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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第二章 悪魔組織→低頭山編
29/37

退魔剣師(2)

 錬は蘭鳴学園到着すると運転手に頼んで用意してもらった紐で苺夢の両手を縛り引き、刀を持って蘭鳴学園高等部生徒会室へ連れて来た。

 苺夢は車中道中おとなしいもので何を抵抗する事もなかった。しかし恥ずかしそうに錬をちらちら見ていた。

 錬は苺夢にソファへ座るように命令した。苺夢はおとなしくソファに座った。


「あ、このソファ座り心地いい」


 苺夢はお尻でソファの柔らかさを感じてそう言った。

 錬はソファの背もたれに刀を立て掛けてから苺夢と対面に座る。コンビニ袋をテーブルの上に置くと縛っている苺夢と繋がっている紐をテーブルの足にしっかり結んだ。そしてコンビニ袋から弁当と割り箸を取り出して昼食を食べ始めた。


「まったく何で学校休みの日に学校来る事になってるんだか」

「そういえば私もまだ昼飯食べてない」


 苺夢はお腹を押さえながら錬が買ったコンビニ袋の中身を凝視する。


「しょうがないな。菓子パンならあげるよ」


 錬は袋から菓子パンを取り出して苺夢に投げた。苺夢は縛られた手で器用にキャッチした。


「マヨネーズオニオンツナだ。私、マヨネーズも玉ねぎもツナも大好き」


 苺夢は嬉しそうに包装を開けてぱくぱく食べ始めた。錬は一応、予知で苺夢が好きそうな菓子パンを選んだのだから嬉しいのは当たり前だった。


「ごめんね銀君、いきなり斬りかかって」

「何だいきなり」

「いや、銀君が悪魔だって言うのは誤解だったみたいだから」

「別に気にしてないよ。いいもの見れたし」


 錬はにやにや苺夢を見る。苺夢は先程の事を思い出して顔を羞恥の色に塗れながらパンで口元を隠した。


「あ、あ、あれは違う! 別にただ股間部分がこう変なぴりぴりしたというか……」

「マイナス30点」

「え? 何、なんで減点されたの!?」


 錬は答える事なく月読玉兎で冷蔵庫から水のボトルを持って来て飲んだ。


「暑かったから生き返りますねぇ」

「無視!? それより銀君、私も喉渇いた」

「お前、なんか図々しいね」


 錬は月読玉兎で冷蔵庫から水を取り出して苺夢の前に置いた。錬は一瞬考えてからペットボトルこキャップを開けてあげた。


「ありがとうございます銀君!」

「うん、まあ……これから人に会うのに女の子があれは可哀想だからね」


 苺夢は疑問符浮かべながら、にこにこ水を飲み始める。


「生き返る」


 そんな事を言う苺夢を横目に錬は扉の方へ顔を向けている。


「来たか」


 扉が開かれると制服を来た長身の男が生徒会室に入って来た。


「よお、錬」

「あ、こんにちは金剛倉君」

「何で庭宮がいるんだ?」


 通流は錬に目を向けた。


「こいつが例の女だからだよ」

「そうなのか」

「お前らは知り合いなの?」

「同じクラスだよ」


 通流は立て掛けてある刀を手に持ち鞘から少し抜いて刃を見る。


「なるほど、こいつは確かに真剣だな。切れ味良さそうだ」


 そう言うと通流は刀を元あった場所に立て掛け直して錬の横に座る。


「で、早速だが庭宮。お前はこれが見えるのか?」


 通流はパワードキングダムを出現させた。


「うひゃあっ、ライオン! しかもキモい! もしかして私はライオンに食べられるの!?」

「間違いなく見えてるな」


 通流はパワードキングダムを消した。

 そして苺夢にキメラの事を話した。生徒会役員が学園生活における本来の意味での表の顔と悪魔を倒す組織の一端である裏の顔を持つという事も包み隠さず。

 ここまでの説明が終わったところで錬は通流に言う。


「いいの? そんなにべらべら喋って」

「相手が一般人ならともかくキメラが見えてるうえに、見て見ぬフリしていないどころか自分を退魔師とか言って真剣で斬りかかってるからな。珍しいとはいえ天然のキメラの覚醒者だって生徒会が把握していない奴はいるだろう。俺らくらいの年齢ならともかく子供のキメラ使いが狙われたら惨事だしな。いや、実際あるんだぜ。俺らとは違う組織や詐欺霊能力者、自称魔術師とかがそういう事件を起こすの。日本みたいな神と悪魔が曖昧なところでは滅多にねーが、一神教のエクソシストが悪魔祓いと称してキメラ使いを悪魔認定して殺すのとか珍しくないしな」


