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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第一章 蘭鳴学園悪魔事件
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蘭鳴学園生徒会の真の姿

「昨夜のあれは夢だな」


 錬は朝の登校中、自分に言い聞かせるように言った。

 生徒会が夜の学校で召喚獣を駆使してモンスターと戦っているなんて漫画以外ではありえない。


「そもそも生徒会が夜な夜な学校を守るためにモンスターと戦ってるなんてベタベタ過ぎるしな」


 それでも万が一という事があり得る。錬は校門を避けて裏門から入ろうと試みた。しかし、錬が見た裏門の光景は錬の期待を裏切るものだった。


「マジか……」

 錬は頭を垂れた。なぜなら裏門の門扉は昨夜、三つ首の犬がひしゃげたままになっており立ち入り禁止になっていたからだ。さらにコンクリートの地面が抉れていたり、壁に壊れていたりと、むしろ錬が逃げる前より被害は拡大していた。


「おはよう銀君」


 錬がその場で呆けていると、その言葉と同時に肩に衝撃が走った。錬はすぐ様、地面から少し跳んで距離を取りそれを振り払う。


「おいおい、そんな逃げ方するなんてつれないな」


 言葉の発言者を見ると灯磨結凛がニコニコと笑みを浮かべて「やあ」と手を挙げている。


「ああ、灯磨生徒会長だったか。ビックリした。えっと……おはようございます」


 錬は高鳴る鼓動を押さえて、とりあえず挨拶をした。


「銀君、私達は同級生だろう? タメ口でいいよ」

「そんな事より何の用?」

「ふふふ、何の用も何も昨日の事で話しがあるんだけれど」

「何の事?」

「言っとくけれど、わざわざ事前に人払いして君だけをここに誘き寄せたんだけれど……」


 錬はその言葉の意味を理解した。生徒会とはいえ朝の学校の敷地、それも裏門とはいえ校門を簡単に人払いできるわけではない。どうやら暗に灯磨結凛は自分達のバックには何か組織が付いているぞ、と示しているらしい。少なくとも学校ぐるみなのは間違いないと錬は考えた。


「灯磨さんの言いたい事はわかった。できればあんな恐い事に巻き込まれたくないんだけど」

「それは無理な相談だな。銀君は見えてたんでしょ?」

「誰にも言わないから」

「それでも無理!」


 灯磨結凛は悪戯小僧のような笑みで手首を掴まれて錬はビクリとする。


「恐がらなくて大丈夫。別に取って食おうなんて事ないからさ。とりあえず付いて来てよ」


 灯磨結凛がグイグイ錬の腕を引っ張る。錬はビクビクしながら従うしかなかった。


 ☆☆☆


 錬は灯磨結凛に生徒会室へ連れてかれて来た。錬が導かれて中へ入ると、生徒会室には副会長と書記――即ち、金剛倉通流と藍生桜梅がいた。二人は一つの長机の端にそれぞれ長机を繋げた形のテーブル、その両側にそれぞれ座っている。


「さて……」


 灯磨結凛は真ん中の机の席に座って続ける。


「会計のジュウクはまだ風邪で不在だが……まあ、アイツはいてもいなくても問題ないだろ」


 ジュウクという名前で錬はピンと来る。錬が知る限りそんな風変わりな名前の人間は同じクラスの男子――鶯院うぐいすいん十九ジュウク以外ありえないだろう。


「あっ、ジュウクって知ってるよね? 銀君のクラスの金髪野郎だ。まあ、今アイツは関係ないな」


 灯磨結凛は続ける。


「本題だ。それは銀君の処遇をどうするかだけど」

「処遇って……退学にでもするのか? 流石にそれは勘弁してくれないか? 俺は何も悪い事していない」


 錬はとりあえず反論してみる。


「誰もそんな事言ってないだろう」

「ふん! 処遇というのはあなたを生徒会に入れるかどうかですわ。私としては入って欲しくありませんが」

「銀君は昨日のキメラが見えていたんだぞ」

「見えていただけですわ。それに昨夜は真っ先に逃げていましたし。そんな戦力にもサポートにもなりそうもない人を入れるのは反対ですわ!」

「おいおいお前ら……とりあえず説明してやれ。当の本人が事情を飲み込めてないぜ」


 灯磨結凛と藍生桜梅の口論に金剛倉通流が割って止めた。


「それもそうだな。銀君、まずは説明してやろう」


 灯磨結凛がそう言うと、体から昨夜の美女ワルキューレを出す。それに続いて他の二人もそれぞれ昨夜と同じモンスターを体から出した。


「早速だが銀君は見えているか?」

「何が?」


 灯磨結凛の質問に錬は知らばくれる。それに乗っかるように藍生桜梅が言う。


「やはり見えてはいないようですわね。という事で銀さんの生徒会加入はなしですわ」

「いやいや桜梅、どう考えても銀君の嘘だろう。昨日、彼に同じ質問をして見えてるという回答を得られているんだ。お前も聞いただろ。それに私がワルキューレを出した時に一瞬だがそちらに目が行ったしな」


