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臆病者の合心獣  作者: 天井舞夜
第一章 蘭鳴学園悪魔事件
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骸骨女剣士戦その一

 マーメイド討伐した日から休日を挟んで四日後。

 通流は今日、生徒会に復帰らしいと錬は昨日聞いた。ここで問題なのが通流よりも鶯院緋色だった。

 鶯院十九。結凛、通流、桜梅と同じ生徒会にして小学生からの幼馴染みで、錬のクラスメート。結凛曰く金髪野郎。その言葉通り金髪であり碧眼である。錬もクラスメートで見ているから知っているが、家系のどこかでその辺の血が混じったのか見事なまでに金髪だ。さらに言えば身長は低い部類、一六〇センチメートル前半。結凛と同じく王子様のような美形容姿。

 と、錬はそのくらいしか知らない。なぜなら錬はジュウクと喋った事はあるが、友人としてのグループが違うので詳しい事はわからない。錬のクラスメートで親しい友達トップスリーは鉋高貴、鉄真夜、鈍心花なのだ。

 改めて問題は鶯院十九に戻る。それは昨日の事なのだが、とうとう生徒会長である結凛の堪忍袋の緒が切れた。生徒会に参加しないどころか学校すら無断欠席しているジュウクに同情の余地はないと結凛は無理矢理引っ張り出す事に決めた。流石のジュウクの行いに通流も桜梅も腹を立てており結凛に同意、錬の意見をそっちのけでジュウクに関して色々決まった。もっとも錬は意見を出していないのでそっちのけも何もないが。

 そういう事で今日の生徒会活動はなしになり、錬は放課後完全に暇になった。

 高貴は用事で家へ直帰、心花は部活動、真夜は図書委員活動で今日は皆忙しい。普段ならば誰かしら休みなのだが皮肉な事にたまたま錬以外忙しい。生徒会連中もジュウクの家へ会いに行った。


 ――――何ていうか、やっぱりアイツらは幼馴染みなんだよね。そういう空気だ。


 そして放課後の今、錬は何しているかというと暇なので南側学校の屋上にいる。ただいるわけではない。屋上から北側屋上を眺めている。

 北側と南側の校舎とそれを繋ぐ渡り廊下の役割をする校舎の屋上は庭園になっている。普段ならば屋上は開放されているらしいが、その屋上――厳密に言えば北側校舎は立ち入り禁止となっている。理由は簡単で北側校舎屋上には悪魔がいるから。錬は今、その悪魔を観察している。

 その悪魔は人型の全身骸骨で右手に剣を左手に盾を持つ、スケルトンのような悪魔。生徒会も便宜上スケルトンと呼んでいる。


「暇だからとあの骨を観察しているが何もしないな。あれで生徒会の四人を返り討ちにしたのか」


 スケルトンはかつて錬が入る前の生徒会が討伐しようとした悪魔。しかし結凛、通流、桜梅、ジュウクが束で戦闘を挑みあえなく負けた相手でもある。

 錬が聞くところによると、どうやら蘭鳴学園を闊歩している残りの悪魔二体は面倒な相手らしく、フルメンバーで慎重に作戦を立てる必要がある相手との事。そのため生徒会として役員の一人であるジュウクの力が必要らしい。


「とりあえずあのスケルトンに関してわかる事はスケルトンは女という事くらいか」


 錬がそう判断した理由は花を愛でていた事と骨格、そして直感。

 錬は下らないと思う情報以上の情報を入手できないでいる。スケルトンの強さはまだ未知数。錬が結凛達から聞いたのはスケルトンが剣の達人という事で能力に関しては未知。つまり、能力を使わせないまま敗北したという事。臆病な錬は未知の相手と真正面から戦おうなどと思わない。だからこそスケルトンを観察している。

 しかし、錬は時間を無駄に感じている。どう考えても収穫がなさそうだからだ。


「しかし、乙女だねぇ」


 錬は本格的につまらなくなりゲームをしたい衝動に駆られる。


「シュークリームが食べたいから帰るか」


 などと下らないというか大した理由にもならない理由でバッグを持ち帰ろうとする。そして、ふと錬は疑問に思う。


 ――――何で南側校舎に来ないんだ? 屋上は繋がっているのに。


「意味不明だな。というか結凛達は北校舎にいる理由は悪魔の出入口があるからそれを守ってる、とか言ってたけど……少なくとも俺はそう見えないけど」


 しかし、この悪魔の件に関しては錬は新参であるため考えがどうしても浅はかになってしまう。そもそも結凛達ですらわかってない風だったのを錬は思い出して考えるのをやめる。


「鉄のところへ行くか」


 と、錬が呟いた。


 ――――また一人寂しく図書委員してるかな。


 錬は屋内に入ろうとすると、入れ替わるように北側校舎の屋上から人が出て来るのが見えた。


 ――――そういえば悪魔って人から見えないんだっけ?


