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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第二章 悪魔組織→低頭山編
34/37

エンカウント

 ☆☆Side通流☆☆


「つまり俺達を分断した魔法は正確にはあの道に入った能力者や悪魔を低頭山のどこかに飛ばす魔法だって事か」

「そうですね。さらに言えば魔力の痕跡を消す魔法も同時に使われてるから俺でも魔力を感じる事ができませんでした。まあ、魔力の痕跡を消す魔法はどちらかというと技術に近いですけど」


 通流と高貴は影の中でそう話合っていた。苺夢は外を見ながら高貴の指示の元、影を動かしていた。


「あの魔法のトリックはわかった。それで……鉋はこの状況をどう思う?」


 通流の質問に高貴は答える。


「考えられるパターンは2つです。1つ目は天狗の集団が山の中で俺達を探して回っている。2つ目はあまり考えたくありませんが天狗以外の悪魔の集団がいる可能性。さらにそこから推理した俺の考えですが、天狗達は金剛倉が倒した悪魔を探していた可能性があるという事です。それならば天狗達との交渉は楽なのですが」

「じゃあさ、まずは天狗と接触するのはどう?」


 苺夢の提案に高貴は怪訝な顔をする。


「天狗が鉄みたいな頭おかしい奴らの可能性もあるんですよ。天狗がどのくらいの数いるか知らないが少なくない数なのは間違いないです」

「真夜さん頭おかしいの?」

「言葉の奇です」


 まの抜けた雰囲気が漂う。


「鉄が頭おかしいかはともかく、悪魔も人間と同じで性格がピンキリですから。世界を支配しようとする悪魔もいればそれを阻止しようとする悪魔もいる、神になろうとする悪魔もいれば悪魔で人間に慈悲を与えたりします。だからこそ悪魔の間にも規則があるわけですが」

「変なの。悪魔って規則とか重んじない無秩序ってイメージなのに」

「人間だって色々な国独自の法律があるしこちらからすれば人間の方が余程無秩序ですがねぇ」

「そう言われればそうかも」


 苺夢は感心した溜め息を吐き出した。


「悪魔だって共通の規則があるというだけでみんなやりたいようやってますが。まあ俺からすれば頂点の一人(神)が自分に従うように作った奴ら(天使)を見せて奴隷制度を秩序(笑)とかやってる奴の方が失笑ものだと思いますけど」

「くだらねーな。そんな話をしてる暇ないだろ」


 通流は足と腕を組みソファの背凭れに寄っ掛かりながら切り捨てた。すると高貴は訝しげな顔になり魔王のような悪人面に磨きがかかる。


「確かにそうかもしれませんね。ここは副会長でこのチームのリーダーとして決めてもらいたいんですが」

「何だ?」

「北方向で悪魔が攻撃魔法を使いました」


 高貴は続けろと無言で促す。


「それも1度ではないです。5人の悪魔が1人の悪魔を攻撃している様子」

「鉄か、あるいは天狗か?」

「鉄ではないです。鉄の悪魔の力は封印してますので。という事は天狗となぜかここにいる無関係な悪魔かと」


 通流は顎に手を当ててしばらくしてから指示を出す。


「庭宮、鉋の誘導に従って交戦している悪魔に向かってくれ」

「りょ、了解!」


 通流は立ち上がる。既に臨戦態勢のようだ。


「戦うのですか? はっきり言って頭悪い判断ですね」

「俺と庭宮の2人で悪魔5人あるいは6人で挑むわけねーだろ」

「それではなぜ?」

「攻撃してる悪魔は天狗、攻撃されてる悪魔はたぶんこの低頭山に観光へ来た悪魔だろう。その悪魔はおそらく俺達と同じ魔法にかかって飛ばされた、そして天狗と遭遇した」

「なるほど、ありえます」

「別にそれならそれでいいが、もし近くに桜梅や鉄あたりがいたら巻き込まれて死ぬ可能性がある。いや、桜梅は不死身だから死なねーが、どっちにしても巻き込まれてたら大変だからな」


