才能VS異能(1)
カラオケへ行った翌日、その朝。
今日、生徒会役員に朝の仕事はない。錬が教室へ行くと錬の席の机に女子の制服を纏ったジュウクもといキュートがスマホ片手にすらりとした白い足を組み、スカートと2つの太ももが重なるところが目を惹く。男子はキュートに釘付けで、女子は邪視のような視線を向けている。
「またお前か」
錬が言うとキュートは金髪をふわりとさせて碧い目で捕らえてから振り向いた。キュートは桃色の可愛らしく扇情的な唇を開く。
「おはよう、待ってたよ錬君」
キュートは机から下りて床に足を着けると周りの目など気にした様子もなく歩き錬に近付いた。
「錬君、ちょっといいかな?」
「ちょっと待ちなさい」
キュートが錬に声をかけると心花が割り込み錬より先にキュートに話しかけた。
「あなた、何者よ。この前もそうやって錬を待ち伏せしてたわよね? 錬に一体何の用なの?」
心花は敵意剥き出しでキュートを睨み付けた。キュートは唇を人差し指を押し当て考える素振りを見せると錬をちらりと見てから言う。
「私はただの女の子、そして私と錬君はこれから2人で言葉に出せない事をするんだよ」
「は?」
錬はまぬけな声を出した。
「色々言いたい事が――」
「色々言いたい事あるけどあんたみたいな得体の知れない女と錬を一緒にはさせないから! そもそもあんたウチの制服着てるけどこの学校の生徒じゃないわよね!? 一度生徒全員の顔写真見た事あるけどあんたの顔見た事ないわよ!」
錬がキュートもといジュウクの言葉に詰めよろうとしたところ心花がまたしても割って入って怒鳴り散らした。
キュートは面倒そうに溜め息を吐いた。そして錬に寄り添い腕と腕を絡めた。
「じゃあ直球に言ってあげる。私と錬君はあなたでは割り込めないような深くて秘密の仲なの。ね、錬君?」
「え、あ、いや……」
「嘘……」
錬は女性に対して結構耐性があると自覚している。しかし、ジュウクがキメラ《九尾》の能力《変身》である劣化能力《性転換》によって女性体となった姿キュートは見た目に関して言えばかなりの好みであり、元が男性であるが故かまるで小悪魔の如く男子に対してドキドキさせる仕草行動を取って来る。つまり錬は今、キュートに対して自身の耐性を突破して嬉しさと恥ずかしさでドキドキしてしまっていた。
言い訳しようにもドキドキして思うように言葉が出ない錬を見て心花は目の光が消えていく。
「そう……そうなんだ。邪魔してごめんね錬、お幸せに」
心花はふらふらと自分の席に戻り宙を眺め始めた。
沈黙が支配する教室に登校してきた真夜がただならぬ雰囲気に気付いた。
「え、これなに~? どうしたの~心花ちゃん。もしも~し」
真夜は闇の牢獄に囚われたような心花に声をかけている。
「さ、行こうか錬君」
「え、ちょっと待って!」
錬はキュートを振りほどいた。
「すぐ行くから、とりあえず心花の誤解を解かせてくれ」
そう言うと錬はキュートに対するどきどきを抑えながら心花の元へ行った。
「えっと~、錬君これは~?」
「ごめん真夜、先ずは心花と話させて」
錬は真夜が問い詰めようとするのを制して目線を合わせるように腰を下ろして心花に向けて言う。
「心花、確かに俺は心花に言えない秘密があるけど別にあの女と深い仲じゃないから。あの女はただの仕事仲間だから」
真夜は今の言葉でなんとなく状況を察したのか心花を慰めるように言う。
「そうだよ~。私もあの人の事知ってるけど~、本当に錬君とは仕事仲間以外何者でもないよ~」
心花はその言葉を聞いて錬を見る。
「本当に?」
「本当だよ。単に見た目が好みなだけだ」
「くっ……最低」
錬が慌ててさらに言う。
「いやいや誤解するな。男は恋とか関係なくあ~いう女子には反応するんだよ!」
「あ、おい銀、俺らを巻き込むんじゃねぇぞ!」
「お前らの痴話喧嘩に俺らを引用するんじゃねぇ!」
「そうよ! 夢を壊すような事言わないで! 男は絶対可愛ければ男女関係ないんだから!」
錬は失言でクラスの男子と一部女子からブーイングを食らった。
「でもさ、銀君とあの金髪の娘ってお似合いだよね」
「そうだよね。超お似合いだよね。まるでこの世の者じゃないみたい」
