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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第二章 悪魔組織→低頭山編
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エジプトから来た少女(2)

「――という事で一年五組のみんな、よろしくお願いします。クーリッシュ」


 カミナは両手の親指人差し指薬指を立てて胸前でクロスして顔を横に向けて冷たい流し目をこれから一緒に過ごすクラスメート達に向けた。

 それを改めて見て思った事が錬にはある。


 ――――こういうキャラ作りするのは心花だけで十分なんだよなあ。


 錬は心花を見た。自分とはキャラの方向性が違うためか、その目は新聞部としての真面目な目だった。


 ☆


 朝のホームルームという名のカミナ・レイ・翼のアピールタイムが終わると、カミナはクラスメート達に囲まれて質問責めにあっていた。

 それを遠くから錬、高貴、真夜、心花は見ていた。


「あれがHAYABUSAグループの令嬢なのね」


 かつて伊達眼鏡を装備して眼鏡キャラだったが裸眼でも目は悪くないという理由で生徒会会長結凛に装備を外す命令を受けて今は眼鏡キャラじゃない真夜は言った。

 HAYABUSAグループとはカミナの一族が経営するグループの事で世界でも有名な企業の一つである。


「それにしても転校生に真っ先に質問しそうな心花が質問しに行かないとは」


 錬が言うと心花はその可愛い童顔で自信満ち溢れた表情をして言う。


「ふふん♪ 七月中に出す新聞の記事に載せるつもりだからね」


 鈍心花は新聞部に所属している。その新聞部はエンターテイメント寄りの内容の新聞を月に一度出している。


「六月が終わればもうすぐ夏休みじゃない? 七月には試験はともかく高頭山に遠足あるし。それに六月分の記事はもう脱稿しちゃったのよね」

「相変わらず仕事が早いな」

「そうかしら?」


 するとカミナを見ていた高貴が唐突に言う。


「そんな事より鈍、お前はクラスに褐色ロリ属性が転校してきたけど大丈夫なんですか?」

「はい?」

「だって日本は似非ロリより褐色ロリの方が稀少だから」

「は? 同い年ならあの娘だって似非ロリじゃない」

「だってあなたは量産型じゃないですか。しかも養殖ものだし」

「養殖量産型言うな!」


 高貴曰く桜梅は天然ロリであり心花は似非ロリという事らしい。そして錬はついこの間知った事だが桜梅は小学四年生にキメラの特殊能力である不老不死を手に入れたためその年で成長が止まったため見た目は天然という事が発覚した。


 ――――まあ、桜梅は小学四年生の見た目にしては背高いけど。


「そんな事はどうでもいいけどこの学校はセレブ学校なのに山登りなんかするのか?」


 錬は流れを切った。


「どうでもよくない! ロリキャラ作るのだって遊びじゃないのよ!」

「ロリきゅあ?」

「錬、あんたわざとだよね!? 大体あんたらは半端な覚悟で無闇に入って来ないでよね! ロリキャラメイキングワールドに――」

「何でこの学校は山登るの?」

「聞けえぇ!」


 この学校には遠足と称して山登りする行事がある。


「遠足で山登りなんて庶民派小学校の行事じゃん」

「聞いて!」

「そんな事より俺は何でこんな高校生にもなって山登りしなくちゃいけないのか聞きたいんだげど。高頭山なんて俺既に四回は登ってるんだけど」


 錬は心花を無視して話を進める。


「ところがどっこい。蘭鳴学園の生徒のほとんどは登った事ないんですよ、これが。エスカレータ組はプライベートで登った事あるやつすら少ないんじゃないですかね。かくゆう僕も登った事ないですし」


 高貴が錬の疑問に答えた。


「心花は?」

「こういう時だけ聞くのね。まあ、一応私も錬と同じ入学組だから錬と同じよ。小学生の時に登ったきりね」

「小学生の時って心花はピアノやってなかった? 高頭山だって登り易いとはいえ危ないだろ」

「まあ、山登りが始まる学年の時は休んだけどその次の年にはピアノやめたから普通に参加したし」

「ふ~ん」


 真夜が「ちょっと待って!」と割って入る。


「何で錬君がそんな事知ってるの? 錬君と高貴君は入学前から友達だったとは聞いたけど、錬君と心花ちゃんが以前から知り合いだったなんて聞いてない気がするんだけど」


 心花は少し暗い顔を見せると説明し始める。


「心花もだけど錬もピアノをやってたのよね。と言っても錬は小一、私は小五でやめたけどね。で、この人はコンクールこそ出てなかったけど界隈じゃレンという名前で有名だったの、ガキの癖に大人に混じって演奏してた神童としてね。それで小一の時に当時病気患ってなし崩し的に引退しちゃったみたいだけど」

