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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第一章 蘭鳴学園悪魔事件
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旧校舎潜入

 錬は真夜が入部している漫画研究会の活動場所へ来ていた。流石はセレブが通う高校だけあってこのような俗っぽい部活の部員数は少数精鋭らしく真夜含めて五人しかいない。錬は意味はわかるが怪しい単語や放送禁止用語成人指定型用語を繰り出し攻撃して来る部員の中から鉄を呼んで部室から連れ出した。


「後一人部員が多かったら危なかった。精神的に」

「あはは、ごめんね~。みんな銀君を見て興奮しちゃったから」


 ――――少人数で男女入り雑じった黄色い声はあまりにも異様な光景だった。


「何でかは聞かないから」

「う、うん、聞かない方がいいかも」


 錬は恥ずかしそうに俯く真夜に不安を覚えながらも用件を言う。


「それでさ鉄、今から俺と一緒に旧校舎に来てくれない?」

「旧校舎?」


 真夜は眉をひそめた。そして恥ずかしそうに顔を赤くする。


「ちょ、ちょっと待ってよ銀君! そんな……旧校舎なんて、うぅ~」


 真夜は頬に両手を当てながら言った。


「え、いや、何その反応? そんな恥ずかしがる事?」

「だって旧校舎って~、もう!」


 錬は意味がわからずキョトンとするしかない。真夜は変わらず顔が赤い。


「うわ~、銀君知らないのか~」

「だからどうしたの?」

「ノーコメントで~」


 真夜はやはり顔が赤いまま続ける。


「それで銀君はどうして旧校舎に? 確かあそこ今立ち入り禁止だよね~?」

「俺は生徒会だからな、立ち入り禁止とかは生徒会権限で関係ないからその辺は大丈夫だ。理由の方だけど、まあ肝試しだと思っておけばいいよ」


 錬は特に誘った理由を思い付かなかったので遊びという事にしておいた。


「ふ~ん、何で心花ちゃんや鉋君誘わないのかな~? 四人で行った方が楽しいよ~?」

「それはちょっと諸事情で……鉄と二人で行きたかったんだ。それに俺は鉄と二人でも楽しいと思うけどね」


 本当の理由は生徒会四人で手を焼くような悪魔相手に遭遇してしまったら錬一人で、そのうえ友人を三人守りながら戦える気がしなかったからなのだが。


「もう……銀君は~」


 未だに頬を染めながら真夜は呆れている様子だった。




 錬達は旧校舎へ続く森の道を歩いていた。


「まったく錬さんには困ったものです。旧校舎なんていう面白スポットへ俺達を誘わないなんて」

「どうせ旧校舎なんていう人気のない所で不純な性的遊戯をしようとしてたんでしょ。最低」


 高貴と心花がそれぞれそう言った。真夜は先程よりさらに赤くなって反論する。


「違うよ~、本当にただの肝試しだって言ってるじゃん~」


 錬は三人の会話を聞きながら脳内で頭を抱えた。事の次第はただの偶然だった。たまたま玄関口で靴に履き替えていたらちょうど帰るところだったらしい高貴と遭遇してしまい、真夜が肝試しと正直に言ってしまい高貴が部活動に勤しんでいるはずの心花を呼んだ。


 ――――悪魔とエンカウントしたら先手必勝しかない。長引いても不利になるだけだしな。月読の蹴りで一撃必殺だ。


 錬はプランになっていないプランを練っておく、そういう心の準備だ。

 高貴はからかう調子で真夜に言う。


「どうかな。鉄の漫画は十八禁に足が着かないように浮遊したような内容の漫画を健全って言いますから。むしろ貞操が危ないのは鉄じゃなくて――」

「鉋君」


 真夜は高貴を睨み付ける。高貴は肩を竦める。


「まったくこんな冗談も通じないようじゃお里が知れるますね」

「誰のせいかな~?」


 真夜は怒りを露にしている。当の高貴は気にした風はない。錬は心花に言う。


「何で鈍はカメラ持ってるんだ?」


 心花はよくぞ聞いてくれましたといわんばかりの顔をする。


「取材よ。どうせ旧校舎へ行くなら四月始めに起こってた旧校舎の怪の謎を追えと部長に頼まれたのよ。本当は部長と二人で昨夜壊れた校舎の取材の予定だったんだけどね」

「旧校舎の怪?」


 悪魔の事だと錬は予測した。悪魔は普通の人には見えない。例えばただ悪魔が普通のドアを開いただけで普通の人には誰も開けていないのに勝手に開いたという怪奇現象になりえる。


「なぜか旧校舎で死亡した生徒が発見されるっていうね」

「それ怪奇現象じゃなくて殺人事件とかだろ。俺、この学校に警察が入ったところ見た事ないけど」


 ――――もっとも、悪魔絡みなら生徒会案件で警察を立ち入れさせなかった可能性もあるけど。


「だって噂だもん。ただ部長曰く四月から急に立ち入り禁止区域が増えたらしいのよ。この前までは森とその中にある池がある広場とか立ち入り禁止だったし、立ち入り禁止になる少し前から休む生徒が増え出したりしたとか」