錬は額に手を押し当て問題が肥大化した状況に頭の中で唸った。
――――もう収集が付けられないな。とりあえず目先の問題を解決しないと。
錬が頭の中をぐるぐるしていると、キュートが豊満な胸をクッションにして錬の背中に抱き付いて肩に手を置いた。キュートは錬の耳元で若干不機嫌そうに囁く。
「もう、早くしないと時間がなくなるよ」
するとクラスメートの一部が黄色い歓声を上げた。さっきまで見惚れていた男子も女子も目の保養と言わんばかりに。
「ちょっと待ってて、今考え事してるから」
錬は冷たくあしらった。
――――ヒートアップして場酔いした大衆がこれほど厄介とは。
段々頭が痛くなってきた錬。その時、心花が大きな音を立てて立ち上がった。錬が見上げると先程とうって変わって心花の目には生気が戻っていた。
「うん、今の錬の反応でわかったわ。誰だかわからないけどこの金髪娘!」
「何?」
「どうやら錬は言うほどあなたに靡いてないみたいね!」
心花は再び椅子に座り頬杖を着いてから勝ち誇ったようにキュートに目を向けて手をひらひらさせた。
「ほらほら行った行った。時間ないんでしょ?」
キュートは少しむっとしてから笑顔を浮かべる。
「じゃあ錬君借りてくね」
「そんなゲーム大好き野郎いくらでも貸してあげるわ」
心花は嫌味ったらしくにやにやしている。
「ゲーム野郎って……」
錬は心花が復活したのを見て安堵した。
「ほら、行くよ錬君」
錬はキュートに腕を引っ張られて教室から出て行った。
「行ってらっしゃ~い♪」
心花に見送られながら。
☆☆☆
教室はしばらくすると沈静化した。
心花は何事もなかったように真夜と話している。
「本当にごめんね~」
「なんで真夜が謝るの?」
「いや~、私の力不足で罪悪感が~……ね」
真夜は悪魔の力がない自分がこんなにも低スペックとは思いもよらなかった。まさか心が読めないだけでここまで言葉を紡げないとは思わなかった。
「でも本当に大丈夫なの~?」
「何が?」
「いや、あの金髪の娘と錬君を一緒にして」
無論、真夜はキュートの正体がジュウクと知っている。
「大丈夫大丈夫、錬はあいつと恋人どころか恋すらしてないわ。本当にただエロにやられてるだけだわ。まああっちの金髪は知らないけどね」
「そんな事わからないじゃん~。心読めるならともかく~」
「わかるよ。だって錬ってめちゃくちゃわかり易いもの、ぶっちゃけ単純だし。錬は親しい人程優先するの、もし恋人なら私を優先するわけないし。あれならまだ鉋の方が強敵だね。それにしてもむかつく女を負かすのは爽快感あるわね。これは少女漫画とかで意地悪な女の子が主人公を嫌がらせするのもわかるわ」
「やっぱり心花ちゃんって腹黒――」
「心花が腹黒なわけないじゃん☆」
心花は演技スマイルを見せる。
「まるで本格腹黒ヒロインですね」
今登校して来たのか、バッグ片手に呆れた顔をしたカミナが言った。
「腹黒はカミナちゃんだよね?」
心花がカウンターの言葉を返すとカミナは勝ち誇ったように座っている心花を見下した。
「私は昨日錬とカラオケへ行きました」
「あはっ♪ 心花はカミナちゃんの10倍は錬とカラオケへ行ったよ☆」
カミナは床に膝を着いた。
「ま、負けました。超悔しいです」
心花は床に手を着き項垂れているカミナを見下しながら言う。
「心花ちゃんはこうして異邦人に2連勝するのでした☆ でもでも、心花は錬とあの金髪女が何やってるか気になるね☆」
「心花ちゃんそれ誰に言ってるの~?」
「真夜ちゃんに言ってる♡」
☆☆☆
錬とキュートは生徒会室に入り、ソファに座る。若い男女が2人きり、隣同士に座って何も起こらないはずがなく……。
「錬、早速ゲームをしようじゃないか」
「お前、名誉毀損しといて第一声がそれ? 絶対にあの言い回しわざとだよね?」
「別にいいじゃない。男同士ならともかく美人な女性の僕となら何の問題もないよ」
「いや、男同士だろ」
キュートもといジュウクは「ん~」と考えてから続ける。
「心は男でも体は女だから大丈夫だよ」
キュートは自信満々に言った。
「まあ、そんな事より僕とゲームするの? しないの?」
「そんな事じゃないけど……それでゲームって何するんだ? 俺はゲーム結構得意な方だぞ」