 通流は錬の目を見る。


「え、何? 気持ち悪い」

「いや、何でもない」


 通流は錬から目を逸らすとスマホで電話をかける。しばらくすると電話を切った。


「やはり結凛は出ないな」


 通流は舌打ちをした。

 そんな中、苺夢が申し訳なさそうに言う。


「あの~……もう何もしないからこれ外してくれないかな?」

「あのなぁ、見知った奴とはいえ真剣を振り回すような頭がキレた奴を自由にできるか」


 通流がそう言うと錬が余裕の笑みを浮かべて言う。


「別にいいんじゃない? こいつは約束を破らないから」

「何でそんな事わかるんだ?」

「予知で知ってるから」

「意味がわからないんだが」

「なんと、とうとう劣化能力が覚醒しました」

「お前な……そういう肝心な事は先に言えよ」

「言うタイミングがなかったんだよなぁ」


 錬は言いながら苺夢の手を縛っている紐をハサミで切った。通流はそれを見ながら呆れて、後で詳しく言うように言った。


「跡付いてる。手首がシャバの空気を吸ってるみたいな感覚」


 苺夢が手首を見つめながら言った。


「それで何でお前は錬を襲った? こっちの事情を話したんだ、次はそっちの番だと思うが」


 通流が警戒しつつ言った。苺夢は答える。


「ただの勘違いだったんだよ。私はただキメラが悪魔だと思ったから銀君を襲撃したの」

「蒸し返すようで悪いが、確かに俺達はキメラに関しての説明をしたがお前からすれば俺達が悪魔じゃないと証明されたわけじゃねーだろ。それに仮にお前、錬を殺してたらどうするんだ?」


 苺夢は錬の方を向き、頭を下げた。


「ごめんね銀君、殺してたら取り返し付かなかった。後……ありがとうね、私を人殺しにしないでくれて」


 錬は「別に」と答えた。

 苺夢は頭を上げると再びごめんねと言った。そして通流に向き直る。


「銀君が悪魔じゃないって言うのはここに来る前に証明されちゃったから。えっとね、その、悪魔だったらたぶん刀身に触れた部分がどろどろになるらしいから」

「なるほど、俺がこの刀を月読で回収した時に人間だってわかったのか」

「そう」


 苺夢は錬から顔を逸らし、目でちらちら見ながら顔を紅くしてもじもじした。錬はそれを無視して通流に言う。


「しかし、今度は俺達からすればこれが退魔刀という証明にならないね」

「そうだな、間違いなく真剣ではあるがな。まだ、庭宮がキメラの作る素質を持つ自称退魔師のイカれ女の可能性も捨てきれない。それで、庭宮はこれで何か悪魔を斬った事があるのか?」


 通流の質問に苺夢は「え~と」と困惑してから答える。


「私まだそれで悪魔とか斬った事ないからわからないの。たまたま倉庫を整理してたら見付けたものだから……。それに一緒に付いてた紙には降魔の刀って書いてあって、触れた魔は溶けるみたいな事しか書いてなかったから」

「はぁ、お前よくそんな所在不明な刀を使う気になったな」

「だって、ウサギと鳥が合体した人間くらいの大きさの動物なんて世界にいないじゃない。それにその時見付けた本にも悪魔はあらゆる獣が合成されたような姿って書かれてたし」


 錬は納得しながら言う。


「ははぁ、確かにそれって俺達生徒会がかつて悪魔と認定していた姿と一致するな。4月に起きた真夜のリリンとかいうのもキメラと似てたし、結凛達はそれを悪魔だと思ってたわけだし。つまりのその書物は悪魔が作り出したキメラと似ている言わば使い魔とも言うべきものを悪魔と認定していたって事ね。真夜のリリンもヴァンパイアなんかはキメラっぽかったしな」