「でも噂だろ」

「噂とはいえ四月に入ってから何週間も休みの生徒がいるのは事実らしいのよね。怪奇現象が起こっているかどうかはともかく少なくとも何かがあるのは明白よ」


 錬は結凛達が被害者が出ているという事を言っていた事、そのために悪魔が棲み着いた場所を立ち入り禁止にしてできるだけ早く悪魔を殲滅しようとしている事を思い出した。そして今から向かう場所は生徒会が厄介だと判断して討伐を後回しにした悪魔の住処、それが既に目の前に。

 悪魔の住処という名の旧校舎はヨーロッパのお城のようだった。四階建てで高さがないためこじんまりしている、四つ角に七階建ての棟、中心にも一際高い棟がある。壁は西洋のお城で連想するような石造りではなくどちらかというとお屋敷のような感じだ。


「ねえ、やっぱり行くのやめないか?」


 錬がそう言うと三者が返す。


「おいおい錬さん、怪奇現象にビビったんですか? 大丈夫ですよ、悪魔とかそういうのは迷信ですから」

「そうだよ~。たぶん老朽化とかで危険とかだじゃないかな」

「本当にチキンね。これじゃただのチキンゲーマーじゃない。錬ちゃん、かっわいい!」


 錬はどうにか食い下がる。


「いやいや。高貴、もしかしたら悪魔はいるかもしれないだろ、そしていた場合そんな未知の奴と遭遇するのは危険だ。鉄、それは普通に危険だから。鈍、お前はもうフライドチキンも焼き鳥も食べる資格はない。よって肝試しは中止だ」


 錬はそれぞれに反論を述べた。


「肝試し始める前に既に誰の肝の質が一番低いのかは明白なようね!」

「じゃあ鈍の肝はフォアグラですね。脂が乗った肥えたレバー。なるほど、脂肪はすべて肝に行った、と」

「誰がフォアグラか!」

「ちょっとちょっと、二人とも静かにしてくれ!」


 高貴と真夜の応酬に錬は小声で割って入った。このままだと中にいるかもしれない悪魔ウィッチにバレかねないと錬は焦る。


「ねぇ、入らないの~? ドア開いてるよ~」


 錬が声の主である真夜を見ると躊躇なくドアを開けていた。


「ちょっと、勝手に開けるなよ!」

「ごめんなさい~」


 錬は開いたドアの隙間から中を覗いた。確かに古い印象を受けるがボロい印象は受けない。


「というか何で敷地内でもこんな辺鄙な場所に旧校舎があるんですかね? いや、森やお城がある時点でこの学校は相当変わっていると思いますが」

「ん? まあ確かに。それにいくら昔の校舎とはいえ現校舎とランク違い過ぎるな」


 高貴の言葉に錬も疑問を口にした。蘭鳴学園の現校舎も確かに作り自体はスタンダードなものではあるが設備は整っている。一方旧校舎は誰もが一目でお金持ちの学校と分かる程古風ではあるが同時に貴族然な品格や高級感がある。


「それは理事長の違いね、あえて言うなら。この旧校舎を建造した代の理事長は英国風に拘っていて、現校舎の代の理事長はスタンダードな作りと利便性に拘った挙げ句趣味で屋上に空中庭園を作れる風にしたの」


 心花は新聞部として旧校舎を調べるために事前に情報を集めていたらしくぺらぺらと情報が口から出る。


「はあ、変わってるんだね理事長」

「ここは二代前。現校舎を作ったのは前理事長ね。確かにヨーロピアンな旧校舎に比べるとスタンダードな現校舎はセレブ感皆無だものね。それに前理事長は相当な変わり者らしくてね。何でも森の木を東側から西側に丸ごと植え直したくらいだから、空中庭園から見える森の中に佇む旧校舎はさぞ幻想的だろうという理由でね」


 ――――確かに昨夜、スケルトン退治後に屋上から見た旧校舎はまるで別世界のような情緒を与えられたけど。


「なるほど、かなりの変わり者だ」


 心花は意味あり気に錬を見つめ、錬がそれに気付くと目を逸らした。


「早く入りましょ! さっさと旧校舎内を調査したくてウズウズよ」


 心花は旧校舎内に一歩を踏み出した。


「おい、危ないぞ」

「旧校舎なんて現校舎より全然まともよ」


 心花の言葉に錬達三人は真意がわからなったが、とにかくゾロゾロと中へ入る。最後に旧校舎へ入ろうとした錬は真夜にバレないようにコッソリ月読玉兎を出現させて内部の音を探った。


