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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第一章 蘭鳴学園悪魔事件
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ムーンリリス

 ワルキューレが何者かの手に貫かれ、腹から伸びる手を錬達は呆然とそれを眺めていた。ワルキューレの体が邪魔で襲撃者の姿が見えない。

 ワルキューレの本体である結凛はビックリした顔でその光景を見ている。シンクロ率がゼロに等しいため痛みはない。結凛は冷静に口を開く。


「新手? とりあえずその面を見せてもらうよ」


 ワルキューレの体が消えて結凛の側にテレポートし倒れた。そして襲撃者が姿を現した。

 蘭鳴学園の制服に身を包み、黒く長い三つ編みお下げ、眼鏡をかけているがその上からでもはっきりとわかる程派手で美しい容姿。


「鉄真夜か……」


 その姿を見て呆然とする錬に変わって結凛がその名前を口にした。


「こんばんは~、蘭鳴生徒会の皆さま~」


 真夜はいつもと変わらない態度で錬達に挨拶した。


「そしてさっきぶりだね~、銀君」

「鉄……」


 錬の中の臆病心が警鐘を鳴らす。明らかに先程戦っていたウィッチとはレベルが違う、と。


「錬君の友人が何でここにいるんだ? まあ、キメラを的確に捉えて素手で腹に風穴を空けるあたりただの人間ではないだろうけど」


 結凛は言いながら自身にワルキューレを戻す。真夜は黒く無邪気に微笑んでいる。


「ここにいる理由は簡単だよ~。私もあなた達が言うところウィッチを殺しに来たんだ~」


錬は驚いた様子を見せる。通流、桜梅、の二人は意味わからないという顔をし、ジュウクは事情が呑み込めたのか真夜を見据える。


「君はウィッチの仲間じゃないのか? 少なくとも私達の味方ではなさそうだけど」


 結凛の言葉に本心なのか真夜はペラペラと言葉を紡ぐ。


「私はウィッチやマーメイドの仲間じゃないよ~。彼女達は私のリリン、私の心から産まれた娘達。あなた達のキメラと同じような存在かな~」


 結凛はしばらく黙ってから言う。


「リリンという事は君はリリスか?」

「正解……だけどそっちのリリスじゃないんだ~。私は聖書のリリスじゃなくてもっと古い存在で…………現在一五歳の華の女子高生ですよ~」


 錬達生徒会は年齢に関してツッコミする余裕などなく新たな敵の出現に戸惑っている。


「ほ、本当に一五歳なんだよ~。嘘じゃないのに~」


 真夜は嘘がバレた時のような顔で慌てて言い訳をした。結凛はウンザリしたように言う。


「わかった、君の年齢は一五歳だね」


 そういう事にしておこう、と小声で呟いてから続ける。


「それで私達に何の用? 私のキメラを不意打ちしたところを見るととても味方には見えないけど」


 真夜は錬達から見ればふざけたような態度から真剣な態度になる。その眼鏡の奥の瞳は悪意に満ちている。


「生徒会の皆さまには特に用はなかったんだけどね~。本当に私の目的はリリンの一体ウィッチを殺しに来ただけなんだよね~。あの娘ったら私に従わないどころか殺しに来るんだもん。流石のウィッチも一人では私を殺せないと思ってたらしくて~、他のリリンにも声をかけてたみたいだけどみんな私の味方だったからね~。最終的には銀君を使って私を殺そうとしたし、銀君を玩具に色々しようとしてたみたいだから私も堪忍袋の緒が切れて今日殺しに来ちゃったの。既に殺されてたけどね~」


