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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第二章 悪魔組織→低頭山編
27/37

ヒーローには技が必要

 それは錬とジュウクがゲームをした翌日の事だった。

 放課後、錬は通流に呼び出されて2つある内利用者が少ない方の図書室にいた。既に通流は律儀に錬より先に図書室に到着していた。同時に図書委員の仕事で今日、当番である真夜も一緒だった。


「やあ通流」

「おう、何か今日は眠そうだな」

「久しぶりに3時過ぎまで起きてたから」

「何かあったのか?」

「まあ色々と大変ではあったな。だけどもう問題ない」

「そうか、まあそこに座ってくれ」


 挨拶もそこそこに通流は錬に向かいの席に座るように促した。錬は向かいの席へ座り真夜はその隣に座った。


「すまない鉄、悪いがお前は席を外してくれないか?」

「大事な話ってやつ~?」

「まあな、おそらくこれは錬にしか相談できない」

「はい~、でも私は今日図書委員当番だからカウンターにいるね~」


 真夜は錬達から離れてカウンターの中にある椅子に座った。


「それで、話って?」

「ああ……」


 しかし通流の歯切れは悪い。それだけ大事な話なのだろうと錬は思い、黙って通流の言葉を待つ。

 やがて通流は覚悟を決めたように言葉を放った。


「進路の事なんだが」

「お、おお」


 錬は通流のその言葉につい姿勢を正してしまった。錬は予想斜め上で予想外の内容に内心戸惑った。


 ――――そうか、通流は世界の金剛倉と呼ばれるくらいの財閥の御曹子。順調に進路を辿れば金剛倉グループのトップに立つだろう。しかしそれは決められた道、もしかしたらこいつはこいつで他にやりたい事でもあるのかもしれない。


「でも普通こういうのは親や先生に相談するものじゃない? 言っちゃなんだが俺は進路なんて高校の進学先くらいしか考えた事ないぞ」

「構わない。むしろ俺はお前が一番適任だと思ってるぜ」

「それは光栄だが……まあいいや、話してみろ」


 再び沈黙が舞い降りた。真夜が漫画でも描いてるのか図書館には鉛筆を走らせる音だけが鳴る。


「実は俺、ヒーローになりたいんだ」

「何言ってんだこいつ」


 気まずい無言が場を支配した。


「つまり、ヒーローのようなコスチュームを纏ってヴィラン共の魔の手から人々を守りたいんだ」

「お前ちょっと難しい言葉使っても、それ子供がジュウシンジャーになりたいとか奇面ドライバーエグゼとかエックスになりたいとか言ってるのと同じだよ?」


 しかし通流が錬に向けている目は真剣そのものだった。


 ――――確かにこれは親にも先生にも言えないわ。


「まあいい、何でそれを俺に言うんだ? 結凛達でもいいんじゃないか?」

「いやあいつらは駄目だ。結凛は確かに真剣に聞いてくれるだろうがおそらくあまり参考にならない。あいつは心に必要な言葉はくれるがそれだけだ。ジュウクはそもそもあまりそういうところの感性が合わねーし、ヒーローとかそういうのあまり詳しくないしな。桜梅に至っては論外だな。あいつはしっかりしてそうに見えてその実一番頭がお花畑だ」


 どうやら友人の友好度とかじゃなくそもそも適役ではないという事らしい。


「その点お前はそういうある程度詳しいしな」

「褒めてくれてありがとう。光栄じゃないけど」


 錬は「はははは……」と小さく乾いた笑いを上げた。


「それで、お前は何でヒーローになりたいんだ? 言っちゃあれだが高校生にもなってヒーローになりたいなんて正気の沙汰じゃない、普通はそんな事言わないからな。逆を言えば正気でそんな事言うんだからそれ相応の理由があるんだろ?」


 通流はテーブルに手を置いてから言う。


「俺は元々そういうのが子供の頃から好きなんだ。無論、俺はこのまま順調に行けば親父の跡を継ぐだろうな。はっきり言わせてもらえば、世間の奴らは称賛好奇羨望嫉妬の目で俺を見るに違いないが、俺にとってはこれは普通の事だ。世間の奴らは怒るかもしれないが普通の子供が普通のサラリーマンになるのと同じさ。お前もこの気持ちわかるんじゃないか?」

「ノーコメントだ」

「そう来るか、しかしちゃんと応えてはくれるという事だな」


 ――――既視感が……最近もこんな事あったな。


「続けるぞ。逆を言えば普通の子供がサッカー選手や宇宙飛行士、もっと言えば起業して社長になって一代で大企業にするのは普通じゃない、世の奴らは成金だ何だとある種馬鹿にするだろうが大半の奴らはその成金にすらなれない。つまり成金は普通じゃないんだ」