 ――――何かいる。この足音と呼吸音は小動物か? 良くてネズミ、悪くて悪魔か。


 ヴァンパイアの例もありウィッチの他に小型悪魔がいても不思議ではない。

 錬は月読玉兎を戻してから三人の後を追って歩みを進めた。

 四人は教室の中を見回りながら探索を始めた。

「何かあるって雰囲気じゃないね~。漫画の舞台に使いたいくらい(イギリス)々(イギリス)してるよ~」

「昔パパに連れてってもらったヨーロッパの劇場みたい」


 真夜は物珍し気な目で、心花は興味深かそうに周りを見ている。


「日光が入ってるとはいえ少し薄暗い感じですね、錬さん」

「やっぱり静寂に包まれて慣れない雰囲気のせいかもね」


 普段このような場所に来ない錬からすれば場違いとかではなく本当に異世界に迷い込んだような感覚に陥る。未知に対する恐怖は完全に冒険心へのスパイスと化していた。そこは確かに肝試しにはもってこいのスポットだった。


「本当に怪奇現象とか起きそうな雰囲気よね!」


 心花が嬉々としながらそう言ってカメラのシャッターを押す。


「パシャパシャ五月蝿いな。水遊びか、雰囲気台無しなんだが」

「水遊びじゃないわ、取材よ!」


 心花は高貴の嫌味に負けずに撮り続けた。どう見ても取材ではなく風景の写真撮影だが錬は特に気にしない。


「それで校舎内に入ったはいいがどうするの? 教室には何もないみたいよ」

「じゃあテキトーに散策しかないよね~」


 特に目的なく来た三人はそれしかないだろう。しかし、錬はそうはいかない。仮にこの旧校舎内にウィッチがいるならばその場所を回避する必要がある。

 錬は頭の中で旧校舎内部の地図を思い描く。上から見た旧校舎の形は地図を見て覚えている、内部も一部を見てどんな感じなのかは想像できた。


 ――――旧校舎内部の地図は完成した。どこに何があるかはわからないけど、旧校舎の形状は把握した。一番怪しいのはやはり中心の棟の部分。そこはたぶん吹き抜けになっていて旧校舎内で一番スペースが広いはず。


 錬達が今いる部分は外周の廊下部分、時計回りに角一つを通り少し歩いたところ。


「ねぇ、こっち行ってみない?」

「ちょっと待って」


 錬はドアノブに手をかけた心花を制止した。そのドアこそ中心へ繋がる四方の扉だ。


「何よ」

「いや、とりあえず外周見て回らないか? 何かあるかも」

「何もなさそうだから道を変えるのよ」


 心花は錬の制止も聞かずドアを開け放ち、錬以外の三人は中に入って行く。


 ――――ヤバい! またアイツらを先に行かせてしまった!


 錬も慌てて入る。中は一際広い部屋、向かい側には錬達が入ったドアと同じドアがあり、しばらく進むと低い天井が高い天井になるようで三人はそこにいる。錬も慌ててそこへ行くと三人の目線の先、天井を見上げる。


「うわ……凄いな」


 錬は天井を見上げて思わず言葉を発した。

 その天井は夜空が広がっていた。錬自身夜空と表現してよいのかわからない天井画。天井の一番高い所は――煌めく星、空の闇に隠れた三日月、星々の光を覆う雲、そんな夜空に見える。また、一番高い天井からの壁画も見ると太陽や水星、地球、土星などの太陽系が見える。低い天井を見ると四元素を表す世界、そして低い天井と高い天井へ伸びる壁の境界にはヘビ。その光景は正に天蓋。


「これは……何というか」


 そう呟いた心花は天蓋に見惚れて撮影の事など忘れているようだ。


「何とまあ自己中心的な世界観で描かれた天井画ですね。嫌いじゃないですけど」

「かなり自分勝手な絵だよな」


 高貴の言葉に錬も同意した。


「何ていうか俺が考えた最強の宇宙って感じだ」

「それそれ、錬さん的確です」


 錬と高貴は笑った。その幻想的な絵に圧倒はされるが絵の内容は意味不明で宇宙というテーマぐらいしかわからないものだった。少なくとも錬と高貴はそんな感じだった。


「それにしても本当に意味わからないわね、これ」

「そうだね~。綺麗だけど~」


 やはり心花と真夜も意味不明だった模様。錬はスマホで時間を確認する。


「さあ、もう帰ろう。俺久しぶりにゲーセン行きたいんだよね」

「賛成、お前らも行くだろ?」

「うん、行きたい行きたい」

「まったくもって情報集まらなかったけど仕方ないわね。所詮は噂か」


 最後に心花が適当に写真を撮り、錬達は旧校舎から出る事にした。天井画がある部屋の四方あるドアで校舎の出入口に一番近いドアから部屋を出た。高貴、真夜、心花の順番で部屋から出て、錬が最後に部屋を見返してから部屋を出た。

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