 ――――どうやら意見が対立しているようだ。


 錬は改めて生徒会三人を見る。

 灯磨結凛は錬を生徒会に入れるのに積極的な様子。しかし、考えた末の結論らしく曲げる様子はない。

 逆に藍生桜梅は錬を生徒会に入れるのは否定的。どちらかというとこちらは感情論のように錬は見えた。

 最後に金剛倉通流、現在は傍観と仲裁に撤しているが、どうやらあくまで結論は最後に出す方針らしいとわかる。


 ――――わかりやすく生徒会の意見を下すのは三人、つまるところ二人に反対の結論を出させればいいのか。それならばキーパーソンは頭の中で結論を決めているかどうかはわからないが現在中立の金剛倉君から反対の結論を口から出させればいい。


 錬は未だ口論を続ける二人を無視して金剛倉通流に言う。


「ねえ金剛倉君、何で君達は俺を生徒会に入れようなんてなってるんだ?」


 金剛倉通流は錬の質問に嫌な顔をするわけなく答える。


「それは銀君がキメラを見えているからだ。どうせ見えてるんだろ? 昨日そういう会話したしな。そのキメラだが、これな」


 金剛倉通流は後ろに控えるように立つカブトムシとライオンの合体モンスターを親指で指し示す。


「コイツは俺のキメラでパワードキングダムって名前だ。この生物、いや生命って言うべきかな? とにかくコイツはキメラって言って普通の人間には見えない。キメラが見えるのはキメラを持つ者かあるいは先天的にキメラを持てる素質を持つ者だけだ」

「だから何の話だ」

「……まあいい、それで銀君の今の立場はキメラが見えるという事で生徒会に入るに相応しいかどうかを審査される立場だという事だ」


 金剛倉通流の話に口論をしていた灯磨結凛が続ける。


「そう、ここで問題となるのは銀君がキメラは見えているならばキメラは持っているか、が論点となる。単刀直入に聞こうか。銀君はキメラを持っているか?」

「持っていない」


 錬は事実を突き付けた。灯磨結凛は少し残念そうな顔だ。藍生桜梅が得意気に言う。


「やはり持っていませんわ。ただ見えるだけ。仮に持ってたとしても嘘偽りを並べる人間は信頼できませんのでどっちにしても反対ですけれど」

「まあ、持ってる持ってないはともかく、そこに関しては確かに信頼は出来ないな」


 ――――ただ巻き込まれただけなのにこんな事言われる筋合いない。


 錬は恐いので心の中で思うだけにした。何にしてもこれで錬は生徒会に入る事にならなそうで安心する。しかし、灯磨結凛は二人の意見に反論する。


「お前達はまず論点がズレている。信頼云々言うがそんなものはお互い様だ。お前達は銀君を信頼していない、逆に銀君も私達も信頼していない。当然といえば当然。お互い信頼できるような材料がないんだからね。それに銀君がキメラを持っていないなら私達がキメラを出している状況は脅し以外何物でもない」


 どうやら、まだ会議は終わらないらしいと錬はわかった。


――――勘弁してくれ。


「そういう事で私達は銀君に信頼してもらうために情報を開示しよう」

「結凛ちゃん、本気で言ってますの!?」

「当然。そもそも何も知らない相手に信頼しろというのが無理な話だからな。そう思わないか、通流?」

「一理あるな。俺も銀君と同じ立場ならたぶん信用しないからな。ならば手っ取り早いのは情報の開示だ」


 錬を生徒会に引き入れる話し合いは再考になった。もはや溜息しか出ない。

 改めて灯磨結凛は言う。


「さて、まずは手っ取り早く銀君が生徒会に入ったらどういうポジションになるか――生徒会としては庶務という役職となる」

「そんな事はどうでもいい。庶務が何する役職かは知らないが、ただの生徒会の仕事ならまだいい。問題は生徒会が本当にやっている事だろ?」

「ふふ、確かに。銀君の主な仕事は二つだ。ただキメラが見えるだけならばサポートだ――情報収集や拠点での連絡係とかだね。そしてキメラを持っている、あるいは今後キメラを持つ場合は私達と同様戦闘に参加してもらう」