 今の説明で錬は通流が言いたい事を察して先に述べる。


「つまり、普通に世界の金剛倉グループを継ぐ事になるお前にとってヒーローになる事は普通じゃない。要するにお前にとって成りたい夢って事か」

「ご明察だ」


 通流は称えるようにハンサムな笑顔を見せる、企むように無邪気に。


「アイドルになりたいカミナといいヒーローになりたいお前といい、金持ちっていうのは酔狂だな」

「だろうな普通はアイドルだのサッカー選手だのなりたいなんてどうなるかわからない事に突き進むのは賢い選択じゃない。ましてやヒーローになりたいなんて愚かかもな。だが錬、お前は誤解している」


 錬には意味がわからない。通流の次の言葉を待つ。


「俺は金剛倉グループを継がないわけじゃないぜ。金剛倉グループのトップという席はヒーローになるために必要だからな。金剛倉グループは機械や生体にも手を伸ばしている。それによくいるだろう? 社長しながらヒーローやってる奴」

「そんなにいるかなぁ?」

「いるだろう。メタルマンやポジティブレイブの青とか」

「いや確かにそいつらは社長だけども。まあお前がそれでいいならいいんじゃない?」


 通流は「ふん」と笑ってから続ける。


「お前ならそう言ってくれると思ったぜ。さて、本題はここからだ」

「えぇ……まだ序章だったの?」

「当たり前だろ、進路相談がそんな簡単に終わってたまるか。何でも公立の中学校は高校の進路相談では学力とかでお前の成績じゃこのエリート校は無理だからこっちの馬鹿校にしろとか相談するんだろ?」


 錬は通流の偏見に満ちた進路相談に訂正する事なく言う。


「俺とどういうタイプのヒーローになるか相談でもするのか?」

「正解だ。はっきり言ってここまでなら結凛でもいい、ここからは錬でなければならない。なぜなら今から相談するのはヒーローの資格についてだからだ」

「ヒーローの資格……というと正義とか?」

「大雑把に言えばな」


 通流が錬に突き付けた相談は意外にも難しいものだった。正義というあまりにも曖昧な言葉、メジャーどころで言えば弱い者を助けるとかだろう。


「身体的な強さはともかく精神的な強さに関していえば俺はまだまだ未熟だ。それならば鍛えなければならない、ヒーローになるために。そのためには何が必要か、それを錬には考えてほしい。言うなれば資格だな」

「そう言われても困るんだけど……え~と、愛とか?」

「愛か」


 錬の苦し紛れな解答に通流は不服そうな表情をした。


「勇気とか正義とか強さとか色々ある中であえて愛か」


 錬は嘲笑してから通流を見下ろすように言う。


「あのさ通流、俺が思うに勇気も正義も強さもそれが問われるのは愛を知った時じゃないか? 愛を心に秘めた事で人はその真価を問われる。お前に愛する人ができたとしてお前は愛のために敵に立ち向かう勇気を持てるか、愛と正義を天秤にかけられるか、愛する事で強くなるか弱くなるか、そして愛を信じ抜く事ができるか。愛を持たないヒーローなんてただの怪物だ。もしお前が愛のために生きる悪に出会った時、お前は絶対に負ける。なぜならヒーローは悪や怪物に絶対勝つが、怪物は悪に勝つ事はできない。これは法則だ。極論を述べるなら愛を知らないヒーローなんて世界に必要ない」


 と、錬はたった今考えて付いたでたらめをべらべらと言葉を作り上げた。


「例えばジャムパンマンは愛と勇気が友達だ。これは戦いに友達を巻き込まないという意味があるらしい。まさかお前はヒーローの癖に弱い人間に助けてもらうようなヒーローの屑にでもなるつもりか? 言っとくけど仮にお前がヒーローになったら俺はお前を助けるつもりは毛頭ない、普通の人間なんで。まあお前はお前なりの愛でも見つければいいさ、今のは一例、お前はジャムパンマンじゃないしな」


 もう錬自身自分で何言ってるかわからないが勢いと意識高そうな言葉でごり押すと決めていた。


「何かお前と喋ってると凄くハードル高そうだな」

「それは良かった。資格としては十分じゃん」


 錬としては他人事なのでハードルの高さなどあまり関係ない。


「さて、次はすぐにできる事をやろうか」


 錬の言葉に通流は怪訝な顔をする。


「ヒーローになるためにすぐにできる事ってなんだよ」

「そりゃあお前、ヒーローには技が必要だろ」

「そうか、考えもしなかったぜ。錬、やはりお前に相談して正解だったみたいだな」


 通流は一転感心したような息を吐いた。


「しかしやはり技は必要なのか?」

「必要でしょ。技名叫びながらじゃないと攻撃じゃなくて暴力になるだろ。それにテンション上がるじゃん。まあ今は練習で通流のキメラ《パワードキングダム》の技名を考えよう」


