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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第二章 悪魔組織→低頭山編
35/37

槍を持つ者

 ☆Sideカミナ☆


 真夜のキメラの名前は《フェアリー》。その能力は魔力を用いずにキメラ《フェアリー》が魔法を使用する。

 その事を真夜は他の3人に話した。それはカミナの能力によって悪魔達に聞こえる事はない。


「とは言っても私のフェアリーは魔法を最大10回しか使えない。しかも悪魔で言えば下級程度。それにさっき1回使ったから魔法を使える回数は残り9回」

「ないよりマシだな」


 しかし戦力の差は歴然だった。数で勝るとはいえ、戦闘向きとはいえないキメラを保有する人間が1人、戦闘向きでないうえに経験がかなり浅い人間が1人、悪魔の力が封じられて人間レベルの悪魔が1人、そして既に負傷している天狗が1人。対して悪魔の3人は負傷も疲労もない万全の状態。


「忍さんはテレポートとか瞬間移動とか使えないわけ?」

「こいつらを撒く距離まで移動する魔法の完成発動に1分はかかるな。貴様ら1分保つ自信あるか?」


 忍の言葉を聴いて無理という単語がカミナの頭の中を過る。

 既にカミナの精神な極限に摩耗していた。意識を保つのがやっとでありただ立っているだけでも精神的に苦痛と疲労が溜まっていく。


「作戦会議は終わったか」


 悪魔が楽しそうに言った。それを聴いて忍は真夜達に言う。


「おそらく我々が行動するのを待っているのだろう。明らかな戦力差、奴らは楽しんでいる」

「戦力が足りないなら増やせばいいんじゃないかい?」

「どういう事だ鴬院」

「僕達がここで派手にどんぱちやれば忍さんか僕達の味方は駆け付けるはずだ。それに僕の眼があれば悪魔達の動きを大なり小なり抑制できる」

「自慢じゃないが我々天狗は以前からの悪魔との抗争で人手が不足している。期待はできない」

「それなら僕達の味方を期待しようか。通流に錬君が来ればある程度戦えるようになる」


 真夜は頷く。


「錬君は巻き込みたくないけど今はそんな事言ってる場合じゃないね~」


 真夜のフェアリーはお祈りするようなポーズをすると月の光に似たエネルギーの玉が現れる。


「ムーンライトボール」


 フェアリーはその玉を悪魔の1人に打ち出した。悪魔は容易くムーンライトボールを叩き消した。


「弱いな」


 悪魔は真夜に向かって拳を振るった。真夜はフェアリーでバリアーを展開するも障子の紙に指を刺したように簡単に破れた。さらに予め纏っていたバリアーも突き破られ真夜は腹に重い一撃をもらった。

 真夜は一直線に木に背中から激突した。


「鉄さん!」


 ジュウクが叫ぶと悪魔はその拳をそちらに向けた。ジュウクの映る世界がスローモーションになり拳を前に動けなくなる。感じたのは恐怖ではなく死。

 しかし悪魔は拳を止める。悪魔は「ちっ」と舌打ちしてバックステップして距離をその場から離れる。するとそこに炎の弾が横切る。ジュウクが火炎弾が飛んで来た方を見るとフェアリーが手の平を翳していた。


「大丈夫かい、鉄さん!?」


 ジュウクは膝を付き真夜に目線を合わせる。しかし返事はない。意識はあるが声を出す力もない。


(やっぱりあの噂は本当だったか~。だとしたらあの天狗には悪いけど少なくとも鴬院君とカミナちゃんは助かるかも)


 真夜は意識と無意識が混濁する中思った。


「不味い! 鉄さん、意識をしっかり持て!」

「うがぁっ!」


 ジュウクは後ろから痛みの叫びを聞いた。振り向くと忍の心臓が氷の剣で貫かれて血を流している。やがて忍の体は力を失い項垂れる。


「う、うわあぁぁぁぁぁ!」


 ジュウクは叫び声を上げた。


(こんな化け物に勝てるわけない……。逃げないと)


「カミナちゃん、逃げろおおぉぉぉ!」


 しかしカミナは立ったまま動かない、サンシャインハートも同様に側から動かない。


(体が動かないのか?)


 悪魔の女が言う。


「じゃあ私はそっちの褐色娘を片付けるから」


 悪魔の女はカミナに近付いていく。


(まずい! カミナちゃんが殺される!)