 これを聞いて錬は質問をぶつける。


「そもそも、仕事って言ってもあんた達は一体何と戦って、何を目的に戦ってるんだ?」


 灯磨結凛は不敵に微笑む。まるで罠に嵌まったコグマを見るように。


「まずは何と戦っているかに答えよう。私達は悪魔と戦っている」

「悪魔? 昨夜の三つ首の犬みたいな奴か?」

「そうそう。悪魔もキメラ同様普通の人間には見えない。しかし、キメラもそうなんだが――悪魔は見えないが世界に影響を与える。銀君も見たよね? 昨日の犬が門を壊すところ」

「まあね……」

「そして何の目的で戦っているか。私達生徒会はそういうのからキメラを使って世界を守るのが役目なんだ」


 錬はここまでの事を理解してさらなる質問をする。


「それをなぜ蘭鳴学園の生徒会がやる必要があるんだ?」

「それは前提が違うんだ。前提として蘭鳴学園生徒会はそもそもそういう組織なんだ。そして私達は生徒会へ入るために小学校から学費免除や学園内外で色々な優遇を受けて小中高と生徒会へ半ば強制的に入れさせられるわけだ。もっとも、学費免除というのは私達にはあまり関係ないけどね」


 灯磨結凛達にとって学費免除が関係ないというのは彼女達が所謂お金持ちだという事に由来する。少なくとも、この場で一般庶民は銀錬だけである。


「つまり、あんた達はそのキメラとかいうのを出す能力があったから生徒会に入ったのか?」

「ふふ、正確には違うけどそんなところだね」


 灯磨結凛は笑う。


 ――――何がそんなに楽しいのか。


「まあいい、こうなったら洗いざらい聞いてやる。そもそもキメラとか悪魔って言うのは何?」

「悪魔というのは答えにくい質問だな。あっ、勘違いしないでくれ。教えたくないわけではなく、そもそも私達も答えを持ち合わせていないんだよ。便宜上私達はあれを悪魔とは呼んでいるけど私達も奴らの正式名はわからないんだ」


 灯磨結凛は慌てて弁明してから続ける。


「その代わりキメラという存在は教えてあげる。銀君は本来の意味でのキメラを知っているかな?」

「色々な動物が合体したモンスターだよな、ギリシャ神話のキマイラがオリジナルの。魔神テュポーンと半人半蛇の怪物エキドナの間に生まれた怪物達の一匹。今ではもっぱら合成獣と言われてる。例えば日本の龍とかはヘビやワシやラクダとかの合成獣だよな」

「それだ。まあ、それと同じ存在かな。でも本来のキメラとはやはり違う」

「どこが?」

「私達が使うキメラというのは心の合成獣なんだ。言うならば合心獣。例えば、通流のキメラは奮迅のライオンと豪快のカブトムシが合成したみたいな」

「つまる話、人の心が具象化したモンスターなのか」

「良い理解力だね」


 錬はここまでの話を聞いて理解し、溜め息を吐いてから言う。


「わかった。ひとまずは灯磨さんを信頼するよ」


 灯磨結凛はキランと目を輝かせて嬉しいのか無邪気な笑みを浮かべる。


「それは嬉しいな」

「これで俺とあんた達とは対等になったわけだ。さあ、さっさと結論を出してよ」


 しかし、錬はこれで生徒会入りはないとい考える。なぜなら、錬は灯磨結凛しか信頼していないと示したからだ。便宜的にこの場にいる生徒会全員に信頼しているかのように言ったが、しかし逆に錬が信頼を得たのはあくまで灯磨結凛だけで他の二人からは信頼を得ていない。


 ――――後は藍生さんと金剛倉君次第かな。まあ、金剛倉君はともかく藍生さんからは嫌われてるし、生徒会引き入れに賛成になったとなれば藍生さんの言動を中心に反対意見に誘導すればいい。


