先攻は……
☆☆Side : 錬☆☆
錬は気付くと不規則に樹々が立ち並ぶ空間の中にいた。
「なっ!? 何だこれは!?」
錬は辺りを見回す。しかしそこには錬以外誰もいない。それどころかそこは登山道――否、山道ですらなかった。
「お~いっ! 通流、庭宮、カミナ!」
錬は叫ぶが誰からの返事もない。ただ人工的欠片もない静寂だけが錬の耳に届くだけ。
「や、やられた……。まさか悪魔に先手を打たれるなんて、チームを分断された!」
錬はすぐ様月読玉兎を出して辺りを探った。聴こえるのは獣の足音くらいだが。
「不味い、少なくとも月読の聴覚と嗅覚の範囲内には人間が誰もいない。しかもここどこだよ」
錬は月読玉兎をジャンプさせた。月読玉兎は高い樹々飛び越える。そこには海のように青い景色が視界に飛び込む。
「ここは山の中か」
錬はスマホを取り出した。スマホにはGPS、マップ、通話やメールなどという通信手段などの便利な機能が備わっている。
「ベタに圏外とかないわ」
スマホの画面には無情にも圏外という文字が現れている。錬は冷静になって思考を巡らせる。
「状況を整理しろ。スマホの時計を見た限り今は俺達Aグループが登山道に入ったすぐ直後、つまり俺は別に気絶とかしたわけではない、という事は登山道に足を踏み入れた直後に俺ないしグループ全員が分断された事になる」
月読玉兎が錬のすぐ側で着地して辺りを警戒する。
「もし仮にBグループも分断されたなら結凛が能力で全員を召喚するはずだ。という事は結凛達のグループは分断されてないのか? しかし正確な場所はわからないが……」
錬は周りの植物を眺める。
「この木、この花、少なくともここは低頭山かその周辺の隣接する山なのは確かだな」
錬は木に近付く背を預けて寄り掛かり座る。
「明らかにこれは人知を越えた現象だ。悪魔の仕業なのは間違いない。問題はなぜ分断したかだ。今までの今回の件に関する資料を読んだ限りこのような現象が起きた報告はない、つまりこの瞬間移動は今日初めて起きた可能性が高い。そこから考えられるのは明らかに俺達生徒会役員をピンポイントで狙ったという事だ。じゃあ目的は? 一番考えられるのは各個撃破……」
錬はスマホの時計を再び確認する。まだこの状況になってから5分も経っていない。
「通流と庭宮はまだいい、問題はカミナだ。あいつのキメラの身体能力や特殊能力は強いけど如何せん本体があれだ。おそらくパニックになっているかもしれない。はっきり言ってあいつがこの状況で正常な判断ができるとは思えない。だけど通流と庭宮はこの状況でちゃんと考えているはずだ、少なくとも通流は俺と同じ結論に達しているはず。即ち現状一番危険なカミナの保護という結論に」
これからの行動指針まで素早く決めるが問題はここからだ。
錬の敵は何も悪魔だけではない。野生の動物、地形、気温といった大自然すら人間の錬にとっては悪魔と同じくらい脅威であり錬の心臓を握っている。この人知が及ばない大自然に放り込まれた瞬間、自然の恵みは人知に毒となり打たれたのだ。
「時間は有限だ。ぐずぐすしてる暇はない、早くカミナ達を見付けて俺達は下山しなくちゃならない」
錬は立ち上がると月読玉兎に抱えられて跳んだ。木の幹を蹴りながら木から木へと移動する。常に予知をして月読玉兎の聴覚と嗅覚で警戒しながら山の中を進んで行く。
しばらくすると予知の聴覚が誰かの声を捉えた。
「こっちか」
錬は方向転換して予知した聴覚が捉えた声の方向に跳ぶ。そしてその声は錬にとって聞き覚えのある声。やがて現実の時間でも声が聴こえて来る。同時に今の状況が最悪だという事にも気付く。
錬は声の主の側に着地する。
声の主――桜梅は座り込んで静かに泣いている。
「ねえ」
「ぐす、ぐず……ふぇ……?」
錬の声に反応して桜梅が顔を上げる。見下ろしている錬と目が合う。
「大丈夫?」
錬が聞くと桜梅は錬に抱き付く。
「ウサギさん! ウサギさん! 寂しかったですわ」
錬はスマホの時計を見る。あれから30分経ってない。とりあえず桜梅が落ち着くまで錬はされるがままになっておく事にした。
しばらくすると桜梅は我を取り戻したように錬から離れた。