 よく見るとそれは錬の友人である鉄真夜その人だった。

 しかし、錬は心に余裕を持っている。なぜならあのスケルトンは生徒会以外には危害を加えていないという。たまたま一般生徒が北側校舎屋上へ入った時もスケルトンは目もくれなかったとか。しかし――


「マジかよ……」


 錬は「屋上に何の用だよ」とか「立ち入り禁止の看板見えなかったの?」とか口に出したい気分だったがそう虚空に愚痴る余裕もなく、スケルトンは剣を構えた。攻撃態勢。


「結凛、話が違うじゃん」


 錬はバッグの中に入った教科書の事など当然気にせず、ゲームの事も気にしないままバッグを投げ出した。

 未知の物に対して臆病な錬にとってその行動は勇気とは言い難い。錬は月読玉兎を出す。


「ヒッ!」


 それは月読玉兎の耳に聞こえた真夜の小さな叫び声。


「鉄、見えてるのか!?」


 錬から見ても真夜がスケルトンを見て怯えているように見える。錬は月読玉兎を単独でさっさと北側校舎屋上へ向かわせる事にした。月読玉兎は南側校舎屋上からジャンプして北側校舎屋上へ着地し、スケルトン目掛けて飛び蹴りを放つ。しかし、スケルトンは真横からの月読玉兎の攻撃に難なく対応して盾で防御。


「意味わからん!」


 錬は渡り廊下の屋上を走りながら奇妙な月読玉兎からの足の感覚を受けてそう言った。そして結論にすぐに至る。

 月読玉兎の蹴りの威力が綺麗なまでに殺された。


 ――――確かに虫野郎や人魚とはわけが違うわ。


 しかし、幸運な事に今の攻撃でスケルトンの攻撃対象が真夜から月読玉兎に、同時にそれは錬にとって不運でもある。幸運か不運かを天秤にかけてただ僅かに幸運が錬にとって重かっただけの話。


「大丈夫か鉄!?」


 錬は真夜の側に来て、尻餅を着いている真夜の腕を取り立たせた。


「銀君! 何でここに? それにこのスケルトンと変なウサギは――」

「そんなの後後! とりあえず屋上から出ろ!」


 不幸中の幸い。ここは屋上の出入口の前、すぐに逃げられる場所。しかし、攻撃対象こそ月読玉兎に移ったものの攻撃対象から外れたわけではないらしく、スケルトンは月読玉兎をあえて無視して錬達に向かって来た。


「ぐ!」


 錬は月読玉兎をこちらに向かわせた。スケルトンより動き出したのは若干遅い、足が速い月読玉兎は元の位置と錬達の位置の半分に差し掛かったところでスケルトンを追い抜き、錬と真夜を抱えてその場から跳んだ。スケルトンの剣は虚空を斬る。ギリギリ。月読玉兎は二人を抱えて渡り廊下屋上に着地。

 しかしスケルトンは諦めた様子もなく錬達に向かって走り出す。逃がす気はない模様。


「とりあえず鉄はさっさと屋上から出て! ここは俺が食い止めるから!」

「ちょっと銀君、それ死亡フラグだから!」

「言ってる場合か! これは現実だ!」


 現実逃避が出来ない正真正銘現実。さっきの飛び蹴り一撃で錬はスケルトンが達人とわかるくらい達人で、つまり守りながら戦える確信などない。

 そうこう言っている内にスケルトンが剣を振り上げて襲って来る。月読玉兎は間に入り足を振り上げて爪で振り下ろされた剣撃を弾く。

 ワルキューレとの模擬戦とは違う剣を持つ相手との殺し合いに錬は震える。蹴りを放とうにも錬は剣の刃の間合いに恐怖する。


「早く行けって!」

「う、うん」


 真夜は南側校舎の屋上出入口に向かって走る。錬はそれを見送りながらスケルトンと距離を取ろうとするも間合いをすぐ詰められる。

 常にスケルトンの得意な間合いでの格闘。剣に対抗できるのは足の爪のみ、心許ない。自然とそれは回避が多くなる。


「ぐっ、剣が速い」


 既に真夜は屋上から退場している。後は錬、自分自身の逃避のみなのだがきっかけがない。目を離せば、気が緩めば剣の餌食は免れない。それに月読玉兎を無視して錬自身をスケルトンが狙って来たら、やはり錬には防御しながら逃げられる確信がない。つまり、目前のスケルトンを倒すのが最善なのだが。


 ――――倒せる気がしない。

 そこで錬は閃く。

 月読玉兎はスケルトンの剣撃を回避すると錬の方へ走る。そして錬を抱えるとジャンプする。


 ――――何て事はない。スピードは月読の方が速い。着地の先は南側校舎屋上出入口前!