 ジュウクは震える足に鞭を打ち走ってカミナと悪魔の女の間に割って入る。そして眼と目を合わせる。

 悪魔の女は足を止める。


「お前……」


 悪魔の女が動きを止めた一瞬、背後から右手を剣に化かした九尾が悪魔の胸を貫いた。


「よっし……」


 ジュウクは安堵の笑みを浮かべる。


「あ……あ……」


 それをフリーズした意識でカミナが認識したのか枯渇した声を発した。


「大丈夫かいカミナちゃん!?」


 ジュウクはカミナの方を向いた。


「ご、ごめんなさい。私は大丈夫、もう動けます」


 カミナはサンシャインハートを動かす。


「錬達を呼び出すんですよね? それならばサンシャインハートの音を錬達だけに届かせます!」


 カミナが言うとサンシャインハートからカミナの声で「助けてください」という音が澄み渡る。


「やりました」

「ナイスだよカミナちゃん! 後は……」


 カミナとジュウクは胸を刺されても蚊に刺されたくらいしか気にしていない悪魔の女を見る。


「ちょっと油断したか」


 悪魔の女は言った。

 カミナはジュウクの前に出る。


「私に任せてください! 錬曰く私のキメラならば悪魔と渡り合えるらしいです。時間稼ぎくらいはしてあげます」

「それなら僕はサポートするよ。僕のキメラは戦闘が苦手なんでね」


 サンシャインハートは悪魔の女に真っ直ぐ突っ込み殴り付ける。悪魔の女は宙を浮き地面を転がる。


「やりました!」


 カミナはすっかりいつもの調子を取り戻していた。


「悪魔1人殴ったくらいで何喜んでんだお前?」


 悪魔の1人が脇を通り過ぎようとしたサンシャインハートの翼を掴み力任せに引きちぎった。


「ぐあぁぁぁぁっ!」


 カミナは背中の激痛に絶叫しながら倒れた。キメラとのシンクロ率が高いカミナはサンシャインハートの負った傷をそのまま身体に影響を与えた。カミナの背中からは服を貫通し血が翼のように滲み出す。


「カミナちゃん!」


 ジュウクは倒れているカミナに近付こうとすると目の前に羽のみたいにマッチ程度の火がゆっくりと落ちて来る。

 そして爆発する。

 爆発はジュウクとカミナを巻き込み吹っ飛ばす。

 悪魔はジュウクに近付く。


「どうするよこいつら」

「一応治療しておいたら? 人間って脆いから放っておいら死んじゃうよ」

「こいつらが死ぬと俺らにも都合悪いだろ。ほら……」


 悪魔が手錠を女に渡した。


「悪魔が作ったキメラ封じの手錠だ。こいつを使えばこいつらはキメラが使えなくなる。これでただの人間じゃ無駄な抵抗になる」

「そういえばこの子達仲間呼ぶとか言ってたけど……」

「それも問題ない。この辺り一帯音を外に出さない結界を張っておいた。聞こえない音もこれなら外に漏れる事はない。人間の仲間とやらどんな奴らか知らないが来させないなら来させないでいい。どうやら俺達の仲間が何人かやられたらしい」

「もう……そうでなくても現状面倒なのにこれ以上問題をややこしくして欲しくないよね」

「まあな。こいつらは使い道がある。とりあえず連れてこう」

「は~い」


 悪魔達はカミナ、ジュウク、真夜を治療すると気絶した3人を連れてその場から離れた。



 ☆Side錬☆


 月読玉兎は錬と桜梅を抱えたまま木から地面に向かって跳び悪魔の頭を足で鷲掴みにして体を回転させて首を捻る。鈍い音とともに悪魔は倒れる。そのまま月読玉兎は虚空を蹴り再び木に足を着ける。


「なかなか鮮やかですわね」

「まあ不意打ちで倒せれば問題ないから」

「それにしても生徒会役員の誰にも会いませんわ」

「俺の月読も全然あいつらの声も足音も拾わない。ただ戦闘の破壊音とかが聞こえないから大丈夫だと思うけどね」

「それなら安心ですわ」


 錬と桜梅は山を出るために山を駆けている。



 ☆Side通流☆


「不味いですね」


 高貴は考え込むように呟いた。


「どうした?」

「悪魔が戦闘をしている魔力を感じたのですが……、先程の1人の悪魔が5人の悪魔と戦闘の末殺されたみたいです」

「そうか」


 通流は特に何も思う事もなく答えた。


「それだけならいいのですが、もしかしたらメンバーの誰かが戦闘に巻き込まれた可能性があります」

「何だと?」


 通流は食い付いた。


「先程悪魔が殺された後に攻撃的な火の魔力を感じました。少なくとも魔力を持たない人間に対して使われたんだと思います」

「殺された悪魔が焼かれたとかじゃないのか?」

「微妙ですね。証拠隠滅にしても時間があれば生物を分解する魔法なりを使って消せると思うが」


 通流は顎に手を当てる。


「今から走って間に合うと思うか?」


 高貴は難しい顔をする。


「頭おかしい悪魔と遭遇するのは得策ではないが、魔力の感じからして殺さないように抑えていたみたいだしもしかしたら助けられるかもしれないです」


 苺夢が割って入る。


「とうとう私も悪魔と戦闘なの? 緊張するな~」


 通流と高貴はテンションが上がっている苺夢を見て溜め息を吐く。本物の悪魔相手に一度戦闘してあっさり敗北した通流と悪魔の強さを自分自身よく知っている高貴としてはテンションが下がる。


「俺が1人で行く。残念ながら人を助けながら足引っ張る奴らを守る余裕はねーからな」

「その方がいいですね。俺も残念ながら人間レベルの強さじゃ悪魔相手にどうしようもないし、庭宮は実戦経験が不足しています。その点、通流の今の実力ならば人を助けて逃げるくらいならできるかもしれないです」

「決まりだな。ちょっと行って来るぜ」


 通流はソファから立ち上がる。


「悪いが庭宮、入口を開けてくれ」

「了解、と」


 閉じられた空間に外へ出る穴が開く。通流は外に出てパワードキングダムを出現させ六足歩行にして乗ると高貴から教えてもらった方向へ走り出す。

 しばらくするとジュウク、真夜、カミナが近くにいる事をパワードキングダムの鼻が察知する。

 通流はパワードキングダムを消すと匂いが強かった方向へ木々に隠れながら自分の足で近付く。木に隠れて3人がいるであろう場所を覗く。

 そこには3人が大きい木に縛られて頭を項垂れていた。


(マジかよ、あいつらが戦ってたのか。見る限り外傷はない、息もしてるようだし生きてるか。しかしこれは明らかに罠! あれは人質だ。何が仕掛けられているが、何を仕掛けて来るか。が、逆を言えば今あいつらはフリーだ。上手くすれば全員助け出せる、スピード勝負だ)