桜梅は顔を紅くして錬から背を向けた。
「ごめんなさいですわ! こんな醜い姿を見せてしまって恥ずかしいですわ!」
「いやいや、お前の泣いてる姿はなかなか可愛かったよ。ごちそうさま」
「もう! ウサギさんはいじめ大好き伯爵さんですわ!」
「ははは、ごめんごめん。でももう大丈夫そうだな」
桜梅はほんのり怒った顔を和らげて笑顔を見せる。
「はい、ありがとうございますわウサギさん」
「やっぱりお前は泣き顔より笑った顔の方がいいよ」
「もう、どっちですの!?」
「どっちもだよ」
桜梅は唸りながら破顔を抑えた。
錬は桜梅が冷静になったと判断して言う。
「俺が優しくするのはここまでだ。ここからはビジネスの話だ」
それを聞いて桜梅は真剣な顔になる。
「そうですわ。いったい何が起きたんですかしら?」
「結論から言えば俺達は悪魔の術中にはまった。そして今は俺が考えられる限りで最悪の状況だ」
錬は桜梅に先程錬が一人の時に思考した事を話した。
「ここは本当に低頭山ですの?」
「それは間違いない。植物というのは山によって全て同じ種類の植物という事はない。例え一番多く生えてる木が同じでもあっちの山とこっちの山である植物ない植物がある。少なくともここは低頭山の植物が多くあるから低頭山だろうと結論付けた」
一応納得したのか桜梅はこれ以上追求する事はなかった。
「それでは現状はどうなんですの?」
「現状は最悪だ。お前がここに一人でいる時点で結凛が能力を使えない状況という事が確定した。もし結凛が能力を使える状況なら俺はともかく桜梅は真っ先に召喚されるだろうからな」
「なるほど……結凛ちゃんは今どうなっていますのかしら?」
「さあ?」
錬はわからない振りして誤魔化した。
錬の推測を述べるならば、結凛は現在意識がないと考えている。良くて気絶、最悪死んでいるという事もありえる。だから錬は桜梅には言わなかった。
「さて、とりあえず早く探しに行こうか」
「はいですわ」
錬は月読玉兎を出して錬と桜梅を抱えさせると跳んだ。
「て、きゃああああああっ!」
桜梅は絶叫した。
月読玉兎は先程と同じく木を蹴りながら進む。
「速い、速過ぎますわぁっ!」
「悪いけどゆっくりしてる暇はない」
「そ、それでも! それでも!」
錬は巡る景色の中、月読玉兎の耳と鼻に集中して予知しながら喋る。
「今の俺達は悪魔よりヤバい奴を相手にしなくちゃならない」
「悪魔より強い敵がいるんですの?」
「悪魔は戦えばいい。だけど今の俺達の目前にせまる脅威の前では俺でも通流でもどうしようもない。そう、俺達の現在最大の敵は大自然だ」
桜梅はそれでも要領を得ないらしく頭に疑問符を浮かべている顔をしている。
「桜梅、お前は今食料と水どのくらいある?」
「それはもちろんお昼の弁当と水筒と500mlのお茶のボトル2本ですわ」
「夏場に山の中で遭難してその食料と飲み物は少ないよね? しかもこの暑さだ。熱中症で倒れる可能性がある。それでも昼間はまだマシなんだ。例え暑くても木陰がたくさんあるから体温の調節が効く。だけどこれが夜になったらどうなる? 山というのは昼と夜で気温差が激しい、その差は20度、どんなに寒くても今ある装備以上の暖を取る事ができない。さらにいえば今は快晴だがこの先の天気はわからない、雨なんか降ったら最悪だ。一夜なら大丈夫だろうが翌日には大幅に体力が削られているだろう。とりあえず今は真っ先に他の仲間との合流を優先して山から脱出するべきなんだ。特に高貴と真夜は悪魔とはいえ今は悪魔の力を封印して人間レベルの能力に落ちてるし、おまけにあいつらにはキメラがいない。もしあいつらが悪魔どころか野犬や熊に遭遇したら命の危機だ。それに一向に俺達を召喚しない結凛の状況も気になる」
「問題は山積みという事ですわね。でもそれなら尚更体力を温存しないといけませんわ」
しかし錬は苦い物を食べたような反応をする。
「桜梅が心配してくれてるのはわかる。だけどそれは逆なんだよ」
「逆? どういう意味ですの? 遭難という長丁場のうえに悪魔と戦闘する可能性も考えれば体力は温存するべきではないですかしら?」