 そういう錬も他二人は信頼していないが、灯磨結凛の事は今の会話で信頼はともかく好感度は上がっている。


「それじゃ、私からは銀君には何も言う事はない。銀君から桜梅と通流に、あるいは桜梅と通流から銀君に何かあれば」


 何て事はない。後は何を言われても錬は信頼を得ないように答えればいいだけだ。

 最初に口を開いたのは通流だった。


「俺は賛成だ。どうやら悪い奴ではなさそうだし、生徒会長のお前の指示に従おう」


 ――――今の会話のどこに俺が悪い奴じゃないって証拠があったのかわかりかねるけど。まあ、賛成多数だけど藍生さんが残ってるからまだ大丈夫だろ。


 次に言葉を紡いだのは藍生桜梅。しかし、それは錬の期待を裏切る言葉。


「ふん、結凛ちゃんが言うなら私も賛成でいいですわ」

「は?」


 錬は思わず言葉を溢してしまった。しかし、誰にも聞こえていないようだ。藍生桜梅は続ける。


「ただし、私から条件がありますわ」

「条件?」


 灯磨結凛が怪訝な顔をして返した。


「生徒会に入る以上、銀君にも戦闘に立ってもらいますわ」

「いや、銀君はキメラを持っていないぞ」

「だったら作ればいいですわ。成功するかはわかりませんが」


 灯磨結凛はギョッとする。


「まさか、儀式をやるのか?」

「当然ですわ」


 錬は焦る。


 ――――まずい、何をされるかわからないけどキメラを出せるようになったら逃げ場がなくなる! それに灯磨さんが儀式と聞いた時の様子が普通じゃない。何かやばいらしい。


 金剛倉通流が藍生桜梅に便乗する。


「俺もそれを言おうと思っていた。成功するかは知らないが元々素質があるなら大丈夫だろ」

「え? 成功とか失敗とかあるの? 俺、巻き込まれただけなのに、そんなコインの表裏当てるような賭けみたいな事にするの?」

「まあ、それが私達への信頼の証ですわ」

「信頼いらないから生徒会に入りたくない」

「何を泣き言を……もう決まった事ですわ」


 灯磨結凛は難しい顔で考えている。そして言う。


「でも流石に巻き込まれただけの銀君に生きるか死ぬかの賭けは……」


 錬はドアを開いて部屋から逃げ出した。

 錬は背後から「逃げ出しましたわ!?」やら「捕まえろ!」などの言葉が聞いた。しかし、部屋から出て来たのは三人のキメラだった。


「最悪だよ!」


 灯磨結凛のワルキューレが錬の横を通り過ぎて前方に回り込んでしまった。逃げられない。


「くっ……」


 錬は立ち止まる。


「ふふふ……銀君、逃げられると思ってるのか?」


 ワルキューレが灯磨結凛の声で喋った。否、ワルキューレがスマホを持ってそこから声が出ている。背後からはゆっくり金剛倉通流のキングダムと藍生桜梅のキメラが迫っている。錬、絶体絶命。


「大丈夫、生きるか死ぬかと言っても九割の確率で生きられるから」

「俺は勝率十割の賭博しかやらない主義なんだ。そんな理不尽な賭けに乗ってたまるか」


 しかし、今の状況も十分賭けである。しかもかなり不利な賭けだ。錬は涙が出そうになる。

 キメラ達はジリジリ錬へ近寄って来る。


「く、来るな!」


 錬は必死に叫ぶ。キメラ達は止まる素振りを見せないまま、とうとう錬は囲まれてしまう。


「うわあああああ!」


 錬は目を瞑り力の限り叫ぶ。すると、錬はゴシャアッと音を聞いた。


 ――――な、何だ!?


 錬は恐る恐る目を開く。

 そこには金剛倉通流のキングダムが仰向けに倒れていた。倒れたキングダムの側には錬の知らない新手のキメラが不遜に立っていた。

 そのキメラは上半身がウサギ――赤い目と白い毛に長い耳、下半身が鳥――白い毛に黄色の二本足はそれぞれ三ツ又に分かれた指に後ろにも一本の指があり鋭い鉤爪。


「へえ……自力でキメラを作ったか銀君」

「は?」


 錬はそのキメラを見て呆然としていると灯磨結凛が言う。


「今、銀君はそのウサギと鳥のキメラを出して、そのキメラがキングダムの顔面に飛び膝蹴りをしたんだよ」

「は?」


 錬は事情を飲み込めない。それでも尚、灯磨結凛は続ける。


「それにしても不意打ちだったとはいえ通流相手にキングダムを蹴り飛ばすとはなかなかのパワーとスピード。通流が能力を使ってなかったら首と体が離れ離れになってたかもね。事のついでとはいえ、これは凄い掘り出し物じゃないか?」