 通流はパワードキングダムの角を掴みトップスピードで3人へ近付くと跳びかかり爪を立てて縛っているロープを切ろうとする。すると3人を縛っていたロープが解かれ通流に向かって伸びる。


「なにぃ!?」


 しかし通流は首に伸びてくるロープをパワードキングダムの背を足場にジャンプして躱す。難なく着地するとロープは目標を変えパワードキングダムを縛ろうと動くその瞬間――――


「ゴッドスピン」


 パワードキングダムは自身を高速で回転させてオリハルコン化した爪でロープを切り刻む。

 そしてパワードキングダムの目を通して通流はジュウクが顔を上げると起き上がり右手が光り出す。通流は判断を蔑ろにパワードキングダムでジュウクを殴り飛ばし木にぶつける。間髪入れずカミナと真夜が手から炎と雷を繰り出す。


「ゴッドブレイク!」


 パワードキングダムは手をオリハルコンにして炎と雷を掻き消しながらカミナと真夜を雨霰に殴る。カミナと真夜は全身あり得ない方向に曲げ血を流して倒れる。

 直後ジュウクが起き上がろうとする。


「オリハルコンクロー」


 パワードキングダムでジュウクを引っ掻いた。ジュウクは引っ掻いたところから血を噴き出して膝を着いた。

 ジュウクは呼吸を荒くして忌々しくしく口を開く。


「ぐ……なぜ我々が偽物だとわかった?」

「簡単な事だ。ジュウクは魅了の魔眼を持っている、俺はわざわざお前の目を見て魅了されるかどうかで真偽を確かめた。そして俺は魅了されなかった、つまりお前は偽物だ。そしてカミナは魔法を使えない、鉄も同様だ」

「この攻撃、我ら同胞達を葬った片割れの1人か」


(片割れ……という事は錬も悪魔を倒したのか)


 通流が思考しているとパワードキングダムが音を捉えた。通流の真横から悪魔が拳を振るって来る。通流はそれを回避する。


「本体とキメラが離れ過ぎだぁ!」


 殴りかかって来た瞬間そう叫んだ悪魔が第2撃を振るおうとした時、音を聴くと同時に動いパワードキングダムが通流の元に戻り悪魔を殴り飛ばした。


「ごほごほっ! なぜ……速すぎる」


 通流はキメラ以前に人外の域にあると言わんばかりの反射速度とそれに準ずる判断力を有している。今も気付いてから悪魔の予想を超越した速さで反応しキメラを呼び戻したに過ぎない。


「やばいわ。天然物のキメラでもこのレベルは見た事ない」


 通流は悪魔が何か喋ってるのを聞きながら周りを観察する。


「タイマンじゃ倒せないね、これは」


(倒した悪魔は2体、負傷2体、残った悪魔は負傷含めて4体か。さっきのは不意打ちに対してのカウンター、言うなれば不意打ちカウンターで油断した2体に戦闘不能になるまでの攻撃を浴びせられたが……)


「だけど見た限り近接戦闘が主体らしい、これなら遠距離から攻撃すれば安全に倒せる」


(残り4体、決定的な弱点も看破されたみてーだし倒すには部が悪い数だな。だが今の俺なら弱点を考慮しても倒せない数じゃない。それに逃げたとしても移動速度という意味ではあちらの方が速そうだ。こいつらを引き連れて高貴達と合流するのはまずい。ならば不利だがここで倒すのが正解だ)


「だが負傷含めた4人じゃこの人間を倒すのに安全と言えない数だ。という事で増援だ」


(増援だと?)


 直後、空間の裂け目から20体の悪魔が出現した。


(おいおい、嘘だろ)


「20人しか来ないの? 少なくない?」

「下等生物相手にむしろ集まり過ぎてるくらいだと思うが」

「相手が下等生物だからこそよ。この人間は悪魔を倒せるスペックを持っている。油断しないが吉」

「そうそう、俺達は制限で人間を殺せないが今は別だ。誰が殺しても恨みっこなしだ。こいつは危険だ、全力で殺せ」


(ちっ、人間同士でも1対20なんて無理だろうが!)


 通流はパワードキングダムの角に掴まり、1体の悪魔に向かって走り出した。悪魔は不意打ちを付かれたのか反応が遅れている。パワードキングダムが振り下ろした拳は悪魔の頭部に直撃する。しかし悪魔はよろける程度で倒し切れていない。


(ちょっと軽かったか! だが……)


 パワードキングダムの耳が雷の音を捉えると、殴った悪魔の頭を掴み雷に投げる。雷は悪魔に当たり妨害される。


「どうやらこの男、反射神経が人間のそれじゃないようだ。がむしゃらに攻撃しても意味がない」


 通流は止まない攻撃魔法を回避しようと移動しようとするがパワードキングダムが轟音を立てて透明な壁に激突した。


「ぐごっ!」


 通流は反射ですら対応できない透明な魔法に直撃した。通流は思わずパワードキングダムの角から手を離し地に足を着ける。


「透明な壁で囲った。今の内に回避できないくらい攻撃魔法を囲え」


 周りの悪魔が閉じ込められた通流に無数の攻撃魔法を放つ。


「ちっ、こんな壁ぶち壊してくれる! ゴッドブレイク!」


 パワードキングダムは手を硬化させてパンチのラッシュをする。


(早く壊さないと周りの攻撃に対応出来なくなっちまうぞ)