 邪悪漂う無邪気な笑みで喋る真夜は錬が知っているような真夜ではなかった。


「やっぱり私が作る愛欲のリリンは性能良いけど自我が強くて駄目だね~。微妙に私に似ちゃうし」


 錬は色々合点がいった。なぜウィッチがああも自分に接触して来たのか。


「つまりウィッチは自分一人では敵わないから鉄をウィッチに仕立て上げる気だったという事か」


 錬の言葉に結凛が続ける。


「なるほどね。確かに錬君なら友人が悪魔だと疑わしいと考えれば違うと証明するために動き、鉄さんが悪魔だと証明されれば私達にその事を言わずに自分だけで処理すると考えたんだね」

「実際結構ヒヤヒヤしたよ~。銀君は私が悪魔じゃないと証明するために危険覚悟で私を連れて旧校舎へ行くし。日が浅い銀君一人だとウィッチ相手には私含めた友人三人を守りながらの戦闘は荷が重いし、私も悪魔の力をみんなの前で使えないし~」


 結凛も通流も桜梅もジュウクも、そして錬も気付いている。ずっと真夜の視線が錬に向いている事に。


「だけどそれだと何でここに登場したの? ウィッチは倒したんだから、少なくともここで私達の前に現れたら悪魔の事がバレるだろう?」

「確かに腑に落ちないぜ。話を聞いた限りじゃ俺達にはともかく錬にはバレたくなかったわけだしな」


 結凛と通流が言った。対して真夜は当然のように言う。


「私もここで銀君にはバレたくなかったんだけどね~。でも、そういうわけにもいかなくてね」


 真夜の言葉とともにウィッチの死体だった光の粒が真夜の元へと集まり吸収された。


「半分程の魔力を貸してたから返してもらう必要があったんだよね~。いや、これはついでだね。やっぱり本当の理由は銀君以外の生徒会役員を殺す事かな」


 何て事ない風に言う真夜に錬達は唖然とする。


「私怨で申し訳ないけど~」

「こちらは桜梅が手負いとはいえ、キメラ五体とどうやって戦うつもりなのかな? 悪魔一人くらいなら何とか倒せる戦力だけど」


 結凛はあくまで余裕そうな顔で言った。


「灯磨さん、あなた達がどれだけの悪魔を倒して来たかわからないけど~、悪魔を舐めないでよね」


 錬達の目の前から真夜が消えた。それに気付いた時には遅い。結凛の首から血飛沫が舞い、真夜が結凛の隣に立っている。真夜は赤く染まる。


「あなたが一番ムカつくんだよ」


 真夜に言葉を吐き捨てられながら結凛は力なく倒れた。

 また真夜が消えると、通流が絶叫し雷音が鳴り稲光で眩しくなる。


「ぐおああああああああっ!」


 通流は全身が焼き焦げ壊れた人形のように倒れた。誰も彼もが言葉を発する暇もなくジュウクの心臓が真後ろから貫かれた。

 真夜と目が合い、桜梅が恐怖の色に染まる。

 真夜が消えた瞬間、月読玉兎が桜梅のすぐ後ろに回り込んでいた真夜を蹴り飛ばした。真夜は壁を破壊しながら吹っ飛ぶ。


「あ……あ……」


 桜梅は涙を流しながら地面にへたりこむ。


「大丈夫か、桜梅!?」


 錬は桜梅に駆け寄る。桜梅は光のない目で錬を見上げる。


「ウサギさん……。結凛ちゃんが……通流が……ジュウクが……」


 桜梅の目には絶望が映っている。幼馴染み達を殺された絶望、絶対的強さへの絶望。

 錬は桜梅の腕を掴み立たせながら叱咤する。


「とりあえず逃げろ! ここは俺が何とか食い止めるから!」


 しかし、桜梅は静かに涙を流すだけ。友人の悲惨に打ちひしがれているのか腰が抜けているのか動く様子がない。錬は内心舌打ちした。月読玉兎の耳は未だに真夜の心臓音も呼吸音も捉えている。今、正に起き上がろうとしている。

 すると月読玉兎の耳から一瞬より短い時間、真夜の音が消えた。錬は自身の背後に真夜が出現すると予測し、月読玉兎は錬の背後へ向かって蹴りを放つが足は虚空を切り、真夜は桜梅の横に現れると襟首を掴み上げて桜梅を投げる。