 苺夢は冷や汗を一筋作る。


「とりあえず北でいいの?」

「頼む」


 こうして3人は道なき道を影に潜んで進む。



 ☆☆Side錬☆☆


 錬は桜梅とともに月読玉兎で木から木へと飛び移る。


「こんながむしゃらに走ってみんなを見付けられるんですの?」

「連絡手段があればこんな事しなくても良かったのに」


 しかしこれでも最初よりそのペースは落としている。錬が思っていた以上に『月読玉兎を動か』しながら『月読玉兎の五感情報で意識的に認識』しつつ『自身の五感も意識的に使用』し『あらゆる5秒先の可能性を把握』してかつ『認識している情報を吟味して観察し思考』すると同時に『暑さを我慢して警戒』するという作業は想像以上に錬に疲労感を与えた。

 既に錬は桜梅に1度ストップをかけられて休憩をしていた。


「ウサギさん、そろそろ休憩しますわよ。そろそろ12時、暑くなる時間ですわ」


 桜梅は2度目のストップをかけた。


「わかった」


 錬は素直に月読玉兎を地面に下ろすと自身と桜梅を地面に下ろして、月読玉兎を消して日陰に入り横たわる。桜梅は側に膝を付き錬の額に手を置いた。


「凄い熱い。それに汗も」


 錬は桜梅の手のぬるさが心地良いと思った。

 桜梅は錬のバッグの中を漁り飲み物を取り出した。


「はいですわ。飲んでくださいですわ」


 錬はボトルを受け取ると口を付ける。

 桜梅も自分のバッグから水筒を取り出した。しかしそれは自分で飲まず錬の首にくっ付けた。


「何もしないよりマシだとは思いますわ」

「ありがとう」


 桜梅は呆れた顔になる。


「当然ですわ。先程みたいに熱中症一歩手前みたいになってもらっては困りますわ。しかしまさかシンクロ率高い事がこんなに悪い方向に働くとは。確かによく考えれば体2つ分で感じる熱さも相応になる。4月の時も通流が直接火に当たって熱さで倒れたんだからこうなるのは当たり前ですわ」


 そんな桜梅の小言を聞きながら錬は空腹を感じた。


「お腹空いたから昼飯を食べようか」


 錬は言いながら起き上がりバッグから弁当を取り出した。


「はあ!? こんな時に食事ですの!?」

「次いつ食べられるかわからないからね。それにお腹空いたし。桜梅も食べられる時に食べた方がいいよ」

「だけど遭難してるのにそんな無計画に食料を消費していいんですかしら?」


 錬は弁当箱の蓋を開けて箸を持って考える。


「お前の言いたい事はわかる。だから俺達はこの休憩の後下山する」

「下山……でも他の方達はどうするんですの?」


 そう言いながら桜梅もお腹が空いていたのか弁当を広げる。


「それを今考えていた。これは俺の推測だけど、もしかしたらもうある程度グループができている可能性が高い」

「どういう事ですかしら?」

「おそらく既に合流したグループが俺達の他にも2つある。まずは言わずもがな俺と桜梅のグループ、そして庭宮のグループ、カミナのグループ、そしておそらく誰とも合流できていない結凛、今俺達はこの4グループに分かれているはず。そしてたぶん他のメンバーは庭宮かカミナのグループに属している。この2人の能力は隠密性に優れていて庭宮能力は影の空間に隠れる機能があるし、カミナのキメラは音を消す事が可能だ。俺は主に月読の聴覚で足音を探っていたんだが残念ながら誰一人として足音が聞こえない。これだけ動き回ってるんだ、誰か一人くらい合流してもおかしくないのにそれもない」


 桜梅は納得したような顔をした。


「言いたい事はわかりましたわ。確かにここは私達だけでも一旦引き返すべきですわね。ウサギさんの体力や悪魔との戦闘も考えるとウサギさんが倒れて下山できなくなったら元も子もないですものね」

