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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第一章 蘭鳴学園悪魔事件
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キメラ実技チュートリアル

「さて錬君、練習の時間だ」


 結凛は言うとワルキューレを出した。


「通流と桜梅は下がっといて」


 結凛の指示に従い通流と桜梅は錬から離れる。そして、錬と結凛がガンマンのように対峙した形になる。


「さあ、キメラを出すんだ」

「どうやって?」


 錬はノリノリな結凛に水を差すように質問した。


「出そうと思えば出せる。心の中で出したいと思えばいい。初めて自転車が乗れるようになってから考えずに乗れるように、キメラを出せばいい。錬君は一度キメラを出せているんだ。簡単さ」


 結凛のアドバイスを錬は実践した。すると、錬はキメラを出せた。

 錬のキメラは飛び出したように地面に着地した。


「飲み込みが早い。とりあえず自由にワルキューレと戦ってみて」

「待って!」

「何だ?」

「俺のキメラ、武器持ってないんだけど。そっちだけ剣持ってるとかズルくない?」

「武器を持ってるキメラの方が稀だよ」


 錬はそういえばと、通流と桜梅のキメラは武器持ってなかったと思い出した。


「ワルキューレ」

「わかりました、結凛様!」


 結凛の言葉にワルキューレが答えると、足を揃えて直立し剣を顔の前に持っていく。


「あっ、ワルキューレって喋れるんだ」


 喋らないと思っていた錬はビックリした。しかし、今ので錬はキメラの動かし方がわかった。


「なるほど、指示を飛ばすのか……。行け、俺のキメラ! ワルキューレをぶん殴れ!」


 錬は結凛に倣い指示を飛ばす。しかし、錬のキメラはピクリとも動かない。


「おい、動かないんだけど」


 錬はクレームを入れる。


「たぶん自分で操作するタイプなんだと思うよ。出した時みたいに心で指示してみて」


 錬はキメラを出した時と同じ要領で指示を飛ばす――否、操作する。

 錬のキメラは右手を上げる。


「へぇ、本当に動いた」

「私のワルキューレみたいな自動操作のキメラは稀だからね。大体の人は自分で操作をするんだ」

「結凛のキメラって稀な特徴ばっかりだな。どんだけレアなキメラだよ」

「ふふ、私のキメラなんて桜梅のキメラに比べたら大した事ないよ」


 結凛はワルキューレに向かって言う。


「ワルキューレ、相手は初心者だ。手加減して峰打ちで相手してやれ」

「はい」

「いやいや結凛、俺にはワルキューレが持っている剣はどう見ても両刃の剣に見えるんだけど」

「そうか、そうだったな。ははは! それならワルキューレ、寸止めだ」

「はい」


 ワルキューレは肩の高さに手を伸ばして剣を構える。肩、腕、手、剣が同じ高さで一本になる。


 ――――ワルキューレの剣は片手剣、刃の長さはワルキューレの腕の長さの一・五倍というところか。しかもあの構えは素手相手にリーチの長さで牽制する効果的な構え。


 通常、剣などの棒状の武器を持っている相手に対して素手による間合いは遠い。

 錬のキメラはワルキューレと間合いを詰めようにも剣が邪魔だった。それはもう想定内なのだが想像以上に遠い。


「一対一において剣を持つ相手の待ちの構え程厄介なものはない」


 錬は言った。


「錬君、これは模擬戦だからリラックスしなよ」


 結凛が言った。

 待ちの構え相手の攻略法は簡単だ。錬のキメラは足下の石を拾ってワルキューレに投げた。


「卑怯ですわ」


 桜梅は呆れ気味に呟いた。

 石はワルキューレの刃の範囲に入った時点で弾かれた。


「ビクビクと遠い所から石を投げるとは情けない」


 桜梅は尚も錬に嫌味を言った。錬は下らない嫌味を無視して言う。


「全然勝てる気しないな」

「これは模擬戦、勝ちも負けもないよ」


 錬はゲームで最初に始まるレクチャーのバトルではとりあえず相手を倒してみようと思うタイプ、今も同じ心理が働いている。


 ――――とは言ったものの、まだ俺は自分のキメラのスペックすら把握してない。結凛と通流はスピードがかなり速く、パワーもあるタイプらしいが……だけど俺は肝心のスペックの程度を知らない。スピードはどのくらい速いのか、パワーどのくらい凄いのかわからない。ここは自分のキメラのスペック調査をするか。