桜梅はやっと自分が置かれている状況に気付いたが、いつの間にか壁に出現していた金属の杭に体が刺さった。桜梅は悲鳴を上げながら白目を剥いている。死ぬことなく

 錬以外の生徒会役員達が一分もしない内に全滅した。

 真夜は呆然とする錬に微笑む。


「フェイクに引っ掛かってくれたね~。銀君相手だからこそのフェイクだけど」


 錬は今、俯いている自分がどんな顔をしているかわからない。怒りに染まっているのか、悲しみを漂わせているのか、あるいは未知なる恐怖に震えているのか。


「何でこんな事したわけ、鉄?」


 錬の無感情な質問に真夜は答える。


「ムカついてたからかな~、特に灯磨結凛にはね。ムカついてた理由は女の子の秘密って事で。まあ、銀君には今日の記憶を忘れてもらうからいいけど、やっぱりね~」

「友人に暴力を振るったりしたくはないけど」

「え?」


 錬は顔を上げる。


「お灸を据える必要があるらしいな」

「その闘争心に満ち溢れた顔かっこいいね~」

「どうも」


 月読玉兎は真夜に回し蹴りを放つが、真夜は一瞬消えてそれを躱した。錬は現れた場所が見える所まで歩き棟の部分へ来ると見上げる。真夜は宙に浮きながら天井画の月をバックに錬を見下ろす。


「銀君はもっと臆病だと思ってたんだ~。さっきの虐殺を見て尚も向かって来るんだね~」

「友人を恐れる理由がどこにあるんだ?」

「こんな事をした私を友人だと思ってくれるのは嬉しいけど~……忌々しい」


 真夜は掌を真下に向けて錬に無数の氷柱を発射する。錬はそれを見ると一歩下がり降り注ぐ氷柱の内三本だけを蹴って弾き防いだ。真夜は少しだけ驚愕。


「その魔法だか能力だかは既にマーメイドとウィッチので二回見ている。二回も見れば攻略法なんて簡単にわかる」


 錬は氷柱が降り注ぐ密度が一番薄い場所へ移動して無数ある内の数本を蹴り返しただけ。


「それにお前が使っている消えたり現れたりする魔法は瞬間移動だな。その魔法は俺に相性悪そうだもんな」

「そうだね~、錬君って空間把握能力が並外れてるから瞬間移動で近付くのはちょっとね。でも錬君は最初で最後のチャンスを不意にしたね~」


 ――――そう、結凛達と違ってむしろ俺の場合鉄の瞬間移動はカモだ。


 錬の空間把握能力で瞬間移動しても移動先は大体ではあるが事前にわかる、さらに月読玉兎は速いため近くに現れれば攻撃を当てる事もできる。もっとも一瞬の判断を誤ると命取りになるが。


「さっきの攻撃の事か、桜梅を守った時の攻撃」

「そうそう、あれ手加減したでしょ~?」


 そう、錬は先程の攻撃を手加減した。蹴り一撃で真夜を殺してしまうかもしれないと思った錬は意識的に力をセーブした。


「想像以上に頑丈で後悔してるところだ」

「銀君は優しいね。そういうところも好きだな~」

「お前は優しくないな」

「殺しても二四時間以内なら生き返らせる事は可能だから~。二四時間以上で生き返らせるとゾンビだけど~」


 錬は月読玉兎とともに走り出す。


 ――――とにかくここは俺にとって不利過ぎる。一旦外へ出ないと。


「話の途中で逃げ出さないでよ~!」


 錬は背後から反響する真夜の声を聞きながら生徒会の屍を尻目に部屋から出ると、月読玉兎の耳から結凛の言葉が聞こえた。錬は慌て振り返ると、結凛は痛みにこらえた顔で笑顔を作っていた。そして何事か呟くのを見て錬はすぐに目を逸らす。