「それにこの山には俺達以外にも登山道を歩かない奴らがたくさんいるみたいだし」

「つまり天狗ですの?」

「さあ? だけど少なくとも人間が山を歩く時の足音じゃないな。人間が山を、しかも整備されていない場所を流暢に歩くなんてほぼ無理だしね」

「1人2人ではない?」

「少なくとも10人どころじゃないな。これはむしろ隠密能力がない俺達が一番危ない状況だ。悪魔と連戦なんて俺1人じゃ無理だ」

「なのにのんきに昼飯を食べるんですのね。呆れますわ」


 錬は笑う。


「まあまあ腹が減っては戦はできないってね。それに一応近くに悪魔がいない事を確認してから――」


 錬は突然背後を振り返った。


「どうしましたの?」


 桜梅が錬に聞いた。錬はそれを無視して耳を澄ます。


「桜梅、黙って弁当を置け」


 錬は言いながら弁当を地面に置いた。桜梅は静かに弁当箱を地面に置いた。

 すると錬は月読玉兎を出現させて自身と桜梅を抱えると真上の木の枝に向かって跳び、コウモリのように逆さになり枝に立った。

 桜梅は錬の尋常じゃない反応にヤバい事があると察した。

 そのすぐ後に錬達がいた場所に2人の男と女が訪れた。


「何か気配がすると思ったら人間だったか」


 男が2つの弁当箱を見下ろしながら言った。女は側に置いてある2つのバッグを見ている。


「でも逃げたみたいね」

「そのようだな」


 錬と桜梅は互いを見る。桜梅の顔が恐怖に染まっているのが錬にはわかる。もっとも自分はどんな顔をしているかはわからないが。

 錬は再び真下を見る。


(迂闊だった! 思考停止してた! この無能が!)


 錬は内心自分に毒づきながら男女2人の行く末を見守る。


「私達に気付いて逃げるとは人間風情の癖に生意気な。まさか天狗の仲間とかじゃないよね?」


(天狗の仲間? こいつら天狗じゃないのか?)


「違うな。おそらく俺達と同じで天狗の罠に引っ掛かって飛ばされたんだろう」

「いや、悪魔の可能性もあるわ。登山客の悪魔とか、だとしたら余計面倒ね。私達の事がバレるわ」


(こいつら、天狗とは別勢力の悪魔か? いや、だとしても何のために)


「一般悪魔ならのんきにこんなところで弁当なんて食わないだろう。いつ飛ばされたかわからないがとっくに脱出してるだろう。俺達みたいな奴以外はな」

「人間ならこんな山に迷い込んだら野垂れ死ぬでしょう。早く行くわよ」


 女はイラついた様子で男に言った。だが男はそこから離れようとしない。それどころか逆に女に言う。


「人間がこんな山の中で物音を立てずに素早く逃げられるだろうか」

「はぁ? あんた大丈夫?」

「この山は低い植物が多い。いくらでも隠れられる場所はある。それに見てみろ」


 男は錬達が座っていた場所を指し示す。


「草を踏めば草は折れてそこに跡が残るはずだ。そしてこの座った跡の周辺には足跡がある。こんなはっきり足跡が残るのにこの周辺にしか足跡が残らないのはおかしい」


 錬と桜梅は男の言葉に肝を冷やした。


「人間ならばここに来るまでの足跡も残るはずだ。だがそんな足跡がどこにも存在しない」

「つまり何、相手は人間じゃなくて鳥だって言うの? 天狗じゃあるまいし」


 女の言葉に男がにやにやする。


「あながちそれも間違いじゃないみたいだ。見ろこの足跡、鳥の足跡だ」


 錬と桜梅はいよいよ恐怖と不安が込み上げて来る。


「しかもこの鳥の足跡、かなり大型だ。まるで鷲」

「キメラ使い!? まさか透明になるキメラ」

「違うな。鳥の足跡は2つ、この沈み具合は着地と跳躍だ。そんなのが跳躍したとすれば視界に入らないわけがない。つまり俺達の死角で飛んだ事になる。そして俺達の死角があるとすれば……」