「だからこそだ。俺はこの悪魔との戦いを長期戦にする気はない、むしろ長期戦はこっちが不利になる。もちろん今も不利で劣勢なのは間違いないけどね。逆に考えれば今悪魔と遭遇すれば俺は万全の状態で戦う事ができるし、結凛と合流さえできれば結凛を俺かカミナか結凛のワルキューレが飛んで山から脱出してまとめて召喚すれば全員脱出できる」
「なるほど、確かにその考え方ならむしろ短期戦がいいですわね」
「タイムリミットは夕方だ。夜になったら探すどころか移動すら困難になる、それまでに全員と無事合流する」
錬の言葉に桜梅は「わかりましたわ」とただそれだけ答えた。
☆☆Sideカミナ☆☆
カミナは気付けば一人で木々に囲まれた空間にいた。足元には道がなく、あるのは気持ちいい踏み心地の土。
「どこでしょうか? れ~ん、とおる~、まいむ~!」
カミナは一緒のグループにいる人の名前を呼んでみた。しかし返事はない。
「これは俗に言う神隠しですか?」
カミナはとりあえずスマホで皆に連絡を取ろうと考えた。しかし、スマホの電波は圏外だった。
「駄目なんですね」
カミナは考え込む。
「これは悪魔の魔法という奴なのでしょうか? よくわかりませんね。とりあえず歩いてみます」
カミナは斜面を下るように歩き始めた。
しかしカミナは知らなかった。山の斜面というのは見た目より急だという事を。
「うわ!」
カミナは右足で何かを踏んだ感覚を覚えるとバランスを崩した。カミナの体は下り斜面に吸い寄せられるように倒れる。そしてその勢いのまま横向きの体がぐるぐると回転して転げ落ちていく。
「くっ!」
カミナはタイミング良く地面に膝を立てて体勢を立て直そうと試みた。しかし、斜面を転がり加速して働く慣性に人間の力で容易に転がる勢いを止める事はできない。カミナは凄いパワーを受けたように倒れる力を止められない。
「サンシャインハート!」
カミナはサンシャインハートを出現させると、サンシャインハートで自分自身を掴み翼を羽ばたせて飛んだ。人間の力では止める事ができなくてもキメラの力ならそれは容易だ。
カミナは着地してその場に座り込んだ。
「目が回ります」
運が悪ければ頭を石にぶつけて死んでいた可能性もあるがカミナは運良く外傷らしい外傷はなく体をどこにもぶつけていなかった。
カミナは空を見上げてみた。緑の隙間から僅かに射し込む光が見える。
「ふふ、綺麗ですね。それに涼しいです。ですがこれは完全に迷子です」
カミナはくらくらする頭が回復するとサンシャインハートを再び出現させる。
「あまり動かない方がいいかもしれないですね。それならばサンシャインハートで皆を探しましょう。しかし錬達はできるだけキメラと本体を離れさせてはいけないと言っていました。それならばサンシャインハートの能力で探しましょう」
サンシャインハートの能力は音を操る。カミナのキメラ、サンシャインハートの聴力は錬の月読玉兎や通流のパワードキングダムに比べて低い。しかしこの能力はそれを補う事ができる。
サンシャインハートは山全体の音を網羅する。不必要な音を遮断して錬や結凛などの生徒会役員が発する声や音だけに絞り込む。
「高速で山の中を移動しているのが錬ですね。桜梅は泣いてる? 通流は北に向かって歩いてます。苺夢は西へ向かってキメラに乗って高速で動いてるみたいですね。このままいけば通流と苺夢が合流しそうです。高貴も通流の近くにいるみたいです。あっ! 真夜とジュウクが今合流したみたいですね。それに真夜達はここから200メートルの位置にいます。ここは真夜達と合流しましょう!」
カミナはサンシャインハートに抱えられると、真夜とジュウクがいる場所まで木々をかき分けて飛んだ。人の足だと時間がかかる山の中の距離もキメラを使えばあっという間だった。
「さっきぶりですね。ジュウク、真夜」
カミナはなに食わぬ顔で声をかけた。
「げっ、カミナ!」
ジュウクは芋虫を噛み潰したような顔でカミナを見て言った。
「げっ! とは何ですか? 失礼です」
「はああ~、そっちもなんだね」
ジュウクは大きな溜め息とともにそう言った。
「どういう事ですか?」
カミナの質問に真夜が困ったように苦笑いを浮かべて代わりに答える。
