軌道を予知して月読玉兎で虚空を跳びながら悪魔達に向かいつつ全て躱す。


「あれを躱すのか。さっきの男とは違う、まるで予めわかっているような感じだな」


 1人の悪魔がそう呟いてから音を消す魔法をかけた雷の魔法を空から落としてみるが、月読玉兎は死角からの雷の速さの攻撃を回避する。


「さっきの男の神速のような反射速度とは違う。予知能力者か!? あの兎野郎、《#☆》の領域に踏み込んでやがる!」

「さっきの巨漢のオリハルコンといい、あの女顔の男の予知能力といい、今日は何でこんなに《#☆》の力を振るう人間がいるの!?」


 悪魔達の嘆きなど聞こえても無視して月読玉兎は悪魔の1体に踵落としを叩き込む。

 月読玉兎は背後から剣で斬りかかろうとする悪魔の背後に回り込み首に回し蹴りを放つ。悪魔達がどんなに先読み策を労しても錬の予知能力は意図も容易くそれを凌駕し対処する。悪魔達の魔法も攻撃も全て予めわかっているのだ。透明な壁の空間に閉じ込める魔法とそれを悪魔が仕掛けるタイミングと位置も把握し閉じ込めるられる前に回避できる。増援を呼ぼうとするための魔法を使おうとする悪魔もわかり魔法が完成する前に倒す事もできる。

 気付けば悪魔達は阿鼻叫喚で逆に錬と月読玉兎相手に攻撃ではなく抵抗に近い対処をしている。

 しかし、内心錬は焦っている。


(やばい、早くこいつらをどうにかしないと脳が持たない、気絶したら終わりだ。最低こいつら全員どうにかできれば俺が気絶しても桜梅が何とかこの場から離れて隠れる事くらいはできる)


 月読玉兎は悪魔のパンチを蹴り上げてから鋭利な爪で顔を深く引っ掻き一回転してから強烈な踵落としをする。そのまま虚空を蹴り縮地して悪魔がバリアーを張る前に足裏で横蹴りでぶっ飛ばす。


(ただの攻撃じゃ気絶する事もできない。致命傷当てないと)


 ぶっ飛ばして地面に倒れる悪魔に月読玉兎がそのまま飛び蹴りで腹に風穴を空けようとした時、月読玉兎は力を失うように着地して膝を付くと消える。

 桜梅はくらくらしながら起き上がる。


「うさぎさん、どうしましたの? もしかして頭が凄い痛いんですの!?」


 錬が奇稲田大蛇に支えられながら何とか立ち上がっていると、木陰から悪魔が気絶している苺夢を掴み出て来る。


「庭宮さん……」


 桜梅は呟く。錬はただ力なく見るだけだ。


「お前達の仲間は既に6人捕らえている」


(6人……後1人は捕まってないんですわね)


「どうやら人間相手には人質というのはなかなか有効らしいからこの女は人質として利用させてもらった」


 悪魔はそう言うと錬を見る。


「その男の予知能力の範囲は知覚内の10秒先、さらに言えばその範囲内ならばあらゆる可能性を知る事ができる。そいつの予知能力は単純に未来視ではない、あらゆる可能性がわかるという事は未知の物に対して知る事もできるという事に等しい。そんなの相手に俺達がまともにやり合えるわけがない。だが、人間が持つには強過ぎるな。逆を言えば不必要な情報も知る事になってしまううえに、同時に思考や記憶するように無限の可能性の未来を同時に知り続ける事になる。そんなの連続使用していたら人間の脳じゃオーバーヒートを起こすのも必然、だから俺は同胞達を犠牲にこのタイミングを待っていたんだ」


 悪魔は言い終わると桜梅の前に手錠を2つ投げる。


「それで自分とその男の手首にそれぞれ繋げ。おっと、まずは自分からだ」


 桜梅は敵意剥き出しの目で悪魔を睨み付けてから手錠を1つ拾うと自分に掛ける。すると奇稲田大蛇が勝手に消滅していく。錬は支えを失って膝を着いた。桜梅はうさぎさんと声をかけて駆け寄る。


(大蛇が勝手に消えて……それにキメラが出せなくなった。これはもしかしてキメラを封じる手錠?)