「大病……? あの事件じゃなくてですか?」

「翼?」


 心花の話に反応してクラスメート達に囲まれていたカミナが目敏く話題に入って来た。


「翼は祖父の名前です。エジプトでは自身の名前・父親の名前・祖父の名前となり父親と祖父の名前が名字となります。なのでできれば私の事はカミナと呼んでください」

「ふ~ん、そう」

「それで錬が昔病気を患っていたというのは本当ですか? もしかして指を?」


 心花はちょっと考えるようにしてから錬の顔色を伺った。錬は別に不快そうな顔をしているわけでもなく、むしろ心花に見られた意味がわからないとでもいいたげな顔だった。

 心花は溜め息を吐いてから言う。


「確かにあっちの事件のインパクトは大きいけど、錬が引退したのは指じゃない。頭よ、頭が悪くなったの」

「頭が悪くなったって……もうちょっと言い方ない?」

「それで演奏に支障をきたす程らしくて一時期入院してたみたい。ま、錬のピアノ引退はあの事件とは何の関係もないわ。病気やったの事件前だし」

「今じゃ休日には自転車乗り回す健康体だしな」


 カミナは見上げるように錬に顔を近付ける。


「もうピアノはやらないのですか!?」


 錬は少し後ずさって距離を取った。


「ピアノやってたのは九年前だからねぇ。今じゃあの時ほど弾けないよ」


 カミナは落胆したように頭を垂れた。


「せっかく祖父の生まれた地で私の夢を叶えてくれるかもしれない人を見つけたというのに」


 錬は困ったように笑う。


「元々コネで大舞台に立ってピアノ演奏したら大ウケしてあれよこれよと持ち上げられただけだからねえ。ピアノはやってたけど前の日には両親と遊園地行くくらいテキトーだったから」

「どういうコネよ。私ですらあの出演者の演奏会にコネで出られなかったし一緒に共演した私のパパなんかあれ聞いて凄かったんだから」


 真夜はぽかんとして聞いていて我に返る。


「錬君って凄かったんだね」

「今はただの人だよ」


 錬が苦笑いしてるところ、心花が言った。


「という事でカミナ、もうそういう時代は終わったわけ。あんたも他人様の力なんて借りないで自分の力で目的を達成しなさいよ」

「あなた嫌いです」

「嫌いで結構だよ♪ 心花もカミナちゃんみたいな他人を利用する人だいきら~い♡」


 心花とカミナはにこにこと睨み合っていた。


「団栗の背比べですね」

「だんくり?」

「団栗と書いてドングリと呼ぶんですよ錬さん。音も似てますね。しっかりドングリと発音したと思いましたが」

「お前は本当に悪口が得意だな」

「かつては神に罵詈雑言を浴びせていた悪魔ですからね。これでも人間相手には手加減してるのですよ」


 鉋高貴はかつて悪魔だった。今はある人にその能力を封印されて人間として生活しているが。


 ――――よく考えれば高貴の経歴も謎だ。


 先月、真夜が学園内で起こした事件の後に錬は高貴に直接聞いて悪魔の力を封印したのは今から八年前らしいとはわかっているが。


「やっぱり悪魔もいれば神もいるんだね」

「それはどうでしょう?」


 高貴は邪悪めいた意味あるような笑みを浮かべた。もっとも、高貴が静かに笑う時は大体いつもこんな感じなので錬は特別怖いとは思わない。

 高貴が真夜と目を合わせると真夜は苦笑いした。

 するとそれを聞いていた心花がここぞとばかりに喋る。


「高貴、そういう設定を自分に付加させる病は中学二年生までにしといた方がいいよ~☆ 超いた~い!」

「お前のその素人が作った饅頭とビネガーを混ぜた料理のようなキャラ作りも痛いですよ」

「キャラ作ってないよ~♪」

「私から言わせれば二人ともヤバいと思うよ~」


 高貴と心花が悪口の応酬をする中、真夜が余裕ぶった顔で割って入った。


「黙ってください。五〇年放置したカレー女」

「それって腐ってるってこと?」

「と、とと、年増じゃないよ!」


 必死に否定する真夜。

 この真夜も今は悪魔の力が封印しているが、錬が先月巻き込まれた事件の犯人である。今は生徒会の雑用と部活の二足わらじ。人間のスペックとなった真夜はつい先日無理がたたって風邪を引いた。


 ――――真夜も年齢不詳だよね。話聞いた限り一〇〇〇歳は超えてそうだけど。


「それで錬は私専属作曲家になってみる気はありま――」

「ありません! カミナもしつこいわよ。錬は作曲する気もないし。やりたくないものを無理矢理やらせないでよね」

「ふっ……、もしかして心花はピアノに関して錬に劣等感持ってるのですか? だから錬にピアノを弾かせたくないのでしょう?」


 カミナが心花に嘲笑をしてみせた。対して心花はその言葉を聞いた途端冷静な顔を見せた。


「確かに錬と同年代の子達は嫌でも親や先生とかの大人に比べられたわ。もちろん私も親に比べられたし、劣等感だって持ったと思う。…………でも、ほとんどの子供は大人以上に錬のピアノに魅入られてたと思う。今ピアノやってる私の友達も錬の音楽を渇望してるし、私もあの音にまた触れたいと思ってる。錬の音を商売道具にしか考えないあんたとは違うの」