 男は真上に顔を向ける。

 そこには鳥の足が目前に迫っていた。


「んが!?」


 月読玉兎は男の頭を足で掴む。そして、ぐりんと首を捻った。ごぎんという音とともに男は顔をあり得ない方向を向き白目を剥いた。


「何!?」


 女は驚きに一瞬固まるが月読玉兎は男の顔を蹴って女の頭を足で鷲掴みして後ろに折った。

 月読玉兎はそのままジャンプして落ちて来る錬と桜梅をキャッチしてから着地する。


「ちょっとやり過ぎではないですかしら?」


 桜梅は倒れた2人を見て言った。


「高貴曰く悪魔にはこれでやっと気絶するレベルらしい」


 錬は男を見下ろす。


「首を捻る時、こいつ抵抗して反対方向に捻っていた。それでも無理矢理捻ってやったけど。とりあえず荷物まとめてここから離れよう。こいつらが起き出したら面倒だ」

「わかりましたわ」


 桜梅と錬はそれぞれ自分の荷物をまとめ始めた。


「きゃ!」


 桜梅が突然叫び声を上げた。


「何だ!」


 錬が桜梅の方を見ると、男が桜梅の足を掴んでいた。


「痛いですわ! 離してくださいますかしら!?」


 桜梅は苦痛の表情をして男の手を蹴るがびくともしない。


「お前ら……天狗の仲間か?」

「離せって言ってるだろ」


 錬は月読玉兎で男の肘を踏み潰した。男の腕と胴体が離れた。


「ぐおおおおっ!」

「悪魔って奴は首を捻って腕を潰しても元気なんだな」


 月読玉兎で頭を蹴り飛ばした。流石に頭と胴体が離れる事はなかったが今度こそ気絶したらしい。


「普通の人間だったら死んでるな。今もまだ元気に心臓が動いてるとかおかしい」


 錬は悪態を吐いてから月読玉兎で自身と桜梅を抱えてから跳ぶ。

 桜梅は煮詰まった顔で考え込む。


「山に住まうとされる天狗……天狗と敵対する部外者の悪魔達……どうも事態は複雑そうですわね」

「そうだね。でもこれでどうして突然悪魔の目撃証言が増えたのかわかった」

「どういう事ですかしら?」

「桜梅は4月の事件で真夜が悪魔ってわかった? 高貴はともかく」

「わかりませんでしたわ。同様に先の方々も悪魔と確証は持てませんでしたわ」

「じゃあ何で今までの目撃証言は悪魔とわかったんだ?」

「言われてみれば」

「そもそも悪魔という存在が発覚したのがそれこそこの2、3ヶ月ちょい前の話だ。高貴はその時点で既に真夜が悪魔と気付いていた。高貴が真夜に悪魔として接しなかったのは真夜が無害な悪魔だと思っていたからあえて言わなかったそうだ。高貴が悪魔としてどの程度の地位にいるかわわからないけど高貴的には悪魔とは魔力の持った者であり、普通の人間には悪魔が自発的に悪魔の力を使わない限り悪魔とわからないらしい」

「それだと何が問題があるんですの?」

「ある。それだと前に結凛が言っていた低頭山に悪魔が目撃されたという情報そのものが矛盾する。つまり悪魔はどうやって目撃者に目撃されたかだ。まさか登山客が登山道でいきなり魔法を使ったわけでもないだろう。結凛曰く情報には信頼性こそあれ正確性があるわけではない。だからこそ俺達は悪魔がいるかどうか事前に調査、討伐しに来たわけ。そして俺達は見事悪魔と遭遇し倒した」

「だけど、あの悪魔達は天狗ではなかったわけですわね」

「ああ、そしてあの男は『俺達は』と発言していた。俺達というのはあの女含めて俺達2人と取れるが、あくまで俺が感じたニュアンスは組織的なものだった。さらにあの言い分からするとあの悪魔達は天狗と友好関係ではない。それでどうするの?」