 錬は少し考えてから続ける。


「じゃあさ、高貴か真夜を呼んで確かめる?」

「それは危ないだろ。本物なら溶けるんだろ?」

「何も触らせるわけじゃない。どうも俺の予知能力は性質上条件が必要らしい、因果関係って言うのかな? コインの表を出すには裏のコインを裏返す必要があるだろ。たぶんこの場合の因果の因は高貴と真夜がいる事なんだ」

「そこまで言うなら好きにしろ。お前の友達の事だ、俺が決める事じゃない」


 そういう事で錬は高貴を呼ぶ事にした。


 ☆☆☆


 錬は通流に自分の劣化能力の説明をしながら、常に予知を続けていた。


「来たか」


 錬は高貴が生徒会室に入って来ても何も起こらない事を予知しているため開くドアを閉める事はない。当然、高貴は躊躇いなく生徒会室に入って来る。


「やあ高貴、休日なのに学校に呼び出して悪いな」

「いや、俺は別に構わないのですが……どうしたんですか? 日曜日に学校に呼び出して……というかその女誰ですか?」

「まあこの女の事は後で話す。それよりこれを見てくれ、こいつをどう思う?」


 錬は手元にあった刀を手に取り鞘から抜いた。高貴は驚愕の表情を浮かべるとすぐに顔を青くする。高貴は後退りしながらその刀を指差して尋ねる。


「な、何でそんなものが……何で退魔刀がこんなところにあるんですか!?」

「本当に退魔刀だったのか」


 錬は刀を鞘に仕舞った。

 苺夢は錬に言う。


「この人、確か鉋高貴君だよね? 何でここにいるの?」


 錬は退魔刀を置いてから言う。


「こいつは鉋高貴、簡単に説明すれば悪魔ってやつだ」


 苺夢は首を傾げる。錬の言葉をよく飲み込めないようだ。確かに悪人面だが、どう見ても人間の高貴が悪魔と繋がらないらしい。


「つまり、どうみても人間だけどこれも悪魔の一種ってやつなんだ」

「へ~そうなんだ。全然悪魔って感じしないね」


 苺夢はのんきに言った。

 錬と通流は苦々しく唇を歪めた。悪魔リリスである真夜との戦闘は悪夢だった。10秒もしない内に結凛、通流、ジュウクが倒され、その後も錬は真夜とタイマンを張ったが月読玉兎の攻撃を与えても簡単に倒れず、月読玉兎の能力の全知を使用してやっと倒せた相手だった。


「俺は――」


 苺夢がのうてんきに、通流は横目で、高貴はいつも通り、声の主である錬を見る。


「本当はもう悪魔と戦いたくない」

「気持ちはわかるぜ」


 この場で同意を得られるのは通流だけだった。


「うわっ! 金剛倉君と銀君が遠い目してる! 鉋君ってそんなに強いの!?」

「やったの俺じゃなくて鉄真夜って女です。二度も言うようですけど俺ではありません。そもそも俺は昔から人間贔屓だからそんな事しないです」

「悪魔って人間好きなの?」

「まあ、俺みたいなタイプの悪魔は人間に結構好意的ですよ。契約とかならともかく俺達からは人間社会を混乱させないようにひっそりと生きてますから。悪魔社会にも規則とかありますからね。魔法でお金を作らないとか、魔法で相手を惚れさせないとか」