 灯磨結凛は感心しているようだ。しかし、声のトーンが下がる。


「これで益々君を逃がすわけにはいかなくなったわけだ。悪いけど拘束させてもらおうね」


 するとキングダムが立ち上がり構える。錬は冷や汗を流す。そして両手を上げる。


「わかったわかった! 降参だ!」


 錬は諦めた。理由としては自分でキメラを出せたのなら生きるか死ぬかの儀式をする必要がなくなったため、キメラの扱いが上級者の三人に対して初心者の自分では出し抜ける気がしない事、そして同じ学校に通っている以上逃げても無駄だという事。


「わかればいいよ。それなら生徒会室に戻っておいで」


 錬は灯磨結凛の指示に従い生徒会室へと戻った。そこには灯磨結凛達が先程と同じように座っている。灯磨結凛は携帯電話を金剛倉通流に投げて返す。


「おめでとう、銀君。どうやら君はキメラを作る事ができたみたいだね」


 灯磨結凛が無邪気な眼差しで歓迎するように言った。


「何? 今のが儀式?」

「まさか、儀式などしてないよ。君が一人で作り出したんだ。だってそもそも素質があったんだから」


 藍生桜梅は恨めしそうに、金剛倉通流は値踏みするように錬を見ている。


「で、二人はさっきから何?」


 錬は藍生桜梅と金剛倉通流に言った。


「ふん! 私は心の中では認めませんわ!」

「いや、なかなか見所ありそうだなと思ってな」


 二者は錬に対して真逆の評価ではないが、藍生桜梅はやはり認めないようで、金剛倉通流は高評価を下した。


「はあ!? 本気ですの、通流?」

「本気というか客観的評価だな」


 その言葉を聞いた灯磨結凛は金剛倉通流に言う。


「ふ~ん、通流は一体どこを評価した?」

「キメラのスペックもそうだが、瞬間的な状況判断能力が高い。いや、決断力か? とにかく、さっき銀君が儀式の話をしている最中に逃げた事は信頼や信用はともかくとしてその決断力自体には評価しているという事だ」

「なかなか見ている。さて――」


 灯磨結凛は再び錬を見る。


「銀君の生徒会入りも決定したところで銀君のキメラに名前を付けよう。まあ、ウサギだしムーンライトとかでいいよね」

「いや、名前は俺が決める」

「そう? まあ、そうだね。長い付き合いになるから自分で付けるべきだ」


 錬が部屋の時計を見ると既に一時間目の授業が始まっている。


「あの、そろそろ教室へ行っていいか? もう授業が始まってるんだ」


 錬の言葉に三人も部屋の時計を見る。灯磨結凛は言う。


「それならば午前中は授業をさぼ……休む」

「あ、いや……流石にさぼりは」

「大丈夫だ。生徒会は正統な理由があれば授業を休んでも出席扱いになるからね。それに実は銀君は昨夜の内に私が既に生徒会庶務として手続きを行い既に生徒会入りが完了している。特権って奴だね」


 特権っていうか職権の乱用である。


「おい」と灯磨結凛を除いた三人が声を揃えて灯磨結凛を睨み付ける。どうやら藍生桜梅も金剛倉通流も知らなかった様子。


「茶番かよ!」

「違うぞ、銀君。一応他の奴らにも聞くだけ聞いておこうと思っただけだ」

「本当に聞くだけ聞いただけか」


 錬は呆れるしかない。金剛倉通流が一区切りとばかりに話題を変える。


「お前の行動力なんて今更だ。それで、わざわざ午前中フリーにしてどうするんだ?」

「まずは今夜についての会議だ」

「今夜?」


 錬が疑問符を付けて言う。


「そう、今夜だ。つまり、錬君が昨日見た三つ首の犬みたいな奴と戦うための会議だ」

「急に下の名前で呼ぶとか馴れ馴れしいな」

「何、錬君も私達を下の名前で呼べばいい」

「いや、ほぼ初対面で馴れ馴れしいだろ」


 結凛の言葉を錬が返したところ、桜梅が言う。


「そうですわ! 幼馴染みじゃないのに下の名前で呼ばれる筋合いはありませんわ!」


 桜梅はとてもツンツンして錬から目を逸らしてそっぽを向く。


 ――――そういえばこいつらってさっきの口振りだと小学生からの幼馴染みなんだよな。幼馴染みの集団に今更入るとか地雷じゃないか?


「まあまあ錬君、気にするなよ。桜梅はこれでもかなりの人見知りなんだ」

「ち、違いますわ!」


 通流の言葉に桜梅は顔を赤くして否定する。


「そうだな。それで結凛、今日の相手は誰なんだ? まさかアイツか?」

 通流はやんわりと桜梅の言葉を肯定してから結凛に言った。


 ――――どうでもいいけど俺は立ったままなのか?