 突然そう振られて桜梅は慌てる。


「な、なんで私に聞くんですの!?」

「いや、よく考えたら俺より桜梅の方が立場上じゃん? 経験だって俺の方が浅いしさ」

「そう言われましても……私だってこんな事初めてですわ」


 錬は懇願するような目で桜梅を見る。


「正直、既に結構疲れてる。はっきり言って思考するのも億劫なんだ。自分でも神経がすり減ってるのがわかる。責任を押し付けるようで悪いと思うけれど、できれば判断だけでも桜梅に任せたい。さっき俺自身が言った作戦が失敗した俺が言うのもあれだけど」


 人は錬のそれを責任逃れと言うだろう。しかし、桜梅は明らかに疲弊した錬の顔を見て決意したように目を光らせる。


「わかりましたわ。それならウサギさんに変わってこの先は私が判断をしますわ。そ、その代わりウサギさんも頑張ってくださいまし」

「当然、一番難しい役割を桜梅に任せるんだから。お前の事は俺が守ってあげるよ」


 桜梅は中から暑くなった顔を隠すようにうつ向いた。



 ☆☆Sideカミナ☆☆



 カミナは自身、真夜、ジュウクが発する音を消しながら歩いている。


「錬と桜梅が二度目の休憩を取ったようです」

「さっきのカミナちゃんの話を聞く限り、錬君の体調が相当ヤバいらしいね~。だからこそカミナちゃんのキメラは派手な動きをさせてないわけだし~」


 真夜はこっちと指差して遠回りするように曲がる。


「それにしても悪魔が多いよ~。いくら隠れるところがあるって言っても運が悪ければ見付かっちゃうかも~」


 カミナとジュウクは真夜に先導されながら歩みを進める。しばらくするとカミナがふと掴まえてる音を真夜に言う。


「真夜、どうやら錬が悪魔と遭遇したみたいです」

「それ本当?」


 カミナは真夜に「ちょっと静かにしてください」と言って錬の音に集中する。


「錬と桜梅は木陰にしてた木の枝に掴まって隠れたみたいです。ああ! 男の悪魔が上を向いてしまいます。うっ、錬が物凄いエグい事をしました。…………まだ動くのですか!? あ、今度こそ気絶させましたね」

「実況しなくていいから」


 ジュウクがツッコミをいれる。


「そういえばカミナちゃんは錬君と桜梅ちゃんの会話聞いてたんだよね?」

「そうですね。残念ながら通流と苺夢と高貴の音は一切聞こえなりましたけど」

「その3人は大方、鉋君のキメラか何かの能力で気配とかその他もろもろ消してるんだと思うよ~。それで錬君は何を言っていたの~?」


 真夜に言われてカミナは錬と桜梅の会話を掻い摘んで話した。


「そう~、錬君達は山を下りる事にしたんだ。まあ正しい判断かな~。身を隠す術がないあの2人が現状一番危ないわけだし~」

「そうだね。僕が言うのも難だけど桜梅のキメラも能力自体は強力だけどあまり役に立つものじゃないしね」

「しかし、錬はここから桜梅に選択の判断を任せるらしいですよ」

「まあ桜梅もそのくらいするべきかもしれないよ。錬君に移動、思考、戦闘全てを任せるのはあまりにも負担が大き過ぎる。それに選択の判断を放棄するだけでも精神的負担はかなり減るはずだよ。というか何でまだ実戦経験が6回くらいしかない錬君に桜梅はおんぶに抱っこなんだろう? 人の事言えないけどさ」


 ジュウクが愚痴るように少し不機嫌になりながら言っていると、真夜とカミナが立ち止まり恐怖に顔を歪めている。


「どうしたの?」


 ジュウクが尋ねると真夜が答える。


「不味い、来る、悪魔が4体真っ直ぐ高速で私達に向かって」

「このままでは私達と鉢合わせてしまいます!」


 ジュウクは2人を見て思う。


(そういえば鉄さんは人間に成り下がってから初めて悪魔と遭遇するのか。カミナはそもそも悪魔と戦うのが初めてなんだよね)