「あまり悪魔っぽくない。悪魔ってもっとこう人間社会を混乱に陥れるために人間に憑依して悪さしたりとかいうイメージなのに」

「ああ、確かに悪魔といえば世間一般のイメージはどちらかといえばそっちですね。そのイメージにも実はカラクリがあるんですよ。いや、これを言うのは規則違反ですね」


 高貴は口を紡ぐんだ。


「はあ、悪魔というのも案外大変なんだな」


 錬が労うように言った。


「ははは、そうですね。しかし――」


 高貴は退魔刀を凝視する。


「この退魔刀は相当強力ですね。長い間生きてますけどここまで強力な退魔武器は初めて見ましたよ」

「そんなに凄いのか、これ?」

「そうですね。退魔武器自体今の時代珍しい代物ですがね。この退魔刀の名前は?」


 高貴は苺夢を見て聞いた。


「《巫姫》って書物には書いてあったよ」

「げっ、これ《巫姫》ですか! 何でそんな大物がここに!?」

「そんなに凄いの?」

「退魔武器には大まかに3つのタイプがあります。1つ目は悪魔の力を付与したもの、これは悪魔が魔力を纏わせたり契約によって作られたものですね。要はダイヤモンドでダイヤモンドを削るみたいに、悪魔の力で悪魔の力に対抗しようという武器です。俺もいくつか作った事あります。2つ目は神の加護を受けてるもの、神の力で悪魔を滅する武器ですね。エクソシストの十字架とか聖水とか、もっともこれはあまり現存してませんが。3つ目は悪魔にとって毒となる武器です。おそらくこれが一番現存してる数が多いと思います。そしてカンナギヒメなんて可愛い名前してますが、この退魔刀は3つ目の悪魔にとって毒となる退魔武器です」


 高貴は少し思考する。


「もしかして庭宮とはあの――」

「そう、庭宮とは今や日本でも有数の資産家にして、かつて退魔の一族として名を馳せた」

「やはりあの庭宮……って灯麿!」


 高貴の言葉に割って入ったのはたった今、生徒会室に来た結凛だった。


「こんにちは結凛」

「よお、結凛」

「こんにちは錬君、通流」


 結凛は生徒会長専用の机の上に荷物を置くとソファに座った。


「メールを読んで来てみれば、また面倒な事になってるみたいだね」


 少し疲れた表情を見せながら結凛は錬を見た。


「俺は悪くないんだよなぁ。それより結凛はこいつの事を知ってるのか?」

「当然、これでも全校生徒の情報は頭に入ってるからね」


 結凛はワルキューレを出現させて冷蔵庫からジュースを持って来させてそれを飲んだ。


「ふぅ……」

「そういえばさっきから思ってたけどみんなキメラを雑用見たいに使ってるね」


 苺夢の言葉に生徒会室に沈黙が下りた。結凛が苦笑いを浮かべる。


「ははは、キメラなんて悪魔退治以外だと雑用くらいしか使い道ないから」

「案外不便だね!」

「辛辣だけど返す言葉もないよ」


 錬は結凛に言う。


「それでその庭宮が何だって言うんだ?」


 結凛は再びジュースに口付けしてから言う。


「庭宮って言うのは代々退魔師を生業として来た一族なんだ……と言ってもそれはもう200年くらい前の話だけど」

「今はやってないの?」

「庭宮の一族にはそもそも自身に退魔の力はない、あるのは霊視能力なの。で、300年前から庭宮家には霊視能力が生まれにくくなった。200年前には霊視能力者はほとんど生まれてなかったみたいだけど、それで退魔師として稼いだお金を元手に事業を始めて今に至る」


 苺夢は感心するように聞きいていた。


「はぁ……私のご先祖様って退魔師だったんだ」

「知らなかったのか?」

「だって庭宮家の歴史って灯麿さんの言う200年前のからしか聞いた事ないもん」


 結凛はソファに足を乗っけてから言う。


「たぶん庭宮家にとって黒歴史なんだろうね。良くも悪くも命のやり取りをする生業だったし、それ故に悪魔からの報復だってあり得る。それならいっそ自衛の意味も含めて封印して表に出さない方がいいって事、例え悪魔を倒せる退魔武器があっても見えない敵は脅威だから」

「なるほど……」

「たぶん苺夢ちゃんが霊視できるのは隔世遺伝的なものだと思うよ。だからたぶんキメラの素質があるのとは違うかもしれない。苺夢ちゃんは幽霊とか見た事ない」

「そういえばたまに透けた人とか見る気がする。あっ――」


 苺夢は手の平と手の平をぱんと叩いた。


「そうだ! 私も生徒会に入れてよ!」


 苺夢の言葉に男性陣は呆れた様子を見せる。


「俺から言わせれば入らない方がいいと思う」

「同じく、興味本位で入るべきじゃないぜ」

「悪魔の俺が言っては難ですけど、退魔武器があってもガチの悪魔は結構危ないですから」


 結凛も笑みを浮かべるが難色を示して言う。


「私も3ヶ月前だったら喜んで加入させたけど今はあまりおすすめしないかなぁ」


 苺夢は胸に手を当て誇らしげに言う。


「これでも私はバレエをやってたの! 100m走もハードル走もクラスで1位だから運動神経にはかなり自信があるよ!」

「剣道ですらないのか」

「ふふ、剣なんて突き詰めればただの棒、棒なんて原始時代から使われてる武器なんだから扱えない方がおかしい」


 苺夢は「それに……」と続ける。


「霊視能力がある以上、もしかしたら私引いては庭宮家そのものが復讐とかで悪魔に狙われるかもしれない。その時、悪魔と対抗できるのは私だけ。灯麿さんは、庭宮家が自分達を守るために退魔師としての歴史を封印したって言った。だからこれは失った力を手にしてしまった私の義務だと思うの」