「鴬院君が言いたいのは~、こっちのチームもカミナちゃんのチームも同時に悪魔からの攻撃を受けたという事だよ~」
「私は攻撃されてませんよ」
「私達を分断する魔法そのものが攻撃ってこと~」
「なるほどです。やばいのですか?」
ジュウクが答える。
「僕はお世辞にも戦闘が得意とは言えないからね。それに鉄さんは悪魔の力を封印されてるし、カミナは圧倒的に経験が不足している」
「あ、私キメラ使えるよ~」
真夜がのんきに言った。
「ん? 君はキメラを作ったのかい?」
「一応ね~。結凛ちゃんが作りたければ作っていいって言われたから~」
「ちなみに戦闘はどれくらいできるんだい? 僕としてはあまり女の子を戦闘に参加させたくないけど今はどうこう言ってられないからさ。要するに現状の戦力分析だね」
真夜は真面目な表情で顎に手を当てて考えてから言う。
「肉弾戦は無理。キメラの能力で遠距離攻撃できる方法はあるけど本当にダメージを与える事ができる程度。はっきり言って悪魔時の私とは程遠いくらい今の私は弱い」
「おーけい。カミナは?」
ジュウクに問われてカミナは答えようとするが答えが出ない。
「よくわからないです」
「そうだよね~。カミナちゃんは悪魔と戦うの始めてだもんね~」
「まあ普通悪魔となんて戦わないもんね」
ジュウクと真夜は気にするなと言わんばかりに笑った。
「僕が思うに僕達のアドバンテージは鉄さんが悪魔ってところだと思うんだ。確か高貴君は悪魔の力は封印していても魔力は感じ取れるって言ってたし鉄さんもできるでしょ?」
真夜は苦い顔をする。
「確かに私は魔力を感じ取れるけど鉋君程鋭敏に感じ取れるわけじゃないよ。せいぜい悪魔自身の魔力ってところで魔法そのものの魔力を感じ取れるわけじゃないし、現に私達を分断した魔法も感じ取れなかったし」
「それはしょうがないさ。高貴君も感じ取れなかったみたいだし、高貴君があの魔法に気付いてれば事前に止めてただろうし。そういえばカミナはどうして僕達のいる場所がわかったんだい?」
カミナは突然話を振られてしどろもどろになる。
「え、えっと……サンシャインハートの能力で山全体の音を聴いて一番近くにいたのがジュウクと真夜だったから」
「凄いね君の能力は」
「いえ、別に凄くはありません」
それを聴いて真夜は目を伏せて考え込む。
「どうしたの?」
ジュウクが聞くと真夜は「いえ……」と答えてから続ける。
「はっきり言ってくも行きが凄く怪しい」
「まあ、悪魔に先手を取られたわけだしね」
「違う、そういう事じゃないの。急に悪魔の反応が増えたの。おかしいよ~、この数は」
「そんなに多いのかい?」
「ええ、数が多くて感じ取れる魔力がぼやけてる感じ~? 言葉にし難いんだけど木を隠すなら森の中みたいな~?」
「おーけいおーけい、つまり多いんだね」
真夜が少し怯えたような目をしながら言う。
「鴬院君、カミナちゃん――できれば私を暫定リーダーっ事にしてくれないかな?」
ジュウクとカミナはお互い顔を見合わせてから言う。
「それは構わないけど」
「私も特に反論はしません」
真夜は「ありがとう」と言った。
「じゃあ早速だけど私達の行動指針を決めるね~。結論から述べると私達は悪魔との戦闘を徹底的に避けてみんなと合流する方向だけど異論ある?」
ジュウクとカミナはないと意思表示して真夜はそれを確認すると続ける。
「たぶんこの数の悪魔は天狗だと思うんだよね。私は天狗を悪魔だと思ってるけど天狗自身はどう思ってるかわからない。低頭山の天狗伝説は人間に知恵を貸したり、神通力で人間の願いを叶えるという風な人伝説が多いからたぶん人間に友好的だとは思うんだけど、それも昔の話だし今はわからない。それにこの数は例え私が悪魔の力を十全に使えても多勢に無勢で勝てない、人間で例えると人間一人で軍勢と戦うようなものだし」
「そうだねぇ。1人2人ならともかく」
「まあ鉋君なら多勢に無勢にならないかもしれかいけどね」
「どういう事?」
「ディアロボスなんて悪魔聞いた事ないけど少なくとも鉋君は悪魔として私より格上だと思うから。もしかしたしらディアロボスは偽名かもね。って今は鉋君の事なんてどうでもいいの。それより鴬院君」