 スケルトンは追う素振りを見せないが剣を地面に落とし、手の五本指を空中の錬と月読玉兎に向ける。


「何を!?」


 スケルトンの指の骨が銃弾のように射出された。


「はぁ!?」


 錬は自信の身体を月読玉兎の腕で庇い五の骨弾をガードする。


「痛っ!」


 錬は腕が痛くなる。腕を見るとちょうど月読玉兎が食らった場所と同じ場所が血で滲んでいた。そしてそっちに意識が集中して気付かない。スケルトンの腕の骨が伸びて間近に迫っているのを。


「うお!?」


 錬は直前になってそれに気付く。先程骨弾を食らった腕で月読玉兎はそれを受ける。だが、掴まれた腕に骨の手が食い込む。さらに錬の腕から血が沸き出る。


「ちくしょう!」


 月読玉兎は蹴って伸びた骨の腕をへし折った。腕を掴む手の力は衰えない。


 ――――やっぱり未知の相手と戦うものじゃない!


 否、スケルトンから逃げているはずなのに戦闘に応じている。これはつまり逃げている余裕がない。


 ――――ちっ、滞空時間が長過ぎる。


 実際はそんな事ないのだがあまりにも不利な状況に錬はそう判断してしまった。そう判断しても仕方ない。既にジャンプしてから二度の攻撃に会っている。

 錬と月読玉兎は放物線を描き頂点から既に落ち始めている。そこでスケルトンは自分の肋骨を一本投げた。投げた先は錬と月読玉兎の着地地点即ち南側校舎屋上出入口前、肋骨は串刺しの落とし穴の底のように白い先が尖った太い針数本に変化した。


「くっ、マジか……」


 出入口は閉まっていて、このまま着地すれば串刺し。錬の判断は早かった。月読玉兎は扉を蹴り、針の床に着地する直前に軌道を変えて普通の地面に着地する。錬が気付いた時にはスケルトンが間近に迫り剣を振り上げている。月読玉兎がその隙に盾を蹴り吹っ飛ばして間合いを広げる。


「はあはあ、強いな」


 錬は腕を締め付けられて食い込む痛みに耐える。月読玉兎を一旦消せば月読玉兎を掴んでいる骨の拘束は外れる。しかし、目の前のスケルトン相手に唯一対抗可能な月読玉兎を一瞬でも引っ込めるのはどう考えても愚策、一瞬の隙を突かれて錬自身が斬られるだろう。

 錬は頭の中で屋上の地図を思い浮かべる。


 ――――屋上の出入口は北と南校舎にそれぞれある、しかし近くの南側出入口は骨の針の床をどうにかしてドアを開ける必要があるし、でも北側出入口は遠いしスケルトンを相手しながら逃げれないと思う。ジャンプしたら一方的に攻撃されて、走るならスケルトンの脇を通る必要がある。八方塞がりか。

 錬が周りをチラリと見回す。


「ん?」


 錬は見付ける。一番逃走率が高い逃走経路。

 月読玉兎は錬を抱える。


「覚えてろよ!」


 錬は捨て台詞を残して月読玉兎は跳躍する。フェンスを越えて空中に出る。落ち始めた場所の足下に地面はない――正確には地面はさらに下。錬は屋上から飛び出した。スケルトンは追い打ちして来る気配はない。このまま落ちれば中庭。

 月読玉兎は難なく中庭に着地する。錬は月読玉兎を引っ込める。すると骨の手だけが地面に落ちた。


「痛いな」


 錬の腕からは血が手を伝いポタポタ地面に滴となり落ちる。


「というか攻撃受けた箇所に傷が出来るなんて聞いてないんだけど」


 錬はいない結凛達に愚痴った。


「あれ? 空から銀君が落ちて来た」


 錬はビックリして声がした方向へ向く。

 学校指定の体育着を着た女子がいた。女子は長い金髪、澄んだ空色の瞳、スラリとした一七〇はありそうなモデル体型の美女。ハーフパンツから覗く白い脚線美も、白いシャツにできてる山と谷も錬の視線を奪う。錬はその時だけ痛みを忘れた。

 しかし、錬はその女子が誰かわからない。女子は錬の事を知っているらしいが。


「銀君、怪我してるよ!? 腕血塗れじゃん! ほら、保健室行くよ」


 金髪娘は錬に有無を言わさず手首を掴み保健室へ引っ張って行った。

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