 結凛は「いや」と言って続ける。


「アイツを倒すには私達ではまだ実力不足だよ。少なくとも錬君がキメラをちゃんとコントロ

ールできるようになるまではアイツと戦わない」

「アイツって?」


 錬は「アイツ」という人物あるいは何かについて訊ねた。

「いや、まあ錬君は気にするな。後でちゃんとその辺は話すよ。それよりみんなはこれを見てくれ」


 結凛は立ち上がりホワイトボードを引っ張りだした。ホワイトボードには蘭鳴学園の敷地の地図が角をマグネットで貼ってある。

 錬は改めて全体図を見て、広いなと思った。

 校舎や施設などは敷地の西側半分に集中している。横に長い長方形の校舎が二つ平行に並び渡り廊下で繋がっておりHの形、北側の校舎からさらに体育館へ渡り廊下が繋がっている。北側と南側の校舎の間には中庭、二つの校舎の東にグラウンド、西側には裏門、南側の校舎から南には庭がありそこを抜けると正門。敷地の東側半分と北側半分にL字型で森があり、森の中には池がある公園みたいな広場があり、また別の所には旧校舎があるようだ。

 結凛が続ける。


「昨日、私と桜梅と通流の三人で三日前から森に潜んでいる悪魔と戦う予定だった。しかし、錬君や三つ首の犬といったイレギュラーで予定は狂った。三つ首の犬――そうだな、ケルベロスと名付けよう――は想像以上に手強く時間を食ってしまい、予定の悪魔との戦闘は延期となった。そして今日こそは森に潜む悪魔を倒す!」


 ――――やっぱり悪魔ってたくさんいるんだな。


 結凛は地図上の森を指差す。


「しかし問題は森というこの地形。富士の樹海とまではいかないけど学園の敷地の半分を使うこの森は今回相手する悪魔にとっては地の利がある。しかも夜という時間はあちらに味方する」


 錬はおずおずと手を上げる。


「それなら昼間の内に倒せばいいんじゃないの? よくわからないけど」

「昼間どこにいるかわからないというか夜行性というか……。ジュウクがいればその辺はわかるんだけどね」


 ――――虫みたいな奴かな? ネオンに集まる蛾も昼間どこにいるかわからないし。


 錬が地図をよく見ると森にドクロマークのシールが貼ってあり、同じようなシールが公園の池、旧校舎、そして北側校舎に貼ってある。


「とにかく今日は昨日のようなトラブルがない限りは予定通り森にいる悪魔を殺す」

「あのさ、話を切るようで悪いんだけど……その悪魔ってどんな悪魔なの?」


 結凛は意味あり気に言う。


「今夜私達が相手する悪魔は血を吸う悪魔――私達は便宜上ヴァンパイアと呼んでいる」

「ヴァンパイアって……。とても序盤で戦うような相手じゃないぞ。RPGで言えば終盤、早くて中盤の敵だろ」


 ヴァンパイア。広義的に解釈すれば吸血生物の総称である。


「なるほど、よくわからないが中盤なんじゃない?」


 結凛は錬の言葉に要領を得ないようでテキトーに答えた。


「銀君、現実とゲームをごっちゃにしてはダメですわよ」


 桜梅は錬を嘲笑するように言った。


「ただ例えで言っただけだよ。桜梅は『滝みたいに激しい雨』を『滝じゃなくて雨だよ』って答えるタイプか?」

「桜梅って呼ばないでくださいな、馴れ馴れしいですわよ」

「わかったよ、藍生さん」


 錬は色々理不尽さを覚えつつ従う。

 結凛が「話を戻す」と言ってから続ける。


「錬君のキメラを見た限りだと私のワルキューレや通流のパワードキングダムと同じく身体スペックは高い部類だろう。通流はどう思う?」

「パワーはたぶんキングダムよりかは低いけどスピードはキングダムを凌駕している。少なくとも俺が不意打ちされてから回避するまで意識的に介在する隙がなかったくらいだからな」

「妥当かな。スピードだけなら生徒会の中でもトップだろうね。よし、とりあえずみんなグラウンドに出ろ」


 結凛はそう言った。

 錬、結凛、通流、桜梅は革靴を履いてグラウンドへ出た。

 今は二時間目の授業中、グラウンドで体育をしているクラスはない。

 結凛は三人に向かい合うように前へ出た。

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