「なんだい?」
「あなたの《魅了の魔眼》はどの程度信用できるの?」
《魅了の魔眼》、それはジュウクの王子様のような顔を隠す黒いグラスの下にある眼。その眼を見た者は性別種族関係なく無差別に魅了してしまう。
「悪魔には試した事ないからわからないよ」
「じゃあ今私に試して」
真夜の突然の爆弾発言にジュウクは一筋の汗を流した。カミナは2人の言ってる意味がわからず頭の中で疑問符を浮かべる。
「僕の魔眼は強力だよ。悪魔には試した事ないけど人間と同等に力が落ちている君じゃ容易に魅了されるかもしれない」
「これでも何千年も生きてるんだよ~。人間に惚れた回数は既に3000人超えてるし~、同時20人の男を愛した事もある。今は錬君だけだけど~、今更鴬院君1人好きになってもむしろ人生上では同時に好きになった相手では少ない方だから~。それに私も今は使えないけど《魅了の魔眼》くらい持ってるし~」
「さらっと爆弾発言してますね」
ジュウクは肩を竦める。
「どうなっても僕は知らないよ」
そう言ってジュウクと真夜はカミナに眼を見られないように少し離れた。ジュウクはサングラスを外して真夜に魅せる。しばらくしてジュウクはサングラスをかけ直して、2人がカミナの元に戻って来る。
「なかなか強力だった~。強力過ぎて魅了というより支配に近いかも。どうやら悪魔の力を封印されてもそれらの耐性は変わってないみたい。耐性がなかったら完全に堕ちてた~」
「そんなに強力なのかい、僕の《魅了の魔眼》は?」
「ジュウク君は今まで自制してたんだよね? それ正解かも~。こんなの使ってたら心が人間でいられなくなるよ~」
――――難しい話でよくわかりません。
カミナは真夜とジュウクが盛り上がってる中そんな事を思った。
「それでどうするの? 鉄さんは僕の《魅了の魔眼》の性能を試したけど」
「ジュウク君、もし悪魔と遭遇したら躊躇わないで魔眼を使って。ジュウク君とカミナちゃんから見て私がどう変わったかはわからないけど、ジュウク君の魔眼は並みの悪魔なら魅了とまではいかないけど惚れさせる事くらいはできるはず。正に一目惚れってね!」
「善処するよ」
「それでカミナちゃん」
蚊帳の外だったカミナは真夜に呼ばれて「はい」と返した。
「カミナちゃんはサンシャインハートの能力で常にみんなの動向を探って道案内して」
「わかりました」
「私は魔力の気配を感じ取ってできるだけ悪魔を回避するから。それで今、他のみんなはどうなってるの?」
真夜に言われてカミナはサンシャインハートの能力で山にいる他のみんなの音を聞いた。
「どうやら錬は桜梅と合流したみたいですね。高貴はなんか当てもなく歩いてる感じですけど近くに通流がいます。しかし……」
カミナが言いにくそうにしてジュウクと真夜がどうしたと無言で訴える。
「結凛と苺夢の音がないんです」
「気絶してるとか?」
「いえ、気絶してても息や心臓の音が聴こえるはずです。しかしそれもありません」
「この山の外にいるかあるいは……」
「やめてください!」
カミナは真夜の言葉を遮った。真夜は申し訳なさそうに言う。
「ごめんなさい。軽率だったね」
「本当だよ」
3人の間に流れる雰囲気が暗くなる。それを振り払うようにジュウクが言う。
「とりあえず出発しようか。僕達と一番近いのは誰だい?」
「錬と桜梅は錬の月読玉兎を使って高速で移動してるみたいですね。たぶん一番合流が容易なのは通流かと」
こうしてカミナ、ジュウク、真夜という戦闘向けとは言えないチームは通流と遭遇するために移動を開始した。
☆☆Side通流☆☆
「初っぱなからこれとは先が思いやられるぜ」
通流は愚痴りながら山の中を歩いていた。
通流は錬同様自分の状況を確認したうえで移動している。つい先程通流は錬のキメラ月読玉兎が空高くジャンプしているのを見た。その見えた方向に歩いている。
「しかし錬の事だ、とっくに移動してるだろうな。あいつがキメラで移動すると速いからな」
それでも特別な目的もないし、他の者達の居場所もわからないため一応の行動指針として錬との合流を最優先事項にしている。途中で誰かと合流できれば儲けもの程度だ。