 もう1つを拾い上げて錬に近付くと手錠をかける。錬は疲れた顔を見せながら言う。


「どうやら悪魔達は俺達を殺す気はないらしい」

「わかりましたわ。とにかく今はゆっくり休んで」


 錬は気が緩んだのか目を閉じるとゆっくりと倒れた。


「ナイスだ、よくやった。お前達は一旦俺達の拠点に連行する」

「好きになさい」


 桜梅と気絶している錬と苺夢は悪魔に空中に浮かばれて移動する。悪魔が他の悪魔達に合流すると桜梅達と同様に通流、カミナ、高貴、真夜が宙に浮いているのが桜梅の目に映る。


(みんな気絶してますの? とりあえず死んでるような感じはないのが救いですわ)


 さらにとある人物がいない事も確認する。


(それに結凛ちゃんがいませんわ。既に捕まったんですかしら?)


 桜梅は悪魔に「あの……」と声をかけようとしてその言葉を引っ込める。


(何やってますの、私は! もし結凛ちゃんが捕まってないならばここでそんな事を聞くと悪魔達に結凛ちゃんの存在が露呈してしまいますわ! ここは悪魔が何か言うまで黙ってるのが最善ですわ)


 桜梅は黙して成り行きを見守る事にした。


「これで全部なの? 人間8人相手に手間取ったわけ?」

「ちげぇよ。この女顔の男と大柄の男と退魔女が無駄に強かっただけだ。他は雑魚」

「でもまだ仲間がいるかもしれませんよ。8人もいたんならもう少し数がいそうです」

「おいおい勘弁してくれよ。またこんな奴らとやり合うのはごめんだ」

「まあ間違いなくキメラ使いだわな。ただまあいるかいないかはその嬢さんに聞けばわかるだろ」


 悪魔達の視線が桜梅に集まる。桜梅は顔が強張る。


「単刀直入に聞く。お前らの仲間は他にいるのか?」


 桜梅は焦る。


(こ、この場合はどういう風に返すんですの!? 本当の事を言うべき? いないと答えるの? それとも人数を変えて答えたり? わかりませんわ!)


 悪魔の1人は侮蔑の笑みを見せた。


「これはいるな。間違いなく1人残ってるな」

「違いますわ! 後5人いますわ!」


 桜梅は思わず特に意味のない人数を言うが悪魔達はむしろそれで確信したのか次々と言い放つ。


「まずあんたさぁ、この子達の安否を目で確認してから誰かを探すように目を泳がせてたのよ?」

「そんな事は……」

「それに僕達の会話を聞きながら君の目からは一筋の希望が見えているようだった。あれは僕達がもう1人の仲間に気付かないと期待してたからじゃないか?」

「…………」

「その態度は答えの裏返しだぞ」

「そもそも私の仲間はここにいるだけですわ。変な勘違いしないでほしいですわ」

「そうそうその手をぎゅっと握る仕草さぁ、あんたさっきから嘘吐く時その仕草するんだよね」

「うぅ……」


 桜梅に為すすべがない。桜梅の言動は全て悪魔達に看破されてしまっていた。もはや目から涙しか流せない。


(うぅ、私は……私はうさぎさんの足を引っ張っただけでなく悪魔達に情報を易々と与えてしまいましたわ。みんなは悪魔と戦って気を失ったのに私だけは最後まで何もできずに……それどころか結凛ちゃんの足まで引っ張ってしまいましたわ)


 不甲斐なさと悔しさに桜梅は内から感情を爆発させているが理性と自分への侮蔑が体全体で抑えている。


「残りの仲間の数が割れたところで記念すべきフィナーレを狩ろうじゃないか」

「なんのフィナーレよ」


 悪魔達は狂ったように笑い合う。まるで今の桜梅とは正反対だ。


「さて、それじゃあどうする? さっきみたいに集団で攻めるか?」

「そもそも見付けられるのかが問題でしょ。能力も不明だし」

「人海戦術しかないですよ。誰かが見付けたら魔法で呼ぶ感じで」

「それもそうだな。ちょっと時間かかるがこの支部の奴らを拠点に少し残して総動員すれば見付けられるだろ」

「そんな事しなくたって本部にいるのを使えばいいじゃない」

「本部の奴らはさっき巨漢の奴と退魔女にやられて萎縮して出動する気がないようだ。こんな辺境の特に重要な場所じゃないし、気持ちはわかるがな」


 悪魔は仕事に愚痴を言う社員のような会話をした後、どこかに連絡を取ると桜梅達を1体の悪魔に任せて散会した。

 桜梅は結局悪魔に連行されて支部の本拠地に来てしまった。


(ここが拠点ですの? こんなところにあって結凛ちゃんは見付けられますの?)


 一抹の不安と希望を胸に桜梅及び他7人は悪魔組織の支部の拠点に幽閉される。

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