 錬は走りながら呟く。


「大丈夫だよ……、ね。俺の心情を知っての言葉だったらいよいよ恐いな。聖人かよ」


 結凛の言葉は後押しか先導か、錬は一つ恐怖が薄れた。

 後は一つの恐怖だけ、未知なる強者への恐怖だけ。

 錬は旧校舎を出る。森の中に佇む旧校舎は来た時と変わらず月灯りが降り注ぐ。


「中も外も月とはウンザリするな」


 錬は木の陰に隠れて森の中に潜む。


 ――――鉄を倒すにはまず不意打ちしかない。アイツの他の魔法のスキルがわからない以上さっさと倒すのが得策。いや、それ以前にただの人間の俺と手加減していたとはいえ月読の蹴りでピンピンしている鉄とでは長引いた戦いは愚策。鉄は俺に近付かない、それは俺の攻撃成功率が高いからだ。逆を言えば月読の攻撃が全く効かないわけじゃないのか? ただ、待ち構えていたら遠距離攻撃の的、だけど月読を俺から離れさせたら鉄の攻撃を防げるとは思えない。


 月読玉兎の耳が真夜の声を聞く。どうやら森の上を浮いているらしい。錬がソッと木の陰から覗くと月をバックに真夜が結構高く浮いている。


「確かに見通しの良い場所より見通し悪い暗闇の森の中なら私と銀君が近付く確率は高いか~。考えたね。それじゃあ今宵は月がこんなにも美しいから私のとっておきの魔法を見せてあげる」


 真夜の周りに幾多の光る球体が出現する。


「月の光で作ったエネルギー弾だよ~!」


 月光弾が森に降り注ぐ。木々を破砕し倒しながら無差別に攻撃する。そのやんわりした光の球体が森に降る様はどこか幻想的な攻撃だと錬は思った。


「本当に幻想的だ」


 月光弾の雨が止むと錬は木々が倒れる森の中、不敵に佇む。


「あれを避けたの~?」


 真夜は呆れ果てた顔で錬を見下ろしている。真夜を見上げる錬も流石に無傷とまではいかなくても、致命傷もないし月光弾に当たった形跡もない。


「そのタイプの攻撃なら回避は容易い」

「でもでも~、光球は蹴り返せないはず」

「そうなんだ。エネルギー弾とか言ってたしそんな事だろうと思ったけどね」


 錬は類い稀なるその空間把握能力で光球の霰を回避した。何て事はない、見えてさえいれば軌道も目測も錬は正確に認識し当たらない位置がわかる。

 錬は真夜を指差した。


「鉄」

「なに~?」

「真下ばかり見ていると蹴落とされるよ」

「へ?」


 真夜は錬に言われて上を見る。


「ひぃ!?」


 そこには月を背に間近に迫った月読玉兎がいた。

 月読玉兎は真夜へ向けて渾身の蹴りを放った。地面に頭へ向けての前蹴りは真夜の鳩尾を直撃した。すると真夜はその場から消えて、少し離れた所で地面に落ちる衝撃音が響いた。

 月読玉兎は虚空を蹴って方向転換し素早く錬の側へ戻った。錬は真夜がいる所へ近付くと真夜は苦悶の表情でお腹を抱えてうずくまっている。錬に気付くと真夜は無理矢理笑みを浮かべた。