しばらく歩くと少しだけだが開けた場所に到着した。太陽の光が木陰に遮られる事なく地面を照らしている。
「ん、先客か?」
そこでは熱い日差しで日向ぼっこをする男がいた。その男は通流の声に気付いたのかそちらを向く。
「誰だぁ、てめえは?」
感じの悪い男はなめ腐った態度で見下すように通流に言った。
「お前に名乗る名はないぜ」
通流は挑発するように言い返した。
「ふん、人間ごときが格下の癖に偉そうにしやがって」
男は一瞬で通流に詰め寄ると右手を振り上げた。
「ぐぼぁ!」
山の中で悲痛の叫び声が上がる。
男の手が届く前に、通流のキメラであるパワードキングダムの手が男の腹部を貫通していた。
「わざわざ近寄ってくれるなら好都合だ」
パワードキングダムが手を引き抜くと手が金色に煌めいている。パワードキングダムの能力《オリハルコン硬化》だ。
「とどめだ。ゴッドブレイク!」
パワードキングダムの拳の連弾が男を襲う。
「ぐげえげえぇぇぇぇ!」
男は気持ち悪い叫びを上げながら吹っ飛び斜面に叩き付けられた。男はびくびく体を痙攣させながら腹から血を流して倒れていた。
通流は近付き倒れているそいつを見下ろしながら言う。
「悪魔っつうのはなんて頑丈なんだ。普通の人間なら死んでるぜ。しかし、こいつが目撃されてた悪魔か? 何にしても任務完了だな」
「ところがどっこい。悪魔はそいつだけじゃないんですよ、それが」
通流は言葉を否定した声の後方を見た。
「高貴か近くにいたのか?」
「悪魔がいたんで隠れていたんですよ。俺じゃ悪魔を倒せないですから」
高貴は悪びれもせず言いながら通流に近付いて来る。
「それよりどういう意味だ? 悪魔がこいつだけじゃないって」
「言葉通りの意味ですよ。この山にはこいつ以外にもかなりの数の悪魔がいるんですよ。軽く50人はいますね」
「天狗か?」
「そう考えるのが妥当でしょうね」
高貴は悪魔に近付き血塗れで倒れてるそいつを見下ろす。
「いや、正直俺は本物の天狗を見た事ないのでこいつが天狗なのかそうじゃないのか判断できないんですよ」
「天狗は鼻が長いだろ」
「天狗にも烏天狗やら狼天狗やら色々種類があるので」
「ちっ! こいつが天狗だろう何だろうと何にしても絶体絶命ってわけか」
悪態を付く通流に高貴は同意という感じに苦笑する。
「そうですね。この数は俺達には荷が重すぎますね。今すぐ錬さん達と合流して撤退するべきです」
「だが結凛はどうやらヤバい状況みてーだし、あいつがいればわざわざ他の奴らを探す必要なんかないんだが――」
がさっ!
通流は音がした方向に神速の如くパワードキングダムで殴りかかる。
「ひゃん!」
通流は正体を見ると即座に攻撃を止める。
「シャレにならないから! 金剛倉君のパワードキングダムで殴られたらミンチだから!」
苺夢が涙目で訴えた。
「すまない。悪魔だと思ったんだ」
「もう、ちゃんと確認してよね」
苺夢は通流達に近付いた。
「だけど誰かと合流できてよかった~」
苺夢はほっとしたように言ってから続ける。
「なんかどうみても人間じゃないような人達がそこら中に徘徊してて恐かったんだよ。しかも3人まとまって移動してたし」
「よく無事だったな」
苺夢は自慢げな顔になる。
「ふふふ、実はこれのおかげなのですよ」
そう言うと苺夢は自分の影に沈んだ。そして影から頭をひょっこり出した。
「影に隠れながら移動したの」
「そりゃあ凄いですね」
「中はなかなか広いから2人とも入って入って。この中にいれば悪魔達に見つからないから」
「それじゃあ俺はお言葉に甘えましょう」
高貴は苺夢が広げた影に落ちていく。
「ほら、金剛倉君も!」
「しょうがねぇな」
影は通流の足下にまで伸び、通流も影に落ちていく。
苺夢は辺りをきょろきょろしてから出してた顔を影に隠した。
中は黒い空間だったが不思議と明るい。外に繋がる出入口を中心にまるで5つ☆ホテルのルームのように家具が置かれている。
「初めて入ったが思った以上に広いな」
通流は壁が見えない空間を見ながら言った。
「2人とも座って。一応人数分の椅子用意してるから」
苺夢はクーラーボックスから飲み物を出しながら促した。