 結凛は溜め息を吐いた。


「こんな事なら庭宮家の歴史言わなければ良かったかも」


 そして苺夢に向けて言う。


「苺夢ちゃん……君は庭宮家の黒歴史を聞かなかった事ができる、霊視能力だって視えてるものを見て見ぬフリができるよ」

「確かにそうだね。でも私の家に一風変わった歴史があるのは特別な感じがあってちょっと嬉しいし、それに視えてるからって悪い事ばかりじゃないよね?」


 苺夢は錬を見る。


「だって今は視える銀君も口で嫌々言いながらやめる気はないみたいだし、きっと楽しい事もある。私は今の状況を幸運だと思ってるから。だって友達もできて守る力も手に入るんだから」


 錬も通流も高貴も押し黙り結凛を見る。無言の肯定、後はリーダーの結凛に判断を任せる。結凛はそれを肌で感じた。

 結凛は再び溜め息を吐いた。


「いいよ苺夢ちゃん、君がいいなら私は君を歓迎するよ」


 苺夢は楽しそうに笑みを浮かべる。


「ありがとう灯麿さん!」

「まあ、これも何かの縁だしね。今ここで顔を合わせてるって事は私達という糸が交わるように運命の糸が繋がってたのかも」

「きゃっ、灯麿さんかっこいい!」

「一応誉め言葉として受け取っておくよ」


 結凛は「さて」と言いながら立ち上がる。


「苺夢ちゃん、早速行こうか」

「どこへ?」

「君のキメラを作りに」


 そう言って結凛は苺夢を連れて隣の部屋へ消えた。


 ☆☆☆


 5分も経たない内に結凛と苺夢が隣の部屋から戻って来た。


「これで私もキメラ使いというやつなのね」


 苺夢は何が楽しいのか笑っている。


「それでお前のキメラはどんなのなの?」


 錬が聞くと苺夢は困ったように言う。


「え~とわからない。キメラってどうやって出すの?」

「出したいと思えば出るよ。出ろ~出ろ~って心の中で繰り返してみて」


 結凛が答えると苺夢は祈りのポーズをしてしばらくすると、キメラが出現した。

 下半身は馬の足で四足歩行、上半身は苺夢の顔をした人間の女性体で胸をビキニで隠している。長く伸ばした髪には藤の花びらが咲き乱れている。右手には弓を持っている。

 そのキメラは苺夢の方へ向く。


「初めましてマスター」

「は、はい! 初めまして!」


 クールな顔で綺麗にお辞儀をする自分のキメラに苺夢は慌ててお辞儀返した。


「わ~わ~! もう一人私がいる。しかもビキニ一枚とかエロいね、けしからん、厭らしい。この花びらは本物?」


 苺夢はキメラの髪の毛を撫でる。手に触れた花はしっかりと生命の強さを感じた。一方、当のキメラは無表情にされるがまま。


「本物ね。足もちゃんと馬、手は人間、弓も本物なんだ」


 それを見ていた結凛は苺夢に言う。


「ちょっとそのキメラ借りていい?」

「どうぞ! でもすぐ返してね」

「もちろん、さあちょっと来て」


 結凛は苺夢のキメラの手を引いて生徒会室から出て行った。

 しばらくすると結凛が生徒会室に戻って来て、すぐ後にくっついて苺夢のキメラが入って来た。苺夢のキメラは目を潤わせて顔を紅くしている。


「苺夢ちゃん、何か変な事なかった? 体触られた感覚とか」

「いえ、別にそういうのは」

「そう……」


 結凛は苺夢のキメラを見て続ける。


「苺夢ちゃんのキメラね、私のキメラと同じく自動で動くの」

「自動って?」

「キメラは人によって自動だったり完全操作だったり、大雑把な操作だったりするんだよ。私のキメラは完全自動、錬君や通流は完全操作、後ここにはいないけど桜梅という娘は操作が大雑把だったりするんだ。で、苺夢ちゃんのキメラは完全自動で意思を持ったキメラなんだよ」