 ジュウクは深い溜め息を吐いた。


(鉄さんを怪我させたら錬君に嫌われるかな? 僕だってあまり戦闘は得意じゃないのに)


「カミナ、その悪魔達は何か話しているのかい?」


 ジュウクの質問にカミナは集中して悪魔達の音を聞いてから呟く。


「私達に向かって来ていない? いえ、むしろ3人相手に1人が逃げているというか」

「つまり悪魔達が僕達に向かって来ているのは偶然という事だね。悪魔の内の1人は、天狗?」


 カミナは神妙な顔で頷いた。


「どうやらピンチみたいですよ。逆に3人の悪魔は元気みたいですけど」

「そう」


 ジュウクは九尾を出して考える。キュートと瓜二つのキメラは静かに佇む。


「とにかく隠れようよ~。悪魔同士の小競り合いに巻き込まれる事程無意味な事ないからね」


 真夜が草影を指差して言った。


「確かに音が聞こえないなら草影に隠れればやり過ごせるかもしれない」


 ジュウクがそう言うとキュートがジュウクの腕を強く引っ張った。


「下がってください、ジュウク!」


 ジュウクが浮遊感を覚えるとその場所を何かが通り過ぎた。それは木にぶつかるとへし折りながら停止して地面に転がる。

 真夜は飛んで来た山伏の服を着た女に近付いて見下ろす。


「天狗?」


 真夜の言葉に反応したのか山伏を着た女は呻いた。辛そうに体を起こすと真夜達を見て目を見開き忌々しく言う。


「ぐっ、何でこんなところに人間がいるんだ!?」


 カミナが言葉を返そうとすると、真夜が遮って代わりに返す。


「あら~、自分達がやった罠魔法で私達がここにいるのに~」


 天狗は腹部を手で押さえ上体を起こす。


「あの罠に引っ掛かったという事は貴様達はキメラ使いか」

「そういう事かな~。でさ、単刀直入に聞くけど天狗は私達の味方?」


 天狗は真夜の問いに迷う事なく答える。


「私達天狗は昔からずっと人間の味方だ。《あいつら》とは違う」


 真夜は「ふ~ん」と値踏みするように女の天狗を見る。


「あなたを襲ってた悪魔って人間に対して敵対的?」

「ああ。まさか貴様、悪魔の気配を感じないが悪魔か?」

「まあね、今は悪魔の力を封印してるけど。そしてたぶんあなたが言うところの《あいつら》も知ってるかな。薄々そんな気はしてたけど」

「なら話は早い、貴様は後ろ2人の人間を連れて早く逃げろ。あいつらはいずれここに来る」

「言われなくてもそうさせてもらうよ。あんな狂った奴らに会いたくないし、悪魔同士の抗争にも巻き込まれたくないし」


 真夜は無情にも天狗の女から背を向ける。


「鴬院君、カミナちゃん、行くよ~」


 さっさと歩き出す真夜に並んでジュウクは言う。


「ほっといていいの?」

「事態は鴬院君が思ってるより複雑なんだよね。結凛ちゃんがいない今、悪魔とは敵味方問わずできるだけ避けるべき」

「そう――」

「待て!」


 その時、天狗の女がジュウクの言葉に割って入り声を上げた。


「何?」


 真夜は振り向き様に返した。


「結凛とは灯磨結凛の事か?」


 真夜は一瞬考えてから答える。


「そうだけど」

「結凛様は今どこにいる!?」

「答える必要あるの?」

「事情が変わった。貴様達が結凛様の仲間というなら帰すわけにはいかない」

「はぁ? 事情が飲み込めないんだけど。とにかく私達はここから離れるから」


 そう言って真夜が再び向き直る。

「待て」


 するとそこには男が1人、手のひらを真夜に向けていた。


「しまった……!」


 真夜は足を急停止した。そして周りを見渡すと真夜達と天狗の女を囲むように2人の男と1人の女の計3人がいた。