 錬のキメラは真っ直ぐ走り出す。


「速い!」


 通流が言った。錬のキメラはワルキューレの刃の範囲に一歩踏み込んだ。


「やば……」

「くっ……」


 ワルキューレは剣を振るった。しかし、剣は虚空を切る。錬のキメラは一歩下がって攻撃範囲から脱出していた。


「想像以上に速いな……反応速度じゃなくて移動速度がね。不意打ちの形で攻撃範囲に入ったとはいえワルキューレの剣を躱すとは」


 結凛は口を手で隠し驚いた様子で呟いた。錬の顔に冷や汗が流れる。

 確かに錬は実感した。キメラの体感を実感した。自転車に乗り坂道を下った時に風を切るような感覚を味わった。どうやら本体とキメラは感覚を共有しているようだ。それを自覚するとあらゆる音が聞こえる、呼吸音に心臓の鼓動、遠く校内の教師の声――つまりは聴覚。あらゆる匂いをかぎ分ける嗅覚。そして、三六〇度の視野にぼやける視界に距離を掴めない視覚。

 錬は今、確かに自分とキメラ、二つの体を操っている。


「これがキメラを操る感覚か……」


 とにかく錬がキメラを動かしてわかった事は想像以上に思い通りにキメラが動く、それこそ自分の体のように。そしてその速さは初速からの最高速への時間がとても少ない、刹那に最高速度に達する、静止から一気に最高速という感じ、また最高速からほとんど減速なしで静止できる。ワルキューレの剣を回避できた理由はこれだ。つまるところ、とても敏捷性に優れている。


「錬君はコツを掴むのが早いな」

「ありがとう」


 結凛の言葉を素直に受け取り、錬はお礼を返した。


「ワルキューレ、次はお前から攻撃だ」

「わかりました!」


 結凛の命令にワルキューレは返事をして腰の位置に構えて錬のキメラとの間合いを詰める。しかし、錬のキメラは右に跳んで剣を回避。


「悪いけど俺のターンだ」


 錬は自分のキメラの強みを理解した。

 錬のキメラは地面を蹴りワルキューレとの間合いを詰める。そしてワルキューレの肩を殴った。

「ぐっ……!」


 ワルキューレは地面に転がりそのまま体勢を立て直した。肩を手で押さえている。


「わかった、もう終わりだ」


 結凛は手をパチパチ叩いて錬を称えた。


「よもや初心者に手加減されるとは思わなかった」


 結凛の言葉に桜梅は通流に聞く。


「手加減でしたの?」

「ああ、少なくとも手を使っている時点で手加減だな」


 錬は自分のキメラの強みを理解している。それは驚異の脚力、足の力。


「敏捷性というのは小さな体程優れている。その優れた敏捷を可能にするのは体の軽さだ。ウサギやネズミなんかはその最たる例かな。だが錬君のキメラは人と同じ程度の大きさでありながら、強力な脚力とある程度の上半身の力でその敏捷を可能にした」


 結凛は言った。


「このスペックなら即日実戦でも問題ないな」


 通流は言った。


「まあ、そうだね。たぶんこれ以上の訓練も無意味だろうし……」


 結凛も同意した。だが桜梅は納得しない。


「二人とも随分と銀君を高評価しますわね。ならば次は私がたっぷりと指導を……」

「やめておけ」


 前に進み出た桜梅を結凛は肩を掴み止めた。


「私の判断に何か文句があるのか?」


 錬は結凛に対して背筋が寒くなる。桜梅はバツが悪そうにおとなしくなる。


 ――――結凛って結構怖いな……。


「さて、今日は午前いっぱいを使って錬君のキメラの操作指導を行う予定だったが、案外錬君の飲み込みが早くて二時間目の授業が終わる前に終わってしまった」

「それじゃあ俺は授業に戻っていい?」


 結凛は驚いた様子で奇異な目を錬に向ける。


「錬君、君はそんなに勉強が好きなのか? 変わってるね」

「結凛、俺は特別勉強が好きじゃないからいいけど……勉強好き相手にそれはとても失礼な発言だと思う」

「それもそうだね。まあ、とりあえず解散だな。次の集合は午後六時に生徒会室だ」


 こうして銀錬は巻き込まれるような形で悪魔と戦う生徒会に協力する事になった。

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