 パワードキングダムが休む事なく透明な壁に攻撃を続けていると透明な壁にひびが入り始めた。


「マジかよ……。あの箱を物理で壊すのか……化物め」


 やがて透明な壁が割れるように壊れると同時に通流は一番攻撃が薄そうな方へダッシュした。パワードキングダムもすぐに通流の前に出て全身を硬化して盾になり前進しながら攻撃魔法を防ぐ。そのままパワードキングダムは悪魔に拳を振り下ろす。悪魔はそれを横に躱すがパワードキングダムは相手に合わせて振り下ろす軌道を変えて殴ると下方の手でさらに殴り飛ばした。

 そのままその場から退避しようと動くとパワードキングダムを透明な壁に触れた瞬間に止めた。


「邪魔だぁぁぁ! ゴッドブレイク!」


 パワードキングダムは先程と同じ要領で透明な壁を壊す。それもさらに早く。


「薄いな」


 通流は余裕の表情を浮かべた。しかし――

 パワードキングダムの壁を壊した拳がまた透明な壁に直撃した。


「二重だと!?」


 通流は一瞬で苦い顔をする。


「いや、五重だ」


 通流がパワードキングダムで壁を殴りながら周りを観察すると、先程と違い5人の悪魔が攻撃魔法を放っていなかった。


「数の利はこっちが上だ。下等生物が」


 通流は黙って壁を壊し続ける。既に3枚壊し残り2枚。だが攻撃魔法はすぐそこまで迫っている。


(くっ、間に合わないか……)


 通流は壁を壊すのを諦めて防御体勢に入る。


(躱す隙間がない。全て防御するしかないな)


 流石にこの状況になって通流の頬に冷や汗が伝う。パワードキングダムが魔法を防ごうと羽根を広げ拳を振るうと、通流を囲うように黒い影が広がる。


「こいつは……」


 魔法は影に阻まれ掻き消えると影が元の場所に戻るように収縮する。収縮する先は苺夢の足元。


「危なかったね金剛倉君」


 苺夢は安心したような笑みを浮かべた。


「悪魔の気配が増えたから心配になって来ましたけど正解でしたね」

「庭宮、高貴、礼を言う。流石に今のはやばかったぜ」


 通流は2人の側まで移動した。


「ゴキブリのように人間がぞろぞろと現れたわね」


 悪魔が面倒くさそうな顔をした。


「いやはや、それにしてもこの数の悪魔相手に2体も持っていくとは恐れいります」


 高貴が呆れを通り越して称賛するように言った。


「確かに金剛倉君凄いね。私も相対してわかりますけど第六感っていうのが全力でやばいと訴えてきてるよ」


 苺夢は退魔刀《巫姫》両手で持ち構える。


「さあ、早く逃げますよ。あんなの相手にできないです」


 高貴が言うと2人は頷いた。

 苺夢は影を切り離すとそれを穴にする。そして影に飛び込んだ。しかし、苺夢が影の中に入る事はなかった。


「どうして?」


 苺夢が呟くと通流が舌打ちした。


「どうやら悪魔共に空間を閉じられたらしい」


 通流の言葉に悪魔が応える。


「その通りよ。影の中への出入口を閉じたの、逃げられたら面倒だもの。数が少ない内に潰させてもらうわ」


 通流が臨戦態勢に入ると苺夢も巫姫を構え直してラズベリーラビリンスを出現させる。


「どうするんですか?」


 高貴が通流に聞いた。


「やるしかないだろう。不幸中の幸い、数は不利だが1体1体は倒せない相手じゃねぇ。各個撃破を繰り返していけばどうにかなるかもしれない」

「わかりました。それじゃあ俺と庭宮で通流をサポートします」


 その瞬間、苺夢の真横に悪魔が1体がいた。通流は気付くとパワードキングダムで殴ろうとする。


(不味い、ちょっと遠くて届かねぇ!)


 直後、悪魔が攻撃を仕掛ける直前に苺夢が巫姫を振り上げて一閃する。悪魔の腕が切断されて宙を舞う。同時に苺夢もジャンプすると逆さになり悪魔の頭上を飛び越えながら一閃しもう片方の腕を肩から切り落とし、足を地面に向けつつ着地しながらさらに背中から頭を一閃した。

 パワードキングダムは予想外の出来事にフリーズしてしまったらしい悪魔を横殴りにして吹っ飛ばした。


「どういう事だ、こりゃあ」


 通流が疑問を呈すると苺夢が我に返ったように狼狽える。


「ひっ、腕が落ちてるうぅぅぅ!」


 高貴が感心したように言う。


「どうやら退魔の一族である庭宮の血が覚醒しつつあるみたいですね。いや、この場合先祖帰りか? なるほど、確かに退魔刀《巫姫》とこの身体能力ならば最低限悪魔は倒せるかもしれないです」

「え? これ私がやったの!?」


 苺夢が巫姫と悪魔の腕を交互に見ている。


「自覚がねーのか」

「おそらく反射的な行動だったんだと思います。人間が梅干しを見て唾液がどばどば出る放出するように、庭宮は第六感が悪魔の悪意かあるいは魔力かに反応して反撃行動に出たんです。これは所謂条件反射に分類される後天的に獲得した反射行動、しかしおそらくこれは庭宮という退魔師一族の血が世代を越えて長い時間をかけて身に付けた条件反射であり庭宮苺夢という血もその条件反射を先天的に持っていた。言うなれば条件無条件反射!」

