登山とそのグループ分け
低頭山。日本――否、一番観光客と登山者が多いと言われる山だ。古くは修験道の霊場であり天狗伝説が残っている。
しかしその山に蘭鳴学園生徒会役員は到着していない。一度学校へ集合して電車に乗って行く事になっていた。そんな生徒会役員を錬は引率していた。
カミナはドアの窓から見える景色に釘付けになりながら言う。
「東京って西へ来ると山が多いですね、錬」
「がっかりするような事言うようで悪いけど日本の都市、東京の5分の3は山だからな」
「そうなんですか。でも世界に誇れる山と街があるなんて最高ですね」
「都心と違って華やかさとかないだろ」
「華やかというより派手さですかね? 確かにそういうのはありませんけど見てるだけで太陽と大地の青を感じます」
カミナは無邪気にきゃっきゃっと喋っているが他の面子は静かなものだ。
結凛は眠そうに、というより眠ったり起きたり夢とこっちを行き来している。通流はクールに大きい図体からの長い足と長い手を組んで目を閉じている。ジュウクは相変わらずサングラスをかけて、イヤホンを耳に挿し音楽を聞き、時折聞こえる他の女性乗客の黄色い声を無視している。桜梅は小説を読みながら錬をちらちら見て、目が合うと恥ずかしそうに小説に視線を戻している。高貴は悪人面で乗客を無自覚に威嚇しつつスマホをいじっている。真夜はちょっとブルーな顔で席に座って後部の窓を横目で見ている。苺夢はしきりに自分の影を気にしてはいるがおとなしく座っている。
――――まあ、この大人数でがやがや喋ったら間違いなく他の客の迷惑だしね。乗車する前に注意しといて良かった。腐っても高校生、これくらい守れないとな。それにしても良かった。誰一人として登山に相応しくない格好して来なくて。
とは言ってもエジプト人のカミナはともかく、お坊っちゃまお嬢様で庶民の遠足なんて経験した事ない人達も日本人だけあってこれくらいでは驚かないようだ。
――――というかカミナは褐色の外国人で髪の先端を銀色に染めてるの結構威圧的だわ。
低頭駅到着直前のアナウンスが車内に告げられると一行はぞろぞろと電車から降りた。
当然だがこの一行は目を惹く。登山するという事もあり皆特別色気がある格好というわけではないが、全員が美男美女なのだから当たり前だ。高貴ですら悪人面とはいえ美男の部類に入る。
「まあ当然といえば当然だよね。だって長身で濃い顔のイケメンの金剛倉君、金髪できらきら王子様系の鶯院君、悪人の色気を漂わせるけどやっぱり恐い鉋君、それに顔だけ女の子みたいな美少年錬さん、多種多様な男の子がいますからな!」
苺夢が自慢気にうっとり言った。
「でも錬はとんだ顔面詐偽だぜ。下半身が屈強過ぎるからな」
通流が面白がって苺夢の言葉に乗った。
「しょうがないだろ、自転車乗り回すと筋肉付いちゃうんだから。今日だってびっくりしたよ。用意した長ズボンが履けなかったんだぞ。しょうがないから下はジャージで来て、一応下には短パンも履いてるけど」
通流と苺夢は割とスタンダードな服装だ。2人ともスタイルがいい。
「というか通流はインディンジョーンズみたいだな」
「機能性と格好良さを求めたらこうなった」
「様になってるよ」
その時、結凛がふっと笑った。
「まったく通流は気合い入り過ぎだね」
「いや、お前もなかなか気合い入ってんだろその格好。ミニスカートも履くとか色気付きやがって」
「一応錬君の前だし少しはお洒落しないと、と思ったんだよ。通流やジュウクだけならともかく」
結凛に限らず女性陣はネットや雑誌で調べたのか錬から見ても皆結構お洒落な感じだ。ただ一人を除いて。
「な、なぜ皆さんそんなにお洒落な格好を……」
学校指定のジャージを着ている桜梅ががっくりしながら言った。
「ウサギさんがジャージでいいって言ったからジャージにしたんですのに」
「俺はお前にジャージでいいかと聞かれたからジャージでいいんじゃない? って答えただけだぞ。というかファッション雑誌見てるならそのくらい自分でわかれよ」
「だって山登るのにあんな格好でいいのかなって思ったんですもの」
「でもまあ桜梅は元がいいからジャージでも可愛いさ」
――――元々子供みたいな顔と体だし。
「そ、そんな可愛いなんて……」
「それにほら、俺もズボンはジャージだし」
もっとも錬のジャージは学校指定のものではないが。
「おい、さっさとロープウェイの切符買おうぜ」
通流が切符売場で財布を取り出した。錬はちらりと財布の中身を覗いた。
「げっ」
「ん、どうした錬」
「いや、何でもない」
錬が見た通流の財布の中身は軽く50万円が入っていた。まさかと思い他の人達の財布も覗いてみる。
もはや登山するのに常識はずれと言わんばかりの金額を皆が持っていた。唯一、桜梅だけは2万円程度だった。
ロープウェイに乗りながら錬は通流に言う。
「たかが登山に金持ち過ぎだろ」
通流は意味がわからないのか眉をひそめている。
「あまり金使わないと思ってこれでも少なめなんだが」