 通流は錬に同意の意を込めてにやりとする。


「しかし、俺のキングダムはほぼ肉体攻撃だ。ビームや火でも放てるなら別だが派手さはないだろう」

「派手さは破壊力で補う。岩を殴った時の飛び散る岩石や悪魔をぶっ飛ばしたりね。後は技名を叫べばいい」

「言いたい事はわかるが、ただ殴るだけなのは……最低必殺技みたいなのがほしいぜ」

「漫画の話だが格闘系での必殺技といえば王道の連続技だな」

「なるほど、確かにお手軽で見た目派手だな。じゃあ連続でパンチする技の名前は獅子連王拳とかどうだ?」

「空手家か。だけど獅子を技名に取り入れるのはありじゃないか? 例えば海賊漫画の主人公の技ゴムゴムのマシンガン、超能力が人型にヴィジョンした時を止める主人公はウラウラのラッシュ、何何の連続攻撃という名前はとても連撃感がある。そうだな……例えば獅子連舞とか」

「いいな、それ採用だ」

「パンチの連続攻撃なんて目新しさはないけどそれ故に誰しもが技とわかる。後はそうだな、一撃の破壊力を重視した技が欲しくない? そう、一撃で相手を倒す必殺技だ」

「色々考えついたぜ。硬化した角3本で突撃するコーカサスブレイク、硬化した腕4本で同時に殴るパワードフォース、同じく硬化した腕4本を振り下ろすオリハルコンハンマーとか」

「いいじゃないか。お前、和名はセンスないけどカタカナ名はなかなかだな」

「よし、これで俺もヒーローとしての第一歩が踏み出せたな」


 錬がやっと終わったと思ったのも束の間、ある重大な事に気付いた。


「待て通流、俺達は肝心な事を忘れていた」


 通流が意味がわからないといった表情で錬を見返す。


「一般人にはキメラが見えないぞ」

「はっ! そうか、確かにキメラが見えればコーカサスブレイクのコーカサスはコーカサスオオカブトから来ているとわかるが一般人からすれば見えない攻撃が3つに過ぎない」

「俺達は肝心の一般人目線というのを忘れていたんだ。そのうえで技名を考えなきゃならはい」

「流石、錬だ。やはりお前に相談して正解だったぜ! じゃあ一体どんな名前がいいんだ? こうなるとパワードキングダムの見た目から考えた物は使えない事になる」

「少なくともパンチとか拳とかを使えない、なぜなら一般人はパンチとか見えないし。技名においてパンチはよく銃に例えられるが」

「という事はコーカサスブレイクのブレイクは使えるよな。見えてても見えてなくても関係ない」

「フォースも同じくな。しかし、獅子やコーカサスは使えない」


 錬と通流は内心頭を抱えながら唸る。いざ考えるとあまり思い付かないものだった。そして面倒になった錬は言う。


「連続パンチはゴッドブレイク、3本角突撃はゴッドストライク、4本腕同時攻撃はゴッドフォース」

「ただの攻撃にしては大層過ぎないか? 名前負けしてるだろ」

「お前が名前負けしないように頑張ればいいじゃん。それに悪魔に対する神の名を冠する技って結構皮肉効いてていいと思う」

「確かに……俺達が戦う相手は悪魔なんだよな」


 通流の顔は不満そうだが、どこか納得したようだ。


 ――――やっぱり神って便利だわ。


 錬が立ち上がり通流にも立ち上がるように促す。


「さあ、早く生徒会室へ行こう。当面の目標は決まっただろ」

「お、おう」


 錬と通流は図書室を出て行こうとした時、カウンターにいる真夜に向けて言う。


「じゃあね真夜、確か今日は生徒会室に来ないんだっけ? また明日」

「じゃあな」


 真夜にそう言い残した2人は図書室から出て行った。


「う、うん~……。またね~」


 ☆☆☆


 真夜は2人を見送ると顔に疲れを見せた。そして誰もいない図書室で一人、思っていた事を呟く。


「薄々感じてた事だけど~、男子同士の議論って意味ないね~。大半の会話意味不明だったし~」


 出た言葉はとても辛辣だった。

登山するまで後2人分のエピソードがあります

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