「戦闘中なのに話が長いよ!」


 苺夢が高貴を非難するとラズベリーラビリンスが矢を射つ。悪魔は一直線に飛んで来る矢を避ける素振りを見せず、むしろそれを殴るように振り上げた。すると弾かれたと思った矢は弾くどころか止まる事なく、むしろ腕を消し飛ばして木に刺さった。


「半端ねーな」


 通流は特に驚く事もなく淡々と評価した。

 矢を放った当のラズベリーラビリンスはその光景に唖然とする。


「鉋君、これは?」


 2つの意味で同じ顔をした苺夢が質問した。


「たぶん庭宮苺夢の退魔師という特徴が色濃く出たんだと思います。そもそも合心獣キメラとは本体の分身であると同時にこの世に存在しない生物なんだ。そしてキメラにも動物同様それぞれ身体的機能が異なる。わかりやすい例で言えば身体能力とかです。もっと言うならライオンの雄にはたてがみがあったり、スズメバチにはミツバチと違い強靭な顎をしていたり、ハゲ鷹の頭部がハゲていたりその生物特有の機能のようなものです。ラズベリーラビリンス自体には特殊能力はないけど矢には魔を払う機能があったみたいです」

「うんちくは後だ。来るぜ」


 通流の声でパワードキングダムとラズベリーラビリンスが構える。

 悪魔の1人が怒りの形相で手を空に掲げると大きな火の塊が現れ、それを通流達3人に向けて落とした。


「あれはちょっと防げねーな。ラズベリーラビリンス、庭宮を乗せろ! 逃げるぞ!」

「違います! あれは防げます。魔法は消せます! ラズベリーラビリンス、火に矢を放て!」

「はい!」


 ラズベリーラビリンスは弓を引くと火に向けて矢を放った。矢はいとも簡単に火を消し飛ばした。


「そうか、退魔の力ならば魔法を退ける事ができるのか」

「ああ、俺と庭宮が通流をサポートします。後は接近戦で何とかしろ」

「わかった」


 通流はパワードキングダムとともに悪魔達が固まっている場所まで走った。


「あの人間を近付けるな!」


 悪魔は近付いて来る通流に魔法を放つ。しかしラズベリーラビリンスが回避できなさそうな魔法を矢で消していく。


「大きいのは矢の的よ! 散弾や連続魔法で対処しなさい! 数を増加させなさい!」


 逆にその策はパワードキングダムが簡単に対処してしまう。

 やがて悪魔達の懐に潜り込んだ通流はパワードキングダムでまずは一撃をぶちかます。


「上手い! 集団の真ん中に入るのは囲まれて逃げ場がないが逆を言えば集団は味方同士を攻撃してしまうリスクがあります。魔法を使うならば尚更です。ラズベリーラビリンス、援護射撃です」

「わかりました!」


 一撃必殺とはいかないが通流は悪魔達相手に着実にダメージを与えていく。悪魔達が通流に肉弾戦を仕掛ける中、集団から外れて複雑な魔法の準備をしている悪魔が1体いた。高貴はそれに気付いてラズベリーラビリンスに指示する。


「あの悪魔を狙え。何かするつもりです」


 ラズベリーラビリンスは指示に従いその悪魔に矢を放つと魔法に集中していたのか直前までそれに気付かず胴体が消し飛んだ。


「ナイスショットです」


 高貴は言った。

 それを見ていた通流と戦闘していた悪魔の1人が集団から外れた。


「あの悪人面、魔力を感じなかったから人間だと思ってたが悪魔か! まずはあの厄介な奴を殺す」


 悪魔は高貴が悪魔という事に気付くと近くの大木を片手で引き抜いた。


「え、あれやばくない?」

「そうですね。あれは矢では防げない」


 苺夢と高貴は冷や汗を流す。

 悪魔は大木を盾のように前に出し身を隠す。


「ラズベリーラビリンス! あの悪魔を止めて!」

「わかってます!」


 ラズベリーラビリンスが弓矢を構えながら木に隠れた悪魔を打ち抜こうと回り込もうとした次の瞬間、苺夢と高貴を支える大地が崩れた。2人は足の地を失った。


「うおおおおお!」


 高貴が叫ぶ。

 悪魔は大木を2人に向けて投げた。

 けれども苺夢の思考は止まる事も絡まる事もなかった。空中で影を操り飛んで来る大木の影に繋げると磁石のように足を吸い寄せて着地し、高貴を影で掴む。

 悪魔が飛行しながら直接仕留めようと近付いて来ていた。


「待って待って!」


 苺夢は半ば反射的にそう声を上げると影で悪魔を縛った。


「やった、拘束成功!」


 苺夢は不敵に嬉しそうな声を上げた。


「何が拘束成功だ」


 悪魔は腕を広げて影を壊して拘束を解いた。


「嘘でしょ?」


 同時に苺夢と大木を縫い付けていた影も高貴を掴んでいた影も壊れた。苺夢は飛んでいた大木の慣性も加わり同じ方向に落下し始める。


「苺夢様あぁぁぁぁ!」


 ラズベリーラビリンスが叫びながら石や木に飛び移り苺夢に近付いて抱えた。大木に着地すると悪魔に対して矢を放つ。悪魔は矢を空中で回避すると開いた道をジャンプして通流がいる高さの地まで戻って来た。


「大丈夫か庭宮!? 高貴はどうした!?」


 通流が悪魔達の攻撃に対応しつつ苺夢に聞いた。


「金剛倉君! 鉋君が、鉋君が……!」


 苺夢は泣きそうな声で答えにならない答えを応える。


「余所見するなよ嬢ちゃん」


 苺夢は反射的に巫姫を振るう。だが悪魔はそれを難なく躱す。


「確かに嬢ちゃんの退魔刀は厄介だが……、だけど振ってる嬢ちゃんが人間な限りその退魔刀は俺に当てられない。なぜなら嬢ちゃんより俺の方が圧倒的に速いうえに油断していないからだ」