「マジかよこいつら」
錬はこれ以上つっこむ事はせず黙ろうとするが通流が話を続ける。
「そんな事より今日の弁当にはトンカツが入ってるぜ」
「突然話題が庶民風になるのやめろ」
「しかもヨークシャー種の豚肉のな」
「なんだそれ? 相変わらず意味不明な食材食べてるなお前」
「そういうお前は弁当のおかず何なんだよ」
「ふっ……鶏の唐揚げだ。後は卵焼き醤油味とハンバーグ」
「ハンバーグも入ってるのか。いいな」
他愛もない話をしているとロープウェイは駅に到着した。駅を出ると結凛が点呼を取る。
「さて、前から言ってる通り私達が今日低頭山を登山する目的は来週学校で行われる遠足の下見、同時に最近悪魔を知る関係者の筋から悪魔の目撃情報が多発しているためその脅威を排除する事。悪魔が話が通じる相手か血の気が多いかはわからない。だから、これからグループ分けをする」
このグループ分けには目的が2つある。1つは登山コースという事もあり多人数で歩くのは通行の邪魔になるため2つのコースをでグループを分ける事、2つ目はできるだけ見付ける確率を上げるため。
「という事でくじ引きでグループを分ける。あまりにも戦力が偏るようならやり直す」
結凛が用意した袋にグループ分けの紙を入れて皆が紙を引いた。
結果――Aグループは錬、結凛、真夜、ジュウク、カミナとなり、Bグループは通流、桜梅、高貴、苺夢となった。
「ちょっとAグループに戦力が偏ってるけど結構均等に分かれたね」
結凛が満足そうに言ってから続ける。
「私はこれでいいけど通流と高貴、どこか変えたいところある?」
「いや、むしろこっちよりそっちの方が問題じゃないですか? 錬さんの負担が大きい気がするんですが。鉄と鴬院、カミナはお世辞にも強いとはいえません」
「それがあなたが言う~? ブーメランブーメラン」
「失礼です。私だってちょっとは強くなったんですよ」
高貴の意見に真夜とカミナが反論した。
「そんな事言ったら~、鉋君だって悪魔の力を封印しててキメラもない雑魚じゃん~。桜梅ちゃん以下だよね~」
「ちょっと真夜ちゃん」
苺夢が真夜を止めに入るが止まる気はないようだ。
「俺はブレインです」
「自称ブレインとか傲慢だよね~」
とても長く生きた者同士とは思えない高貴と真夜の喧嘩を聞きながら結凛はしばらく思考している。やがて唇を開く。
「それじゃあこうしよう」
皆が結凛に注目する。
「私と鉋君、桜梅、真夜ちゃん、ジュウクと組むよ」
当然この提案に結凛を除く全員が目を丸くして驚く。
「いや、それはいくらなんでも偏り過ぎです」
高貴が反論するが結凛は何食わぬ顔で言い返す。
「そうだね、はっきり言って戦力的にはかなり偏る。錬君、通流、そしてこの一週間で今や3番目に強くなった苺夢ちゃん、キメラの能力は錬君や通流に引けを取らないカミナちゃん。この4人を固めるのは確かに愚の骨頂、でも私には仲間を召喚する能力がある」
錬や通流、高貴、苺夢なんかは結凛の言いたい事を理解した。
結凛は余裕の笑みを浮かべながら回りの反応を見てから続ける。
「戦力を偏って分散させても私の能力を使えば例え私のグループが悪魔に遭遇しても錬君達のグループを呼び出す事ができる。逆に錬君達のグループが悪魔と遭遇してもそちらのグループはほとんどが手練れだから戦闘に専念できる」
通流は顎に手を当てて感心したように言う。
「確かになぁ、言っては悪いが俺は悪魔相手に庇いながら戦える気がしないからな。むしろこれは個人的には最良の判断だと思うぜ。それに召喚されても戦う役割と守る役割を分けられるしな。錬はどう思う?」
通流に振られて錬は考えてから発言する。
「だけどこれは逆を言えば結凛のグループは不意打ちに弱い。例えば結凛のグループは遠くから狙撃されて勝てる戦いとは言わないけど負けない戦いができるのか?」
「そこは心配いらない。私は殺気とか感じるの得意だからね。殺気とか感じたらすぐに召喚するよ」
「それならいいけど」
「じゃあグループはこれで決まりだね」
こうして結局――錬、通流、苺夢、カミナのAグループと結凛、高貴、桜梅、ジュウク、真夜のBグループという戦力が偏った変則グループが形成された。
「それじゃあ出発しようか。私達Bグループはこっちのルートを選ぶよ」
Bグループのリーダー結凛が地図でいう頂上に続く2つあるルートの内、右側のルートを選ぶとAグループリーダーの通流が言う。
「じゃあ俺達はこっちのルートか」
錬達のグループは左側のルートに決定した。
「それじゃ頂上で」
「お気をつけて錬さん」
「通流のチームも頑張ってください」
「またね、皆。僕は君達の無事を祈ってるよ」
「じゃあね~」
それぞれがコメントを残して結凛達のグループが先に登山道へ入って行った。
錬達はそれを見送ると通流が指示を出す。
「じゃあ俺達も行くぞ」
それを聞いてカミナと苺夢が元気よく「おー!」と応えた。
「ほらほら錬さんも一緒に、おー!」
苺夢に促されて錬はそこそこ元気よく「おー!」と言った。