「どうして~、月読玉兎があんな所にいたの?」

「お前があの光球を撃つのに夢中になってる時にこっそりと」

「だからって私に気付かれずにどうやって~?」

「大体お前の視界の死角も把握できるからね。後は空中を跳躍しながら。水面を足場にジャンプできるんだから虚空でだってジャンプぐらいできるだろうと思って」

「銀君って本当にゲーム脳」


 真夜はお腹を押さえながらも立ち上がり宙に浮く。ダメージは大きかったが決定打には至らなかったらしい。


「まだまだ手はあるけど銀君を殺せそうなのないな~」

「もうやめないか? 鉄が何で生徒会の奴らを殺したかはわからないけど、今ならアイツらを生き返らせる事ができるんだろ?」

「そうだけど、やっぱりムカつくんだよ~。悪魔である私が、『黒い月の女神』の意味を持つリリスの名において」


 真夜はそう言うと指先を噛み血を流し地面に垂らす。


「銀君ってキメラが何で作られてるか知ってる~?」


 唐突な質問に錬は少し慌てる。何で作られているかはわからないと答えようとしたが、錬は結凛が言っていた事を思い出す。


「心でできてるんだよな。確か。二つの性質の心で」

「そうそう、それじゃ銀君のキメラは何で作られてるんだろうね~」

「そういえば何で作られてるんだろう? ウサギだから臆病はわかるけど下半身のトリが意味わからないな。ニワトリだと臆病で上半身のウサギと被るけど」

「ふふ、私わかっちゃった~」

「何が?」

「銀君のキメラのもう一つの心」


 それは錬も興味あるが、なぜ今その話をするのかわからない。


「キメラって~、その人が持ってる心の中でも一際大きい二つの心を合成されるの~。銀君のキメラの上半身はウサギ、下半身はニワトリかな~。ニワトリはニワトリでもたぶん軍鶏って奴。銀君のキメラは一つが臆病、一つが闘争。たぶん私はそう思うよ~」


 真夜の血が形を作る。


「出でよ! 恐怖から作られたリリン!」


 真夜の血が肉体を持ち始める。それは三つ首の大型トラック程ある犬。三つの頭が不協和な雄叫びを上げる。錬は足がすくんで動けない。


「確か生徒会の人達はこの娘をケルベロスと呼んでたね~。臆病な錬君はこの娘を倒せる~?」


 ケルベロスは前足で錬を薙いだ。錬は呻き声を上げて吹っ飛び地面に転がる。


「あ……がっ……!」


 錬は目の前の恐怖に反応すら出来ずに攻撃をまともに食らってしまった。肋骨が数本と左腕のみに別種の激痛が走り、折れている。不幸中の幸いというべきか全身骨折をしているわけではない。

 体が地面に密着していると、ハイスピードな揺れと轟音が体を直撃する。体の痛みよりも迫り来る恐怖に錬は囚われる。錬はケルベロスの六の目を見上げる。


 ――――逃げないと。


 月読玉兎がケルベロスを追い越し錬を抱えるが、錬は骨折の痛みに一瞬だけ思考を手放してしまった。気付いた時には錬は月読玉兎とともにケルベロスの手によって叩かれて空中を舞っていた。まるで空に向かって投げられたぬいぐるみのように。いつしか空中で止まり地面に吸い寄せられていく。頭上には地球、足下には月。

 死ぬ直前には走馬灯が見えるというが錬には走馬灯が見えていない。錬は走馬灯が見えないんだからまだ死なないらしいと馬鹿な事を考えた。むしろケルベロスの雄叫びと待ち構える視線、真夜の恍惚な独り言とねっとりした視線をはっきり感じる。


 ――――そういえばRPG終盤でラスボス相手にHP残して強制敗北はパワーアップフラグか。ラスボス戦だけの特別な魔法や技が習得できるんだよね。今の状況なら恐怖を打開する方法か。そういえば何であのケルベロスとかいうのにこんなに恐怖を感じるのか意味不明だな。いや、俺の場合はあのケルベロスの事よく知らないから恐いんだ。あの時も逃げ出したし。


思い出されるのはケルベロスを初めて見た時。結凛、通流、桜梅が戦っている最中に逃げ出したこと。


――――これ走馬灯か? どうだろう。


 そして錬は落ちていてある事に気付く。

 