「何が言いたいの?」


 苺夢は涙ぐむ。


「つまりこういう事だ」


 悪魔は苺夢から距離を取ると指をパチンと鳴らす。すると空間に幾多の穴が開き、そこから銃口が突き出る。


「んにゃっ!?」

「マシンガン、ショットガン、グレネードランチャー……魔法で異空間に保管してある武器だ。確かに銃は魔法で出した。だが銃は魔法じゃない、嬢ちゃんもよく知ってる人間の武器だ。さて、嬢ちゃんは銃弾の弾幕を防げるのか?」


 苺夢が見渡す限り銃口が苺夢を突き付けている。


(仮に巫姫で銃弾をどうにかできてもこの数の銃の猛攻を防御するなんて無理!)


 だが苺夢は逆に冷静になっている。


(だけど私には影の能力がある。影のバリアーなら銃弾くらいは防御できる)


 苺夢は影を操って自身の周りに張った。

 そのつもりだが――――


「どういう事? 影のバリアーが……」


 苺夢に段々焦りが見えてくる。それを見て悪魔は高らかに笑った後その疑問に答える。


「影というのは決して消える事のない存在だ。だが、影は一度壊れると回復までにしばらく時間がかかる。自分の足下を見てみろ嬢ちゃん」


 悪魔の言う通り苺夢が足下を見ると、太陽の光に当たっているはずなのにそこには影ができていなかった。


「そんな……」


 苺夢が絶望的な表情を浮かべる。


「苺夢様、私の後ろに隠れてください! 私が盾になれば喰らう攻撃を減らせるはずです!」

「それじゃあラズベリーが――」

「私の死は苺夢様が死ぬ時です! それに苺夢様より私の方が頑丈です」


 ラズベリーラビリンスが苺夢の前に出て両手を広げてこれから始まる銃撃を受け止めようとする。


「ラズベリー!」


 苺夢が叫ぶと同時にそれぞれの銃口から弾が発射される。

 だが銃弾がラズベリーラビリンスに到達する前にパワードキングダムが間に割って入りオリハルコンに硬化すると攻撃を全て受け止めた。


「ちっ、忌々しい糞キメラだ!」


 苺夢はしばらく茫然自失になるとすぐに我に返り思い出す。


「そうだ、金剛倉君は!?」


 苺夢が通流の方を見るとキメラがいない状態で悪魔達のど真ん中にいた。


「悪魔相手にキメラを手放すとはやはり人間はバカだな」

「くっ!」


 通流は顔面に飛んで来る拳を紙一重で回避する。


「やばい! ラズベリー、金剛倉君の援護を!」

「承知しました」


 苺夢の指示にラズベリーラビリンスは即座に動き通流の元へ向かうが、通流は3回目の攻撃の蹴りを腹でまともに喰らう。


「ほらよぉっ!」


 悪魔は通流を空高く蹴り上げた。


「そんな……」


 しかし、通流を蹴り上げた悪魔は突然蹴った足を押さえて抱え込む。


「あ、あの人間、俺の足が当たる瞬間腹をオリハルコン硬化しやがった」


 通流は持ち前の神速のごとき反射速度と反応で悪魔の肉弾を回避しようとしていた。初撃は何とか躱せたが、例え初速が速くとも悪魔の攻撃は人間の身体が動くスピードより遥かに速く2撃目は躱せても3撃目は躱せなかった。つまるところ反射しても肉体の速さがそれについてこれず、反射速度が肉体の速度を置いてきぼりにしてしまった。それでもその状態で神速に反射反応し悪魔の蹴りを防御するために腹部をオリハルコン硬化して

致命傷を避けた。

 通流は迫る空を見上げながら何とか意識を保っていた。


「ちっ、やべーな。流石にこの高さから落ちたら助からねぇな」


 そんなどんどん空に吸い込まれていくように小さくなる通流を見上げながら苺夢は必死に考えた。


(どうするの、あの高さから落ちて来る金剛倉君をどう助ける? 一応ラズベリーが助けようとしてるけどその前にあの悪魔をどうにかしなくちゃいけない。ラズベリーは肉弾戦が得意なわけじゃない。数が減ったとはいえあの数の悪魔相手にラズベリーでは力不足、落下地点に行けない。パワードキングダムも私を守るためにこの場所から動けない。悪魔も悪魔で手を抜く感じはなく空中で回避ができない金剛倉君に攻撃魔法を放とうとしている。今、金剛倉君を助ける最善の手はこれしかない!)


 苺夢はラズベリーに新たな指示を飛ばした。


「ラズベリー、援護射撃を!」


(通じて!)


