滝川の落日と切り取り次第
伊勢 長島城
滝川左近将監一益は、この城を守りながら、尾張を窺っていた。
「尾張を奪回する筈が」
一族の滝川儀太夫益氏「申し訳ございませね、まさか、九鬼が武田に降るとは」
「どうにもならぬ、伊勢に武田、徳川連合が入った以上、ここに籠城するのは信長様が、ここに籠城したかつての一向宗を殲滅したのと同じ結果を招く。
まさか、儂が一向宗と同じ境遇に陥ることになろうとはな。
そうなる前に、放棄するしかないのか。
こうなったのは儂のせいか」
武田を根切りに出来なかったことが、今日の混乱に繋がったと一益には思えてならなかった。
伊勢 安濃津城
滝川の城だったが、武田と徳川の旗が掲げられていた。
榊原康政、井伊直政、山県昌満らの軍が入っていた。
康政「信勝様から手紙が、えっ」
書いてある文章を読み、顔色を変えた。
直政、昌満も読み、同じく顔色を変えていた。
手紙の内容は『伊勢の切り取り次第を認める。』と。
康政「面白い、自由裁量権を与えられた」
直政「しかし、競争になりそうですな」
康政「まあ、良い、亡くなった家康様からはそのようなものは与えられなかった、自身の力で切り取れか」
昌満「それもありますが、切り取った後の伊勢の統治をしないとならない。
信勝様に頼るのではなく、我々が戦いだけでなく、政治ができるかを見極めているのではないかと」
直政「なるほど、確かに」
昌満「我々を試しているようですな、試しているのと、もう一つは忠次様のようになれと」
尾張の統治に力を発揮している酒井忠次の姿を思い浮かべていた。
軍事、内政両方、信勝から信頼されて任されているのを
康政、直政らが、そこに至るまで、時間と経験を要することになる。