――――あ、そうか、あの旧校舎の天井画は、なるほど。確かに普通に見たら意味不明だ。


 どうでもいい事なのだが錬自身なぜ今これに気付いたのかわからない。だが、錬は今、すべてを知ったような全能感を覚えた。

 錬は一度月読玉兎を消した。


「全知の光で未知の闇を照らし出し恐怖を打ち払え、月読玉兎!」


全回復させて月読玉兎を改めて出現させた。


「あれ~、まだ戦う気~?」


 真夜の余裕たっぷりの声が月読玉兎の耳に入るだけではなく、よく聞こえる。だから錬は確信的に言い返す。


「ケルベロスの底は知れた」


 月読玉兎は虚空をジャンプして錬にとって真上にいるケルベロスに目にも止まらぬ速さで流星の如く踵落としを決めた。ケルベロスは足を崩し腹が地面に着く。そのまま月読玉兎は地面に着地してケルベロスの腹を蹴り上げた。ケルベロスの体は地面から離れた一瞬に、月読玉兎はさらに強烈な横蹴り放った。ケルベロスの腹は月読玉兎の鋭い爪で切り裂かれその巨体が地面に転がり地面に血の池を作り絶命した。


「いや……え?」


 真夜がまたもや予想外の事態に陥っている間に月読玉兎は地面をジャンプして空中の錬を抱えて虚空をジャンプし地上に戻る。錬は痛みを我慢して地面に立つ。


「な、何で~!? 恐怖で作られたケルベロスの恐怖は臆病心の強い銀君には天敵のはずなのに~!」


 真夜の信じられないといった言葉と顔に錬はどこか面白そうに言う。


「たかが冷気と火と電気を口から吐き出す事しか能がない図体でかいだけの犬なんて恐くないだろ」

「何言ってんの? ケルベロスはこれでもパワーもあるし頭だって良いし丈夫なのに~」

「だからどうした? 俺からすれば底が知れた時点で恐怖の対象でも何でもないし、むしろ弱者感すらあったぞ。そして弱い者虐めは俺の最も得意とするところだ」


 真夜は錬の勝ち誇った笑みに恐怖が湧いて来る。


「どうした、まだ戦うか? お前が使える魔法の一つにして最強の攻撃魔法ムーンライトエクスプロージョンとか使ってでも俺を殺す?」

「何で銀君が私の使える魔法把握してるのかな~?」

「答える必要はない。何にしても俺は弱者虐めは嫌いじゃないけど、友人それも美少女を弱者虐めするような性癖を持ち合わせてないから降参してほしいんだけど」

「弱者弱者って私の方が弱いって言いたいの~?」

「俺からすれば底が知れた時点でどんなに強かろうが弱者なんだよ」


 錬は暴論とも言うべき自分理論を真夜にぶつけた。


「大規模を破壊する魔法だからってせっかく遠慮してあげたのに。まあいいか、銀君を殺しても~、生き返らせればいいし~」


 真夜は頭上の月へと手を掲げた。そして月読玉兎の横蹴りが真夜に決まった。


「うぎぃ!」


 真夜が吹っ飛び転がる。錬は痛みに耐えながら身を悶える真夜に近付き見下ろした。


「手加減してたとはいえ今の一撃でも気絶しないとは……悪魔って頑丈だ」

「な、何故?」

「何故って? 俺お得意の騙し打ちだよ。ムーンライトエクスプロージョンは一度使うのに最低二秒の溜めが必要だろ、その間に月読玉兎で攻撃しただけ。武術の縮地という足運びを使って一瞬で間合いを詰めてね」

「縮地って……本当に銀君ってゲーム脳というか漫画脳というか。それに何でムーンライトエクスプロージョンの欠点知ってるの~?」


 錬は痛みをこらえながら返した。


「能力に目覚めたから」


 真夜は納得したと言わんばかりの声で言う。


「そう……もう銀君に勝てる気しないな~。う~ん、降参」


 真夜は先程までの邪気は漂わせず微笑んだ。

 こうしておよそ一ヶ月に渡る悪魔騒動は生徒会途中加入した錬が決着を着けた。

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