「そうなの?」


 苺夢は自分のキメラに聞いた。


「は、はい、そうです。私はキメラです。な、名前はまだないです」


 苺夢のキメラは恥ずかしそうに言いながらうつ向いた。


「どうしたの?」

「いえ、だ、男性の視線が恥ずかしくて」


 苺夢のキメラは声を上ずらせている。確かに苺夢のキメラは錬に凝視されていた。


「そ、それに! 今日は銀様に、し、下の方をあれこれされて、灯麿様には服の中に手を突っ込まれてっ!」


 苺夢のキメラはテンパりながら言葉を紡いだ。


「待ってよ! 確かに私は銀君にぐりぐりされたけど灯麿さんにそんな事されてないよ!」

「私がされたんです! ふ、服の中のものを爪で弾かれたんです! というか今更だけどご主人様変態じゃないですか!」


 苺夢と苺夢のキメラが言い争う中、錬が結凛に言う。


「お前、一体何やったんだ?」

「苺夢ちゃんとキメラがどの程度シンクロしてるか実験したの」

「いや、それなら別にそんな事しなくても腕をつねるとかいいでしょ」

「いえねあの娘、ちょっと恥ずかしがりやのせいか無表情でクールを決め込んでたから無反応だったの。剣で斬るわけにもいかないし、痛みがダメならいっそ……と思って。そしたら案の定そっちの方に耐性なくて、いい反応してくれたよ」


 結凛は得したとばかりにしたりゲスさ全開の顔だった。

 錬は通流に耳打ちする。


「もしかして結凛って馬鹿なのか?」

「むしろお前、あいつが馬鹿じゃないと思ってたのか? あいつは中学時代、男装して王子様演じてジュウク以上にアレだったんだぜ? 頭が良いだけでいい加減だからな。いや、頭がいいだけに始末に終えねぇ」


 錬と通流がそんな事を小声で話していると、一方的に言い散らしていた苺夢が言う。


「そういえば、キメラを作ると能力か手に入るって銀君と金剛倉君から聞いたんだけど、私の能力って何?」

「う~ん、能力に関してはいつ発現するかわからないんだ。錬君はキメラを作ってしばらく経ってから、桜梅は3年後だったし」

「そうなんだ、がっかり」


 結凛の答えに苺夢は落胆の様子を見せた。

 すると錬が割って入った。


「庭宮の能力はこれだよ」


 錬はそう言うと空のペットボトルを苺夢に向けて投げた。苺夢は驚いて避けようとすると、ペットボトルは床に落ち苺夢の影に沈んだ。


「ええぇぇぇっ!? 何、今の!?」

「影の能力。庭宮自身の影限定だけど影を操れる。細かい説明は省くけど――基本は影を自由に動かす、実体化させる、形を変える、影の中に別空間を作り上げる。後、影にも強度があってある程度の威力の衝撃は防げるし、影そのものは破壊されても影ができる状況ならば元に戻る」

「詳し過ぎる!」


 苺夢が驚き声を上げた。結凛は錬の後ろに立つ月読玉兎を見て言う。


「ああ、《全知》を使ったんだね」


 結凛は咎めるように続ける。


「桜咲先生から言われてるでしょ。キメラの方の能力《全知》は脳に負担がかかる事と1日1回10秒しか使えないよう制限されていて、もしいざというときに使えないと困るから極力使わないようにって」


 錬は頭を手で抑えながら不服そうに反論する。


「言われたな。でも庭宮だって生徒会役員になるんでしょ? それにここ1ヶ月悪魔に遭遇してないし、それならなるべく庭宮自身を強くなってもらって最低限、身を守れるくらいになってもらわないと」