 苺夢は自分の意思を持つ自身のキメラに正確に真意が伝わるように祈る。


「了解しました!」


 ラズベリーラビリンスは走りながら弓矢を構える。応戦しようとした2体の悪魔はすぐに魔法で地面を隆起させて土の壁を作る。

 ラズベリーラビリンスは悪魔の回避行動を確認すると後方へ体を向けて狙う。そこには銃撃をしている悪魔がいる。ラズベリーラビリンスが矢を放つと銃撃している悪魔は気付く事なく矢が体を貫通する。苺夢に向けられた銃撃が止んだ。パワードキングダムはすぐに動いてその場から離れた。


「ナイスラズベリー!」


 苺夢の真意は金剛倉君を助けるために早くパワードキングダムをフリーにする事だった。そのために銃撃している悪魔を倒す必要があった。ラズベリーラビリンスでは複数の悪魔を相手にできないと苺夢自身なんとなくわかる。だからラズベリーラビリンスが通流を助けに行こうとしていると思わせて銃撃していた悪魔を不意打ちの形で倒した。


「初陣なのにやるじゃねーか庭宮」


 通流は声が届かないとわかっているが褒めずにいられなかった。


「それに……無事だったか鉋!」


 パワードキングダムの耳を通じて通流に高貴の足音が届いていた。

 そしてそれは地上にいる苺夢も気付いた。


「鉋君よかった、無事だったんだね」

「お陰様で……ちょっと怪我してしまいましたがどうやら運命は俺を見放さなかったみたいです」


 高貴は木に右手を着いて体を支えている。その体はボロボロで頭から血が出て、左腕がぶらぶらしている。


「厄介ね。だけど……」


 悪魔の1人が離れた位置にいる高貴の真後ろに瞬間移動した。


「終わりふふふ――ぐがっ」


 悪魔は高貴に攻撃を仕掛ける前にその腹を影が貫いていた。


「私の影も復活したみたい!」


 影に刺された悪魔を矢で射る。

 苺夢は巫姫を手放すと影が柄を包み掴む。悪魔が攻撃魔法を撃ってくると巫姫を振り払い打ち消した。


「ラズベリーラビリンスっ! ボロボロになった悪魔を狙い撃て!」


 苺夢はパワードキングダムとの戦闘で負傷している悪魔を狙うように指示した。


「なんて卑劣な!」


 悪魔が弓を引くラズベリーラビリンスに向かって魔法を放つと退魔刀巫姫がそれを消して防御する。矢は負傷して動きが鈍くなっている悪魔を難なく射ぬく。次々射ぬく。

 気付けば動ける悪魔の数が半分以下にまで減っていた。


「この人間達人間じゃないよ!」


 悪魔が恐怖に顔を歪めている。


「わかってる。増援を呼ぶ」


 悪魔が魔法を発動しようとしたところをラズベリーラビリンスが矢を放つ。他の悪魔が土の壁を作りそれを防ぐ。その裏ではパワードキングダムが仲間を呼ぼうとする悪魔に殴りかかるが他の悪魔が身を呈して庇うとその瞬間に透明な箱に閉じ込められた。パワードキングダムは10に重なった壁を破壊しようと攻撃を続ける。巫姫を持った影がパワードキングダムを閉じ込めている透明な壁を切って消すが、今度はパワードキングダムが光の鞭で拘束される。


「あいつらパワードキングダムを徹底的に封じるつもりです!」


 高貴は痛みを堪えて苺夢に言う。

 苺夢は仲間を呼ぼうとする悪魔に影で持った巫姫で切りかかる。他の悪魔が魔法で木から作った盾でそれを防ぐ。その悪魔に影を伸ばして腹を貫通させる。パワードキングダムが光の縄を引きちぎり腹を貫通した悪魔を殴り飛ばす。苺夢は影を操り巫姫に仲間を呼ぼうとする悪魔に振り下ろす。悪魔はバックステップでそれを躱すがパワードキングダムの振り下ろした腕に巻き込まれてダメージを受ける。

 そして何者かにパワードキングダムは頭を掴まれると無理矢理地に伏せられた。


「ま、不味い。この魔力は桁違いです」


 高貴は狼狽する。

 逸早く苺夢は反射的にその存在に巫姫を向けている。だがそれよりも前にその存在によって投げられた槍が苺夢を貫き巫姫が届く事はなかった。

 苺夢はむなしくも凶刃に倒れ、ラズベリーラビリンスも消えてしまった。


「庭宮ぁっ!」


 高貴は鈍痛走る体にむち打ち近付くが悪魔が間に入り妨害する。


「庭宮も気絶して通流も取り込み中の今、自分で何とかするしかないか。あまり使いたくないですけど」


 高貴は自身のキメラを出現させる。

 熊の体に、苔色の鰐が頭から背中、尾へと伸びている。尾が威嚇するように揺れている。


「金剛倉っ、庭宮を守れ! 俺のディアボロスは――」


 高貴が全て言い切る前にディアボロスと呼ばれた高貴のキメラが尻尾で高貴を薙ぎ払った。高貴は勢いのまま大木にぶつかる。どうやら辛うじて意識は保っているようだ。ディアボロスは両手をガトリングに変化させるとそのまま目の前の悪魔を蜂の巣にした。

 通流は今の事で把握した。ディアボロスは暴走してあるのだと。


「あの野郎、だから今まで出すの渋ってたのか」


 パワードキングダムは自身を踏みつけている槍を持つ者の足を引っ掻こうとすると、槍を持つ者はわかっていたようにジャンプして躱す。その隙にその場から離れて苺夢を回収しようと向かうがディアボロスがパワードキングダムに牙を向けて来た。パワードキングダムはアッパーを決めると、苺夢を抱え高貴を回収しようと向かい妨害する悪魔を拳で黙らせる。高貴の側に来ると苺夢を置き守るように前に立つ。

 ディアボロスは体勢を立て直すと突撃して来た悪魔に腕を振り下ろし地面に叩き付けると腕を銃に変化させて突き付けて零距離で乱射する。ぴくぴくする悪魔に飽きたように槍を持つ者に狂暴な眼光を向けると顎を開き襲い掛かる。槍を持つ者は口の中に槍を突き刺し貫くがディアボロスは痛みを感じないのか背中からミサイルを発射した。槍を持つ者は槍を手放してミサイルを回避し、槍を手元に戻すと追尾して来たミサイルを薙ぎ払い槍を投げて再び突き刺す。