「ぐっ、追い付かれたか」


 天狗の女は絶望に顔を歪ませる。

 ジュウクと真夜も同様に顔を歪ませた。ただ1人、悪魔の恐怖を知らないからかカミナは焦った顔をしているだけ。


「お前らは誰だ、天狗の仲間か? 悪魔ではないようだが」


 男が銃のように手のひらを突き付けながら質問した。


「違うよ。確かにただ人間じゃなけいけどただの登山客だよ」


 真夜が答えると男は妙な顔をして明らかにその目に敵意を込めた。


「なるほど、そこの天狗の女を回収に来た天狗の仲間か」


 真夜は独自解釈したその男の言葉に慌てる。


「そんな事言ってないんだけど~」

「何だ? 何を言ってるかわからないがバレて焦っているのか?」


 真夜はその時気付いた。カミナが自分達が発する音を無音にしている事に。


「死ね」


 男の手のひらに電気が集まる。

 真夜は後ろにはジュウクとカミナがいる。


「2人ともそこ動かないでね!」


 真夜が叫ぶと、胸元に真夜の容姿をして蝶々の羽根とウサギ耳を持つ手のひらサイズの妖精のような生物が現れた。


「サンダーフォース」

「ムーンレーザーフォース!」


 男の手のひらからは雷の塊が、妖精の手のひらからは大きい光線が放出されてぶつかる。やがて、電気と光はエネルギーが尽きたように霧散した。

 真夜は直後、確認する事なく男に背を向けて走りながらジュウクとカミナに叫ぶ。


「2人とも集まって、早く!」


 呆けていたジュウクとカミナは真夜の言葉に我に返り真夜に駆け寄る。


「ま、真夜……私……」


 カミナは鳴きそうな顔をして言う。


「そうだよね、わかってるから。ちゃんと守ってあげるから」


 真夜はあやすようにカミナの手を握った。


「カミナちゃんは自分の身を守る事だけ考えて」


 そうカミナに言い聞かせた真夜も内心、カミナに負けず劣らず恐がっていた。

 真夜自身が悪魔という事もあって悪魔の恐さはわかっているつもりだった。しかし、人間レベルまで能力が落ちた真夜は自分が理解してる以上に悪魔の強さに恐怖が芽生えた。カミナと違って一重に冷静でいられるのは悪魔の強さを知っているからに過ぎない。


「鴬院君、いつかの時はごめんね~。まさか悪魔がここまで恐いとは思ってなかったよ~。後で錬君達にも改めて謝らなきゃだね~」

「今は気にしてないさ。そんな事よりここをどうにかしないかい?」

「ふふ、そうだね~」


 3人は背中を合わせてそれぞれ悪魔を見張る。極度の緊張感が3人を支配した。

 ジュウクはサングラスを外した。魅惑の碧眼が露になる。


「なるほど、キメラ使いね」


 男は言いながらカミナとの距離を一瞬で詰めて拳を振り上げる。カミナはただそれを見る事しかできず反応できない。しかしその時、天狗の女が横から男を蹴り飛ばした。


「大丈夫か!?」


 天狗の女がカミナに言ったが、カミナは震えて目から涙を垂れ流し呼吸を荒くしている。唇が僅かに動くが上手く喋れないようだ。


「カミナちゃん!」

「カミナ!」


 真夜とジュウクが呼び掛けるがやはり言葉は返さない。

 真夜は反応しないカミナを無視して天狗の女に言う。


「何? あなた助けてくれるの?」

「巻き込んでしまったのは我々だ。助ける」

「そう、あなた名前は?」

「私の名は忍、烏天狗の忍だ」

「頼りにしてるよ」


 そしてカミナ、真夜、ジュウクに天狗の忍を加えて悪魔との戦闘が始まった。

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