「う~ん、確かにそうだけどね」

「それにここには通流も結凛もいるしそう簡単に負けはしないよ」

「……そうだね」


 結凛は納得したような顔で頷いた。


「それじゃあ苺夢ちゃんの指導は錬君に任せようかな」

「えっ、何だって?」

「全知で知ってるんでしょ? 頼んだよ錬君♪」


 結凛は有無を言わさぬいじめるようなクールな笑顔の圧力で錬を押し負かした。錬は有無を言わず溜め息で肯定した。


「という事で苺夢ちゃん、能力については錬君に教えてもらってね」


 苺夢は錬を見て頭を下げる。


「よろしくお願いします! これからお師匠と呼ばせてください!」

「嫌だよ。普通に名前で呼んでよ」

「なるほど、お師匠はお気に召さなかったんだ。じゃあお言葉に甘えて…………錬君は恥ずかしいから錬さんで」


 苺夢は赤らめてもじもじする。


「何を今更そんな乙女ぶってんだ。既にクールな感じも乙女な感じも剥がれてるだろ」


 錬の言に苺夢は「だって……」と返した。


「苗字に君付けだと遠い感じだけど、下の名前に君付けだと凄い親しい感じで恥ずかしくない?」

「さあよくわからないけど、とりあえずキメラに名前付けたら?」


 苺夢は手をパンと叩く。


「そうだね。名前ないのは不便だからね」


 両腕を組みしばらく熟考すると唇を開く。


「ラズベリー……ラズベリーラビリンスなんてどうかな?」

「うん、いいんじゃない。可愛い名前だね」


 結凛はきゃっきゃっと楽しそうに同意した。男性陣はストロベリーじゃなくてラズベリーなのかと内心つっこんでいたが。


「それじゃあキメラの名前も決めたところで改めて苺夢ちゃんを蘭鳴学園高等部生徒会役員庶務に任命します」

「はい、がんばります!」

「それじゃあ新人の教育はさっきも言った通り錬君でね」


 錬は渋々と承諾した。


「わかったよ。その代わり厳しくするから」


 こうして生徒会役員にまたもや新たにメンバーが加わった。


 ☆☆☆


 月曜日の放課後、生徒会室に集まった役員達。みんなの前に出ていた苺夢は自己紹介していた。


「生徒会のみなさまよろしくお願いします」


 無論、これには事情を知らない者達は困惑した。


「ちょっと早すぎませんかしら? カミナさんが加入してからまだあまり日にち経ってないですわよ」


 桜梅は結凛に言った。


「まあいいじゃない、減るものでもないし。そもそも庶務は何人増やしてもいいんだし、それに生徒会は対悪魔組織の仕事だけじゃなくて学園生活の仕事もやるんだもん、きっと人数多い方が楽しいよ」

「……結凛ちゃんがそう言うなら」


 桜梅はあっさり引き下がった。どうやら反対する気ではなかったらしい。


「錬」

「何?」


 カミナは不服そうな顔で言う。


「これもしかして私は既に新人として影が薄いのでは?」

「別にいいじゃん」

「よくないです。アイドルを目指す私がたかだか小さなコミュニティで影が薄いなんて」

「そうか、まあ頑張れよ」


 カミナはむっとする。


「錬は冷たいです。零度くらい冷たいです。でも激励してくれるから氷菓子くらい甘いです」

「氷菓子はフルーツだよ」

「そうなのですか。私はメロンが好きです」

「メロンは野菜」

「え、そうなんですか? 知りませんでした」

「野菜と果物の定義は複雑だからね。だからフルーツとも取れる」

「どっちですか!? もしかして意地悪ですか?」

「お前はからかうと面白いから。あ、後氷菓子じゃなくて水菓子ね」

「しかも二重トラップですか。いやらしいですね」

「単に間違えただけだよ。失敗は誰にでもあるでしょ」


 カミナは錬の言葉を聞いて縋るような目で錬を見る。


「錬は好きなもので失敗したらどうしますか?」


 錬はカミナのいつもと違う雰囲気を察して言葉を出そうとした時、苺夢が「銀君!」と声を張り上げた。


「え、何?」

「もう、一応私の自己紹介で何で喋ってるの? 失礼だよ」

「うん、ごめんね」

「まあ、大した事言ってないからいいけどね。じゃあ早速特訓しようよ」

「はいはい」


 ――――正直特訓させる側の俺の方が疲れるんだよ。


 錬はそう思いながら立ち上がった。


「あっ、特訓なら森の中でやってね。苺夢ちゃんの影の能力は一般人にも見えるみたいだからね」


 結凛が言うと、錬と苺夢は頷いた。

 錬は涼しい生徒会室に恋しながら苺夢とともに部屋から出て行った。

 こうして苺夢と錬の短期間強化特訓が始まった。

次回、強化イベントです

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