「ちっ……勝負になりませんね」


 高貴が呟くと目の前に悪魔が現れる。


「悪魔か……金剛倉!」


 悪魔は手のひらに火の玉を作る。しかし、パワードキングダムは高貴の声に反応しない。悪魔はにやりと馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「まさか、音を消しているのか?」


 高貴は漸く状況を理解し立ち上がろうとするが悪魔が火の玉を撃った。火の玉は高貴に直撃すると音を響かせる事なく爆発した。

 爆発の光で気付いた通流はパワードキングダムで振り向き様に悪魔を殴り飛ばすが時既に遅し、高貴は力なく項垂れる。


「しまったぜ……」


 通流は呟く。

 ディアボロスは高貴が気絶すると同時にその存在を霧散した。そして槍を持つ者の照準はパワードキングダムに合わしていた。


「どうやらやるしかないようだな」


(とは言ってもあまり時間はかけられねえ。このままだと俺も落下して八つ裂きになっちまう。幸い悪魔は増援された槍の奴1体だ)


 通流はパワードキングダムを槍を持つ者に向けて動かす。投げられた槍はパワードキングダムに直撃するが硬化された部分はヒビすら入らない。


「ほほぅ、オリハルコンか」


 槍を持つ者はそう言うと槍を手元に戻してパワードキングダムにそれを振り下ろす。パワードキングダムは上の2本腕を交差させてオリハルコン硬化して受け止めた。


「ぐお! なんつうパワーだ」


 そのパワーはパワードキングダムの足下から地面にヒビが入り陥没し始める。パワードキングダムは下の右腕で拳を作り振り上げて槍を弾いた。槍を持つ者は後ろに大きく反れるとその隙に拳を叩き込む。しかし槍を持つ者は体勢を素早く立て直し槍の柄で拳を防御し振り払うと同時にパワードキングダムを攻撃するが、斬られた場所は既に硬化している。パワードキングダムは直ぐ様4本の腕で攻撃するが攻撃が届く前に槍で突かれて遠ざけられてしまった。


「この悪魔、格が違うな」


 通流は流石に冷や汗を流して余裕をなくす。しかし死が迫っているというのにその目は冷静を物語っている。

 パワードキングダムは飛び上がり振り下ろして突き刺して来ようとする槍を持つ者を殴ろうとするが拳は透明な壁に阻まれる。槍を持つ者は透明な壁を足場にして乗り槍を真下にいるパワードキングダムに横から突き刺さそうとする。パワードキングダムはそれを弾こうとするが槍は空間の裂け目に入り反対側に現れ、それに反応し硬化した腕でガードするがまたしても空間の裂け目に入る。通流は視界から消えた事を認識して背中を硬化するが空間の裂け目に再び入り右頭部に向けて出て来て、腕でガードするが空間を飛び越えてガードを無視して右頭部に直撃する。当たるとほぼ同時に頭部を硬化して槍を防ぐ。

 パワードキングダムは槍を持つ者が槍を引くと同時に距離を取る。槍を持つ者は足場を消すと地面に着地する。


「そろそろこっちもやばくなって来たぜ」


 パワードキングダムは木をへし折ると豪腕で空中に投げた。槍を持つ者はそれに反応する事はない。木は回転しながら通流の腹部に直撃する。通流は真下から横に軌道を変えてスピードに乗ったまま坂道を転がる。その力は通流が木々にぶつかる度に薙ぎ倒していく。


(くっ、認識内なら衝撃に反応できるが認識外は対応できねぇ)


 通流は自身の劣化能力で転がるシェイクに対応しながらパワードキングダムで槍を持つ者にパンチを連続で放つ。


「落下する自分自身を助けるために木を当てたのか。本体は今頃大変な事になってるだろうに」


 槍を持つ者は槍で突くがパワードキングダムは拳で軌道を逸らす。槍を持つ者は槍を手放してパワードキングダムの懐に潜り込むがそれをバックステップで躱す。槍は軌道を変えて硬化したパワードキングダムに直撃する。

 しかしパワードキングダムはその姿を霧散させる。


「本体が気絶したか、久々に戦闘で楽しめたぞ。本体が落下中でなければ勝負がどうなかっていたかわからないな。戦を司る者として誉めて遣わそう」


 槍を持つ者は通流が落ちた場所へ瞬間移動する。そこでは通流がボロボロの姿で倒れている。


「派手に転がった割りには外傷が少ないな。どれ、我と互角の戦いをした称賛して一思いに殺してやろう」

「待ってください!」


 槍を持つ者が槍を振り下ろそうとすると悪魔が止めた。


「やめてください。私達が人間を殺すと数多の存在が消滅してしまいます。あなたがその人間を殺せばあなただけでなく他の同胞が消えます」


 槍を持つ者は振り上げた槍を下ろす。槍を持つ者は不機嫌な面持ちで通流から背を向ける。


「そうであったな」


 そう言うと槍をどこかに投げる。


「これでもう1人の厄介な者も制圧できる。我は戻る」

「ご苦労様でした」


 悪魔は深々と頭を下げると槍を持つ者は空間の裂け目に消えた。それを見届けた悪魔は溜め息を吐いた。


「さて、私も人間共を治療してこの場から離れますか」


 通流、高貴、苺夢もカミナ達同様回復させられて手錠で拘束されると悪魔に回収された。

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