 苦笑いを浮かべながら黙って心花の話を聞いていた錬に高貴が小さい声で耳打ちする。


「昔の錬さんはそんなに凄かったんですか?」

「まあ、同年代の奴らより次元が上だとは思ってたかもしれないけど。ここまで言われる程じゃなかったとは思う。たぶん心花や心花の友達の思い出は美化されてるんじゃない? 六歳の話でしょ? ちょっと上手ければ神格化されるんじゃないか? それに持ち上げられたきっかけの状況が状況だしね。そりゃあ、界隈の有名人に混じって演奏すれば神格化もされるだろ。実際はコネで演奏させてもらっただけだけど」

「ちなみに作曲はできるんですか?」

「作曲はした事あるよ。実際作曲したの人前で弾いた事あるし。たぶんカミナはその事言ってるんだろ。今は知らない。何しろ音楽から離れてたし、アニソン嗜好だからね」


 錬は心底どうでも良さそうに言った。


「とにかく心花もカミナも不毛な争いはやめてさ」


 心花もカミナも錬の一言で、心花は目付きが和らぎ、対してカミナは一層険しい目になった。


「カミナもそんなに恐い顔するなよ。アイドル目指してるなら怒った目じゃなくて相手を楽しませて心を動かさなくちゃ。仮に今俺が作曲してたとしてもカミナに曲は与えないと思うぞ」

「うっ……」


 カミナは眉をひそめた。図星のようだ。カミナは反省するようにすまなそうな表情を見せる。


「はい、そうですね」


 そして吐息のような小声でぶつぶつ呟く。


「そうでした。過程が大事なのでしたね」


 しかしカミナのその言葉は耳が良い錬以外には聞こえていなかった。不幸中の幸いというべきか、錬はその言葉の意味を理解する事はできなかった。さらに加えるなら心花がそれを聞いたら確実に喧嘩に発展していただろう。

 結局、そのまま一時間目の授業が始まった。


 ☆


 一時間目の授業は日本史。


「さあ、日本史の授業を始めよう」


 日本史の授業を担当するのは桜咲美陽という女教師だった。


「そういえば今日はこのクラスにエジプト人の娘が転入して来たんだっけ?」


 桜咲はカミナに目を向ける。カミナはびくりとする。


「へぇ……なかなか可愛い娘なんだね」

「あ、ありがとうございます」

「歴史は得意?」

「え、いえ……日本史や世界史どころか自分の国の歴史もあまり得意じゃなくて……」

「そうなんだ。先生も高校生の頃は社会系あまり得意じゃなかったかな。もしわからない事があったら遠慮なく質問して頂戴ね」


 それだけ会話を交わすと桜咲は教科書を持って授業を始めた。

 カミナはそれを確認するとサンシャインハートを出して錬に寄って行った。

 それを見た高貴と真夜とヒイロがぎょっとした。もちろん、錬も。


「錬」


 サンシャインハートから発せられたカミナの声に錬は慌てた様子でノートで筆談する。


『カミナ、それ戻せ』


 錬のノートに書かれた字を見てカミナもといサンシャインハートは溜め息を吐いた。


「大丈夫ですよ。キメラは一般人には見えませんし、音もキメラ持ってる人にしか聞こえないように設定しています」


 錬が必死にノートに文字を綴る間にカミナもといサンシャインハートは喋り続ける。


『びっくりしました。日本人は童顔だ童顔だとは思っていましたが桜咲先生はかなり若く見えますね。本当に成人迎えてるんですかね? 私達と同じくらいに見えます。でも身長は高くないですね。胸は大きいですけど。というか錬って目が悪いんですね。ゲームのやり過ぎじゃないですか? もっと目を大切に――うひぃっ!』


 カミナは額に強烈な痛みが走ったかと思うとサンシャインハートが吹っ飛び床に倒れた。


「痛っ……」


 目に涙を溜めながらカミナは小さく呻いた。


「あら、手が滑ってチョークが飛んで行っちゃった。でもよかった。飛んだところに誰もいなくて」


 にこにこしながら美陽は困ったようにカミナを見ながら言った。


「ひっ……」


 それを見たカミナは怯えた声を上げた。思わず錬の方に顔を向けると、錬はカミナに見えるようにノートを立てた。


『桜咲先生はキメラ使い。しかも結凛の3代前、つまり9年前の蘭鳴学園高等部の生徒会長。そして史上最強の生徒会長』


 カミナは血の気が引いた。

 サンシャインハートは床に膝を着いて手を揃えて頭を下げた。


『すみませんでした』


 美陽は黒板の方へ向きサンシャインハートにだけ聞こえるように小声で呟く。


「よろしい」


 カミナは速やかにサンシャインハートを消した。

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