「ゲームと言ってもテレビゲームじゃないよ」
「トランプとか?」
キュートはくすりと笑った。
「違うよ。錬君はゲーム好きとか言っておきながら発想が貧困だね」
錬はいらっとした。しかし、ここでキレてもしょうがないので黙って話を促す。
「僕の目……と言っても女体におけるキュートの目じゃなくて男体における元の僕における眼の事なんだけどね、僕の眼は僕の眼を見た者全てを魅了する事ができるんだ」
「は? 何言ってんだお前、《魅了の魔眼》ってか? 馬鹿にしてるのか? ゲームやアニメじゃあるまいし」
「ところがこれがあるんだよね。僕が普段サングラスをしているのは他人に眼を見せないようにするため、それでも眼と目を合わせると魅せてしまうけど」
錬はキュートと目を合わせてみる。確かにキュートの目は目が悪い錬が見ても空へ落ちているような感覚に陥る程綺麗な目ではあるが、あくまでそれは感想に留まる。これならば体を密着される方が惚れてしまうだろう。
「言っただろう、あくまで僕の眼を魅了されるのは僕が元の姿の時だって。キュートの時はただの金髪碧眼の美少女さ。今、僕がキュートの姿で錬君の目の前にいるのは公平にゲームを始めるためだよ」
「とりあえずルールくらいは聞いてあげるよ」
「ありがとう」
キュートはポケットから紙を1枚取り出して錬に差し出した。錬はそれを受け取り紙に書かれた字を見た。
そこにはルールが記されていた。
「とりあえず口頭でも説明しておくよ。ゲーム内容を要約すると錬君が僕に魅了されてはいけないゲーム。無論、僕は元の姿で君曰く《魅了の魔眼》で誘惑するよ。期限は始めた時間から今日の6時まで。ちなみにこのゲームをした事ある人物は2人で、1人は結凛、もう1人は通流。結凛はこのゲームに勝った、通流は負けた」
錬は思案する。
――――通流はあの怪物染みた反射神経を持ってしても負けたのか。
「それで勝った方は負けた方に一度だけ好きな命令をできる、と」
「そうそう、ゲーム自体は単純でしょ?」
「悪いが拒否する」
錬が言うとキュートは眉毛をぴくりと動かした。明らかに不機嫌な様子を露にしながら言う。
「理由を聞こうかな?」
「俺にメリットがなさ過ぎる。別に俺はお前をどうこうしようなんて思ってないし、逆にお前に俺が負けて好き勝手されるのはいやだ」
錬にはキュートの提案したゲームを受ける旨味がなかった。ゲーム内容はともかく、勝負における報酬が釣り合っていない。つまりハイリスクローリターンなのだ。
キュートは諦めたように溜め息を吐いた。
「しょうがないか。確かにゲーム内容が僕に有利だし、勝利報酬も錬君からすれば釣り合ってないんだから」
やけにあっさり諦めたキュートを錬は不審に思った。教室でちょっとした騒ぎを起こしたキュートもといジュウクがこんな簡単に引き下がるとは錬には思なかった。
「何を企んでいる」
「何も」
それだけ言うとキュートはソファに置いてあった男子制服を手に取った。
「急に呼び出してごめんね。でも、また機会があったらゲームに応じてね。とりあえず制服を着替えたいから出て行ってくれると助かるんだけど……それとも――」
キュートはタイを外してワイシャツのボタンを開けると、派手にワイシャツをばさりと脱ぎ纏った薄ピンクと柔くて大きい二つによって作られた隙間を見せつけた。
錬は不覚にも派手ではないが淡く色付いた可愛い花柄と二つの果実に目を奪われた。
――――しょうがないと思う。
錬が凝視しているとキュートはブラジャーに手をかけてずらすような仕種をする。
「やっぱり錬君、僕の体好きなんだね。どう? ゲームを受けてくれるなら前払いで僕が女子制服から男子制服に着替えるまで全部見せてあげるよ? これから女物の下着から男の下着に変えるから上も下も脱いじゃうけど……」
錬は生唾を飲み込んだ。キュートは自分の体が錬に釘付けになってるのを意識しながら勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「錬君がいるなら男子制服着終わるまで女のままでいようかな」
錬はキュートの言葉に苦渋して決断を迫られてしまった。
色気要素がキュートばかりなのは大丈夫なんですかね?




